事業の収益性を正しく評価し、企業の成長につなげるためには、部門利益の分析とともに「スクラップ&ビルド」の方針を適切に採用することが重要です。
ここでは、ある菓子メーカーでの実例を通じて、具体的な課題とその解決策を探ります。
N社の課題:収益性の低い店舗の存在
業績不振に悩むN社は、全国に24店舗を展開する菓子メーカーでした。
内訳は、デパートなどの委託販売店11店舗と直営店13店舗で構成されていました。同社は、これらの店舗ごとの売上高や利益率、固定費などを詳細に分析し、各店舗の収益性を初めて明らかにしました。その結果、全体の約3割にあたる7店舗が赤字であることが判明しました。
この分析では、店舗ごとに損益分岐点を算出し、それを基に「AA(極めて優秀)」から「▲(完全な赤字)」まで6段階で評価しました。
赤字店舗については、売上が経費を下回り、企業全体の収益を圧迫している状態でした。
赤字店舗の問題と対策
分析結果を受けて、N社の社長に対し以下のような提案を行いました。
- 赤字店舗の閉鎖を基本方針とする
ただし、単に店舗を閉鎖するだけでは、従業員の給与負担が残るため、根本的な解決にはなりません。 - 従業員の再配置
人員を他の店舗に再配置し、人手不足の解消や売上の増加を図る。また、必要に応じて新店舗を開設し、そこに人員を振り分けることで収益性を高める。 - 「スクラップ&ビルド」の実践
赤字店舗を閉じつつ、新たな収益源となる店舗を開発する。この戦略は、ただ現状を維持するのではなく、継続的な改革を目指す姿勢が求められます。
売上高だけでは判断できない店舗の真実
N社では、これまで売上高だけを基準に店舗を評価していました。しかし、売上が高くても赤字店舗が存在する一方で、売上が低くても黒字の店舗が複数あることが判明しました。
この事実は、単に売上高で判断することのリスクを如実に示しています。
特に、直営店の中でも優秀な店舗とされるl店やm店は、他店舗よりも売上規模が小さいにもかかわらず、適切なコスト管理で大きな利益を上げていました。
一方で、売上の多い店舗が赤字を出しているケースもありました。このような差異を見極めるには、利益率や固定費、変動費の詳細な分析が不可欠です。
社長の役割と責任
業績不振の根本原因として、N社の社長が「スクラップ&ビルド」の方針を打ち出しながらも、積極的に行動に移していなかった点が挙げられます。
事業方針の実践に消極的な姿勢は、企業の成長を妨げる要因となります。
成功する経営者は、問題を他者に押し付けるのではなく、自らの責任として受け止め、解決策を模索する姿勢が求められます。
さらに、N社の業績を改善するためには、店舗の整理だけでなく、商品改良や価格設定の見直し、販売員の教育体制の整備といった多角的なアプローチが必要でした。
特に、販売員の能力強化は売上に直結するため、社長自身が販売現場に立ち、指導を行うことが効果的と考えられました。
経営者が果たすべき役割
企業の業績を左右するのは、最終的には経営トップの判断と行動です。部門や店舗の収益性は、社長が設定する事業の枠組みや戦略に強く依存します。
部門業績の責任を部門長に押し付けるのではなく、経営トップがその結果に責任を負うべきです。
「自由に任せている」といった主張は往々にして責任逃れであり、明確な方針の欠如を反映しています。統一された方向性と指揮系統の下で組織を運営することが、成果を上げるための必須条件です。
部門ごとの評価基準の設定
部門利益の評価には、共通費の割り振り方が大きく影響します。公平性を保つためには、人頭割りや人件費割りを採用し、シンプルで理解しやすい基準を用いることが重要です。
あまりに複雑な基準を設定すると、割り振り自体が論争の種となり、不毛な議論を引き起こします。
経営改善のための基本原則
N社のケースから得られる教訓は以下の通りです:
- データに基づく分析と意思決定
売上高だけではなく、利益率やコスト構造を詳細に分析する。 - 非収益部門の整理と再投資
赤字部門を大胆に見直し、資源を収益性の高い事業に再配分する。 - 社長の積極的な関与
経営トップが責任を持ち、問題解決に向けた行動を取る。 - 人的資源の最大活用
販売員の教育や配置を適切に行い、個々の能力を引き出す。
経営の改善には痛みを伴う判断が求められる場合もありますが、それを乗り越えることで企業は持続的な成長を遂げることが可能です。
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