価格決定のプロセスには、いくつか重要な要素を考慮する必要があります。以下に、それらを順を追って解説します。
1. 商品の機能
商品の機能とは、その製品が持つ性能や特性のことです。顧客は商品そのものを購入するのではなく、その商品が提供する「役割」や「効果」を求めています。
このため、商品設計においては、顧客がどのような価値を求めているのかを正確に理解することが不可欠です。
たとえば、日本のシャープペンシルのように、0.2ミリ芯を採用した結果、使い勝手が損なわれている例があります。このような設計ミスは、顧客ニーズを軽視している証拠です。顧客が求めるのは、高機能ではなく、ストレスなく使える製品です。したがって、製品開発においては、顧客の立場に立った機能設計を行うことが重要です。
2. 顧客のメリット
顧客が得られるメリットを明確にすることは、価格設定の重要なポイントです。たとえば、軽量で丈夫なチェンブロックや柔軟性の高いエアーホースは、その使いやすさが顧客にとっての大きなメリットとなります。このような製品は、競合他社よりも高価格であっても、顧客に受け入れられるケースが多いです。
3. 市場価格
市場での同種製品の一般的な価格帯を把握することは、適正価格の設定に欠かせません。
ただし、市場価格は固定的な制約ではなく、サービスや付加価値によってその枠を超えることが可能です。
たとえば、優れたメンテナンスや配送サービスを提供することで、競争力のある価格を維持しつつ利益を確保できます。
4. 競合商品の状況
競合他社の価格戦略や製品の特徴を把握し、それに応じた差別化を図る必要があります。一部の企業は、競争の激しい都市部を避け、競合の少ない地域で高収益を実現しています。
このような市場戦略は、価格設定においても重要な参考となります。
5. 流通マージン
流通業者が利益を確保できる適切なマージンを提供することは、販売促進に直結します。流通業者との関係を適切に管理することで、商品が効率的に市場に流通し、自社の利益を最大化することが可能です。
6. その他の要因
価格決定には、原材料費、製造コスト、ブランド戦略、政策的要素など、具体的な状況に応じたさまざまな要因を考慮する必要があります。
結論
価格設定は、単なる数値計算ではなく、多角的な要素を総合的に分析して行うべきです。商品機能や顧客のメリットを基軸に、市場の状況や競合動向、流通マージンを考慮し、合理的で競争力のある価格を設定することが成功への鍵となります。
第五は「流通マージン」だ。ここで最も重要なのは、流通マージンを十分に確保する必要があるという点だ。もし流通業者がいなければ、全てを自社で行う必要がある。得意先を一社一社開拓し、その後のフォローを行い、小売店舗を自ら作ることになる。これには膨大な時間と経費がかかり、それを支えるための従業員も多く必要だ。仮にそれが実現したとしても、維持費が高騰し、採算が取れるような運営は到底難しい。
これらの煩雑な業務を代行し、売場を提供してくれるのが流通業者の役割だ。ただし、販売活動の全てを流通業者に任せきりにするのは間違いだ。流通業者のサポートを活用しながらも、販売活動の主体はあくまで自社であるべきだ。我が社が自らの責任で売るという意識が重要だ。
流通業者を使わず、エンドユーザーに直接販売している会社も少なくないが、その多くは実質的に「下請け」の立場に甘んじている。下請けとなると「経営の自主性」はほとんど失われ、親会社の意向に従う以外の選択肢がなくなる。この状態では、どれだけ努力しても自立した成長は難しく、いつまで経ってもウダツが上がらないのが現実だ。
一方で、流通業者を通じた間接販売では、自社の努力次第で高い収益を上げることができる上、自主的な経営も維持できる。流通業者との協力関係を上手に活用すれば、経営の自由度を保ちながら成長の可能性を広げることができるのだ。
その点に目を向けず、「流通業者にマージンを払う」という事実だけを理由に流通業者を敬遠し、エンドユーザーへの直販を選ぶ会社は少なくない。しかし、それでは短期的なコスト削減にとらわれるあまり、長期的な成長や経営の安定を犠牲にしてしまう可能性が高い。
しかも、その多くはごく僅かな例外を除き、大企業との取引にばかり目を向ける傾向がある。理由は「大企業と取引するのはカッコいい」「倒産の心配がない」という表面的な安心感に依存しているに過ぎない。
こうして、大企業には下請けを希望する会社が殺到し、結果として過当競争が生じる。その中で取引が実現しても、高収益どころか、まともな収益すら期待できないのが実情だ。
流通業者にマージンを払うことは、一見すると収益を圧迫するように思えるが、実際にはそうではない。流通業者は、メーカーとは比較にならないほど広範な流通チャンネルと多数の得意先を抱えている。それらを労せず利用できることこそが、流通業者を活用する最大のメリットだ。その対価として支払うのが流通マージンであり、それを払ったとしても十分に価値がある利用料なのだ。
販売促進費が効率的であることは言うまでもない。集金も流通業者一括で済み、リスクの負担も引き受けてくれる。そして何より有益なのは、新商品開発に役立つ情報が得られる点だ。多くの場合、それは流通業者の要望という形で提供される。本音を言えば、メーカーの新商品のアイデアには「天動説」の発想があまりにも多すぎるのだ。顧客の実際のニーズを踏まえた視点が欠けていることが問題である。
自らの発想に酔いしれ、売り物にならない奇妙な商品を作っては失敗するメーカーも少なくない。それに比べて、流通業者の要望は現場の実情に即しており、地に足のついた現実的な意見である。
さらにもう一つ、流通業者には優れた点がある。それは、売れて利益が出る商品であれば、メーカーの原価には全く関心を持たないことだ。そして、利益が見込める商品には全力を注いで販売する。実際、あるメーカーが流通業者にとって儲かる商品を開発した際、流通業者は自社の配送車全てにその商品名を大きく書き込み、社長自ら指揮を執って売り込んだという実例がある。こうした姿勢こそ、流通業者を活用する大きな利点だ。
とはいえ、流通業者を利用すれば全てがうまくいくわけではない。さまざまな問題が発生することは覚悟しなければならない。流通業者を増やしすぎると、自社の商品同士で価格の競り合いが起こったり、ダンピングが横行したりする。さらに、販促費の要求や平気な返品といった事態も珍しくない。ただし、これらの問題には話し合いや調整の余地があり、最終的には社長のコントロールが鍵を握る。
それでも、流通業者を相手にする商売は非常に魅力的で、やり甲斐がある。適切に運用すれば、大きな成果を生む可能性を秘めている。
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