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損益計算書はどこまで信用できるのか?

損益計算書は企業の経営成績を示す基本的な書類ですが、その数字が必ずしも実態を正確に反映しているわけではありません。

特に、固定費の扱いや在庫評価方法によっては、損益計算書の内容が現実と乖離し、誤った経営判断を引き起こす可能性があります。

以下、具体例を基に損益計算書の矛盾を解き明かし、問題点を整理します。

目次

例:製造業のX月とY月の損益計算書

設定

  • 商品価格:1台あたり25,000円
  • 変動費:1台あたり10,000円
  • 固定費:月間120万円

販売・生産状況

  • X月:100台を生産、40台を販売(60台が在庫へ繰越)
  • Y月:80台を生産、140台を販売(繰越分を含む在庫ゼロ)

このような状況下で作成された損益計算書には、一見して不可解な点があります。

損益計算書の矛盾

  1. X月:40台しか売れていないのに利益が出る
  • 売上高:1,000,000円(40台 × 25,000円)
  • 変動費:400,000円(40台 × 10,000円)
  • 損益結果:12万円の黒字 固定費120万円が計上されているにもかかわらず、赤字どころか黒字が発生している点が矛盾しています。
  1. Y月:140台を販売しても利益が少ない
  • 売上高:3,500,000円(140台 × 25,000円)
  • 変動費:1,400,000円(140台 × 10,000円)
  • 損益結果:18万円の黒字 販売数量が大幅に増加したにもかかわらず、利益がわずかしか計上されていません。

問題の原因:固定費の割り振りと在庫評価

損益計算書の矛盾は、主に固定費の扱いと在庫評価の方法に起因します。

1. 固定費の在庫振り替え

  • X月に生産された100台分のうち、売れ残った60台には、固定費が一台あたり13,000円割り振られています(120万円 ÷ 100台)。
  • この60台分の固定費計72万円が「在庫」として資産計上され、損益計算書から除外されています。

これにより、実際には発生した固定費の一部が費用計上されず、利益が過大に計上されているのです。

2. Y月の調整効果

  • Y月に繰り越された60台分の在庫がすべて売却されると、X月に除外されていた固定費72万円が売上原価に計上されます。
  • これが利益を押し下げる要因となり、140台の販売にもかかわらずわずか18万円の利益しか計上されません。

損益計算書の構造的な問題を解く:極端な例

ケース:「毎月100台を生産、1台のみ販売」

  • 固定費:月間120万円
  • 生産数量:100台
  • 販売数量:1台
  • 売価:25,000円
  • 変動費:10,000円/台

この状況を1年間継続すると、帳簿上の損益計算書は次のようになります:

  • 月次利益:3,000円(売価25,000円 – 原価22,000円/台)
  • 年間利益:36,000円
  • 繰越在庫:1,188台(12か月間で生産した1,200台 – 販売12台)

問題点

  • 実態:固定費120万円がまかなえておらず、実質的に赤字。
  • 帳簿上:固定費が在庫に計上されているため黒字。

この例が示すように、固定費の在庫計上が原因で損益計算書が現実を反映せず、赤字が帳簿上では黒字に見える現象が発生しています。

実例:T社の「黒字決算」の舞台裏

私が勤務していたT社でも、固定費の割り振りを利用した「合法的な粉飾決算」が行われていました。

  • 背景:T社は市場の変化を見誤り、売れ行きの悪いモデル(57年型)を生産し続けました。
  • 経理重役の決断:固定費を一台あたりに割り振り、帳簿上の黒字を維持するために減産に反対。
  • 結果:帳簿上は黒字決算を維持したものの、実態は赤字基調。資金繰りの悪化により経営はさらに困難に。

経理の「帳簿上の黒字維持」という施策は一時的に効果を発揮しましたが、根本的な経営戦略の失敗を補うことはできず、最終的にT社は倒産に追い込まれました。

損益計算書をどう読み解くべきか

固定費の正しい理解

固定費は売上数量に基づいて割り振られるべきではありません。生産数量に基づく配分が適切であり、損益計算書を見る際には、固定費がどのように扱われているかを確認する必要があります。

在庫評価の影響を考慮

在庫に固定費が含まれることによる利益操作のリスクを理解し、帳簿上の数字だけで判断するのではなく、実際のキャッシュフローや損益分岐点分析を併用することが重要です。

経営判断への影響

会計学の原則に忠実であっても、実態を反映しない損益計算書に基づく経営判断は、誤った方向に導かれる可能性があります。経営者は数字の裏にある実態を深く掘り下げる姿勢が求められます。


結論

損益計算書は、そのままでは現実の経営状況を正確に反映しないことがあります。固定費の割り振りや在庫評価が、実態と帳簿上の数字を乖離させる大きな要因となり得るからです。これを防ぐためには、以下の対応が求められます:

  1. 固定費の扱いを慎重に検討
    固定費が実際にどのように配分され、どの程度の影響を与えているのかを理解する。
  2. キャッシュフロー重視の分析
    帳簿上の利益ではなく、実際の現金の流れに注目して経営判断を行う。
  3. 長期的視点での在庫管理
    短期的な利益操作にとらわれず、在庫評価が将来の経営に与える影響を考慮する。

損益計算書を「絶対的な真実」として信じるのではなく、その背後にある計算方法や会計原則の影響を理解した上で、柔軟な経営判断を行うことが、企業の持続可能な成長につながります。

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