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新しい仕事が引き合うかを見極める方法

F社の事例は、固定費割り掛けに基づく原価計算が、新たな取引の損益性を誤って評価し、貴重なビジネスチャンスを失うリスクを浮き彫りにしています。

T社からの受注が大幅に減少し、A商品のみを扱う状況となったF社は、余剰となった設備や人員を活用して赤字からの脱却を目指していました。その際に舞い込んだB商品の引き合いをどう評価するかが経営判断の焦点となりました。

目次

F社が犯した判断ミス:固定費割り掛けの罠

経理部門が実施した原価計算の結果、B商品単体では赤字になると判断され、この引き合いは断られました。しかし後に明らかになったのは、B商品を受注していればF社は全体として黒字に転換していたという事実です。この誤った判断は、固定費割り掛けによる収益性評価が原因でした。

原因となった固定費の割り掛け

  1. 固定費の性質
    A商品のみを製造していた場合、固定費の全額がA商品に割り当てられました。一方、B商品を生産する場合、固定費がB商品にも配分され、A商品の負担額が軽減されます。
  2. 割り掛けによる錯覚
    固定費の総額が変わらないにもかかわらず、B商品に割り当てた固定費が赤字を生じさせるように見える計算となり、B商品の収益性が過小評価されました。
  3. 固定費の本質を無視
    実際には、A商品の生産時点で余剰となっていた設備や人員がB商品の生産に充てられるだけであり、固定費が追加で発生することはありませんでした。にもかかわらず、割り掛けの影響で誤った損益判断が下されたのです。

正しい判断をするためには:「変わるもの」に注目する

固定費割り掛けによる誤解を避け、的確な経営判断を行うためには、固定費を考慮せず、「変わるもの」だけに注目するアプローチが有効です。

この考え方に基づくと、新たな仕事が引き合うかどうかは以下のポイントで評価できます。

変動費と加工高の計算

B商品に関連する加工高(売価 – 変動費)を計算します。以下が具体的な計算例です。

売価変動費 = 加工高
45円 – 32円 = 13円

B商品を10個生産・販売する場合、加工高は次のように計算されます。

加工高 × 販売個数 = 合計加工高
13円 × 10個 = 130円

全体的な損益評価

現在、F社はA商品のみを扱って赤字100円を計上しています。この状態でB商品を追加した場合、加工高による収益が増加し、次のように黒字転換が可能となります。

  • 赤字 – 合計加工高 = 利益
    100円(赤字) – 130円(加工高増加) = 30円(黒字)

このように、固定費を考慮しない計算で、B商品を受注することの収益性を正しく評価できます。

収益評価における固定費の取り扱い

固定費は既存の事業で賄われている場合、新たな仕事や商品の収益性評価に含める必要はありません。重要なのは、増加する変動費と収益のバランスです。

この視点を持つことで、無駄な計算や誤った評価を避けることができます。

失敗の教訓:柔軟な判断の重要性

F社の事例は、新たな仕事の収益性を正しく評価するための重要な教訓を残しています。

  1. 固定費の影響を過大評価しない
    固定費を割り掛けることで見かけ上の収益性が低くなる場合があります。この計算結果に引きずられないことが大切です。
  2. 変動費と収益に注目する
    売価から変動費を差し引いた加工高がプラスであれば、その仕事は基本的に引き合います。
  3. 経営資源を有効活用する
    余剰設備や人員を有効に活用することで、追加的なコストを抑えながら収益を増やす可能性が広がります。

まとめ:新たな仕事を受けるべきかを判断する指針

新しい取引や商品の導入において重要なのは、「変わるもの」に焦点を当てた柔軟な判断です。固定費割り掛けによる過小評価を避け、変動費と収益性の観点から損益を計算することで、的確な意思決定が可能になります。

このアプローチを採用することで、F社のような経営危機に陥るリスクを回避し、新たなビジネスチャンスを最大限に活用できるのです。経営判断において、柔軟性と実務的な視点を持つことが、企業の持続的成長を支える鍵となるでしょう。

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