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部門別損益計算に潜む課題:本社費配賦の問題とは?

部門別損益計算は、企業の各部門の収益性や効率性を明らかにするための重要なツールです。

しかし、従来の「本社費用の配賦」を伴う原価計算には、部門ごとの実態を歪めるリスクが存在します。本記事では、具体的な事例をもとに、この問題点とその影響、さらに解決策について考察します。

目次

配賦基準の問題:分工場の利益が変動する理由

ある会社の損益計算例を見てみましょう。この会社には本社工場と分工場があり、X期とY期の損益計算が比較されています。以下の特徴が確認できます。

X期の状況

本社工場と分工場は同一条件で運営され、売上製造原価は同じ状態に設定されています。これにより、全体的な損益構造が明確に把握できる状態でした。

Y期の変更点

本社工場の売上が増加した一方で、分工場はX期と全く同じ状態を維持。これにより、本社工場の変化が全体に与える影響が比較可能となっています。

しかし、Y期の損益計算を分析すると、分工場の売上や製造原価が変わらないにもかかわらず、利益が増加し、1台あたりの原価が低下しているという矛盾が見つかります。この理由を探ると、問題の本質は「本社費用の配賦」にあることが分かります。

本社費配賦が生む「見えない歪み」

本社費は一般的に、売上高や製造数量に比例して各部門に配賦されます。この方法自体は企業会計原則に基づいた正当なものとされていますが、次のような問題を引き起こすことがあります。

  1. 分工場の利益増加の原因
    Y期では本社工場の売上が増えたことで、本社費400万円のうち240万円が本社工場に、160万円が分工場に配賦されました。この配賦額の変化により、分工場が負担する本社費がX期より40万円減少。その結果、分工場の利益が増加しました。
  2. 利益増加が実態を反映しない
    分工場の売上や製造原価には変化がないにもかかわらず、本社工場の売上変動が原因で分工場の利益が変動しています。この現象は、分工場の収益性や活動効率を正確に評価できないことを意味します。

部門別損益計算の目的と「配賦」の矛盾

部門別損益計算の目的は、各部門の活動効率や収益性を独立して把握し、適切な経営判断を下すことです。しかし、本社費の配賦を行うことで、以下の矛盾が生じます。

収益性の独立評価が困難

本社費のような部門と直接関係のないコストが配賦されることで、各部門独自の収益性が歪められます。

他部門の変動に引きずられる収益性

ある部門の売上増加が、無関係な部門の利益を左右する状況が発生します。このため、部門ごとの実態が把握しにくくなります。

経営判断の誤り

分工場の利益が一時的に増加した場合、その原因を誤解し、不要な投資やコスト削減を行うリスクがあります。

原価計算のリスクと改善の方向性

本社費を配賦する原価計算方式、特に「全部原価計算」には以下のリスクがあります。

  1. 実態の見えない収益評価
    配賦された本社費が部門の損益に影響を与えるため、部門ごとの純粋な収益性が不明瞭になります。
  2. 誤った経営判断を誘発
    部門収益性が見えにくいことで、不要な改善策やリソース配分の誤りが発生する可能性があります。

これを防ぐためには、部門活動と直接関係のない費用(本社費など)を配賦せず、別管理する方法が求められます。

解決策:独立した部門収益評価の重要性

正確な部門別損益計算を行うためには、以下のアプローチが効果的です。

部門独立の収益計算

各部門の損益を、活動と直接関連する費用だけで計算し、本社費や共通費用は別枠で管理します。

配賦基準の見直し

売上高比例や製造数量比例の配賦方式を再検討し、部門間の独立性を確保できる方法を採用します。

意思決定の精度向上

各部門の実態に基づいた損益計算を通じて、投資や改善策の判断を正確に行えるようにします。

まとめ:部門別損益計算を見直す重要性

部門別損益計算における本社費配賦は、経営判断における大きなリスクを伴います。この問題を解消するには、部門の活動効率や収益性を独立して評価できる計算方法を導入し、配賦による歪みを最小限に抑えることが重要です。

これにより、部門別の実態に即した経営判断が可能となり、全社の健全な成長を支える基盤を築くことができるでしょう。

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