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スキー宿の経営から考える原価計算の新たな視点

シーズン性が強いビジネス、特にスキー宿のような業態では、伝統的な「単位当り原価計算」が経営判断において有効とは言い切れません。むしろ、それに頼ることで事業の実態を見誤るリスクすらあります。

この記事では、スキー宿の具体例をもとに、原価計算の限界と新たなアプローチについて考察します。

目次

スキー宿の収益構造を見てみる

スキー宿の収益構造はシーズンによって大きく異なります。以下の例で、その状況を整理してみましょう。

  1. スキーシーズン中
    月間の宿泊客数は300人、宿泊料金は1泊1,000円。固定費が60,000円、変動費が1人当たり300円とすると、以下の結果になります。
  • 収益:300人 × 1,000円 = 300,000円
  • 費用:固定費60,000円 + 変動費(300円 × 300人) = 150,000円
  • 利益:300,000円 – 150,000円 = 150,000円
  1. オフシーズン
    月間の宿泊客数は30人、宿泊料金は同じく1泊1,000円と仮定します。
  • 収益:30人 × 1,000円 = 30,000円
  • 費用:固定費60,000円 + 変動費(300円 × 30人) = 69,000円
  • 損益:30,000円 – 69,000円 = 39,000円の赤字

これを単位当りの原価に換算すると、固定費が一人当たりの負担額として割り振られるため、宿泊客数が少ないオフシーズンには1泊あたりの原価が大幅に増加します。

結果として、宿泊料金1,000円でも赤字が発生するのです。

単位当り原価計算の限界

上述の計算から分かるように、単位当りの原価計算ではシーズンごとの客数変動が過大に影響し、事業の全体像を正確に把握するのが難しくなります。特に、以下の問題点が挙げられます。

固定費の不合理な割り振り

固定費は本来、宿泊客数や収益に関係なく発生するものです。しかし、それを客数で単純に割り振ると、シーズンごとの収益構造が歪曲されます。

未来予測が困難

単位当りの原価計算は過去の結果に基づいたものであり、将来の需要や収益を正確に予測するためには使えません。

新しい視点の原価管理アプローチ

単位当りの原価計算に頼らず、より実態に即した方法で事業を運営するにはどうすればよいのでしょうか。以下に3つのアプローチを紹介します。

1. シーズン全体を俯瞰した収支管理

シーズン中とオフシーズンを通じた年間収支を基準に目標を設定します。シーズン中の収益をオフシーズンの固定費補填に活用することで、年間通じての黒字化を目指す戦略が重要です。

2. 固定費と変動費の区別を明確化

固定費と変動費を合算せず、個別に分析することで、経営の柔軟性が高まります。

たとえば、オフシーズンの料金設定は、固定費を無理に宿泊人数で分配せず、変動費をカバーできる水準に設定することで赤字幅を抑えることが可能です。

3. 価格戦略の見直し

オフシーズンにおいては、価格を柔軟に設定し顧客数を増やすことで収益の最大化を図ります。たとえば、宿泊料金を800円に設定し、宿泊客数を30人から80人に増やすことで固定費の負担が分散されます。

  • 客数80人の場合の損益:
  • 収益:800円 × 80人 = 64,000円
  • 費用:固定費60,000円 + 変動費(300円 × 80人) = 84,000円
  • 損益:64,000円 – 84,000円 = 20,000円の赤字
    赤字額は依然として残るものの、30人の時点よりも軽減されています。

まとめ:柔軟な視点が経営の鍵

スキー宿のようなシーズン性の高い事業では、単位当り原価計算に固執せず、シーズン全体を通じた収支バランスや柔軟な価格戦略に注力することが重要です。

固定費と変動費を分けて考え、収益全体を最適化するアプローチを採用することで、持続可能な経営が実現します。

これらの考え方は、他のシーズン性ビジネスや変動の激しい業界でも応用可能であり、安定した収益確保に寄与することでしょう。

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