企業が健全な取引を継続するためには、適切な与信管理が欠かせません。
与信管理は、得意先に対してどれだけの信用供与を行うかを判断し、資金回収リスクを最小限に抑えるための仕組みです。
本記事では、与信限度の設定方法と実務に役立つ具体例を交えながら、その重要性を解説します。
1. 与信管理とは?
与信とは、得意先に対して提供する信用のことで、主に売掛金や受取手形の形で現れます。与信管理の目的は、以下の2点に集約されます。
- 信用リスクの抑制
得意先の支払い能力に問題が生じた場合でも、被害を最小限に留める。 - 取引の安定化
過剰な信用供与を避けつつ、得意先との良好な取引関係を維持する。
具体的には、得意先ごとの信用度を評価し、信用限度額を設定することで、過剰なリスクを未然に防ぐことが可能です。
2. 与信限度の設定と管理
得意先の信用度に基づいて与信限度を設定することで、適切な範囲内で取引を管理することができます。以下は、一般的な与信管理の手順です。
個別与信限度の設定
- 売掛金と受取手形の合計額を管理
得意先ごとの取引実績や信用度を評価し、それに基づいて与信限度を設定します。 - 得意先のランク付け
信用度に応じて得意先を分類し、それぞれに応じた基準を設けます。 - Aランク: 信用度が非常に高く、実質的に与信限度なし。
- Bランク: 安定した信用があり、取引実績の1~3割増の限度額を設定。
- Cランク: 信用度が低めで、取引実績と同程度またはそれ以下に制限。
全体的な与信管理
- 全社の信用供与額の限度設定
特定の得意先への過剰な依存を避けるため、全体の与信供与額にも上限を設けることが重要です。 - 月次管理と超過時の対応
得意先の与信限度を月次で確認し、3か月以上の超過が続く場合は速やかに調査を行います。特に、取引額が大きい得意先に対しては、早期に対応することがリスク軽減の鍵です。
3. 与信管理の実務例:K鋼材の取り組み
K鋼材では、各得意先の信用状況を月次でチェックする仕組みを整備しています。同社の「第21表」と呼ばれる与信管理表には、担当者が毎月得意先情報を記入し、社長に提出します。この仕組みによって次の効果が得られています:

- 透明性の確保
全社員が自分の担当先の信用状況を把握できるようになり、取引の健全性が向上。 - 信用問題の未然防止
創業以来、大きな信用トラブルを一度も経験していないという実績を持つ。
社長によれば、この管理体制が社員にとって負担となることはなく、むしろ業務の一環として自然に行われているとのことです。
4. 与信管理を柔軟に行うためのポイント
与信管理は厳格であるべきですが、過度に厳しいルールは営業活動の妨げになります。そのため、以下の柔軟な対応が必要です:
- 短期的な限度額超過への対応
月単位で取引額が限度を多少超えることは珍しくないため、3割程度の超過は許容範囲とします。 - 長期的な超過時の対策
限度額超過が3か月以上続く場合は、得意先の経営状況に問題がないかを調査し、場合によっては社長自らが対応します。
5. 与信管理を制度化する重要性
与信管理を単なる注意レベルに留めず、制度として取り入れることが重要です。これにより、社員全員が得意先の信用リスクに自然と意識を向け、以下の成果が期待できます:
- リスクの可視化と対応の迅速化
信用リスクが発生する前に対策を講じることが可能になります。 - 取引の安定化
信用トラブルが減少し、得意先との長期的な関係性を維持できます。 - 資金繰りの健全化
売掛金や手形の未回収リスクを低減することで、資金運用が安定します。
まとめ
与信管理は、企業の取引基盤を支える重要な仕組みです。得意先の信用度を定期的に評価し、適切な与信限度を設定することで、リスクを最小化しつつ柔軟な取引を実現できます。
また、与信管理を制度化することで、社員全体の意識を高め、経営の安定性を向上させることが可能です。健全な与信管理を実践することで、企業の成長と安定に大きく寄与するでしょう。
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