誤解されている2種類のチェック
対策についての考え方にも、誤解が多いのが現実である。チェックには大きく分けて二種類が存在する。
- 管理的チェック
- 経営的チェック
これらを混同せず、目的に応じて正しく使い分けることが重要である。
社長が行うべきは、全体の方向性や戦略を見据えた経営的チェックである。しかし、多くの場合、社長自身がこれを怠り、日常の細かい問題にとらわれた管理的チェックを行ってしまうという誤りが見受けられる。
経営的チェックを行わないと、会社全体の目標達成や長期的な成長を見据えた対策が取れず、場当たり的な対応に終始してしまう。
この誤りを避けるためにも、社長は経営全体を俯瞰し、戦略的な視点でチェックを行うことに専念すべきである。
管理的チェック
管理的チェックとは、ミクロな視点で個々の事象を確認し、それに応じた具体的な対策を立てるものである。以下はその具体例である:
- 生産計画のチェック
計画を達成した品物については、それ以上の対応は不要。不達成となった品物に対して挽回の手段を検討する。 - 購買計画のチェック
納期通りに入荷した品物については問題なし。納期遅れの品物についてのみ督促や調整を行う。
このように、管理的チェックは特定の問題点をピンポイントで解決することに焦点を当てた短期的な対策であり、日常業務の運営に適している。
これに対して、経営的視点を持つことが求められる場面では、これにとどまらず、全体最適を考える必要がある。
経営的チェック
経営的チェックとは、ミクロな視点で問題をチェックしつつ、その結果をもとに全社的(マクロな視点)な対策を立てるものである。
例えば以下のような形で行われる:
- 生産計画の場合
不達成となった品物の挽回だけでなく、全体の生産バランスやリソース配分を見直し、全社的な効率向上を図る。 - 購買計画の場合
納期遅れの督促だけでなく、調達プロセス全体を見直し、供給網の強化やリスク管理の改善策を立案する。
経営的チェックでは、個別の問題解決にとどまらず、会社全体の運営における根本的な課題を発見し、全社的な成長や効率化を目指す対策を立てることが重要である。
これにより、短期的な問題解決とともに、長期的な競争力強化にもつながる。
2つのチェックの決定的違い
管理的チェックと経営的チェックは、一見すると部分的な違いのように思えるが、実際には結果において決定的な違いをもたらす。
- 管理的チェックは、特定の問題点をピンポイントで修正し、短期的な改善を目指すもの。
- 経営的チェックは、個々の問題を全社的な視点で捉え、長期的な成長や目標達成に向けた全体最適の対策を講じるもの。
その違いにより、管理的チェックは局所的な問題解決に留まりがちだが、経営的チェックは全社の方向性や競争力に直接影響を与える。
本来、社長が担うべきはこの経営的チェックであり、その効果が会社の未来を大きく左右するのである。
経営的チェックを行うべき社長が、管理的チェックにとどまってしまうと、その結果として業績に決定的な違いが生じるという意味である。
管理的チェックは局所的な問題解決に留まり、短期的な成果には寄与しても、全体の方向性や長期的な成長にはつながらない。
一方、経営的チェックは、全社的な視点で課題を捉え、戦略的な解決策を導き出すものであり、会社の業績や競争力に直接的かつ大きな影響を与える。
社長が管理的チェックに陥れば、経営の本質を見失い、全体の最適化を阻害する結果となる。これこそが、業績における決定的な違いを生む要因となる。
社長がチェックすべき項目
利益計画
社長が行うべきチェックの第一は、利益計画の確認である。このチェックでは、目標と実績を項目ごとに比較し、それぞれの項目で金額的にどれだけの差があるかを明確にすることが目的である。
具体的には以下のように進める:
- 各収益項目(売上高、営業利益など)で目標と実績の差額を確認する。
- 各費用項目(原価、販売管理費など)で計画と実績を照らし合わせる。
- 差額の総計を把握し、目標利益との差を数値として明確にする。
このプロセスを通じて、全体の経営状態を金額的に可視化し、次の対策に向けた基盤を築くことができる。この確認は、経営的チェックの出発点となる重要な作業である。
利益計画のチェックでは、目標と実績の差額を把握したうえで、外部情勢を判断材料として組み合わせることが重要である。
このまま推移した場合に、実績が目標を上回るのか、それとも下回るのかを推察し、もし下回る見込みがある場合は、直ちに対策を講じなければならない。
このプロセスにより、単なる実績確認に終わらず、将来の見通しをもとに迅速な意思決定が可能となる。これが、利益計画を軸とした経営的チェックの本質であり、目標達成への行動を確実にする鍵となる。
販売計画
その対策を具体化する手がかりとなるのが販売計画である。販売計画における目標と実績との差を分析し、その差が何を意味しているのかを正確に読み取ることが重要だ。
例えば:
- 売上目標を下回っている場合
- 特定の商品や地域が計画を下回っているなら、その要因を把握し、重点的な販促活動や価格戦略を再検討する。
- 販売チャネルや営業体制に問題がある場合、再編や強化を行う。
- 売上目標を上回っている場合
- 在庫不足や供給体制の遅れを防ぐため、生産計画や物流体制を早急に見直す。
販売計画は、具体的な改善ポイントを示してくれる指針となる。その分析を通じて、迅速かつ的確な手を打つことで、利益計画の目標達成に近づけることができる。
しかし、多くの会社、いや、ほとんどの会社が対策を誤る。その原因は、このチェックを管理的に行い、対策も管理的な範囲にとどめてしまう点にある。
例えば:
- 売上目標を下回った場合、個別の営業担当者を叱責したり、特定の商品の販売促進だけに注力するなど、場当たり的な対応に終始する。
- 供給体制の問題があれば、その場での急な手配や督促のみで解決を図ろうとする。
こうした管理的な対応では、短期的な問題解決に留まり、根本的な改善や全社的な目標達成には結びつかない。重要なのは、全体を見据えた経営的視点での対策を講じ、長期的な成果につながる行動を取ることである。
我々は、この点を深く心に留め、正しい対策を講じなければならない。では、その正しい対策とは何かを具体的な実例で考えてみよう。
例えば、大手に対抗する場合、単に大手の手法を模倣するだけでは不十分である。むしろ、大手の弱点を突く戦略が必要だ。以下にそのアプローチの一例を示す:
- 大手の弱点を分析する
- 大手が市場でカバーできていないニッチな領域を探る。
- サービスや商品提供の柔軟性に欠けている部分を見つける。
- 差別化を図る
- 地域密着型のサービスや迅速な対応で、大手が手の届かない部分を強化する。
- 特定の顧客ニーズに特化した商品やサービスを展開する。
- コスト効率を最大化する
- 大手が大量生産・大量販売に依存している場合、効率的な運営で競争力を確保する。
このように、大手の強みをそのまま真似るのではなく、その強みに隠れた弱点を突く戦略を立てることで、競争の中で優位に立つことが可能となる。
売れない理由は単純明快で、「お客様が欲しがらないから」である。どれだけ商品を押し付けようとしても、それは不可能な話だ。お客様のニーズに合わない商品を売るために時間と労力を費やすのは、ムダな努力でしかない。
重要なのは、お客様が何を求めているのかを理解し、それに応える商品やサービスを提供することだ。ニーズを無視した努力は成果につながらないどころか、経営資源の浪費になる。方向性を見誤らず、顧客視点で行動することが、成功への近道である。
売れない商品は思い切って取り除き、売れる商品を中心に陳列することが、販売促進の正しい方向性である。顧客が求める商品を目立たせ、購買意欲を刺激することが売上向上につながる。
在庫スペースや陳列棚は有限であり、そこに売れない商品を置くことは機会損失を招く。代わりに、人気商品や需要の高い商品を積極的に展開することで、効率的な販売活動が可能になる。これは顧客満足度の向上にも寄与し、リピート客の増加やブランド価値の向上にもつながる。
売上が上がらない店舗に対する多くの社長の「お決まりの対策」は、まず「店舗改装」である。この対応が頻繁に取られるのは、「売上が上がらないのは店舗そのものが悪いのであって、自分のやり方や戦略に問題があるわけではない」という思い込みが背景にある。
このような考え方は、責任を外部要因に転嫁する典型的な例である。もちろん、店舗改装が必要な場合もあるが、それだけで根本的な問題が解決されるわけではない。問題の本質は、商品の選定、顧客ニーズの把握、販売促進の戦略などにあることが多い。経営者は、この「自分のやり方は悪くない」という思考に囚われることなく、真の原因を探り、実効性のある対策を講じるべきである。
この考え方は、ほとんどの場合間違っている。店舗改装は、本来「売れている店」に対して行うものである。売れている店に改装を施すことで、さらに集客力を高め、売上を伸ばすことが目的となる。
一方で、売れていない店に店舗改装を行っても、根本的な課題が解決されない限り、売上改善にはつながらない。売れていない理由は、商品構成、接客サービス、立地条件、マーケティングの不足など、店舗そのものではなく経営戦略や運営にあることがほとんどだからだ。
まずは問題の本質を見極め、それを解決するための適切な対策を講じることが必要である。店舗改装を売れない店の救済策と考えるのは、無駄な投資に終わる可能性が高い。
私の返答は明快だった。それは「閉鎖」である。そして、その店舗を閉鎖することで浮く人員を、現在売上高が最も高いK町店に振り向け、年中無休の体制に移行する、という提案だった。
この方針は、リソースを効果的に再配分し、成長が見込める店舗のポテンシャルを最大限に引き出すことを目的としている。売れない店にリソースを割き続けるよりも、売れる店に集中する方が、全体の業績向上に寄与する合理的な選択である。
この二つの例は、経営的チェックとは何かを示している。管理と経営の本質的な違いは、「顧客」という視点の有無にある。
- 管理は、会社内部の運営や調整を対象とするものであり、その中には「顧客」という考え方は存在しない。社内の効率化や問題解決が目的である。
- 経営は、顧客を中心に据えた視点から、会社全体を見渡し、戦略を立てるものである。顧客のニーズや行動を基に意思決定を行い、リソースを配分していく。
この違いを理解し、経営的チェックを実行することで、組織は単なる内部最適に留まらず、外部の市場環境や顧客ニーズに対応した本質的な改善を進めることができる。経営の中心には常に「顧客」がいなければならない。
一方で、経営とは「顧客」に対する活動である。我社の事業や商品が顧客の要求をどれだけ満たしているか、その度合いがそのまま業績の度合いとなる。
顧客のニーズや期待を的確に把握し、それに応える活動こそが経営の本質である。管理が社内に焦点を当てるのに対し、経営は外部、つまり顧客に焦点を当てる。顧客を満足させることが、売上や利益に直結し、会社全体の成長を支える原動力となるのだ。この視点を欠いた活動は、経営とは言えない。
我社で何をし、どのような目標を立てようと、顧客は一切関知しない。顧客は自分が欲しいものしか買わないという現実を、経営者は深く理解しておかなければならない。その結果として現れるのが、我社の売上実績なのである。
ここで、「それならば、目標を立てること自体に意味がないのではないか」という疑問が生じるかもしれない。しかし、この疑問は的を外している。目標とは、顧客のニーズに応え、その結果として売上や利益を最大化するための指針であり、行動の方向性を示すものだ。目標がなければ、組織全体がばらばらになり、顧客のニーズを満たすための効果的な行動を取ることもできなくなる。
つまり、目標の意味は、顧客の期待に応えるための具体的な行動計画を作り、それを実行するための基盤となる点にある。顧客が何を欲しているかを前提に、正しい目標を立てることが、経営の成否を左右するのだ。
経営の基本原則と顧客対応の重要性
目標とは、基本的に我社から見た顧客の要求を基礎として設定されている。(そこに、「もっと売りたい」という我社の意思が上乗せされている点は否めないが。)その目標と実績との差は、我社から見た顧客の要求と、実際の顧客の要求とのズレを反映している。
つまり、この差異は、顧客のニーズに対する我社の見込み違いを示しているのである。顧客の期待や需要を正確に読み取れなかった結果が、売上実績として表れる。このズレを解消するためには、顧客の要求を正確に把握し、それに基づいた柔軟な対応を行うことが必要だ。目標の正しさを見直し、顧客の本質的なニーズに合致させることが、業績向上への第一歩となる。
実績が目標を下回っている商品がある場合、それは、我社が考えていたよりも顧客の要求が少ないことを意味している。顧客が求めない商品に対して、我社がどれだけ努力しようとも、それが売上や収益に結びつくことは期待できない。
もしそうであるなら、その商品に販売努力を注ぐことは完全に無駄であり、経営資源を浪費するだけである。このような商品に固執するよりも、顧客の要求を正確に捉え、収益を見込める商品や分野に経営資源を集中させるべきである。それこそが、経営資源の効率的な活用であり、持続的な成長を目指す正しい判断と言える。
実績が目標を下回る商品があれば、それがどれほど目標を下回り、それによって期待していた収益がどれだけ不足するのかが明確になる。この情報をもとに、不足分の収益をどのように補うかを考える必要がある。
一方で、実績が目標を上回る商品があれば、それは顧客の要求が我社の予想よりも高かったことを示している。この商品にさらに注力することで、予想以上の収益を得るチャンスがあることを教えてくれる。こうした情報を基に、経営資源の配分や販売戦略を柔軟に見直すことが重要である。
つまり、目標と実績の差を単なる数値の比較で終わらせず、その背景を読み取り、次の行動に活かすことが、正しい経営判断につながるのである。
実績が目標を上回る商品に対しては、「顧客の要求に我社を合わせる」という事業経営の原則に従い、さらに販売努力を強化することで、売上増大を期待できる。このように、顧客のニーズに基づいて柔軟に戦略を調整することが経営の本質である。
ここで重要なのは、経営的チェックと管理的チェックが全く異質なものであることを明確に理解しておくことである。経営的チェックは、顧客視点で全社的な戦略を見直し、成長を目指すものであり、管理的チェックが内向きの効率化や問題修正に留まるのとは本質的に異なる。この違いを認識し、適切に使い分けることが、事業成功の鍵となる。
経営的チェックにおける基本的な態度を以下のようにまとめることができる:
- 実績が目標を上回る場合
この場合、顧客の要求が我社の予想以上に高いことを意味する。したがって、販売努力をさらに強化することで、さらなる成果が期待できる。この段階では、まず量的な強化(販売体制やプロモーションの拡充)を優先し、質的な強化(新商品やサービスの改良)は後回しにする。 - 実績が目標とほぼ一致する場合
この場合、現状を維持するだけではなく、さらに販売を増大させるための策を検討する必要がある。このとき、まず質的な強化(商品の改良、付加価値の追加、販売方法の工夫など)を優先し、その後に量的な強化を考えるのが適切である。 - 実績が目標を下回る場合
この場合、顧客の要求が我社の想定よりも少ないことを認識する必要がある。このような状況で、闇雲に新しい資源を追加投入するのは避けなければならない。まずは実態を冷静に見極め、必要最小限の手を打つことで、効率的に状況を改善する。
どのケースでも、顧客の要求を正確に把握し、それに基づいて行動することが重要である。無計画な資源投入や無駄な努力を避け、実態に即した適切な対応を心掛けるべきである。
まず第一に確認すべきは、「方針通りの活動が実際に行われたか」という点である。もし方針通りの活動が行われていない場合は、まずそれを実行することが最優先となる。
これは次の二つの理由による:
- 「決めたことは必ず行われる」という組織管理の根本問題
組織として、決めた方針が確実に実行されることは、信頼と秩序の維持に直結する。これが守られなければ、組織全体が機能不全に陥る恐れがある。 - 方針通りに実行して初めて、その方針の良否が分かる
方針が正しいかどうかを評価するには、まず計画通りに実行してみる必要がある。実行しなければ、結果を検証することができず、改善や調整も不可能となる。
方針の実行が伴わない限り、組織は前進しない。したがって、計画通りの活動が行われているかを確認し、不足があれば速やかに修正することが重要である。
もし方針通りの活動が行われているにもかかわらず、実績が目標を下回る場合でも、売上が上昇傾向(会社の総売上高の伸び率を上回る伸び)にあるならば、その方針を維持しつつ様子を見るべきである。たとえ目標を下回っていても、上昇傾向が示されているならば、まだ見込みがあると考えられるからだ。
この場合、慌てて方針を変更するよりも、状況を注視しながら方針を持続することで、改善の兆しを確認できる可能性がある。短期的な結果にとらわれず、長期的な視点で状況を判断することが重要である。
特に新商品の場合、初めから過大な目標を設定しがちである。しかし、発売当初に思うように売上が伸びないのは、ある程度やむを得ないことである。ここで重要なのは傾向である。
新商品がゆっくりと売上を伸ばし、着実に市場に浸透していくならば、その成長を見守りながら方針を持続するべきである。一方、発売当初からブームの様相を呈し、急激に売上が伸びる場合は注意が必要である。そのような商品は、一時的な流行で終わり、寿命が極めて短い可能性が高いからである。長期的な視点を持ち、市場での持続的な成長を目指す商品であるかどうかを見極めることが重要だ。
売上高が下降傾向にある場合(絶対額が下がる場合だけでなく、会社全体の総売上高の伸び率を下回る伸び率の場合も含む)は、対応策として商品や販売方法を見直す必要がある。ただし、その修正は一度だけにとどめるべきである。
理由としては、繰り返し修正を試みることで、時間やリソースが浪費され、根本的な解決に結びつかない可能性があるからだ。修正の結果を観察したうえで、それでも売上が改善しない場合には、商品の撤退や大きな戦略変更を検討するほうが効率的である。短期的な修正に終始するよりも、冷静な判断と適切な決断が重要である。
修正を施した結果、売上が向上すれば問題ない。しかし、売上向上が見られない場合には、成り行きに任せるか、機を見て商品を切り捨てるべきである。これは、その商品に対して顧客の要求が存在しない、あるいは仮に要求があったとしても、我社ではその要求に合った改良や販売方法を見つけ出すことができないことを意味している。
このような場合、無理に手を尽くすのは無駄な経営資源の投入となり、全体の効率を低下させるだけである。したがって、この原則は忠実に守らなければならない。感情や過剰な執着に左右されず、客観的な判断に基づいて行動することが、経営の健全性を保つ鍵である。
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