事業経営の最高責任者である社長にとって、まず重要なのは「正しい姿勢」を持つことだ。その姿勢とは具体的に何を意味し、社長の役割とは何なのか。本書では、その最も基本的な点について述べている。
一つは最高責任者としての在り方であり、もう一つは顧客に対する態度だ。「顧客の要求を満たす」ことこそが、事業経営の根幹を支える企業の姿勢であり、社長が持つべき基本的な姿勢であるべきだ。
本書では、この点に焦点を当て、筆者自身が直面した実例を交えながら、社長が無意識のうちに陥りがちな誤りを指摘し、それを「他山の石」として活用できるようにした。また、社長の正しい態度とは何かを、多面的に掘り下げて考察している。
会社の業績が振るわない根本的な原因は、必ず社長が顧客の要求を無視していることにある。顧客の要求を無視し続ける限り、どのような施策を講じたとしても、業績が改善することは決してない。この点を本書を通じて理解し、学んでもらいたい。
そして、一人でも多くの社長に、「会社は顧客によって支えられている」という正しい認識を持ってほしい。社長がこの認識を持った瞬間から、会社の業績は確実に向上し始める。その変化を私はこれまで何度も目の当たりにしてきた。
筆者の切なる願いは、一人でも多くの社長が「顧客第一」の姿勢を貫き、会社を繁栄へと導いてくれることにある。会社の持続的な繁栄こそが、社長として果たすべき最大の社会的責任だからだ。社長の「正しい姿勢」こそが、「正しい経営」の土台となるのである。
ドラッカーの名著『現代の経営』ですら、この点には触れていない。この明確な定義の欠如がもたらす混乱は、言葉では表現しきれないほど深刻だ。事業経営は、「市場活動」によって生み出される経済的価値、すなわち収益があって初めて存続可能となる。
この経済的価値は、同時に社会への貢献を意味する。だからこそ、企業は社会からその存在を認められ、法律による規制のもとで活動が許されているのだ。
この最も基本的な事実が忘れ去られ、企業内部の管理が「事業経営」であるかのように錯覚している人が大多数を占めているのが現状だ。
世に広まっている「経営学」と称されるものは、この錯覚に基づいた誤った思想や理論であふれている。そして、それが社会に計り知れない害悪をもたらし続けているのが現実だ。
事業経営の最高責任者である社長は、このような妄説に惑わされることなく、事業の本質が「市場活動」にあるという正しい認識を持つべきだ。この認識を欠いたままでは、正しい事業経営を実現することは不可能である。
正しい経営を行うためには、「間違った経営」が会社にどのような影響を与えるのかを理解することが重要だ。その間違った経営とは、内部管理に重点を置いた経営、すなわち「民主経営」であり、そこから派生する「権限委譲」である。
これが会社にどれほどの害悪をもたらし、事業をいかに歪めていくのかを、具体的な実例を通じて考察してみたい。そこに浮かび上がる、経営者不在という恐ろしい現実を、まず知ってほしいというのが、私の心からの願いである。
今から二十年以上前のことだ。私は、従業員が百人ほどの地方の小企業であるF社を訪れた。F社は十年にわたって赤字が続いており、そのバランスシートには驚くほど多額の長期借入金が記載されていた。
現代の企業経営における「市場活動」の本質的な役割について考えるとき、それがいかに事業の根幹であるかが浮き彫りになる。企業が成長し続け、社会に価値を提供するには、単なる内部管理に終始せず、真に市場と向き合う必要があるのだ。しかし多くの組織は、内部の管理や効率化に過剰にこだわり、本来の「市場活動」という事業の本質から目を逸らしてしまいがちである。
企業が生み出す「経済的価値」、つまり利益は、単なる数字の達成に留まらない。この価値は、市場での活動を通じて社会に貢献し、社会がその存在を受け入れ、法的にも保護されるための基盤を築くものである。この点を見失うと、企業は自らの存在意義を見失い、業務が内部だけに閉じる「内向きの経営」に陥ってしまう。
内向きの経営が引き起こす問題は、単に事業の停滞を招くだけではない。市場とのつながりが薄れることで、顧客のニーズに応えられなくなり、結果として社会からの信頼も失いかねない。この「間違った経営」は、多くの場合「民主的経営」と称され、全ての決定権を分散する「権限委譲」へとつながることがある。しかし、それが常に事業にとってプラスに働くわけではない。むしろ、責任の所在が曖昧になり、ビジネスの方向性がぼやけてしまうリスクが大きい。市場活動における一貫した方針や素早い意思決定が行えず、組織の足並みが乱れ、やがては市場からの信用を失うことにつながる。
真の経営者には、この「市場活動」の意識が不可欠だ。市場活動は、ただ利益を追求することだけでなく、顧客や社会のニーズに応える「価値の創出」である。それが企業の真の使命であり、成長の原動力だ。この基本を理解し、市場に対して責任を持つ姿勢を保つことが、企業経営の成功に必要不可欠である。
内部管理に固執せず、企業を社会とのつながりの中で捉える視点を持つことこそ、これからの経営に求められる視座である。
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