企業は、商品やサービスが顧客に購入されて初めて経営が成り立つ。この当然の事実を、いつも強調している理由は、顧客を軽視する、あるいは優先度を低く考える企業が世の中にあまりにも多いからだ。
自社の技術を最優先とする。社員管理が最も重要だと信じ込む。同業者との競争にエネルギーを費やす。効率、コスト、品質だけで経営が成り立つと錯覚する。自分の好みを顧客に押し付けようとする。
そうした会社の業績が決して良好でないことは、経験から明らかだ。当然の結果だ。会社の収益は顧客によって支えられており、その顧客は自分のニーズに合わない商品には手を出さない。一度は購入しても、二度三度と繰り返すことはない。
こんな当たり前のことが理解されないのかと思うと、なぜこんな話をしなければならないのかと苛立ちを覚える。
世の中に溢れる経営学やマネジメントを謳う書籍の中で、「お客様こそ会社の支配者」と明言しているものがどれだけあるだろうか。その数の少なさには驚かざるを得ない。それに対し、「社員の管理」に重点を置けと主張する書籍があまりにも多すぎる。
直接目に見えるのが社員だから、その存在にばかり意識が向くのだろう。しかし、社員が会社を支配しているわけではないことは自明だ。むしろ、直接目に見えない顧客こそが会社の真の支配者である。この当たり前で基本的な認識が欠けていては、経営は成り立たない。この認識を土台に据えて、改めて顧客について考えてみるべきだ。
まず第一に、この支配者である顧客は、被支配者である会社に対して何ら命令を下さないという点が挙げられる。何も命令されないがゆえに、顧客が会社の支配者であるという感覚が生まれにくいのだ。
命令はしないが、顧客は自分の意に沿わない場合には「無言の解雇」を行う。つまり、黙ってその会社の商品を買わなくなるのだ。その結果、会社は業績不振に陥り、やがて倒産への道を辿ることになる。
時折、クレームをつける顧客がいる。このような顧客こそ、実に貴重でありがたい存在だ。「そのやり方では会社が潰れるぞ」と警告してくれるのだから、経営にとって重要な指南役とも言える。
過去にどんな優れた商品を提供していたとしても、現在の商品が自分のニーズに合わなければ、顧客はすぐに他社の商品に切り替えるものだ。顧客が商品を選ぶ基準は、現在の満足度と未来への期待に基づいている。「あの会社は実績があるから安心だ」と思い込んで安易に選ぶわけではない。
安易に過去の成功に浸っていると、大きな問題を招くかもしれない。顧客は過去の実績を一切考慮せず、指示や命令も待ってくれない存在だ。そんな顧客をしっかりと引きつけ、さらに新しい顧客を創り出していくことこそが、企業が生き残るための道であり、本質的な経営そのものである。
ここに「経営とは顧客の創造である」という考え方が生まれる。では、「顧客の創造」とは具体的に何を意味するのだろうか。どのような視点で考え、どのような行動を取ることで、顧客を創造することが可能になるのだろうか。この問いに向き合うことが、企業が成長し続けるための鍵となる。
このテーマについては、実例から学ぶのが最も効果的だ。なぜなら、経営学は実証に基づく学問だからだ。その代表的な実例として、シアーズ・ローバックの歴史を取り上げ、そこから得られる教訓を探ってみよう。
「会社の真の支配者はお客様である」という視点は、企業経営の根本であり、事業の本質を理解する上で不可欠なものです。会社がどんなに優れた技術を持っていようと、社員の管理に気を配っていようと、肝心なのはお客様がその会社の商品を選び続けるかどうかということです。
多くの会社が、効率やコスト、品質、技術の向上を重視している一方で、お客様の満足やニーズを後回しにしている場合が少なくありません。しかし、お客様は商品やサービスが自身の期待に応えていないと感じれば、何も言わずにその企業から離れていきます。つまり、お客様は直接命令を下さないものの、「無言の決断」によって企業の命運を左右している真の支配者です。
ここで重要なのは、過去の実績が将来の顧客の選択には影響しないという点です。どれほど過去に素晴らしい製品やサービスを提供していても、現在の提供価値がその期待に応えていなければ、お客様はその会社を選び続けません。企業にとって、過去の成功に頼り切ることは、未来の危機を招く原因となります。
このように、経営は「顧客の創造」であるといえます。顧客の創造とは、お客様の視点で新たなニーズを掘り起こし、満足や期待に応える商品やサービスを提供することです。そして、それにはお客様が何を求めているのか、今どのような期待をしているのかを継続的に探り、その変化に迅速に対応する姿勢が欠かせません。
シアーズ・ローバックのような成功事例に学ぶことは、この顧客中心の経営を深めるうえで有益です。シアーズはお客様のニーズに対する鋭い洞察と、顧客の視点に立った商品展開を行い、長期的に信頼されるブランドを築き上げました。お客様が求める価値を理解し、それを提供し続けることで、企業は本当の意味での「顧客の創造」ができるのです。
企業が持続的に成長するためには、社員や同業者との関係性ももちろん大切ですが、最優先すべきはお客様です。お客様の期待と満足を第一に考え、彼らの声を聞き続ける姿勢こそが、企業を支え、発展させる土台となるのです。
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