デマ作戦
D社長から緊急の相談があると連絡が入った。内容は、「D社が不渡りを出した」というデマが流されているが、どう対処すべきかというものだった。
D社は、支払手形を一枚も振り出していない。バランスシートにも資産表にも「支払手形」という勘定科目自体が存在しないのだ。それを確かめもせずにデマを流すとは、不用意にもほどがある。この状況で、D社長が比較的冷静さを保てたのも、その事実を把握していたからだろう。
私の返答は簡潔だった。「放っておけばいい。下手に否定などしなくても、そのうち消えるだろう。もし問い合わせの電話があれば、そのとき説明すればいい。黙殺が一番だ」というものだ。そして実際、七十五日も経たずにこの噂は消えた。取るに足らない小人物の仕業とはいえ、その卑劣なやり方には呆れるばかりだ。もっと堂々とした、正々堂々とした戦い方ができないものかと思う。
T社を訪問した際、T社長も同じような経験を語っていた。「二カ月ほど前に、うちが倒産したというデマが流れたが、私は相手にしなかった」と、驚くほど平然としていた。事実は自然と証明されるものだから、わざわざ騒ぎ立てる必要はないという姿勢だった。
社長という立場の人間が、こんな「子供だまし」のようなデマに慌てたり騒いだりするのは論外だ。しかし、そもそもデマを飛ばすような人物は社長の器ではないと言える。たとえどんなに追い詰められていようと、そんな手段に走るべきではない。正々堂々と真正面から戦う姿勢こそ、求められるべきものだ。
戦いの多様な戦略とその功罪
ビジネスの世界では、競争相手を出し抜こうとする「戦いの戦略」が多様な形で展開されます。しかし、戦略には卑劣な手段や他社の模倣に依存するものもあり、長期的な成功にはつながらない場合が多いのです。ここでは、「デマ作戦」「特売撹乱作戦」「イミテーション作戦」の3つの戦略と、それぞれの成功のカギや限界について解説します。
1. デマ作戦 – 根拠のない噂に対しては冷静な対応を
デマ作戦は、根拠のない噂を流すことで競合企業の信用を落とそうとする卑劣な手法です。たとえば、D社は「不渡りを出した」というデマを流されましたが、D社は手形取引がなかったため、そのデマに惑わされることなく冷静に対処することができました。この場合、D社長は「無視する」という最良の戦略を取り、最終的に噂は消えてしまいました。
教訓:デマに対しては無闇に否定や反論をせず、事実が証明するのを待つことが重要です。真実が見えれば、デマは自然と消え、冷静な対応が企業の信頼を保つ力になります。
2. 特売撹乱作戦 – 敵の一手を先読みし、機動的に対応する
E社長は、競合が特売イベントを予定していることを事前に察知し、敵の特売日の前に自社の特売を行い、競合の出鼻をくじきました。これは「特売撹乱作戦」と呼ばれ、敵の行動を見越して自社が有利に立ち回るための戦略です。情報収集力がこの戦略の成否を左右し、競合の動きを先んじることで、シェアを奪う効果が得られます。
教訓:市場での勝利には、情報収集力が必要不可欠です。顧客や取引先との信頼関係を築き、適切な情報を得ることで、戦略を成功に導くチャンスが広がります。
3. イミテーション作戦 – 模倣に頼らない独創性の重要性
「イミテーション作戦」は、他社の商品やサービスのデザインや手法を模倣する戦略です。短期的には市場に同調することで利益を得ることもありますが、他社の模倣や便乗を続けていては、企業のブランド価値が向上することはありません。日本では、そっくりのブランド名やパッケージを使った便乗が横行する場合もありますが、ソニーの井深大氏や本田技研の本田宗一郎氏のような独創的な経営者の成功に学び、真の価値は模倣ではなく独創から生まれるということを意識する必要があります。
教訓:模倣に頼るのではなく、自社独自の価値を生み出すことで、顧客にとっての唯一無二の存在となることができ、長期的な競争力が養われます。独創的なサービスや商品開発は、ブランド力の向上に直結します。
まとめ
ビジネスにおいては、短期的に競合を出し抜くための戦略が数多く存在しますが、真に競争力を持つ企業は、顧客や市場の信頼を損なわず、独創的な価値を提供し続ける企業です。戦いの戦略には、噂や模倣のような危うい手段に依存するのではなく、冷静な対応や情報収集力、そして独自の創造力を重視することが大切です。
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