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乗っとり

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A社の乗っ取り経緯

A社長は技術者としての才能に優れ、自社の加工技術に精通しながら、研究熱心な姿勢で新たな加工方法を次々と生み出していた。しかし、値下げ要求があまりにも厳しく、そのハードルを超えることはできなかった。

さらに、極端なワンマン体制が影響し、管理者層の間で社長への信頼感が薄れていた。その結果、仕事に対する意欲も低下していた。管理職の間では「うちには大将と兵隊しかいない」と揶揄されるような状況だった。

社長の下には二人の常務がいたが、一人は技術に疎く、もう一人は控えめすぎる性格のため、どちらも存在感が薄かった。そのうちの一人は、管理職の前でも私の前でも、社長への批判を公然と口にしていた。私はA社長に対し、「なぜその常務を厳正に対処しないのか」と何度も問いかけたが、A社長はなぜかその状況を黙認し続けていた。

値下げ要求は次第にエスカレートし、その内容は常軌を逸していると言わざるを得ないものだった。この状況の中で、私の中に「もしや」という疑念が徐々に膨らんでいった。その「もしや」とは、言うまでもなく「乗っ取り」の可能性だ。ただし、私は二、三カ月に一度の訪問しかできなかったため、決定的な証拠をつかむには至らなかった。

確証もないまま、そんな「生臭い」話を軽々しく持ち出すわけにはいかなかった私は、この窮地を乗り越える方法として、社長自身が親会社に出向き、現状の厳しさを直接訴えることを提案した。値下げ圧力の緩和を求めるどころか、逆に値上げの実現をお願いするという策だった。

「オンリーさん」状態からの脱却を図るため、新規の得意先を開拓する必要があった。さらに、自社商品を持つことも重要な施策として考えられた。それは必ずしもA社独自の商品である必要はなく、むしろ既存の商品を扱うほうが効率的で現実的だという結論に至った。

しかし、A社長は自ら値上げ交渉に乗り出すことはなかった。それどころか、その役割を常務にも任せず、営業課長に担当させた。この対応により、A社長が常務を全く信頼していないことが明白となった。

それよりも問題なのは、会社の存亡がかかるこの危機的状況で、社長自らが値上げ交渉に乗り出さないという事実だ。これでは事態を打開することは不可能だ。どれだけ強くA社長に直接行動を勧めても、「それは営業課長の役割だ」という一点張りで取り合わなかった。

会社の存亡が危ぶまれるこの重大な局面で、社長自身が値上げ交渉に乗り出さないようでは、事態を打開することは到底望めない。どれほど強硬にA社長に直接行動を促しても、「それは営業課長の役割だ」という一点張りで、まるで責任を回避しているかのような姿勢を崩さなかった。

私は、「課長に交渉させれば、相手はそれを課長レベルの問題として受け取る。これは課長の能力の問題ではなく、経営レベルの問題なのだから、社長自らが交渉にあたるべきだ」と強く進言した。それでも社長は頑として動こうとしなかった。さらに、新規得意先の開拓についても、営業課長に任せきりで、社長自身は何の行動も起こさなかった。

自社商品の開発には社長自ら取り組んだものの、その関心は試作や製造に限られていた。いくつかの失敗作が出るのはやむを得ないとしても、やっと市場性のある商品を開発したにもかかわらず、その販売については営業課長に丸投げするだけだった。結果として売上は微々たるものにとどまった。私が「営業員を増員し、社長自らがそれを率いて販売活動にあたれ。それこそが社長の仕事だ」と強く進言しても、まるで耳を貸す気配はなかった。

こんな状況では、こちらとしても手の打ちようがなく、正直なところ辞退したい気持ちも強い。しかし、これは断りきれない筋からの依頼で引き受けた案件であり、簡単に身を引くわけにもいかないという難しさがある。

そうこうしているうちに、資金繰りはさらに逼迫し、ついにA社長はB社に資金援助を申し入れる事態となった。B社はこれを受け入れたが、その方法として「株券買取り」の形を取った。買収された株式は全体の10%程度ではあったが、その代償としてB社は専務を二人送り込んできた。

その専務たちは着任後しばらくしてから、「こんなひどい状況だとは知らなかった。これはB社の責任だ」と言い出し、自ら値上げ交渉に乗り出した。そして、B社との交渉の末に、わずかながらも値上げを実現させた。この動きこそが転機となったのである。

A社長は、「B社にこんな話の分かる人がいるとは思わなかった」とすっかり専務を信用し、あらゆることを話すようになった。その中にはB社への批判も含まれていた。そして、それらの情報がすべてB社に流れていたのは言うまでもない。役員会の内容が開かれてから二、三日後には、B社がその詳細を把握していた。専務以外に情報を流す人物がいるとは考えられなかった。

私はA社に依頼し、B社がA社と同じ製品を作らせているC社の価格を調査してもらった。その結果、C社の価格はA社よりもかなり高いことが判明した。この事実とこれまでの状況を総合的に考えれば、B社が何をたくらんでいるのかはもはや明白だった。

私はA社長に対してB社のたくらみを警告したが、A社長は全く取り合わなかった。あるいは、取り合わないふりをしていたのかもしれない。しかし、仮にその実態を理解していたとしても、もはや手遅れであり、状況を打開する術は残されていなかったのだろう。

私が辞退した後も、A社の資金繰りは依然として深刻な状態が続いていた。A社長はついに、自身の貴重な個人資産をすべて銀行の担保に差し出し、何とか融資を受けようとした。しかし、それでも状況は改善せず、銀行はA社に見切りをつけて融資を打ち切った。その背景には、B社が銀行にA社の内情をそれとなく漏らしていた可能性があるという話が伝わってきた。

そして、A社はついに倒産に追い込まれた。その後、再建を引き受けたのは他ならぬB社だった。B社は、再建のプロセスにおいてA社の債務の大部分を切り捨てるという再建の定石を採用し、それを債権者たちに納得させることに成功したのは言うまでもない。

その後、B社は九割減資を実施したうえで十倍増資を行い、A社長の持株比率を大幅に低下させた。その結果、A社長は経営への影響力をほぼ失い、最終的にはB社によって簡単に排除されてしまったのである。

この乗っ取りの手口を整理すると、以下のようなパターンが見て取れる。

  1. 高値発注で「オンリーさん」化
    狙った会社に高額な発注を行い、他社との取引をやめさせて依存関係を築く。これは「おいしい餌」として機能するが、私が訪問した時点ではすでにそのフェーズは終わっていた。
  2. 強引な値下げ要求
    極端な値下げを強要し、会社を苦境に追い込む。この段階では、依存関係が構築されているため反撃が難しい。一社依存が大きい企業や、販売力がなく加工技術に特化している企業ほど狙われやすい。
  3. 資金繰りのピンチと資金援助の提供
    資金繰りを逼迫させた後に資金援助を行い、その代償として株式を取得する。同時に役員を送り込み、会社の内情を徹底的に把握する。大手企業が株式を持つ時点で支配力を握られ、たとえ持株比率が5%でも、実質的には51%と同じ効果を持つ。
  4. 社長の個人資産の担保化
    社長の個人資産をすべて担保として吐き出させることで、経営者個人をも追い詰める。
  5. 銀行への情報リーク
    必要に応じて銀行に会社の厳しい内情をリークし、銀行が融資を引き上げるよう仕向ける。
  6. さらに厳しい値下げ要求と倒産への誘導
    値下げ要求をエスカレートさせ、最終的には倒産に追い込む。
  7. 再建引受けと減資・増資
    倒産後に再建を引き受け、減資と増資を組み合わせることで元社長の持株比率を大幅に引き下げる。
  8. 法律に基づく社長の排除
    法的な手続きを踏み、元社長を経営から完全に排除する。

この手法は、狙われた企業が逃れられないような段階的なプロセスで進行し、最終的には会社を完全に掌握することを目的としている。

社長の責任と防止策

この手口は、一見すると単純だが、職人気質の社長に対しては驚くほど有効であり、ほとんど抵抗する術がない。いったん狙われたら、実質的にそれで終わりだ。乗っ取りを仕掛ける会社の手法は「悪どい」と言わざるを得ないが、私の見解では、それ以上に問題なのは「乗っ取られる側の会社」である。

乗っ取られる会社には、必ずその原因がある。特に経営者に問題がある場合が多く、それは単に経営能力の欠如にとどまらず、自らの弱点や隙を放置した結果でもある。つまり、乗っ取りを許す側にも重大な責任があるのだ。長の無策や慢心が、最終的に会社を破滅へと導く要因になると私は考えている。

その弱点や隙とは何か、そしてそれをどう克服すべきかについては、私の「長学シリーズ」で繰り返し強調している。これらは乗っ取りの防止策としてだけでなく、倒産というリスクをも同時に回避する手段でもある。

事業経営とは、まさに喰うか喰われるかの死闘である。その現実を、喰い殺される直前になって初めて理解しても、もはや手の施しようはない。危機が訪れる前にその兆候を察知し、未然に回避することが経営者としての最大の責務だ。それこそが真に優れた社長の資質であり、事業を守り抜くための基本なのだ。

乗っ取りは、何も外部からの攻撃だけに限らない。内部からの乗っ取りもまた現実として存在する。それが「お家騒動」のような形で表面化するならまだ理解しやすいが、場合によっては、社長が知らないうちに会社が乗っ取られてしまうという信じがたい事態さえ起こりうる。

たとえばT社は、ある民生機器の付属品を製造しており、業界でナンバー1の地位を誇っていた。その絶頂期に、私が訪問し、経営の手助けをすることになった。しかし、このT社でも内部からの乗っ取りが進行していたのである。

一通りの交通整理を行い、経営の立て直しに一定の目処がついたところで、私は「何かあった時には声をかけてください」と伝えてT社を後にした。それから十年が経ち、T社長が久しぶりに私を訪ねてきた。「相談したいことがある」という言葉を携えての訪問だった。

用件を聞いてみると、「不渡りを出したが、どうしたらいいか」という深刻な相談だった。さらに話を詳しく聞くと、数日前に税務署から突然「会社更生法適用の申請書を受理した」と通知され、「財産保全命令」が発動されたというのだ。T社長にとっては完全に寝耳に水の事態だった。

冗談では済まされない話だ。会社更生法の申請書には、代表者印が必要である。しかし、その代表者印をT社長は持っていなかったのだ。つまり、誰かが無断で代表者印を使用し、会社更生法の申請を行ったということである。一体どうなっているのか、驚愕と怒りを覚えるほかになかった。

「社長、十年前に私が伺った際、あなたは代表者印を持っていませんでしたね。その時、経理担当者を呼び出し、私の目の前でその印鑑を社長に返させました。そして、『どんなことがあっても、この印を手放してはいけません』と、その重大性を何度もお伝えしたはずです」と、私は厳しく叱責した。

しかし、それもすでに後の祭りだった。私が辞去した後、再びその代表者印は経理担当者の手に戻されていたのだ。注意を促していたにもかかわらず、その重要性を軽視した結果が、この悲劇を招いたのである。

「これには必ず陰謀がある」——私の第六感はそう告げていた。特に、弁護士が関与していることは言うまでもない。グルでなければ、社長に知らせることなく、代表者印を使ってこんな重要な書類を作成するはずがないからだ。この状況では、弁護士と経理担当者が裏で結託している可能性が極めて高いと考えざるを得なかった。

社長に事情を問い質してみても、明確な答えは返ってこなかった。ただ、わかったことは、私が辞去した後、T社長は「経営計画書」を作成することをやめ、数字をほとんど把握していなかったということだ。さらに、T社長が目にしていた決算書は、社長用に粉飾されたものであった可能性が高い。

発覚した赤字額はO億円に達していたが、それが突然生じたわけではないのは明白だ。事態が進行する中で、確認されたのはその赤字の半分が経理担当者による「使い込み」だったという事実だった。これほどの問題が積み上がるまで社長が気づけなかったのは、経営の監視体制の甘さを如実に示している。

驚いたT社長が例の弁護士に相談したところ、「不渡りを出し、財産保全命令が発動されているため、社長は一切の権限を停止されている。会社に出向いても何もできない」と告げられたという。この発言により、弁護士が経理担当者とグルであることはほぼ確実となった。

実際には、財産保全命令が出たとしても、財産管理人が正式に決定されるまでは、社長が会社の責任者としての権限を持つのが法的な原則である。念のため、知り合いの信頼できる弁護士に確認したところ、やはりその通りだという答えが返ってきた。この弁護士の言動は、T社長を完全に排除し、何かを隠蔽する意図が明らかだった。

私は怒りを抑えることができなかった。もしT社長が、私が過去に勧告した最低限のことだけでも守ってくれていたら、こんな事態にはならなかったはずだ。それでも、事がここまで進んでしまえば、会社が潰れた後は裁判所、債権者、銀行の出番となり、コンサルタントが手を出せる領域ではなくなる。

これはまるで、命を失った後に医者へ運び込むようなもので、どんなに腕の良い医者でも手の施しようがない状況だ。事前に適切な対応がされていなかったことが、今回の悲劇を招いた最大の要因である。

とはいえ、かつて手伝いをした会社であり、T社長から直接相談を受けている以上、完全に断るわけにもいかなかった。最終的に、私はこの陰謀に立ち向かう覚悟を決めるしかなかった。

まずは、何も分かっていないT社長を奮い立たせ、情報収集に奔走してもらった。次に重要なポイントとして、債権者会議の議長が誰であるかを確認したところ、それは最大の債権者であり、T社の下請け協力会の会長を務めるE社の社長だった。そして同時に、この債権者委員会の委員長もそのE社社長が務めているという事実が浮かび上がった。

債権者会議に提出されたT社の財産目録を確認すると、驚いたことに、会社の資産が負債の8割に達しているという内容だった。一見すると倒産にしては状況が良さそうに見えるが、そんな馬鹿な話があるはずもない。この数字の背後には、棚卸資産が異常に高額で計上されていたことがわかった。

ここに明らかなカラクリを感じた。さらに、この異常な棚卸資産の額が陰謀の一端であるという疑念を強く抱かざるを得なかった。倒産した会社の棚卸資産の実際の価値など、「スクラップ値」に過ぎないのが現実だ。それを高額な評価で記載している時点で、何か意図的な操作が行われている可能性が極めて高い。

提出された財産目録に記載された棚卸資産の金額は、間違いなく帳簿価格で計上されている。しかし、それが実際の価値を反映しているとは到底考えられない。むしろ、この金額には、旧型のデッドストックや使い道のない旧型部品が含まれており、それらが適切に減価されていない可能性が高い。

こうした操作は、財務状況を実際よりも良く見せかけるための典型的な手口だ。特に倒産直前の状況において、こうした不自然な資産評価が行われるのは、何らかの意図的な工作があると疑うべきである。この棚卸資産の金額が帳簿価格そのままであるなら、実際の価値ははるかに低いことは明らかだ。

さらに驚いたのは、債権者会議の議長が債権者に「白紙委任状」を求めているという事実だった。こんな馬鹿げた話があるだろうか。

これだけの状況が揃えば、陰謀の主謀者も、そのシナリオも明白だ。それが誰であるかは、読者にもお分かりだろう。E社長である。

主謀者がT社の乗っ取りを企てた理由は、それだけT社が魅力的な会社だったからだ。その魅力は、高い収益性にあった。T社が赤字に転落した原因は、まず社長の無能さに起因している。多額の使い込みがその一例だ。そしてもう一つの要因は、E社長による何らかの工作があったためだと考えられる。

その工作が具体的に何であるかは私にもおおよその想像がつくが、購買の数字を確認する立場にはないため、断定することはできない。しかし、九分通りその推測は間違っていないだろう。

さらに、経理担当者には乗っ取り後の好待遇を約束し、弁護士には多額の裏報酬を渡すことで、一味として引き入れたのだろう。この計画は周到に仕組まれていたに違いない。

ここまでくれば、あとは簡単だ。会社を赤字に追い込み、タイミングを見計らって不渡りを出す。さらに、最大の債権者であり協力会の会長という立場を利用すれば、債権者会議の議長に自然と収まることができる。

債権者会議では、簿価で棚卸資産を計上した財産目録を示して債権者を安心させ、その上で白紙委任状を取り付ける。ここまでくれば、会社をどう処分するかは主謀者の思いのままだ。そして、その後の進め方も、私には容易に想像がつく。以上が私の描いたシナリオである。

こんな乗っ取りを許すわけにはいかなかった。これはT社長を応援するためではなく、不正そのものに挑むための行動だった。相手の手の内が見えている以上、対応は比較的簡単だった。そして、こちらの動きを察知した相手は、最終的に乗っ取りを諦めざるを得なくなったのである。

この事件での真の問題は、E社長ではなくT社長にある。私が腹立たしく思うのは、T社長の無責任さだ。社長としての基本的な責任感があれば、こんな事態は避けられたはずだ。

代表者印を自分で管理し、会社の数字を把握し、さらに私が勧めた経営計画書を作成して継続的にチェックしていれば、ほぼ間違いなくこのような悲劇は防げた。結果として、会社を倒産させるという大きな社会的罪悪を回避できたはずであり、その点でT社長の責任は極めて重いと言わざるを得ない。

私が経験した内部乗っ取りの事例には、先に述べたケース以外にも、専務が主謀者だったものや、実弟が関与していたものがある。そして、これら3つの事例すべてに共通していたのは、社長が代表者印を自分で管理せず、それらの人物に預けていたという点だ。

私が「代表者印は必ず社長自身が持つべきだ」と強く主張する背景には、こうした現実の事件がある。代表者印を手放すことが、会社の命運を左右する重大なリスクを招くという教訓に基づいているのだ。

先に挙げたケース以外にも、私はさらに三つの乗っ取り事例に直面した。それらは、社長の責任だけでは片付けられない外部からの強い圧力によるものだった。乗っ取られた社長たちには、同情の念を禁じ得ないような状況だった。

しかし、それでもなお、遠因をたどればやはり社長に責任があると言わざるを得ない。外部圧力に抗する体制を整えることも、最終的には社長の役割であり、それを怠ったことが乗っ取りを招いた要因といえるのだ。

甘い話への警戒

さらに、甘い話には特に警戒が必要だ。たとえば、「共同出資で新会社を立ち上げ、長く一緒にやっていこう」というような誘いだ。こうした話は一見魅力的に思えるが、世の中に旨すぎる話など存在しない。裏に何か意図が隠されている可能性を常に疑うべきである。

甘い話に乗りやすいのは、人が良すぎるだけが理由ではない。特に、迷いや焦りがある時は危険だ。そのような状況では、冷静な判断を欠き、安易な選択をしてしまう可能性が高い。

苦しい時こそ、他人に頼りすぎず、自力で乗り切ろうとする強い心構えを持つことが大切だ。そうした覚悟が、結果的に大きなリスクを避ける鍵となるのである。

事業経営が存在する以上、市場での戦いは避けられない。その戦争に敗れれば、会社がどうなるかは想像に難くない。それにもかかわらず、市場競争についての研究がほとんど行われていないのは、一体どうしたことなのだろうか。

だからこそ、いったん戦争を仕掛けられると、どう対応すればいいか分からず、ただ右往左往するばかりだ。殴られれば頭を抱えてうずくまり、敵の思うがままにされる。それで勝てるはずがない。完全に戦争音痴といえる。この戦争音痴から抜け出すためには、一体どうすればいいのだろうか。

「乗っとり」:巧妙な企業乗っ取りの手口とその防衛策

企業の乗っ取りは、外部からの圧力だけでなく、内部からも起こりうる脅威です。乗っ取りの手口には、資金援助や株の保有といった合法的な手段を使いつつ、経営者の弱点や隙を突く巧妙なものが多く存在します。以下に、企業が乗っ取りから自らを守るための教訓と、防衛策のポイントを解説します。


1. 典型的な乗っ取りの手口

ケース1:外部乗っ取りのシナリオ

A社の事例では、大企業B社が専属の下請け企業としてA社を利用し、徐々に資金繰りや経営を掌握していきました。B社は以下のステップでA社を乗っ取りました:

  1. 依存させる:高値発注を行い、A社を「オンリーさん」にする。
  2. 強引な値下げ要求:度重なる値下げ要求により、A社を赤字に追い込み資金繰りを困難にする。
  3. 資金援助を条件に株を取得:A社が窮状に陥ったタイミングでB社が資金援助を行い、株を取得。
  4. 役員送り込みと内情調査:B社が役員を送り込み、A社の内情を把握し、経営を掌握。
  5. 最終段階で株式操作による排除:倒産させることで債務を軽減させた後、増資と減資を行い、A社長を排除。

ケース2:内部乗っ取りのシナリオ

T社のケースでは、社内の経理担当者と弁護士が協力して代表者印を掌握し、社長に知らせず会社更生法の適用を申請しました。これにより、T社長は経営権を失いかけました。このようなケースでは、内部で信頼すべき役員が裏切りに関与する可能性があります。


2. 乗っ取り防止のための教訓と防衛策

企業が乗っ取りのリスクを減らすためには、以下のポイントを抑えることが重要です。

1. 代表者印や権限の管理

代表者印を他者に預けることは、経営権を他人に明け渡すに等しい行為です。社長は必ず代表者印を自身で管理し、重要な書類の署名権限をしっかりと自分で持ち続けることが必要です。これは、社内の乗っ取りだけでなく、外部からの圧力に対する防衛にもつながります。

2. 経営状況を常に把握する

企業の資金繰りや収益性、取引先との関係性について、経営者が詳細に把握しておくことが重要です。会計や経理を他者に任せきりにせず、定期的に経営状況をチェックし、不審な動きがないか確認することが、リスク回避につながります。

3. 自立した事業計画を持つ

取引先への依存度が高い企業は、特に乗っ取りのリスクが高まります。単一の取引先に依存せず、新規顧客を開拓し、複数の収益源を持つことで経営の安定性を保ちましょう。独自の商品を開発し、自社の価値を高めることも、依存リスクの軽減につながります。

4. うますぎる話には警戒心を持つ

「うまい話」や「共同出資の誘い」には必ずリスクがあります。迷いや焦りから他社に頼ろうとすると、そこに付け込まれる可能性が高くなります。企業を一時的に救うような甘い誘いには特に慎重になり、必要であれば外部の専門家や信頼できる顧問に相談しましょう。

5. 情報共有と社内の風通しを良くする

ワンマン経営で役員や管理職との関係が疎遠になると、内部の不満が不穏な動きにつながることがあります。定期的に管理職や役員と会話を持ち、信頼関係を築き、内部での不正や乗っ取りの温床を未然に防ぐことが重要です。


結論

企業の乗っ取りは、巧妙な手口が使われ、表面化した時には手遅れになることが多いのが特徴です。乗っ取られる側の経営者には、多くの場合、代表者印の管理や取引先への依存度といった「隙」があります。企業を守るためには、経営者自らが情報を管理し、常に経営の主導権を握ることが不可欠です。

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