まず最初に必要なのは、「穴熊社長」との決別だ。穴の中にじっと身を潜め、外の世界を入り口から見える範囲だけで捉えるような姿勢では、何も進展しない。
同時に、全力を尽くした情報収集と分析によって「敵を知る」ことから始めるべきだというのは、「孫子」を引き合いに出すまでもない明白な事実だ。
戦いに臨む際は、仕掛けられた場合であれ、自ら仕掛ける場合であれ、まずは冷静に敵を観察することが重要だ。市場での戦いというものは、どれほど激しいものであっても、三カ月や四カ月で勝敗が決することはない。
慌てる必要はない。仕掛けられた場合には、敵の意図を見極めることが肝心だ。本気で攻めてきているのか、陽動作戦なのか、偵察なのか、あるいは苦し紛れの足掻きなのかを冷静に判断するべきだ。一方で、こちらから仕掛ける場合には、入念で十分な準備が不可欠である。
戦いとは、攻めるにしても守るにしても、「敵の弱点を突く」ことが基本だ。これこそが勝利への道を切り開く鍵となる。どれほど優れた会社であろうと、どれほど巨大な企業であろうと、必ず弱点は存在する。特に、敵の攻撃が激しければ激しいほど、その背後に潜む弱点もまた大きくなる。主な弱点として考えられるものを挙げてみると、以下のような点が浮かび上がる。
- 社長が外に出ない
最大の弱点の一つ。社長が外に出ない限り、敵の状況だけでなく、自社の問題点すら把握できていない可能性が高い。 - 市場占有率が低い
競争力不足を示し、敵に付け込まれやすい。 - 業績が悪い
会社全体の信頼性や士気に影響を与える深刻な問題。 - 商品構成の偏り
リスク分散が不十分で、特定分野への依存度が高い。 - 主力商品の収益性が低い
利益率が低い商品に依存している場合、安定した成長は望めない。 - 主力商品の収益性が高い
一見強みだが、逆にここを崩されると致命的なダメージを受ける。 - 商品の品質が悪い
市場での信頼を失い、競争力が著しく低下する。 - 得意先構成の偏り、一社依存の高さ
特定の得意先に依存しすぎることで、そこが崩れると致命傷となる。 - 得意先に限界企業が多い
取引先の健全性が低いと、連鎖的に影響を受けるリスクが高まる。 - 納期・配送・クレーム対応などのサービスが悪い
顧客満足度を損ない、信頼を失う原因となる。 - 営業部門の弱体化
市場開拓力や競争力の低下を招く。 - ベテランセールスマンの多さ
経験豊富だが、個人プレーに走り、組織の作戦に従わないことが多い。 - セールスマンの定期訪問がない
顧客との関係構築や情報収集が疎かになりがち。 - 過剰投資
資本の無駄遣いや、キャッシュフロー悪化を引き起こす。 - 過剰在庫
資金繰りを圧迫し、経営の柔軟性を損なう。 - 内作中心主義
外部の優れたリソースを活用せず、効率が悪化する。
これら以外にも、多くの弱点が潜んでいる可能性がある。問題点を洗い出し、徹底的に対策を講じることが重要だ。
さらに、社長の年齢が70歳以上であれば、反撃力が乏しい可能性が高い。社長が長男であれば、「甚六」(要領が悪い)な気質を持つかもしれず、末っ子の場合は意気地が弱い可能性もある。加えて、姉が多い環境で育った場合、自主性が欠けているかどうかも注視する必要がある。
また、役員の中に社長の兄弟がいる場合、意思統一が図りにくく、内部での対立や意見の不一致が起こる可能性も考えられる。こうした家族関係や組織構造の特性も、弱点として見逃してはならない。
これらの様々な弱点をしっかりと調査した上で、「どの弱点をどう突くか」を考えることが次のステップとなる。その際に重要なのは、自分が相手の会社の社長であったと仮定し、「どの部分を突かれると一番痛手を感じるだろうか」と逆の立場で想像することだ。この視点に立つことで、最も効果的な攻撃ポイントが見えてくる。
相手の立場に立って考えることは、どのような状況においても極めて有効な思考法だ。特に、戦略を練る際には欠かせない視点となる。もちろん、本書で述べたランチェスター戦略の示唆を活用し、それを応用問題として検討することが必要であるのは言うまでもない。相手の弱点を見極めるだけでなく、その弱点を効果的に攻める方法を模索することが、戦いを制する鍵となる。
敵の弱点を突けば、敵は意外なほど脆いものだ。それは、敵といえども万全の準備を整えているわけではなく、攻め込まれた際に慌てふためくことが多いためだ。加えて、敵の作戦は幼稚で単純な場合がほとんどであり、必ずしも巧妙ではない。
だからこそ、社長自身が日々努力を怠らず、冷静かつ的確な判断を下せるよう備えることが肝要だ。これを徹底すれば、敵の攻撃は恐れるに足らず、むしろ自社の優位性を確保する好機となる。
また、別の意味で真に恐ろしいのは「乗っ取り」だ。この脅威は、ある日突然、まさに青天の霹靂のように襲いかかってくる。何も知らないうちに巧妙な罠に陥り、気がついた時には自分の会社が他人の手に渡っていた、という事態が現実に起こり得る。
乗っ取りは、一見平穏な日常の裏で密かに進行することが多く、気付いた時にはすでに打つ手がないことが少なくない。このため、日頃から警戒心を持ち、内部の動きや外部の意図を敏感に察知する能力が求められる。
それは一言で言えば、油断が原因だ。このような事態を防ぐためには、日頃から注意を怠らないことが何よりも重要だ。そして、問題が起こる前に未然に対策を講じることが必要不可欠である。
これこそ、企業の最高責任者である社長が担うべき重大な責任であり、逃れることは許されない。常に状況を把握し、先手を打つ姿勢が、企業を危機から守る鍵となる。
市場戦争に勝ち抜くための戦略と心構え
事業経営において、企業は絶えず市場戦争の渦中にあります。この戦いに敗れれば、企業の存続すら危ぶまれることもあります。しかし、市場戦争に関する研究や理解が不十分な企業が多いのも現実です。ここでは、企業がこの市場戦争で生き残り、成功するための考え方と具体的な戦略を解説します。
1. 「戦争音痴」からの脱却:企業が勝ち残るための心構え
戦争に負けないためには、まず市場での戦いの基本を理解し、戦いの方法を学ぶ必要があります。特に以下のポイントが重要です。
穴熊社長からの訣別
企業のトップが自社の殻に閉じこもり、外部の状況や市場の変化に無関心であってはなりません。企業のリーダーは積極的に外に出て情報を集め、競争相手の動向や自社の強み・弱みを正確に把握する必要があります。
情報収集と敵の観察
市場戦争の成否は、敵を知ることから始まります。特に、敵の意図や戦略を冷静に観察することで、本気の攻撃か、単なる陽動か、はたまた一時的な苦し紛れの行動なのかを見極めることが可能です。こうした情報を冷静に分析することで、慌てずに適切な対策を立てられるのです。
2. 敵の弱点を突くこと
企業にとって、競争相手を知り、その弱点を突くことは戦いに勝つための必須の戦略です。市場戦争においては、次のような弱点を見つけ出し、それに対応することで優位に立つことができます。
- 経営者が市場を把握していない:社長が現場や顧客のニーズを知らなければ、迅速で正確な意思決定ができません。
- 商品構成に偏りがある:特定の製品に収益を依存しすぎると、それが崩れたときに致命的な打撃を受けます。
- サービスが不十分:納期、クレーム対応、フォローアップが遅れれば、顧客離れを引き起こします。
- 営業力の欠如:営業部門が弱体化していると、市場シェアを拡大する力も維持する力も失われます。
- 過剰投資・過剰在庫:設備や在庫が過剰であれば、利益を圧迫する可能性が高くなります。
こうした競争相手の弱点を突くことが、市場戦争を優位に進める鍵となります。
3. ランチェスター戦略の活用
ランチェスター戦略とは、数量と資源の効率的な活用によって戦闘で優位に立つ法則であり、企業戦略としても有効です。特に「一騎打ちの法則」と「集中効果の法則」は、競争相手に勝つための有効な指針となります。
- 一騎打ちの法則:局地戦における個別の競争で勝利するための法則で、限られたリソースを集中させて、特定の相手に勝利することを目指します。
- 集中効果の法則:資源を特定の分野や地域に集中することで、効果的に市場を攻略します。
この戦略は、限られたリソースで市場シェアを確保する方法を教えてくれるものであり、弱者が強者に挑む際にも活用できます。
4. 市場戦略構想書と先頭に立つリーダーシップ
戦いにおいては、社長自らが市場戦略構想書を作成し、その実行を主導することが必要です。これにより、企業全体が統一された目標に向かって行動でき、リーダーシップが発揮されます。また、物量だけでなく、質的な要因や相手の戦略も考慮に入れた作戦を練ることが重要です。
5. 市場戦争における勝利のための心構え
市場戦争では、強い闘志だけでなく、冷静で計画的な行動が求められます。市場での勝利は、戦いの法則を理解し、情報を基に緻密な計画を立て、リーダーシップをもって行動することによって得られるものです。
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