占有率の重要性
占有率は、業界全体の総売上に対する特定の企業の売上高の割合を指す。総売上の代わりに特定の商品を基準とすれば、その商品の占有率となる。占有率が高ければ高いほど、市場での影響力や地位が強固であることを示す。この指標は企業の強さや弱さを測る基準となり、企業の存続や成長を左右する重要な要素といえる。
占有率の低下は、企業にとってリスクの増大を意味する。最悪の場合、倒産に追い込まれる可能性が高まり、そうならなくとも業界の底辺で苦境を強いられる状況に陥る。その状態から抜け出すことは容易ではなく、再び光を浴びることはほぼ不可能といえる。
売上高が増加しているからといって安心するわけにはいかない。なぜなら、競合他社の売上高の伸びが自社を上回っている場合、自社の占有率は下がることになるからだ。
この点を理解していない経営者が中小企業には多い。その典型的な例が、「対前年比売上高伸び率」といった指標を用いて、自社の業績を評価しようとする社長たちである。
こうしたデータは経理担当者や、現在ではコンピュータによって作成される。しかし、経理担当者やコンピュータのプログラマーは、事業経営の実情について何も知らない場合がほとんどだ。そのため、経営を理解していない者が作ったデータを鵜呑みにしている経営者もまた、事業経営について何も分かっていないと言わざるを得ない。
競争の実態
「競争が激しい」などと口にする経営者は多いが、では具体的にどのように競争しているのかと問えば、答えられないことがほとんどだ。実際には、競争していると言いながら、実のところ何の競争もしていないのが現実なのである。
多くの経営者は「競争が激しくて…」と口にするが、実際にどのように競争しているのかを問えば、具体的な答えは返ってこない。競争とは言葉だけで、実際には何も行動していないのが実情だ。
私がこの主張を伝えると、ある経営者は「ばかなことを言うな、死に物狂いで戦っているんだ!」と反論してきた。そこで私は、「そうですか。戦っているのなら、当然敵の情報を収集しているはずですね。それをぜひ見せていただきたい」と返す。すると、相手は「それは…」と困った顔をするばかりだ。
これまで私が支援してきた企業の中で、競争相手の情報を必死に集め、それを徹底的に分析している経営者に出会ったことは一度もない。せいぜい、三年前に興信所に依頼して作成してもらった調査報告書が棚に眠っている程度だ。
毎年興信所を通じて競合他社の情報を調べている会社などは、まだ「極上」の部類に入る。しかし、その調査結果も「興信所調査報告書綴」といったファイルに複数の企業の報告書をまとめて放り込んでいるだけで、実際には活用されていないことがほとんどだ。
これで本当に「敵と必死に戦っている」と言えるのだろうか。もし本気で戦っているのなら、敵に関する情報を徹底的に収集し、どんな些細な情報も見逃さず、整理して蓄積するはずだ。少なくとも、競合他社ごとに専用のファイルを作り、詳細に記録しておくくらいの準備は必要だろう。それを怠っていては、競争に勝つどころか、戦場に立つ資格すらないと言える。
それすら行わずに「戦い」などと口にするのは滑稽だ、と言いたいのが私の主張だ。これが中小企業における「戦い」と称されるものの実態である。実際には戦うどころか、競争に必要な準備すら整えていないのが現状だ。競争と言葉では言っていても、実際には何も行動していないのが大半なのである。
本気で戦うつもりなら、まず「己を知り、敵を知る」ことから始めなければならない。この基本は、『孫子』を持ち出すまでもなく、自明の理である。そしてその次に行うべきは、徹底的に敵の弱点を見極め、それを的確に突く戦略を立てることだ。これが真の戦いであり、生き残るための道筋となる。
敵のことも知らず、自分の会社のことすら正確に理解していない――多くの社長は、自分の会社のことはすべて把握していると思い込んでいるが、実際にはほとんど何もわかっていない。この現実を、私は何度も痛感させられてきた。彼らがしていることといえば、ただ闇雲に暗闇で刀を振り回しているだけ。それを「戦っている」と勘違いしているにすぎないのだ。これでは勝負にならないどころか、敗北は時間の問題である。
刀を振り回しても、それが敵を斬っているのか味方を斬っているのか、全くわからない状態に陥っている。私はこのような状況を「闇試合」と呼んでいる。中小企業が「戦い」と称するものは、実際にはこの程度の混乱した行動に過ぎない。戦略もなければ、目的も定まらない。その結果、敵に勝つどころか、自らの組織を傷つけてしまうことさえあるのだ。
販売戦略の欠如
敵の戦略がどのようなものなのか、我が社のテリトリーとどこで重なり、どこで重ならないのか。敵のセールスマンがどの地域にどのように配置され、具体的にどんな動きをしているのか。こうした基本的な情報に対して、社長がまったく関心を持たないケースが非常に多い。中には、自社の勢力圏の中心地に最大のライバルが配送センターを建設したにもかかわらず、それを一年間も知らなかったという呆れるような事例もある。これでは競争に勝てるはずがない。
せいぜい気にするのは、敵がどこで展示即売会を開いているのか、どこで特売をやっているのかといった表面的なことだけだ。仮にそういった情報が入ったとしても、自社がそれにどう対応するのかについて考えることは稀で、後手の対策を打ち出すだけでもまだマシなほうだ。実際には、何の対応もせず放置しているケースも珍しくない。この無策ぶりでは、競争において主導権を握るどころか、後れを取る一方だ。
敵の動向を知るどころか、自社の販売状況すら把握できていない経営者も少なくない。我が社のセールスマンをどのように動かすべきか、具体的な指示を考えたことなど一度もない。まるで「セールスマン、今日はどこまで行ったやら」と他人事のようだ。そもそも、販売活動は自分の仕事ではないと思い込んでいる節さえある。結果として、売上実績の報告を受け取って、それに対して営業責任者に文句を言うのがせいぜいの行動。これではリーダーシップも戦略も期待できない。
テレビのコマーシャルに対しては、妙に過剰な関心を持っている。どのタイミングで放送すれば効果的なのか、逆に悪影響があるのかといった判断は一切考慮されていない。これでは話にならないし、呆れるほかない。売上が振るわないにもかかわらず、どうにか会社が存続していること自体が不思議だ。ただ、よくよく考えれば競合他社も似たり寄ったりの状況なのだろう。
だからこそ、どちらも大きな差をつけることもなく、かといって倒産するわけでもなく、奇妙な形で共存し続けている。実に呑気な話だ。時折、少しばかり優れた会社が現れると、その瞬間から他社との差が一気に広がり、市場シェアを巡る熾烈な争いが始まる。競争とは結局、そんな程度のものだ、と言いたくなる。
戦いには戦いの正しい方法、すなわち原理が存在する。まずはその原理を理解し、それを土台として実戦という応用課題に取り組むのが筋というものだ。戦いである以上、敗北すれば会社が潰れる。それゆえ、会社の全力を結集する必要がある。その総指揮を執るのは当然ながら社長の役目だ。しかし、その社長自身が何も理解していないのでは、話にならないどころか、もはや論外と言える。
社長である以上、「戦い」を研究せずして勝利を収められるはずがない。この点について、まず強い自覚を持つべきだ。そして、必死になって学び、戦いに備える努力を惜しむべきではない。
世間で行われている「セールスマン教育」や「販売管理者教育」といったものは、販売戦において一定の効果を上げるためには必要かもしれない。しかし、それだけで戦いに勝利することは不可能だ。なぜなら、それらは戦いにおける技術や人を動かす方法論に過ぎず、戦略や作戦そのものではないからだ。
戦略の重要性
木下藤吉郎(後の豊臣秀吉)が短槍と長槍の比較論争で長槍有利説を唱え、試合で短槍部隊を破った逸話がある。この試合で短槍部隊は槍術に頼った一方で、藤吉郎は長槍の利点を最大限に活かし、槍隊として組織的に戦った。結果として、槍術と槍隊の戦いでは槍隊が勝利を収めた。どちらも足軽を使った以上、槍術自体は互角だった―いや、どちらも素人同然だったと言えるだろう。近代的な戦いにおいては、このように部隊をいかに使うかという作戦が勝敗を左右するのだ。
個人の技術は、勝敗を決定づける要素にはならない。会社の販売戦も同じことが言える。セールスマン個々の能力や販売管理職の力量は確かに重要ではあるが、それだけで敵を圧倒することはできない。本質的な勝敗の分かれ目となるのは、社長が掲げる販売戦略そのものだ。敵を圧倒するのも、逆に圧倒されるのも、すべてはその戦略次第なのである。
個人の技術だけでは勝敗を左右することはできない。これは会社の販売戦にも同じことが言える。セールスマンや販売管理職の能力は確かに重要だが、それだけで競合を圧倒することはできない。勝敗の分かれ道を決定づけるのは、社長が立てる販売戦略そのものだ。
この点を深く理解し、全社を挙げての販売戦を指揮できる能力を備えなければならない。
販売戦の指揮者としての社長
販売戦略が会社全体として動き出すと、それは市場戦略へと発展する。この市場戦略こそ、社長自身が絶対に身につけるべき最重要事項なのである。
セールスマンの個々の能力や営業部長の力量に頼っているだけでは、長槍に敗れた短槍論者と同じ運命をたどることになる。この教訓は、いくら強調してもしすぎることはない。販売戦の勝敗を左右するのは個々の力ではなく、全体を統率する戦略と指揮にあるのだ。
この点をさらに強調するために、もう一つの歴史的な実例を思い出してほしい。それが「長篠の戦い」だ。武田勝頼軍に包囲され、兵糧攻めに遭っていた長篠城。その際、武田軍は捕らえた鳥居強右衛門に対し、「援軍は来ない」と城内に伝えれば命を助けると持ちかけた。しかし、強右衛門は重囲を突破して援軍を要請した後、再び捕らえられる。そして処刑直前、彼は逆に「援軍来る」と叫び、城内の士気を大いに高めた。この逸話は広く知られている。
しかし注目すべきは、その後の長篠城攻めで織田信長が行った戦略だ。信長は鉄砲隊を巧みに組織し、天下に名を馳せていた武田の精鋭騎馬隊を壊滅させた。この勝利は、個々の武芸や勇猛さではなく、近代的な組織力と戦術によって成し遂げられたものであり、戦略の重要性を如実に物語っている。
長篠の戦いは、鉄砲隊による近代戦の幕開けを象徴する戦いだった。千軍万馬の騎馬隊を率いる猛将たちも、組織化された足軽隊の鉄砲の一斉射撃の前には為す術もなく、戦場を死山血河と化した。この戦いをきっかけに、武田勝頼は急速にその勢力を失い、最終的に滅亡へと追い込まれることになる。
この歴史的事例は、個々の勇猛さや技術だけでは組織的な戦略の前には抗えないことを示している。戦いにおいて重要なのは、いかに組織を動かし、戦略を駆使するかという点であり、それが勝敗を決定づけるのだ。
長篠の戦いにおける武田勝頼のように敗者となるのか、織田信長のように勝者となるのか――その選択は社長自身に委ねられている。セールスマンの個々の能力に依存し、販売戦で敗北を喫するのか、それとも、社長自らが市場戦略を練り上げ、競合を圧倒するのか。いずれの道を選ぶのか、決断の時が迫っている。
「市場戦略の核心:占有率とその真の意味」
企業の成功を左右するのは、単なる売上高の増減ではなく、占有率、つまり業界全体の売上に対する自社のシェアの拡大にある。占有率は企業の市場地位の指標であり、高ければ高いほど強い競争力を持つ。逆に、占有率が低いままだと、その企業は競争の中で「生き残り」に追われ、倒産や業界の最底辺に甘んじるリスクが増すのだ。
「戦わない」中小企業の現実
多くの中小企業の社長は、「競争が激化している」と言いながら、実際の戦略的行動を伴っていない。競争とは、単に売り込むだけではなく、情報を収集し、競合の動向を把握し、そのうえで戦う準備ができている状態を意味する。しかし多くの場合、競合情報は過去に興信所に依頼した調査報告に過ぎず、最新の状況や戦略的データを活用する意識は低い。これでは暗闇の中でただ剣を振り回すようなもので、戦っているという実感はあっても、実際に勝利を手にすることは難しい。
成功の鍵は占有率に基づく市場戦略にあり
市場戦略とは、企業が持てるリソースを集中し、特定のターゲット市場で占有率を上げるための戦略である。広範囲に手を広げ、リソースを分散させるのではなく、特定の市場に注力し、そこから知名度と販売力を確立することが、成功を導く基本だ。例えば、淡路島のような小さな市場での独占を狙い、地域内での占有率を高めることで、他の市場での勝機も見出すことが可能となる。
「長篠の戦い」に学ぶ戦略的勝利
織田信長が「長篠の戦い」で武田騎馬隊を鉄砲隊で制したように、競争においては、自社の状況に応じた戦略を選択することが勝敗を決める。市場での成功は、単に営業部門やセールスマンの力量に頼るだけでは実現しない。社長自らが市場戦略を理解し、会社全体を巻き込んで「戦う体制」を構築する必要があるのだ。
市場戦略とは、すなわち占有率を高めるための「戦い」である。
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