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限界企業でなくとも危険はある

限界企業が抱えるリスクは主に外部、つまり市場環境に起因するのに対し、限界企業ではない企業が直面するリスクは、内部、すなわち自社の組織や運営体制に存在することが多い。

市場占有率が高まり独占的な立場になると、その優位性に安住し、内部から腐敗が進むリスクが生じる。特に深刻なのは「顧客軽視」の姿勢だ。新商品や新技術の開発を怠り、顧客を顧客として尊重しなくなることで、サービスの質が低下するような状況に陥ることが最大の懸念といえる。

顧客は不満を抱えつつも、競合他社が力不足であるために選択肢が限られ、仕方なく商品やサービスを利用し続ける状況に追い込まれる。しかし、このような状態の中で、顧客の要求を的確に満たす企業が登場すれば、「待ってました」とばかりに顧客は即座に乗り換えてしまう。

限界的な企業を支援する際や新しい市場に参入しようとする場合、大手企業の弱点を徹底的に分析し、その弱点を的確に突く戦略を取るようにしている。

商品の性能や品質、配送、メンテナンス、クレーム対応といった分野で問題が発生しやすいことを把握しているからだ。そこを狙い撃ちすることで、予想以上の効果を得られることも少なくない。

大手企業にとって最も危険なのは、自らの優位性が永続すると信じ込み、環境の変化に気付けなくなることだ。その典型的な例が、武田勝頼が精鋭の騎馬隊に固執し、鉄砲の重要性を軽視して滅亡したという歴史的な失敗に見ることができる。

太平洋戦争後の三白景気の波に乗り隆盛を極めた日東化学は、硫安(硫酸アンモニウム、窒素肥料)の需要が長期にわたって安定すると過信し、低収益化への備えや代替製品の開発を怠った。その結果、空中窒素固定法による安価な硫安が市場に登場すると業績は急速に悪化し、最終的には倒産に追い込まれることとなった。

アメリカの自動車業界が世界一の地位を日本に奪われたのは、石油ショックを受けて顧客が燃費の良い車を求めていたにもかかわらず、自らの規模の大きさに安住し、目先の利益を優先して大型車に注力し続けた結果だ。小型車の開発を怠ったことで、顧客から見放される事態を招いたのである。

それを日本車のせいにするのは、逆恨みに過ぎない。さらに救いがたいのは、ガソリン価格がわずかに下がっただけで、小型車の生産から手を引き、大型車に再び注力する姿勢だ。この選択が将来的に自らの企業に跳ね返ってくる可能性を、なぜ考えようとしないのだろうか。

どれほど巨大な企業であっても、顧客に命令を下すことはできない。この基本的な事実を忘れたアメリカ自動車業界の傲慢さは、反面教師として学ぶべき教訓だ。

もう一つのリスクは、社長が非常に優れた能力を持っている場合に生じる。社長が健在である間は問題はないが、その社長が退任する、あるいは不在となったとき、企業の優位性が一気に失われる可能性がある。当面は惰性で維持されているように見えるものの、徐々に業績が悪化し、最終的には衰退の道をたどることになる。

赤井電機はその典型例だ。創業者である赤井三郎社長が築き上げた超優良企業も、社長退任後には打つ手を失い、ついには破綻に追い込まれ、最終的に三菱グループの傘下に組み込まれる結果となった。

同様のリスクを内包しているのがベンチャービジネスだ。特に、社長の能力が際立って優れている場合にその傾向が顕著であり、ベンチャー企業ではこれが一般的だ。社長個人の力で成長を遂げているため、リーダーが交代すると途端に行き詰まるケースが多い。まさに「ベンチャービジネス」という言葉が示す通りの状況である。

社長交代によって会社が揺らぐようでは、これまでの社長の苦労が無駄になりかねない。後継者を育成するために、社長自身が何をすべきかを真剣に考える必要がある。特に、社長が80歳を超えてもその職に留まり続けるようでは、後継者の成長は期待できない。

その点で、日清紡績の取り組みは模範的だ。宮島清次郎氏が社長の定年を60歳と定めたのは、実に卓越した判断と言える。社長職にある者は、この方針に学び、60歳で後進に道を譲り、自身は会長職に退いて次世代のリーダーを育成することが重要だと強く訴えたい。

第三のリスクは、マーケットの成長によって企業が限界企業化することである。石油ストーブの事例がその典型だ。当初、石油ストーブは中小企業が少量生産を手掛ける形で市場に登場し、売上が伸びるにつれて新たな中小企業が次々と参入してきた。灯油が安価だった時代には都市ガスよりも経済的であることが支持され、市場が拡大し、暖房器具として社会的な地位を確立するまでに成長を遂げた。

しかし、その瞬間、大手の家電メーカーが一斉に参入し、瞬く間に市場を掌握してしまった。これにより、初期から石油ストーブを製造していた中小企業は次々と限界企業に転落し、市場から姿を消すか、大手に吸収される運命を辿った。

結果的に、中小メーカーは自らの努力と犠牲によって市場を切り開き、その果実を大手に奪われる形となった。これほど割に合わない話はないが、これが冷酷非情な市場原理というものだ。評論家の大宅壮一氏がこれを「モルモット」と表現したのも頷ける。企業モルモットは、いつの時代にも、どの市場にも存在し続けるのである。

自社の規模では大手になることが不可能な市場において、その企業は限界企業となり、「モルモット」の役割を担わされる運命から逃れられない。この現実を、社長は十分に理解し、そのような状況に陥らないよう注意深く戦略を練る必要がある。

その判断は比較的容易だ。ポイントは、その商品が大衆消費財かどうかにある。大衆消費財には、大企業が参入してこないこともあるが、それは稀なケースと考えたほうがよい。大手が参入しない場合は、商品が極めて低収益である場合や、ファッション性が高くトレンドに左右されやすい商品である場合に限られる。

「限界企業でなくとも存在する内部リスク:成功と衰退の分岐点」

限界企業が外部リスクにさらされているのに対し、占有率を確保している企業にも内部リスクが潜んでいる。特に、占有率が高くなると、企業は自社の地位に過信し、内部から腐敗が進む危険がある。この傲慢さが、競争力低下や顧客の不満を引き起こし、他社がより良いサービスや製品を提供し始めると顧客の流出に直面する。

成功に潜む3つのリスク

  1. 顧客軽視とサービスの低下
    高い占有率を持つ企業が陥りやすいリスクは、顧客に対する無関心だ。競合がいない状況では顧客は仕方なく商品を購入するが、新しい競合が登場すればすぐに顧客は離れてしまう。武田勝頼の精鋭騎馬隊が鉄砲隊に破れたように、過去の優位に頼って進化を怠ると、あっという間に市場から姿を消してしまうのだ。
  2. 創業者依存によるリーダーシップの欠如
    優れた社長が牽引している場合、企業は成長するが、創業者が退任すると、その後継者が育たず、企業は次第に衰退していくリスクがある。赤井電機の例が典型で、創業者亡き後の経営がうまくいかず、ついには大企業の傘下に入ることになった。後継者の育成と段階的な引き継ぎは、企業の持続的な発展のために不可欠である。
  3. 市場成長による新たな競争の到来
    中小企業がある製品の市場を開拓し成長させると、大手が参入してきて市場を支配し、中小企業は限界企業へと転落する。石油ストーブ市場で中小メーカーが築いた市場が、最終的には大手メーカーによって制圧されたのがその一例である。企業は、自らの規模で成長が見込めない市場に深入りしない戦略を取る必要がある。

市場原理を理解した長期戦略が不可欠

こうしたリスクを回避し企業を存続させるためには、市場原理を深く理解し、顧客ニーズを見極め、新たな競争相手の出現に対して柔軟に対応することが重要だ。占有率が高くても決して慢心せず、日々の進化と成長を忘れないことこそが企業の存続と成功を左右する。

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