占有率を確保するための最も重要な条件は、ナンバー1の地位を築くことだ。ナンバー1のポジションを手にすれば、占有率が30%以下にとどまることはほとんどなく、40%以上に達するケースも多い。
こうなれば、市場でのリーダーシップを完全に掌握することは明白だ。よく考えてみてほしい。ナンバー2の立場では、占有率を確保するどころか、ナンバー1から強い圧力を受けることは避けられない。
「何が何でもナンバー1」、これが占有率確保において社長が絶対に忘れてはならない条件だ。それにもかかわらず、多くの中小企業の社長はナンバー1の重要性を軽視し、地域拡大や新規顧客開拓にばかり熱心だ。そして、それが売上増加の最善策だと信じ込んでいる。
これは、「現在の地域や得意先では、もうこれ以上売上を伸ばすのは無理だ」という無意識の固定観念が原因だ。そのため、現在の地域や得意先で売上を増やす可能性を真剣に検討しようともしない。この姿勢では、打開の余地がなく、救いようがない状況に陥ってしまう。
この大きな錯覚の原因は、社長自身が現場でお客様を訪問せず、実態を把握していないことにある。そして、もう一つの理由は、市場競争についての研究が全く行われていない点だ。これが、正しい戦略を見いだせない根本的な要因となっている。
新しい地域や得意先が、すでに競合他社の勢力圏内である可能性について、まるで考慮しない。このような不思議な考え方を持っているのが、多くの社長の実態だ。その結果、いつまで経っても売上が伸びるはずもない。
この点での発想の転換こそが何より重要だ。「何が何でもナンバー1になる」という強い意識こそが、占有率を確保するための絶対条件だ。ナンバー1を目指すという執念がなければ、ナンバー1の地位など到底実現できるものではない。
この執念があれば、「セールス任せ」などという愚かな選択は絶対にあり得ないはずだ。社長自身が積極的に現場へ出向き、あらゆる情報を収集し、それを徹底的に分析する姿勢が自然と身につくようになる。そして、その上で本書を参考にしながら、具体的な作戦を立てることを勧めたい。
ナンバー1を目指すためには、具体的な目標を設定することが不可欠だ。その目標として、まず以下の三つが挙げられる。
- 地域でナンバー1になる
- 商品でナンバー1になる
- 得意先でナンバー1になる
重要なのは、「どれを選ぶか」だけでなく、「どの目標を組み合わせるか」を戦略的に考えることだ。それぞれの目標が互いに補完し合う形で設定することで、より強力な成果を生み出すことが可能となる。
まず、地域でナンバー1になる可能性を検討する際には、「市場細分化」の視点が欠かせない。競合と自社の戦力を比較し、相対的に自社の戦力が上回る状態に持ち込めるように市場を細分化していく。この細分化を進めることで、勝ちやすいフィールドを見つけ出し、優位性を確保することができる。
地域全体の売上でナンバー1になれなくても問題はない。我が社の得意とする強力な商品でナンバー1を目指すことを考えればよい。商品力が突出していれば、地域全体のシェアを押し上げる原動力となり、結果として市場での存在感を高めることができる。
さらに市場を細分化すれば、「特定の得意先に対して特定の商品での納入高でナンバー1になる」という具体的な目標を立てることができる。このレベルまで細分化すれば、どんなに規模の小さな会社であっても、自社に適したナンバー1の目標を設定することが可能になる。規模に関係なく、戦略次第で勝ち筋を見つけることができるのだ。
このように、特定の得意先に対して自社の強みである商品を武器にナンバー1を実現する。その次に、別の得意先でも同じ商品でナンバー1を達成する。このプロセスを繰り返していけば、やがて特定の地域でその商品におけるナンバー1の地位を築くことができる。そして、さらに隣接する地域で同じ戦略を繰り返し展開していけば、ナンバー1の地域は徐々に拡大していき、最終的には「全国でナンバー1」の占有率を実現することが可能となる。
もう一つのアプローチとして、特定の得意先で特定の商品でナンバー1になった後、その得意先に納入する商品の品種や品目を徐々に増やしていくという方法がある。これにより、納入金額全体でナンバー1を獲得することができる。この戦略を複数の得意先に展開し、納入金額でナンバー1の得意先を次々に増やしていけば、やがて地域全体でナンバー1の地位を確立できる。そして、このプロセスをさらに広げていけば、最終的には「日本一」の地位を手にすることが可能となる。
この方法なら、特定の商品だけでナンバー1になるよりもさらに優れた結果を得られる。商品の品種や品目を拡大し、納入金額全体でのナンバー1を目指すことで、得意先との関係が強化され、収益基盤がより安定し、多角的な競争優位を築くことができる。
ここで述べた内容はあくまで考え方に過ぎず、これを実行すればすべてが順調に進み、「日本一」になれると断言しているわけではない。競合が簡単にその地位を譲るはずもなく、そこには激しい競争が待ち受けている。その競争に勝ち抜くためには、血の滲むような努力と戦略的な行動が必要だ。それがビジネスにおける本当の戦いというものだ。
その戦いをただ漫然と進めるだけでは勝利は掴めないし、「成せば成る」といった精神論に頼るだけでも結果を出すことはできない。戦いには戦いの法則が存在し、その第一の法則が「ナンバー1になること」だ。ナンバー1を目指すことこそが、競争を制し勝利を掴むための最初の条件なのである。
この目標を達成するには、市場原理に従い、それを巧みに利用することが最も賢明な方法であることを忘れてはならない。市場の動きを理解し、それに適応しながら戦略を実行することで、ナンバー1の実現に向けた道筋が開けるのだ。これこそが、競争を勝ち抜くための最善のアプローチである。
市場原理とは、数多くの実戦経験から生まれた法則であり、それを意識的に知ろうとするかどうかに関係なく、常にその影響を受けるものだ。この点については、本書でも既に述べている通りである。市場原理を理解し、活用することが、競争を有利に進めるための鍵となる。
ナンバー1を獲得するための戦略が、まさにランチェスター戦略だ。この戦略は、ランチェスターの第一法則・第二法則を実戦に応用することで成り立っている。ランチェスターの法則を簡単に言い換えると、「敵に勝る資源を特定の地域・商品・得意先に集中する」ということだ。この集中の原則を徹底することで、競争の中で優位性を確保し、目標を実現することが可能になる。
つまり、販売戦において重要なのは、会社の規模ではなく、特定の戦場での兵力の集中度だ。特定の地域や市場、商品分野で、自社の資源や労力を競合以上に集中させることで、戦いに勝利し、最終的にナンバー1の地位を確立することができる。規模に関係なく、この集中の原則が勝敗を分ける鍵となる。
つまり、販売戦の勝敗は、会社の規模の大小ではなく、特定の戦場における自社と競合の兵力量の差によって決まるということだ。どれだけ資源や戦力を効率的に集中させ、優位な状態を作り出せるかが、勝利への鍵となる。戦場ごとに兵力を適切に配置することこそが、競争で成功するための本質である。
特定の戦場において敵に勝る兵力を投入するとしても、その戦場には多くの要因が絡み合っている。そのため、まずは自社にとって最も有利に戦いを進められる条件を備えた戦場を選び、適切な作戦を立案する必要がある。その作戦を確実に推進することで、優位性を最大限に活用し、成果を上げることが可能となる。戦略的な選択と計画的な実行が成功の鍵である。
これらの作戦の中から、代表的なものを選び、次節で述べることとする。重要なのは、自社に与えられた条件や状況に基づき、どの作戦を選択し、どの作戦を組み合わせていくかを、最終的には社長自身が判断するという点だ。この決定権と責任を持つのは社長であり、その覚悟と戦略眼が勝敗を左右することを心に刻んでおかなければならない。
「ナンバーワンをつくる」とは、企業が市場でリーダーシップを握るために、特定の商品、地域、または顧客で圧倒的な存在感を持つ「陥1」、つまりトップシェアを獲得することを指す。そのためには、単にシェアを増やそうとするだけではなく、具体的な戦略と執念を持って特定の市場にリソースを集中させることが重要だ。これが占有率の確保の基本条件であり、市場のリーダーシップを手にするための最優先事項である。
ナンバーワンを目指すための戦略的ステップ
- 特定の戦場で陥1を獲得する:
- 企業はまず、細分化された市場や特定の地域でトップシェアを目指すことから始める。すべての市場でリーダーシップを取るのは難しいため、自社の強みが発揮しやすいエリアや製品に焦点を当てる。たとえば、特定の商品で地域内の得意先においてシェアを高める戦略を取る。
- 地域拡大ではなく集中:
- 多くの企業が新規顧客開拓や地域拡大に目を向けがちだが、まずは現有の地域や得意先でのシェアを確保することが優先されるべきである。無意識のうちに「既存地域での成長が限界」という誤解をしてしまうことがあるが、特定の地域や顧客でシェアを最大化する意識が重要だ。
- 継続的な目標設定と細分化:
- 特定のエリアでナンバーワンを確保したら、次は別のエリアに拡大する。その際も、最小限の範囲から始め、徐々にシェアを広げていく。地域や商品、顧客に応じて細分化された目標を設定し、継続的にシェアを高めていくことで、最終的には全国的なシェア拡大につながる。
- ランチェスター戦略の活用:
- ランチェスター戦略の第一法則・第二法則に基づき、「敵に勝る資源を特定の地域や商品、得意先に集中する」戦略が求められる。つまり、戦力を分散せず、特定のエリアに集中投入して、そこでは他社に負けない優位性を確保することが重要だ。
陥1を目指すための戦いと執念
市場でナンバーワンになるための戦いは、ただの「売上増大」ではなく、「特定の領域で確実にシェアを勝ち取ること」である。この戦いには計画的な戦略と情熱、そして市場原理への理解が不可欠だ。
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