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「県民性」 を知れ

「名古屋ほど入り込みにくい場所はない」という話は広く知られている。また、自分には「陳腐化した商品や、機能的に問題のないわけあり品は名古屋で売れ」という持論がある。東京の人間は、たとえ安くてもわけあり品を敬遠するが、名古屋の人間は機能に問題がなければ安い方を選ぶ傾向が強い。だから、商品の市場価値を見極めるには、名古屋がもっとも効率的な場となる。

名古屋に入り込みにくい理由は、名古屋の人々が閉鎖的だからというわけではない。名古屋のN社に勤めるN社長がこう言った。「一倉さん、滋賀県の人たちは閉鎖的ですね」と。それに対して、私は即座に反論した。「冗談だろう。名古屋の人間のほうがずっと閉鎖的だ」と。しかし、N社長は少し首をかしげて、「そうかなあ、私はそんなふうには思わないけど」と答えた。

「社長、御社では新聞は中日新聞、銀行は東海銀行を使っていますよね。他の新聞や銀行を選ぶことなんて考えたこともないんじゃないですか?」と尋ねてみたところ、その通りだと答えた。つまり、名古屋の人々は、そもそも名古屋以外のものを意識していない。排他的というより、むしろ意識の外にあるのだ。

「仕入れ先はどこどこの会社」と最初から決まっていて、他から買うことなど考えもしない。これが「入りにくい」と言われる所以だ。京都のK社でも、ある得意先で非常に気に入られていた工場長が名古屋工場長に転勤した際、すぐに名古屋工場に出向いて注文を取り付けようとしたが、結局どうしても注文を取ることができなかった。

同じ会社内であっても、名古屋の人間はこうした態度を崩さない。まさに名古屋人気質の真骨頂といえるだろう。さらにもうひとつ、名古屋人の興味深い一面を紹介してみよう。

岡山市のT社長が病気で入院した際、親友である名古屋のM社長は、夫妻そろって岡山まで病気見舞いに訪れた。これが名古屋人の特徴だ。他の地方では、忙しい中、夫妻そろって病気見舞いに行くことがあるだろうか。名古屋では、冠婚葬祭や火事見舞いといった人間関係を大切にする儀礼が非常に重視されている。これを怠れば、相手にされなくなるほどだ。そのため、得意先でこうした出来事が起きた場合、商売を一時中断してでも、多くの社員を派遣して手伝いに行くのである。

だからといって、名古屋に営業所を構えただけでは、簡単には商品が売れない。こうした背景を理解し、名古屋の人々に信頼されて相手にしてもらえるようになるには、最低でも三年はかかるものだ。

名古屋人のこの固い壁を打ち破る最も効果的な方法は、「お客様サービス」に徹することだ。このことを実証したのがT社である。T社が掲げた顧客第一の姿勢から生まれるサービスは、瞬く間に名古屋で実績を築き上げた。さすがの名古屋人も、T社の行き届いたサービスには脱帽せざるを得なかったのである。

また、名古屋三河地区は「ケチ」で知られている。世界第二位の自動車メーカーであるトヨタの本社ビルを訪れた人なら、その徹底した「ケチ」ぶりに驚くことだろう。この地域特有の「ケチ」の背景について、ある社長から聞いた興味深い話を紹介しよう。

この地域は長い間、天下取りを狙って京へ向かう地方豪族の軍勢と、それを迎え撃つ豪族との戦いの舞台となった。住民は度重なる戦乱の中で家を焼かれ、田畑を荒らされ、食糧を徴発されるという過酷な状況にさらされた。そのため、生き延びるために必死の自衛策を講じる必要があった。例えば、毎食の米を炊く際、盃一杯分の米を取り分けて蓄えるという方法が取られた。これが「天引き」の由来とされている。名古屋人が「ケチ」と呼ばれることも、また勤勉であることも、このような苦しい経験に根ざしているのだ。

俗に「名古屋の勤勉、大阪のソロバン、東京の政治」と言われるのは、それぞれの土地の歴史に深く根ざしているからだ。このように、地域性を表現したたとえは他にも数多く存在する。それぞれの地域が育んできた特性や文化が、こうした言葉に凝縮されているのである。

「富山県人は喰うに困ると泥棒をする。石川県人は乞食をする。福井県人は詐欺をする」というたとえは、単に悪口ではなく、それぞれの県民性を象徴的に表したものだ。富山県人のバイタリティー、石川県人のお坊ちゃん的な気質、福井県人の頭脳的な特質を暗示している。

また、四国の県民性を表すたとえとして、「まとまった臨時収入があると、高知県人は呑んでしまい、香川県人は物を買い、愛媛県人はこれを元手に商売を始め、徳島県人は貯金をする」という言葉もある。それぞれの行動が土地柄や気質をよく反映しており、こうしたたとえには地域性が如実に表れていると言えよう。

東北地方の人々が忍耐力に優れているのは、厳しい自然環境に耐え抜いてきた歴史があるからだ。一方で、千葉県人が物事に動じない性格を持つのは、漁師特有の「板子一枚下は地獄」という気質によるものだろう。漁に出て嵐に遭遇すれば、もはやどうすることもできない。「運を天に任せる」という心構えが、そうした性質を育んできたのだと思われる。

ある社長がこんな話をしてくれた。「年末の目の回るような忙しい時期でも、千葉県出身の社員は平然としているんですよ」と。これも、千葉県人特有の落ち着きと「運を天に任せる」漁師気質が表れているのだろう。

静岡県人と宮崎県人は、典型的な「ノンビリ型」だ。私がどれだけ社長に発破をかけても、まるで響かない。おそらく、温暖な気候と豊かな自然の恵みのおかげで、あくせく働く必要がなかったからだろう。この環境が、彼らののんびりとした気質を育んだのだと思われる。

「日向かぼちゃに、いもがら木刀」という言葉は、宮崎県の人々を表したものだ。このたとえによれば、宮崎の女性は「色黒だけれど、味わい深い」、つまり見た目以上に魅力があることを意味している。一方、男性については「いもがらの木刀のように頼りない」と評されており、どこか腰の弱さを指しているとされる。

このような情報は、特別に調査したわけではなく、仕事の中で自然と得られたものだ。しかし、こうした地域性や気質に関する知識が、市場戦略を立てる上で非常に役立つ。土地ごとの特性を理解することで、より的確なアプローチが可能になるからである。

「名古屋は入りにくいから後回しにする」「静岡県や宮崎県は入りやすい」「高知県は日本一の酒の消費県だから、酒の付き合いが重要」「姫路の人は勤勉なので、他所から入り込む余地が少ない」「小田原市や熊本市は城下町だったため保守的で入りにくい」といった状況判断が可能になる。城下町だった地域は保守的で入りにくく、逆に宿場町だった地域は比較的入りやすいという傾向が見て取れるのだ。

商売とは、最終的にはお客様との人間関係が成否を分けるものだ。だからこそ、お客様の考え方、習慣、心理などを深く理解し、それに合わせることが成功への近道である。この基本を知らなければ、真の商売の道は開けない。

地域ごとの「県民性」を理解することは、効果的な市場戦略を展開するために非常に重要です。各地域には独自の歴史や地理的背景があり、それが住民の価値観や購買行動に影響を与えています。以下、いくつかの地域性の例を挙げます。

名古屋

  • 名古屋人は、伝統的に保守的であるため、他地域の企業が入り込むのが難しい。
  • 商品選びには、機能が優先されるため、キズ物や陳腐化した商品でも、安価であればよく売れる傾向がある。
  • 「冠婚葬祭」や「見舞い」などの行事を重んじるため、人間関係の構築が商売に大きく影響し、地域密着のサービスが求められる。

地域別の県民性の例

  • 静岡県・宮崎県:温暖な気候の影響でのんびりした性格が多く、入りやすい市場だが、急激な変化には鈍感な傾向がある。
  • 東北地方:厳しい自然環境に耐えてきたため、忍耐力が強く、保守的な傾向がある。
  • 四国地方:高知県はお酒が好まれるため、酒の席での関係構築がビジネスに役立つ。また、香川県では物品購入、愛媛県は商売を始める、徳島県は貯蓄といった傾向がある。
  • 関西地方(京都、大阪):大阪は「商売の町」でありソロバン勘定に厳しい。また、京都や金沢などの旧城下町では保守的な性格が多く、外部企業が入りにくい。

戦略上のアプローチ

「お客様の県民性や地域性に応じた接し方やサービスを提供する」ことが、効果的な市場戦略の成功に結びつきます。歴史的背景や文化に敬意を払いながら、地域の価値観に合わせた接し方をすることが大切です。

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