蛇口作戦の重要性と成功の鍵
蛇口作戦は市場戦略における決定的な要素だ。それは「画龍点睛」のようなものだ。どんなに優れた戦略を立てても、大規模な広告費を投じても、蛇口作戦で競合に遅れを取ったら、最終的な勝利は掴めないことを理解しなければならない。蛇口作戦では、競合に対して圧倒的なリソースを投入することこそが、勝利を確固たるものにする。
その兵力とは、単にセールスマンの数を指すのではなく、特定の地域や得意先に対する訪問回数である。重要なのは、訪問回数で競合に勝ることだ。それも、単にセールスマンの訪問回数に限らず、社長や役員、管理職を含むすべての関係者の訪問回数の合計である。
社長は、目標とする占有率を達成するために、自ら蛇口作戦の方針を定め、計画を立てて指導を行うべきだ。セールスマンの自由意思に任せるようなやり方は、市場戦略を全く理解していない無能な社長に他ならない。
販売が戦いである以上、作戦計画に基づいた訪問は当然のことだ。戦場で各自が自由に行動してしまえば、それは「烏合の衆」となり、戦いが成立しないのと同じことになる。セールスマンには自由な行動は許されない。
蛇口作戦で最も重要なのは、社長自身の蛇口訪問だ。私は、会社をサポートする際、最初に社長にお願いするというよりも、むしろ強制的にその訪問を行うべきだと考えている。それこそが社長の蛇口訪問の重要性を示すものだ。
この「社長学シリーズ」で何度も繰り返し強調されているのが、社長の蛇口訪問である。それは絶対的な重要性を持っているからだ。蛇口訪問を行わない社長は、私の勧告の真意をほとんど理解できていないと言っても過言ではない。
社長が自らお客様の元を訪れず、セールスマンの報告だけに頼るようでは、お客様の要求や自社の欠点、競合の情報はごくわずかしか得られない。セールスマンは、将来の方向性や現在の問題点といった次元の高い情報を絶対に話してくれない。
前章で述べたように、セールスマンの生態については、どこで何をしているのか全く把握できていないのが現実だ。これは単なるセールスマンの行動の問題ではなく、市場戦略に重大な支障をきたしていることを理解しなければならない。
強制される形で蛇口訪問を始めたT社長は、こう述べている。「一倉さんが『社長が蛇口訪問をしないのでは、市場戦略も何も成り立たない』と言う意味が、最初は全く理解できなかった。『何を言っているのだ』という思いで、とりあえず試しに訪問を始めてみたが、実際に廻ってみて初めて、その重要性がはっきりと分かった。」
T社長は続けてこう語った。「自分が何も知らなかったということを痛感しました。『こんな状態では、うちの売上が伸びないのも当然だ』と心の底から思い知らされました」と。そうして、T社長は夢中になって蛇口訪問を続けた。そして正直なもので、売上は驚くほどの速さで上昇し始めた。その変化には、T社長自身が驚きを隠せなかったのである。
社長による蛇口訪問の一回は、セールスマンによる百回の訪問に匹敵する価値がある――いや、それ以上だ。このことを私自身、多くの社長の蛇口訪問を通じて学んできた。その意味は、単に売上が増加したり、お客様との人間関係が向上するだけではない。社長が直接訪問することで、次元の高い情報――将来の展望や市場の本質的な課題といった貴重な知見を得ることができるからである。
訪問計画と実行の要点
蛇口作戦を効果的に展開するには、明確な訪問計画が不可欠だ。ここでは、その計画の立て方について述べる。
まず、訪問対象を明確にする必要がある。特定のテリトリーや得意先をリストアップし、それぞれの重要度や影響力を評価する。この際、既存顧客と潜在顧客を分け、それぞれの訪問目的を明確にしておくことが重要だ。
次に、訪問の頻度と優先順位を決定する。重要な顧客ほど訪問頻度を高め、特に競合と接触の多い顧客には重点的なアプローチを計画する。ここで、社長や役員が直接訪問する必要がある顧客も明確にしておく。
また、訪問内容を具体的に計画する。単なる挨拶や近況確認ではなく、明確な目的を持ち、情報収集や課題解決に直結する行動を目指す。訪問後に得た情報をどのように活用するかも事前に考えておく。
最後に、訪問計画は全員で共有し、定期的に見直すことが求められる。計画の進捗や成果を検証し、必要に応じて調整を行うことで、蛇口作戦の効果を最大化できる。
訪問計画を立てる際の第一歩は、訪問先の格付けだ。この作業には「得意先別売上高ABC分析表」を活用すると効率的だ。格付けは三段階に分けて行う。
第一段階: 売上高による格付け
まず、各得意先を売上金額に応じて単純にクラス分けする。売上が高い順に並べ、次のようなランクを設定する:
- AA:最上位の得意先
- A:主要な得意先
- B:中堅の得意先
- C:小規模の得意先
- D:売上がわずかな得意先
この段階では、単純な売上金額のデータに基づいてランク分けを行い、訪問計画の基盤を構築する。この分類により、どの得意先がより注力すべき対象かが一目で分かる。
第二段階では、各得意先を個別に検討し、クラスを調整する。売上が多くても伸ばす必要がない場合は格下げ、戦略的に伸ばすべき場合は格上げする。この調整により、訪問先の優先順位が明確になる。
第三段階は、どの得意先で競合を重点的に叩くかを決める戦闘目標の設定だ。この対象には戦略記号「S」を格付けの先頭に付ける。たとえば「SAA」や「SA」などとし、重要で競争が激しい、または自社がナンバー2の得意先を特定する。こうした重要な得意先には必ず「S」を付ける必要がある。
格付けが完了したら、それに基づいて「定期訪問基準表」を作成する。この基準表により、各クラスの得意先に対する訪問頻度が明確になる。〈第什表〉がその基本的な雛型となる。
訪問回数は格付ごとに設定し、各ランクの得意先に対して社長、営業所長、担当者がそれぞれ何回訪問するかの基準を決める。この「基準」は全社的な目安であり、すべての訪問先に一律に適用するものではない。
実際の訪問回数は、市場戦略の観点から個別に検討し、必要に応じて修正する必要がある。「A」ランク以上では、その回数が十分なサービスを提供するのに適しているかを確認することが重要だ。特に「AA」ランクでは、大手得意先には毎日訪問が必要な場合もある。また、「S」では競合を意識し、必ず敵の訪問回数の二倍以上を確保することを徹底的にチェックしなければならない。
これを実行しなければ「S」をつけた意味が失われる。集中効果の法則は、この徹底した訪問計画によって初めて実現されるのだ。
大企業や官公庁のように、一社で複数の担当者に会わなければならない場合は、訪問回数ではなく「コール数」で管理する方が適切だ。一人に対して一コールと数え、全体のコール数を基準とする。そして時間的な見当として、三コールが一社一人を訪問する場合の一社分に相当するものと考える。
さらに、訪問先には得意先別ABC分析表に基づく得意先だけでなく、小売店も含まれるべきだ。問屋やスーパーの本部は重要な得意先であるものの、直接の「蛇口」ではない。蛇口の「かなめ」となるのは、実際に商品が消費者に届く現場である小売店だ。
蛇口とは、まさにこの小売店を指す。したがって、問屋やスーパーごとに定期訪問すべき店舗をリストアップしておく必要がある。スーパーでは店舗フォローの訪問が比較的スムーズに進むが、問屋の場合は状況によって難航することもある。これを考慮し、訪問計画を慎重に立てることが重要だ。
「直取引は絶対にしない」と明言し、必要であれば「誓書」を提出することで説得するしかない。それで了承を得られればよいが、必ずしもそう簡単に進むとは限らない。こうした場合、その問屋の蛇口訪問ができないのはやむを得ないことであり、無理に訪問することは絶対に避けるべきだ。
一度引き下がり、その後、適切な機会を見計らって具体的な実例を示しながら再度説得を試みるしかない。もし説得が成功しない場合、それは自社の信用がまだ十分でないことを示している。これを会社の課題として受け止め、改善への教訓とするのが正しい姿勢だ。
修正が一通り完了した段階で、1カ月間の総訪問回数を集計する(大企業などは三コールを一回と換算する)。その後、これをセールスマンの人数で割り、一人あたりの月間訪問回数を算出してみるべきだ。この数字を見たT社長は驚きながらこう言った。「これだけの訪問回数を確保しているのに、一人当たりの訪問回数はたったこれだけなのですね」と。
T社長の言葉を待つまでもなく、多くの会社で一人当たりの訪問回数が意外に少ないことが分かる。実績と比較すると、その低さに驚かされ、「今までうちのセールスマンは一体何をしていたのか」という感想が正直なところだ。
訪問回数が少なすぎると感じた場合は、この段階で訪問基準を再度修正する必要がある。訪問回数の多寡を判断する目安として、一人あたり月に200回程度が大まかな基準となる。遠距離の訪問先については、訪問可能な時間に応じて合理的に割り振ればよい。
ある会社では、一人あたりの基準を月200回としているが、最高記録は驚異的な540回に達している。この記録は、毎夜遅くまで働き、休日も休まないスタミナと闘志の塊のようなセールスマンによるものだ。もちろん、これは一般的な基準にはならないが、訪問回数の可能性を示唆する参考例としては十分である。
日産自動車販売で16年連続トップセールスを達成した奥城良治氏は、自らに「一日百軒」の訪問目標を課していた。
奥城良治氏の「年300台、一日平均1台」の売上記録は、自動車販売に伴う煩雑で時間のかかる書類作成を考慮すれば、その驚異的な成果がよく分かる。しかし、この記録は一般的な基準にはならず、訪問回数自体も直接的な参考にはならない。ただし、そこには重要な教訓が含まれている。それは、「売上を増加させるには訪問回数を増やすことが不可欠である」という普遍的な真理だ。
この法則は揺るぎないものである。信じられないなら、自社のデータを集めて確認してみるとよい。訪問回数の多いセールスマンほど、売上高が大きいことがはっきりと分かるはずだ。実際にデータを確認しなくても、帰社時刻が遅く、「よく頑張っているな」と感じるセールスマンが高い売上を上げていることに気づくだろう。
訪問回数の法則と成果
これまで数多くの実例を目にしてきた私が、訪問回数と売上高の関係にある法則が存在することに気づき、それを「訪問回数の法則」と名付けた。この法則には二つの側面がある。
第一法則
セールスマンの売上高は、過去二年間の訪問回数に比例する。
第二法則
特定の会社に対する競合会社の売上比率は、過去二年間の訪問回数の二乗に比例する。
これには「二乗法則」が含まれており、訪問回数の差が競争結果に大きな影響を与えることを示している。
この法則で特に注目すべきは、「過去二年間」という時間のスパンだ。私の経験では、訪問を続けてから約1年半後に売上が急に伸び始め、2年目には明確な実績として現れる。そして3年目には、この成果を安定して享受できる段階に入るのだ。古くから「石の上にも三年」と言われるが、この言葉が指しているのは、まさにこうした時間をかけた努力の結果だと実感させられる。
訪問を重ねることは、お客様との人間関係を深める鍵となる。訪問回数が多いという事実そのものが、セールスマンの熱意をお客様に伝え、その熱意をお客様が評価してくれるという点を忘れてはならない。だからこそ、「集中効果の法則」が成り立つのである。
集中効果の法則を戦略方針に基づいて具体的に実現するのが、この「定期訪問基準表」に基づく全社的な活動だ。この活動を成功させるためには、社長自身が自らの意図と基準表の重要性を徹底的に理解させる責任を負う。役員からセールスマンに至るまで、繰り返しの説明と説得を通じて、この方針を全社に浸透させなければならない。
特にベテランのセールスマンは、自分の長年のやり方が正しいと信じ込んでいるため、説得には時間と根気が必要だ。しかし、ここで根負けしてしまえば、市場戦略そのものが崩れてしまうことを忘れてはならない。最終的には、強制的にでも実施を求める必要がある。そして、その結果についてはすべて社長の要求に基づくものであり、責任は社長自身にあることを全員に納得させることが重要だ。
社員は常に上司から結果責任を追及されていると感じており(この構造自体が間違いであり、その責任はすべて社長にある)、そのため自分のやり方に干渉されることを極端に嫌い、方法を変えようとしない。この抵抗があるからこそ、説得には根気が必要だ。もしセールスマンを説得できなければ、市場戦略は最後の局面で崩れてしまう。この重要な事実を、常に心に留めておくべきである。
この基準表は、少なくとも三カ月ごとに見直す必要がある。実際に運用してみると、さまざまな課題や新しい発見が出てくるため、それに応じて基準表も修正を加える必要が生じる。また、基準表の見直しだけでなく、訪問先の格付けについても変更が求められる場合がある。柔軟に対応することで、戦略の精度と効果を高めることができる。
要するに、実情とその変化に応じて基準や格付を適宜修正することが重要だ。ただし、常に基準を持ち、その基準に従った活動を行うことが基本である。もし基準が実情に合わなくなった場合は、基準を修正し、修正後の基準に従って行動するのが正しい方法だ。「基準が実情に合わないから基準通りにしない」というのは、誤った考え方であり、市場戦略の失敗を招くものである。
基準を守らず各人が勝手に行動するようでは、まさに「烏合の衆」となり、統率が取れなくなる。基準通りに行動することで初めて、その基準の善し悪しが明らかになるのだ。基準の善し悪しが分からなければ、適切な修正もできない。基準を守ることは、戦略の検証と改善において不可欠な前提である。
基準が悪ければ、その通りに行動した結果、悪い成果が現れる。そして、基準が悪いという事実と、具体的にどこが悪いのかが明らかになる。悪い部分が分かれば、それをどう修正すべきかも見えてくる。このプロセスを繰り返すことで、基準は徐々に改善され、より優れたものへと進化していく。これが基準を進化させる唯一の方法である。
基準書の特記事項にある「役員・非営業管理職の訪問基準は方針書による」という項目について説明する。役員や非営業の管理職は直接営業に携わっていないからといって、お客様を訪問しなくてもよいというわけではない。むしろ、これらの人々の訪問は、会社全体としての一貫性や信頼性を示し、重要な得意先との関係を深める上で不可欠である。訪問の基準や目的が方針書に明記されているのは、その役割を明確にするためである。
H社を訪問した際、社長以下、役員や非営業部門の管理職がまったくお客様を訪問していなかった。私は、これらの人々にも積極的にお客様訪問を行わせるべきだと勧告した。お客様を訪問しない限り、お客様の真の要求を理解することは難しい。その結果、どうしても自社の都合や視点が優先されてしまいがちになる。このような状況は非常に危険であり、会社全体として市場における競争力を失いかねない。
役員会でお客様の要求が把握できていない状態では、営業担当重役の話だけを基に判断を下すことになる。その結果、偏った情報や視点に基づいて決定が行われるため、大きな誤りを犯す可能性が極めて高い。これは会社の戦略に深刻な影響を及ぼす危険な状況である。
私の勧告を受け、社長はすぐにお客様訪問を実施し、自らの認識不足を痛感した。しかし、役員のお客様訪問に関しては営業部門からクレームが出た。「役員が訪問先で大きな態度をとるため、お客様の感情を害してしまう。訪問をやめてもらいたい」という内容だった。この問題は、役員の訪問に対する姿勢や接し方が適切でないことを示しており、単に訪問をやめるのではなく、役員に対して適切な訪問マナーやお客様とのコミュニケーション方法を徹底させる必要がある。
お客様とは問屋や小売店を指すが、H社の役員や営業部門は問屋を「我社の家来」のように扱っていた。このような態度が原因となり、H社は販売不振に陥っていたのだ。問屋や小売店を軽視する姿勢は、お客様との信頼関係を損ない、市場での競争力を低下させる重大な要因となる。
それから2年後、H社長に再会した際、H社は業績を見事に回復し、さらにライバル企業との差を大幅に広げていた。役員会の様子について尋ねると、役員によるお客様訪問の効果が現れ、役員会は非常に活発で、かつ的確な意見が飛び交う場へと変貌していたという。この変化は、お客様訪問を通じて役員たちが直接得た情報や洞察が意思決定に反映された結果だと言える。
H社の基準は以下のようになっている。これは全社を挙げてお客様訪問に取り組む体制を示している:
- 製造部長:4月を除き、毎月20社以上
- 総務部長:毎月20社以上
- 経理部長:決算期の3カ月を除き、毎月10社以上
- 開発部長:毎月30社以上
このような基準の下で全社的にお客様訪問が行われている。次に取り組むべきは、具体的な訪問計画の作成である。詳細については〈第吃表〉をご確認いただきたい。
まず、訪問計画は必ず月単位で作成する必要がある。訪問基準が月単位で設定されているのと同様に、月単位が最も適切だからだ。一方で、「週間訪問予定」のような計画は問題が多い。一人一人が勝手に訪問先を決め、実際に訪問するかどうかも曖昧なリストになる場合がほとんどであり、形ばかりの計画にすぎない。それでは計画の効果が全く得られないため、論外と言える。
訪問計画における表の「格付」「訪問先」「訪問回数」は、必ず社長自身が決定しなければならない。訪問回数については、前述の通り、市場戦略に基づいて慎重に修正を加えたものである。これらを社長が直接管理することで、戦略の一貫性と効果が保証される。
日付欄に「○」印で囲まれているのは休日を示し、「××××」と記載されているのは調整日を意味する。調整日とは、訪問先をあらかじめ決めておかない日であり、予定日に訪問できなかった場合のための予備日として設定されている。これにより、計画に柔軟性を持たせ、訪問の遅れを補完するクッションとして機能する。
調整日がないと、予定日に訪問できなかった会社のフォローができず、訪問回数が不足する会社が増えてしまう。その結果、計画そのものが形骸化し、市場戦略全体が崩れてしまう危険がある。計画を確実に実行するためにも調整日は不可欠であり、一週間に1~1.5日程度設けるのが適切だ。
訪問日は定期訪問である以上、例えば月12回なら週3回、月4回なら週1回という形で計画的に設定する。また、SAランク以上の重要な得意先については、訪問の曜日を固定する必要がある。これにより、訪問先に一貫性と信頼感を与え、計画的かつ効果的な対応が可能になる。
月8回の訪問であれば、「月・木」や「火・金」といったように曜日を固定するのが望ましい。このように訪問曜日を決めておくと、先方もこちらのペースに合わせてくれることが多くなる。例えば、「明日の訪問で十分間に合うから」と調整してくれる場合や、「明後日A社のB君が来るから、この伝言を伝えておけ」というような形で、先方の対応がスムーズになることがある。このような信頼関係が、計画的な訪問の効果をさらに高める。
計画表の記入方法として、訪問計画日には計画欄に「○」印を記入する。例えば、展示会が10日と11日の2日間にわたって開催される場合、その2日間に通し線を引き、その上に「展示会」と記入すればよい。このように記入することで、予定が明確になり、他の日の訪問計画との調整がしやすくなる。
訪問計画日の記入は、毎月決められた日までに行う。初めのうちは、管理職が部下を集め、記入方法を説明してから記入させるとよい。計画記入の方法に慣れてきた段階で、担当者自身に記入を任せる形に移行する。このプロセスを通じて、計画作成が確実かつ効率的に行えるようになる。
完成した計画書は、管理職が一旦まとめて点検し、確認印を押した上で、決められた日までに社長に提出する。最初の1~2回は、社長自身が点検して印を押し、計画書を返すようにするとよい。しかし、慣れてきた段階では、必ずしも社長に提出する必要はない。以降は、管理職が責任を持って作成・管理し、計画が適切に運用されるよう監督する形に移行する。
実績の記入は、実績欄に丸印を記入し、計画欄の丸印から矢印を引いて実績欄の丸印と結ぶ。計画欄の丸印の日付が早いものから順に対応させることで、訪問実績を視覚的に整理できる。
こうすることで、1か月が終わった時に、計画欄の丸印から矢印が出ていないものがあれば、それは訪問が実施されなかったことを明確に示す。また、計画以外で訪問が発生した場合は、その訪問日に最も近い計画日の丸印から矢印を引く。この場合、一つの丸印から複数の矢印が出ることもあるが、これによって計画と実績の全体像を一貫して把握できるようになる。
蛇足ながら付け加えると、訪問の丸印は必ず実際に訪問した日に記入する必要がある。K社の例では、計画日と訪問日がすべて一致していたため不審に思い確認したところ、実際の訪問日ではなく、計画日と同じ日に丸印を記入していたという事例があった。このような誤りは計画と実績の乖離を見えなくしてしまい、データの信頼性を損なうため厳に注意が必要だ。
社員とは、この例のように、自分の判断で思わぬ間違いをすることがある人種だということを認識しておくべきだ。「こうやっているはずだ」と思い込んでいると、実際には全く別の、場合によっては計画全体を崩しかねないような間違いをしていることがある。この危険性を常に念頭に置き、明確な指示と定期的な確認を怠らないことが重要である。
ある会社で年計グラフを作成してもらった際、「左目盛と右目盛」の概念を教えたところ、右目盛の売上を右から左へ書いてしまうという、こちらが面食らうような出来事があった。このように、社員は何をやり出すかわからないものであるということを心得ておくべきだ。社長の指示を自分流に解釈し、意図とは全く異なる結果を生み出すことも珍しくない。そのため、指示は明確に具体的に伝えるとともに、進捗を適宜確認することが不可欠である。
訪問実績の報告は、週間報告として管理職に提出させる程度で十分だ。ただし、月が過ぎたら担当者ごとにファイルに綴じ込むことが重要である。「よきに計らえ」式で任せると、社員は全員分の記録を一つのファイルにまとめてしまうことも平気で行う。これでは、訪問効果の測定、個人ごとの訪問指導、次回訪問計画のチェックが非常に不便になる。個人別に管理することで、効率的な指導と計画の精度向上が可能になる。
訪問計画は、突発的な仕事や予期せぬ事態が発生するため、計画通りに進まないことが少なくない。これはある程度仕方のないことだが、適切な対策を取らなければ市場戦略の遂行に支障をきたす。こうした事態に備え、調整日を設けたり、訪問実績を迅速に見直して計画を修正する仕組みを整えることが必要である。柔軟かつ継続的な対応によって、計画の意義を失わず、戦略の実行力を保つことができる。
主要得意先への訪問回数が不安定になることは大きな問題だ。チェックを怠ると、担当者は次第に自己流の判断で行動し始め、敷居の高い訪問先や遠方の得意先を避け、手抜きをして訪問しなくなる傾向がある。このような行動は市場戦略の実行を著しく阻害するため、訪問計画と実績の綿密な確認が必要不可欠である。特に、重要な得意先には優先的に訪問させる仕組みを徹底させる必要がある。
「敵に勝る訪問回数」こそが市場戦に勝利する鍵であるにもかかわらず、これが実施されないようでは「戦い」自体が成立しない。そのため、「A」ランク以上の重要な訪問先で訪問不足が発生した場合には、翌月に優先的に訪問させる必要がある。さらに、二カ月連続で訪問不足を起こすことは絶対に避けるよう指導しなければならない。この徹底した指導と管理によって、市場戦略の実行力を維持し、競争優位を確保することが可能になる。
全員分の訪問記録を二つのファイルにまとめてしまうと、非常に不便になる。特に、訪問効果の測定を三カ月ごとに行う際には、担当者別にファイルされていたほうが圧倒的に効率的である。チェック作業は、マンツーマンで一社一社について詳細に行わなければ効果が薄くなる。このため、担当者ごとに記録を整理しておくことで、訪問の実績や課題を明確にし、より効果的な指導や計画の見直しが可能になる。
もう一つ重要なチェック方法を紹介しよう。F社長の言葉によると、「訪問実績を検討してみた結果、訪問計画を忠実に実行しているセールスマンと、そうでないセールスマンを比較してみたところ、興味深いことが分かりました。新人は計画を忠実に実行していますが、ベテランはどうもあまり計画通りに動いていません。そして驚いたことに、忠実に実行している新人の方が、売上の伸びが良かったのです」と。
この例は、計画の実行力が売上成績に直結することを示している。ベテランの独自の判断が計画の意図から外れることがあるため、計画の重要性を再確認させ、全員が忠実に取り組むように指導する必要がある。
これはK社だけの話ではなく、ほぼすべての会社で同じような現象が見られる。ここから明らかなのは、「売上は訪問回数に比例する」という法則が厳然として存在しているということだ。この法則に基づけば、社長は何が何でも「計画通り訪問を実行させる」ことを強力に推進しなければならない。市場戦略の成否は、まさにこの実行力にかかっているのだ。これこそが市場戦の「成否の鍵」である。
定期訪問を実施しないまま、いくら広告宣伝に力を注いでも、費用ばかりがかかり、その効果は限定的であることが多い。それにもかかわらず、無知な社長ほどこの事実を理解せず、「キャンペーンこそが販売促進の決め手だ」と信じ込んでいる。これはまさに「天動説」のような固定観念に囚われているようなものだ。
本当に効果的なキャンペーンを実現するには、まず敵を上回る訪問回数を確保することが前提となる。訪問を通じて得た顧客の理解と信頼があってこそ、キャンペーンの効果が最大限に発揮されるのだ。
訪問活動の管理と改善
訪問が戦いの成否の鍵を握るにもかかわらず、その実態が社長や営業所長の目の届かないところで行われているのが現実だ。さらに、訪問報告は必ずしも100%信頼できるものではなく、とりわけベテランや要領よく立ち回るセールスマンの報告の信頼性は低い。この問題に対処するためには、以下のような取り組みが考えられる:
1. 訪問のデータ化とリアルタイム管理
訪問記録を紙ベースではなく、GPSや専用アプリを活用したデジタルツールに切り替える。訪問先の位置情報や時間を記録することで、実際の訪問が確認できる仕組みを導入する。
2. 定期的な現場同行
社長や営業所長が定期的にセールスマンに同行し、訪問の実態を直接把握する。これにより、訪問の質や報告内容の整合性を検証できる。
3. 訪問先からのフィードバック
主要な訪問先から、訪問の有無や内容についてフィードバックを得る仕組みを設ける。顧客の声を直接確認することで、報告の信頼性を高める。
4. 成果と連動した評価制度
訪問回数や質を成果に直結させた評価基準を設定する。実際の行動が数値として反映される仕組みにより、虚偽や不正確な報告を抑止する。
5. 訪問計画と報告のクロスチェック
訪問計画と実績報告を定期的に突き合わせ、計画通りに実施されているかを管理職が徹底的にチェックする。このプロセスを通じて、報告の信頼性を維持する。
こうした取り組みを通じて、訪問報告の信頼性を向上させ、訪問活動が確実に市場戦略に結びつくようにすることができる。
訪問報告の信頼性を確保するためには、前章で述べた「セールスマンの生態を知れ」の方法が有効だ。具体的には、以下のような対応を行う:
- 同行訪問
定期的にセールスマンと同行し、実際の訪問の状況を直接確認する。これにより、セールスマンの行動や訪問の質を把握できる。 - 営業日報のチェック
営業日報を提出しないセールスマンや、日報の内容に不自然さが見られる場合には、その原因を突き止める。訪問実績の整合性を確認することで、問題のある行動を洗い出せる。 - 不審な点を追及する
同行や日報のチェックを通じて、明らかにおかしな点を発見した場合、そのセールスマンの行動をさらに詳しく調査し、「尻尾」を掴む。
このような方法を組み合わせて実施することで、訪問活動が計画通りに行われているかを把握し、不正確な報告や手抜き行動を防ぐことができる。
問題が発覚した際には、徹底的に叱る必要がある。場合によっては、目の玉が飛び出るほどの勢いで叱責することが効果的だ。しかし、それが難しい場合には、時間をかけてクドクドと叱るという別のアプローチを取るのも一つの方法だ。この方法では、叱られる側が「もう勘弁してほしい」と思うほどウンザリし、同じミスを繰り返さないよう意識する効果が期待できる。
どちらの方法を選ぶにせよ、叱責の目的は問題を再発させないことにある。叱り方に応じて、相手が学び、行動を改めるよう導くことが重要だ。
始末書には必ずボーナス減額という「副賞」を付けるべきだ。事前に「訪問報告や報告書に嘘があれば公表し、ボーナスを減らす」と宣言しておくことが重要である。
二回目の違反では始末書では済まさず、降格や減俸などさらに厳しい処分を課すべきだ。三回目となれば即座に解雇が必要だ。規律は徹底的に厳しくなければ、戦いに勝つことはできない。
これは決して行き過ぎではない。訪問計画が実施できなかったこと自体に責任を追及しているのではなく、「嘘をついた」という行為に対する処分だからだ。
嘘で固めた報告には何の価値もなく、有害でしかない。もしその結果、戦いに敗れて会社が倒れたとしたら、社長は世間や社員、その家族に何と弁明するのか。社長の社会的責任は極めて重い。その責任を果たすために厳格な対応を取るのは当然の行為に過ぎない。
訪問計画に基づき、各セールスマンは巡回訪問を行うが、重要な訪問先には午前中に訪問することが望ましい。これは、「大切なお得意様なので早めにお伺いしました」という姿勢を示すためだ。ただし、訪問先の地理的条件などにより計画通りに進まない場合もある。その際は、効率を考慮しつつ、できる限り午前中訪問を実現する努力が必要である。
訪問先が必ずしも理想的に配置されているわけではないが、重要なのはこの趣旨に沿って巡回計画を立てることだ。午前中訪問には、「大切なお得意様なので早めに伺いました」という意味合いが含まれる。D社のN氏も「本当にそうですね。午後の遅い時間に訪問されると、『何だ、我社は後回しか』と馬鹿にされたように感じます」と私の主張に同意していた。
工事業者や建具屋のような訪問先は特に難しい。昼間は仕事で不在が多く、朝早くでは準備中で落ち着いて話ができないことが多い。そのため、朝に訪問して「今夜の都合」を確認し、夜間に再訪問するという流れになる。いわゆる「朝駆け夜討ち」だ。確かに手間がかかるが、これを怠れば他社に売上を奪われることになる。この現実を踏まえた根気強い対応が必要である。
訪問先でセールスマンが何をするべきかについては、統一されたマニュアルが不可欠だ。これがないと、各セールスマンが独自のやり方で行動し、「個人差が大きい」という不満が出る。マニュアルは、そうした問題を解決するためのものである。
マニュアル作成自体は比較的簡単だ。まず、セールスマンを集め、訪問先で何をしているのか、どのような話をしているのかを具体的に聞き出す。その内容をまとめ、全員で検討すれば、統一されたマニュアルを作ることができる。これにより、訪問活動の質が均一化し、効率も向上する。
この場合、「セールスマンのタブー」については「販売戦略・市場戦略」篇を参照するとよい。ただし、マニュアル作成において特に注意すべき点は、業績の良いセールスマンと、成績があまり芳しくないセールスマンの発言に耳を傾けることである。
業績の良いセールスマンの発言は、成功要因を抽出するヒントになる。一方で、成績が振るわないセールスマンの発言からは、問題点や改善すべき要素が見えてくる。両者の意見をバランスよく取り入れることで、実用的かつ効果的なマニュアルを作成することができる。
業績の良いセールスマンとそうでないセールスマンのやり方を比較すると、どこが違うのかが明確に見えてくる。それと同時に、自分がこれまでどれほど軽率であったかを痛感するだろう。「こんなやり方で、よくも我社の商品が売れていたものだ」と気づかされることが多い。この反省を基に、改善策を講じることが必要だ。
セールスマンの発言内容と、社長自身が訪問先で感じたことを照らし合わせながら、マニュアルを作成することが肝要である。その具体例については、拙著「社長学シリーズ別巻三『経営マニュアル実例集』」を参考にするとよい。ここでは、マニュアルで特に重要な点をいくつか挙げてみる。
- 訪問の目的を明確化する
訪問ごとに具体的な目的を設定し、その目的に基づいた行動を取ることを徹底する。 - 話題の選定
顧客との会話内容を事前に考えておき、製品説明や課題解決の提案に焦点を当てる。 - 訪問後のフォローアップ
訪問後に具体的なアクション(提案書の提出、次回訪問の予約など)を実施することを指導する。 - 禁止事項の明確化
顧客に対する不適切な発言や行動、ルール違反など「セールスマンのタブー」を明確に記載する。
これらのポイントをマニュアルに盛り込むことで、訪問活動の質を向上させ、顧客との関係を強化することが可能となる。
訪問時に「必ず会わなければならない人」が不在の場合は、「置名刺」をしてくるのが基本だ。また、近くの人に「必ず伝えておいてください」と頼むことは、効果が薄く無駄に終わりがちである。重要なのは、訪問後に速やかに電話やメールでフォローアップを行い、次のアポイントを確実に取り付けることである。
まず、他人に頼んで伝言を託しても、相手がそれを確実に伝える保証はない。義務もないため、伝わらない可能性が高い。相手に伝わらなければ、その訪問は実質的に無駄になってしまう。このリスクをよく理解し、確実なフォローアップ手段を講じる必要がある。
特別な用件がない限り、訪問の滞在時間は5分以内に収めることが原則である。複数の人に会う場合でも、一人あたり5分以内とするのが基本だ。多くの社長の経験からも、5分あれば十分な話をすることが可能であると証明されている。この短時間で要点を伝えることが、効率的な訪問活動の鍵となる。
従来の考え方では、「いかに滞在時間を長くするか」が重視されており、そのために「セールスマンは豊富な話題を持つべきだ」とされてきた。中には「セールスマン話題集」なる書籍まで存在する。これには全く呆れるばかりである。滞在時間を無駄に長くすることは非効率であり、本来の訪問の目的から逸脱している。短時間で的確に要点を伝えることこそが、セールスマンに求められる本質的な能力である。
相手は暇を持て余してセールスマンの話を聞くために時間を割いているわけではない。多忙な業務の合間を縫って貴重な時間を割いてくれているのだ。その状況で、豊富な話題を持ち出して長々と話をするのは、相手にとって迷惑でしかない。だからこそ、訪問は短時間で要点を伝え、迅速に切り上げるのがビジネスマナーであり、エチケットである。
極端な話、「こんにちは、さようなら」だけでも訪問効果は十分に得られる。それだけで、こちらの存在感と訪問の意図は伝わるのだ。一方で、豊富な話題を持ち込んで相手の業務を妨げるような行為は、プラスどころかマイナスの影響を及ぼすだけである。訪問は簡潔かつ効率的であるべきだ。
流通業者であれば倉庫、小売店舗なら売場が訪問の現場となる。現場ではまず全体を見渡し、状況を把握することが重要だ。メーカーの場合であれば、自社の商品が実際に使われている現場を確認する。また、新しい商品やトレンドがないかを注意深くチェックし、訪問の目的に合わせた情報収集を行うべきである。この現場確認が、具体的な提案や問題解決に役立つ基盤となる。
現場で何か新しいものを見つけた場合、それが何であるか、どこのメーカーの製品かを確認する。問屋の場合は、全体の在庫量や自社商品の在庫量を把握することが重要だ。
小売店舗の売場では、次のポイントを確認し、対応する:
- 自社商品の品切れ状況をチェックし、メモして売場主任に渡すか、許可があればその場で補充を行う。
- 自社商品の陳列数を確認し、不足があれば改善を提案。
- 自社商品のフェース(陳列スペース)に他社商品が侵入している場合は、それを取り除き、フェースを整備する。
これらの活動を通じて、現場での自社商品の存在感を高め、売上向上につなげる。
現場で確認すべき重要な情報として、自社の売れ筋商品の状況が挙げられる。しかし、それ以外は、こちらの言いたいことを控え目に簡潔に伝え、短時間で済ませることを心掛けるべきだ。何よりも大切なのは、お客様が言われることをよく聞く姿勢を持つことだ。
定期的に訪問していれば、毎回新しい用件があるわけではない。そのため、特に用件がない場合は挨拶だけで済ませ、迅速に引き下がるのが最善だ。無駄に滞在せず、訪問の効率を重視することが重要である。
次に注目すべきは営業日報である。私がこれまでに見てきた営業日報の多くは、非常に不思議なものであった。というのも、それらのほとんどが営業日報の体をなしておらず、実際にはセールスマンの「労務管理日報」に過ぎないからだ。
本来の営業日報は、訪問先で得られた情報や成果、課題を具体的に記録するものであるべきだが、多くの場合、単なる行動記録や勤務状況の報告に終始している。これでは営業活動の実態を把握することも、市場戦略の検討材料とすることもできない。営業日報の本来の目的を再確認し、内容の改善を図る必要がある。
多くの営業日報では、セールスマンに以下のような細かな記録を求めている:
- 一日の行動を時間帯別に記入
- 訪問先のリスト
- 用件の詳細
- 訪問にかかった時間
- 在社時の仕事の内容
- 車の走行距離
これらを細かく書かせる形式が一般的だが、実際にはこのような労務管理的な内容に偏りすぎると、営業日報本来の目的である「営業活動の成果や課題の把握」がおろそかになる。記録の詳細さも重要だが、営業日報の中身が戦略的な改善や指導に繋がるものであるかどうかを見直す必要がある。
こんな細かい内容をセールスマンに書かせるために貴重な時間を浪費させ、一体何を得ようというのか。正直、私にはその意図が全く理解できない。セールスマンがどれほど嫌々ながら書いているかを考えたことがあるのかと問いたい。
セールスマンがこのような日報を嫌がるのは、それが無駄であると感じているからだ。時間を費やしても具体的な成果や改善に繋がらない記録を取らされることほど、士気を下げるものはない。日報は、セールスマン自身や管理者にとって有意義なものにするべきであり、無意味な労務管理に終始させてはならない。
セールスマンが営業日報を嫌がる理由は、誰もその内容を真剣に検討しないからだ。結局、いくつか判子を押されてファイルに綴じ込まれるだけで、それで終わりとなる。このような扱いをするのであれば、むしろ書かせない方がましだ。
しかし、書かせないとなると、何も報告する書類がなくなり、管理者としても困るため、仕方なく形式的に書かせているだけなのだ。こうした状況では、営業日報が形骸化し、効果的な営業管理や戦略の検討に全く役立たなくなってしまう。本来の目的を取り戻すための抜本的な見直しが必要である。
このような状況になるのは、「何を報告させるべきか」が誰にも明確に分かっていないことが原因だ。その根本的な理由は、販売というものの本質を理解していないことにある。
販売は、単に行動を記録するだけではなく、顧客との接点で得られる情報や課題を把握し、次の行動に活かすことが重要だ。しかし、それが理解されていないため、営業日報が形だけの「労務管理」のツールになり下がってしまう。販売活動の目的と本質を再確認し、それに基づいて報告内容を設計する必要がある。
販売は外部活動であり、営業報告とはその活動を通じて得られた外部情報を報告するものである。これほど当たり前のことはない。営業報告は、単なる行動記録ではなく、外部からの情報収集とその共有を目的とすべきだ。その具体例が〈第市表〉のような形式となる。
営業報告に含めるべき情報の例としては:
- 顧客の要望や不満点
- 競合他社の動向
- 新しい市場動向やトレンド
- 訪問先で得た具体的な成果や課題
これらの情報を的確に収集・分析することで、営業活動が単なるルーティンではなく、戦略的に活用できるものとなる。
営業報告で重視すべき内容は、以下の三つに分類される:
- お客様から得られた情報
- 顧客の要望、意見、不満点
- 現在の購買状況やニーズの変化
- 取引に関する具体的な課題や改善点
- 競合会社の情報(敵状)
- 競合商品の動向や販売状況
- プロモーションや価格競争の状況
- 顧客が競合に抱く印象や選択理由
- セールスマン自身の意見
- 訪問活動を通じて感じた課題や提案
- 顧客や市場への具体的な提案
- 今後の戦略に活かせる気づきや考え
これらの情報を集約することで、単なる行動記録ではなく、顧客理解や競争力強化に繋がる営業報告となる。
セールスマンがどこを訪問したかは、既に訪問計画表で報告されている。また、「何をやったか」を詳細に報告させても意義が薄いため、その記録は不要だ。注文を受けた場合には、別途「受注報告書」や「出荷依頼票」などが発行されるため、それも日報に記載する必要はない。
このように整理すると、営業日報はより簡潔で実用的なものとなり、具体的には〈第氾表〉のような形式に落ち着く。これにより、営業日報が本来の目的である「情報共有と戦略活用」にフォーカスした効果的なツールとなる。
営業日報にセールスマンの意見を明確に記載させる理由は、これがないと外部情報の記録に個人の意見が混ざり込む危険があるからだ。外部情報に意見が含まれると、情報が歪められ、正確な判断ができなくなる。同時に、セールスマンの意見そのものも曖昧になり、適切な評価や活用が困難になる。
意見は意見として独立した項目に記載させることで、外部情報と切り離し、どちらも正確に把握できるようにすることが重要である。これにより、報告がより実用的かつ信頼性の高いものとなる。
この営業報告書は、本来であれば社長がすべて目を通すのが理想だが、大企業ではそれが難しいため、営業管理職がまず確認する体制を取るとよい。社長への報告については、以下のように指示を明確にしておくと効率的だ:
- 「この種類の情報は即日報告」
- 「このような情報は全員分をまとめ、週1回、社長の出社日に報告」
これらの方針を営業管理職に伝えた上で、必要だと感じた場合に限り、社長が個別の日報を直接確認すれば十分である。この仕組みにより、重要な情報は確実に社長に届きつつ、効率的な情報管理が可能になる。
このような営業日報を確認すると、セールスマンの情報収集力がいかに低いかが明らかになる。社長が自らお客様訪問で得た情報と比較すると、その内容の深さや質があまりにも次元の違うものであることが分かる。
これは、セールスマンが表面的な情報にとどまり、顧客の本音や競合状況の核心に迫れていないことを示している。情報収集力を向上させるためには、訪問時に何を聞き、どのように情報を引き出すかについて、明確な指導と訓練が必要である。
セールスマンの情報収集力の低さは、能力や努力の問題ではなく、そもそもセールスマンに次元の高い情報を期待すること自体が間違いなのだ。お客様は、セールスマンに対して高度な情報を提供する理由がなく、その役割も求めていない。
一方で、社長が直接訪問することで、お客様は信頼感を持ち、次元の高い情報や市場の本質的な課題を提供してくれる。これが、セールスマンには得られない情報を入手するために、社長自らが訪問を行う必要がある最大の理由であり、社長訪問の絶対的な意義である。
販売促進活動の戦略的活用
蛇口定期巡回訪問を行いながら、並行して各種の販売促進活動を展開することが重要だ。具体的には以下のような取り組みが挙げられる:
- 広告宣伝:商品やブランドの認知度を高め、顧客を引き寄せる。
- 見本市・展示会:商品を直接顧客に見せる機会を作り、新規取引先の開拓に繋げる。
- 特売:期間限定で価格を引き下げ、購買意欲を喚起する。
- マネキン(店頭販売員):売場で商品をアピールし、顧客との接点を増やす。
- 試食:商品を実際に試してもらい、購買に結びつける。
これらの活動は、それぞれが独立しているのではなく、定期訪問で得た情報や顧客のニーズに基づいて計画・実施することで相乗効果を発揮する。訪問活動と販売促進を有機的に組み合わせることが成功の鍵となる。
これらの販売促進活動については、前掲の「販売戦略・市場戦略」篇を参考にしていただくとして、特に重要なのは、こちらから積極的に「販売促進企画」を提案することだ。
顧客任せにするのではなく、自社の立場から市場や顧客ニーズを分析し、具体的で実現可能な企画を提示することで、顧客の信頼を得るだけでなく、販売活動全体をリードすることができる。この積極性が、他社との差別化を生むポイントであり、長期的な信頼関係の構築に繋がる。
これらの販売促進企画では、内容だけでなく販売目標を明示することが重要だ。目標を明示することで、相手に与える印象が強まるだけでなく、自社としても責任を持って取り組む姿勢が生まれる。
目標を掲げることで、こちらも無責任な態度ではいられなくなり、否応なく真剣に取り組む必要が出てくる。こうした自己動機づけの仕組みを作ることが、成功の鍵となる。目標を設定し、それを実現するための行動計画を具体化することで、販売促進企画の効果を最大限に高めることができる。
以上のような活動は、自社だけでなく競合他社も行っていることを忘れてはならない。常に他社の動向に注意を払い、情報を収集することが必要だ。特に、展示会や即売会といったイベントは、先手を取ることで有利に展開できる。
競合がどのような販売促進を行っているのかを把握し、それに対応するだけでなく、可能であれば一歩先を行く企画を立案・実行する。競争の中で優位に立つには、迅速な行動と柔軟な対応が不可欠である。情報戦で負けないことが市場戦略成功の鍵となる。
販売促進の内容は、必ず競合に真似される可能性がある。そのため、他社の模倣に後れを取らないことが重要だ。同時に、常に独自の特色を打ち出すことが必要であるのは言うまでもない。
さらに、メーカーと問屋の共催や、問屋と小売店の共同作戦など、関係者との協力を強化することで、他社にはない価値を生み出し、市場での競争力を高めることができる。これらの協力体制を築くことは、販売促進活動を成功させるための重要な要素となる。
価格戦争は、すべての販売活動に大きな影響を及ぼし、関係者にとって頭の痛い問題である(詳細については「価格戦争」で後述する)。しかし、価格戦争では感情的に流されることなく、冷静に事態を見極めた者が勝者となる。この冷静さが、最終的に正しい判断と効果的な対応を生むことを忘れてはならない。
繰り返しになるが、蛇口作戦こそが市場戦略の最後の「決め手」である。この重要性を肝に銘じ、根気強く、粘り強く推進することが、競争に打ち勝ち、成功を手にする唯一の道である。市場での勝利は、この戦略を徹底的に実行する努力によって初めて実現する。
蛇口作戦は、市場戦略を成功させる上での決定的な手段であり、「戦略の最後の決め手」です。この戦略において重要なのは、営業活動の「訪問回数」であり、それを社長以下すべての関係者が戦略的に実行することです。以下に、蛇口作戦を効果的に行うための具体的な手順をまとめます。
1. 訪問回数の重要性
- 勝利を確実にするためには、敵よりも多くの訪問回数を確保することが不可欠です。これは単なる営業マンの訪問数だけではなく、社長や役員、管理職も含めた訪問の総回数です。
- 訪問の頻度が重要な理由は、顧客から次元の高い情報(将来的な課題や市場動向)を直接得るためです。報告書だけではわからない、現場での直接の声を得ることができます。
2. 社長の訪問が持つ力
- 社長の訪問は、営業マンの何十倍もの効果を持ち、顧客との信頼関係を深め、重要な情報を得る機会を生み出します。
- 訪問することで、自社製品の課題や競合の動向を把握し、市場での適切な対応を行うことが可能になります。これによって、顧客は「この会社の社長が直接来てくれる」という特別な信頼を持つようになります。
3. 訪問計画と訪問基準の設定
- 訪問計画は「定期訪問基準表」に基づいて月単位で作成し、全社の戦略として訪問回数を確定させます。訪問先の売上高に応じて「Aランク」「Bランク」などの格付けを行い、各ランクに応じた訪問頻度を設定します。
- 戦略的な得意先には、競合の2倍以上の訪問回数を確保するなど、集中効果を狙った戦略的な訪問が必要です。
4. 訪問の具体的手順
- 訪問回数と時間:訪問は、午前中に優先顧客を訪問するのが理想です。顧客に「重要な存在として早くに訪問している」という印象を与えます。
- 滞在時間:原則として、特別な理由がない限り5分以内に要点を伝え、長居せずに訪問を終えるのがマナーです。
- 訪問先の調査:現場を訪問した際には、陳列状況や競合商品を観察し、自社の強みと改善点を把握します。
5. 訪問実績の確認と修正
- 訪問実績は毎月確認し、訪問回数が不足している顧客には次の月に優先的に訪問します。これによって、蛇口作戦の継続的な実施が保証されます。
- 訪問基準や訪問先の格付けは、3か月ごとに見直し、状況に応じた修正を加えます。
6. 社内マニュアルの作成と教育
- 訪問時の基本的な行動や話す内容について、セールスマンの経験や社長の知見を基にマニュアルを作成します。これにより、営業担当者の個人差を少なくし、統一的なサービスを提供します。
7. 情報収集の徹底
- 営業日報には、顧客の情報や競合の動向、セールスマン自身の意見を記入し、社長または管理職が定期的にチェックします。この報告によって、現場での問題点や市場の変化に迅速に対応することができます。
8. 定期的な販売促進企画
- 定期的な販売促進活動(展示会、キャンペーンなど)も蛇口作戦の一部として計画します。特に競合に先駆けた販売促進活動は、市場シェアの確保に大きく寄与します。
以上のように、蛇口作戦を徹底することは、最終的な市場シェアの確保に大きく貢献します。この戦略を根気よく推進し続けることが、勝利への道を確実にするのです。
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