T社は問屋業を営んでおり、社長の頭を悩ませていたのは、売掛金の膨れ上がりだった。問屋間の競争が激化する中、セールスマンたちは小型トラックに商品を積み込み、ドライバー兼営業マンとして活動していた。小売店の店主が店頭で客の対応をしているタイミングを見計らい、話を持ちかけて商談をまとめ、商品を卸して納品書を発行するという流れで業務を行っていた。
売掛金を請求しても、「今日は忙しい」や「都合が悪いから二、三日待ってほしい」といった言い訳をされると、強く迫ることは難しい。無理に要求すれば、「もう来なくていい」と取引を切られる恐れがあるからだ。
一方で、セールスマン自身はノルマを課されているため、一軒でも多く回らなければならない。結果として、「では、次回お願いします」といった具合にその場を切り上げるしかなくなり、回収が後回しになりがちだ。その積み重ねで売掛金はどんどん増えていく。
経理担当者が何度も文句を言っても、セールスマンには鬱陶しがられるばかりで効果がない。「何か良い方法はないのか」と言われても、そんな都合の良い解決策があるわけもないのが現実だ。
例にもれず資金繰表が存在しなかったため、まずは6カ月分の資金繰表を作成し、月ごとの不足金額と売掛金残高を明確にした。不足する資金は、ひとまず借入金で補うという仮定を設定。その上で、もし売掛金を回収できれば、それだけ借入金を減らせると説明した。売掛金の総額は、月商の約3倍にも達していたのだ。
次に当月の資金繰表を作成した。そして、セールスマンたちにこう伝えるよう指示した。「20日にはこれだけの手形を決済しなければならないが、当座預金の残高はこれしかない。さらに、25日には給料支払いでこれだけの資金が必要だが、それをまかなう金がない。その一方で、売掛金はこれほど多く溜まっている。だから、利益が出ていても資金繰りが厳しいのだ。」いわゆる「勘定合って銭足らず」の状況を詳しく説明し、回収への取り組みを促すように、と。
しかし、その結果を待つまでもなく、社長自らが得意先を回り始め、集金に奔走することになった。
T社が抱える「売掛金の過剰」は、問屋業においてよく見られる問題であり、競争の激しい市場環境で顧客に強く請求できない状況が生んだものだ。セールスマンたちは、ノルマに追われ、商品を納品する際に売掛金の回収を後回しにしてしまいがちだ。こうして売掛金がたまっていくと、資金繰りが圧迫され、経営に悪影響を及ぼす。
資金繰りの改善には、まず現状の把握が不可欠だ。T社の場合、社長と経理担当者で資金繰り表を作成し、月ごとの資金不足額や売掛金の残高を具体的に数値化することで、資金不足の全体像が明らかになった。この結果、売掛金の回収がスムーズに進めば、それだけ借入金が少なく済むことをセールスマンにも説明できるようになった。
実際の回収行動を促進するために、手形の支払日や給料日など具体的な資金の不足状況をセールスマンに示すことで、売掛金回収の重要性を実感させた。そして、勘定上では利益が出ていても、現金が足りない「勘定合って銭足らず」の状況を丁寧に説明し、回収への意識を高める試みが行われた。
最終的には、社長自らが集金活動を開始し、得意先を回ることで売掛金の回収を加速させた。このように、資金繰りの見える化と、経営トップの積極的な関与が、売掛金回収の成功に繋がる鍵となる。
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