K製作所では、5年計画を策定している。取締役のM氏は、「先のことはわからないから経営計画を立てるのは無駄だ」と考える経営者もいるが、それは間違っていると話す。
例えば、我が社の場合、長期的な賃金の統計を取りグラフ化してみると、ほぼ一定の割合で上昇していることがわかる。売上や収益とは大きな関連が見られない。このデータだけでも、5年後の賃金をかなりの精度で予測することが可能だ。
賃金に対する諸経費の割合も大きく変動することはない。つまり、会社内部の費用構造は把握できるということだ。不確定なのは外部の状況や収益の動向だ。たとえ外部環境がどう変わろうとも、増え続ける賃金や経費をカバーし、その上で利益を確保しなければ会社は存続できない。
「うちではまず5年後の予測を立て、それに自社の事業計画を組み合わせて経営計画を策定している」とM氏は語る。結局のところ、不確実なのは企業の「将来の収益」であり、「将来の支出」は比較的見通しが立つものだ。そうであるなら、どのような状況になろうとも、「将来の支出プラス必要利益」を確保することが絶対条件となる。
何があっても、計画通りに実行することが絶対に必要だ。それができなければ、会社は存続の危機に陥るという認識を持つことが重要だ。だからこそ、もし計画通りに進まない状況が発生すれば、それは重大な問題となる。問題は、計画と実績の間に生じるギャップにある。この重大な課題を、具体的な数値を用いて経営者に提示する仕組みが必要なのだ。
計画と実績の差が持つ意味を理解せず、「計画と現実がかけ離れすぎていて実現不可能だから、計画を変更しよう」と安易に考える人は少なくない。これを「計画どおり病」と呼ぶ。計画通りに進めばそれでいいと思い込む能天気な発想だ。しかし、こうした考えに陥ると、結果的に会社そのものが能天気で脆弱な存在になってしまう。
企業が直面する問題の本質は、計画と実績の間に生じる差にある。この差が大きければ大きいほど、その企業が抱える課題も深刻であることを示している。言い換えれば、その差が企業の「倒産リスク」を増大させる指標となるのだ。
その危険の本質を覆い隠してしまうのが、計画を変更して実績に近づける行為だ。見かけ上、差が小さくなるために問題が解消されたように見える。しかし、これこそ「危険を見えなくする危険」であり、問題を根本から解決するどころか、むしろ隠蔽して事態を悪化させる可能性をはらんでいる。
「計画通りに進まなかった原因は、努力不足や考えの甘さにある」という認識を持つべきだ。そして、どんな手を尽くしてでも、この未達成を挽回しなければならない。この姿勢が欠ければ、会社を自らの手で破綻に追い込むことになる。
「計画どおり病」は、計画が現実と異なった際に、その差を埋めようと計画そのものを修正し、実績に合わせようとする経営者に見られる姿勢です。こうしたアプローチは、現実の経営課題から目を背け、企業の危険度を見えなくしてしまいます。真の経営計画とは、「こうしなければ生き残れない」という企業の存続条件そのものであり、経営者の決意が込められているものです。計画が単なる飾りではなく、実現するために全力を尽くすべき指針なのです。
K製作所のように、5年後の賃金や経費の増加を予測し、その確保のために事業計画を組み込むことで、計画が具体的な経営の道しるべとなります。計画が現実と大きく乖離した場合、その差を単に修正するのではなく、「なぜ達成できなかったのか」「どの部分に改善が必要か」という課題として認識し、対策を講じることが重要です。もし計画と実績に大きな差があるならば、それは企業の危機を意味しており、この差を埋める努力こそが企業の成長を支えます。
経営計画が達成されなかった場合、その差は危機の兆候です。こうした問題を正面から受け止め、計画に対する努力や考え方を見直すことで、企業は現実的な成長を遂げることができるのです。
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