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市場の分析から企業の方向を決める

L社を支援した際のことだ。社長と直接会い、会社の現状について話を聞いた。この会社は独自の製品を持ち、驚異的な市場占有率90%を誇っている。

最近、経営合理化を目的にコンサルタントの診断を受けた。その結果、問題点として指摘されたのは人間関係の悪さだ。人間関係が改善されなければ企業の成長は望めないとのことだった。そして、その根本的な原因は、職責と権限の曖昧さ、不合理な賃金制度にあるとされた。

そこで、そのコンサルタントに依頼し、組織管理制度を整備し、賃金制度を成果配分方式に改めた。しかし、その新しい賃金制度がかえって混乱を招き、状況が悪化して困っているという話だった。

とにかく経営計画を見せてもらえないかと尋ねると、そもそも存在しないという。経営計画がなければ、組織の改善も人間関係の向上も絵空事に過ぎない。

「経営計画がなければ、あなたの会社がどこへ向かおうとしているのか全く見えないではないか。行き先を決めずに馬車を走らせるようなものだ。どれだけ馬車を整備しようが(組織を整えたり賃金制度を改訂したりしても)、目的地が定まらないのでは全く意味がない。」

「まず、会社の行き先を明確に定め、そのうえで障害を見つけ出し、それを取り除くことが経営者の本来の役割だ。それを怠ったまま内部管理の手法にばかり走るのは本末転倒だ。」と、歯に衣着せぬ言葉で直言した。だからこそ、いつも「一倉は口が悪い」と言われるのだ。

とはいえ、現実に混乱している賃金制度を放置するわけにはいかず、まずそれを整理することにした。結局のところ、ラッカープランとスキャンロンプランを無理やりつなぎ合わせた、まるで木に竹を継ぐような仕組みだったのだ。混乱が起きないほうが不思議なくらいだ。そこで、とりあえずラッカー方式に統一し、混乱を収めることに成功した。

余談だが、賃金制度についての悩みを相談されることは少なくない。それらの多くは、現実を無視した観念的な理論に基づく制度であったり、人事考課とも業績評価とも言えない曖昧な評定制度と結びついていることが多い。そこには賃金の専門家の意図は反映されていても、経営者自身の意図や視点がどこかに置き去りにされている場合が非常に多いのだ。

本来あるべき賃金制度とは、経営者の経営理念に根ざし、その意図が反映されたものでなければならない。それが欠けている限り、どれほど形式が整い、合理的に見えたとしても、その賃金制度は実質的に機能しておらず、いわば死んでいると言ってよい。

財務分析を行った結果、収益性は高いものの成長率が低く、特に直近の一年半は売上が完全に横ばい状態であることが売上年計表から明らかになった。人間関係が悪化しているとされた問題も、実はこの低成長性こそが根本的な原因だったのだ。

不平を抱える従業員の中心は、10年以上勤めてもいまだに役職に就けない者たちだった。この根本原因を見過ごしたまま、人間関係のテクニックを駆使しようが、責任や権限、賃金制度をいじろうが、問題は決して解決しない。

この問題点を社長と常務に理解してもらった上で、まず短期経営計画を策定した。前年対比で売上10%増を目標とし、これでもL社にとっては画期的な高成長目標だった。次に着手したのは長期経営計画だ。その基盤となる市場の状況を徹底的に調査し、重点的に研究を進めていった。

L社の製品は生産財に分類される。しかし、この製品で作られる消費財が著しく生産過剰の状態にあるため、通産省が設備、つまりL社製品に対して法的な規制をかけている。これが売上が頭打ちになっている主要な原因だ。この状況では、どれだけ努力しても抜本的な改善は難しい。仮に将来、この規制が撤廃されたとしても、大幅な成長を期待するのは現実的ではないだろう。

事態を打開するには、新たな製品分野を開拓する以外に道はない。さまざまな検討を重ねる中で、最近になって大型の特注品の需要が増加していることがわかってきた。この動向が、新しい展開の可能性を示唆している。

これらの特注品は生産財の加工用として需要が増えており、その生産財自体が今後大きく成長すると予測されている。航空産業、宇宙産業、オートメーション機械といった分野で、この特注品がますます利用されるのは間違いない。現時点では生産財用の市場規模は小さいものの、将来的な成長の可能性は非常に大きい。こうした状況を踏まえ、L社が取るべき行動は明らかだ。この有望な分野に積極的に進出し、先手を打つ戦略を構築する必要がある。

社長は、小型の消費財生産機械を主軸とする従来の方針から、大型の生産財生産機械を中心に据える方向へ舵を切る決断を下した。これによって、L社の戦略の基本方針が明確に決定されたのである。

次に求められたのは、この方向転換を実現するための具体的な長期方針だった。営業体制をどのように整備するのか、技術部門にはどのような新技術や設計能力の強化が必要なのか、製造部門の体制をどう変革すべきかといった課題が議論された。それらに加えて、長期的な視点で必要な人材をどのように確保していくかといった要員計画も検討され、次々と方針が固まっていった。

その過程で、長年の課題であった定年退職者の処遇についても解決策が見いだされた。新たに別会社を設立し、退職者をそこで受け入れると同時に、彼らに慣れ親しんだ小型機械の製造を任せるという一石二鳥の方策が決定されたのである。この施策により、退職者の豊富な経験を活用しつつ、本社は大型機械への転換に専念できる体制が整うこととなった。

定年退職者の生活保障を図ると同時に、会社の戦略を推進するため、小型機械の製造を別会社に移管する方針が固まった。これにより、退職者の経験と技能を活かしつつ、本社は大型機械生産に専念する体制を整えることが可能となる。この移行は、社員の生活と企業の成長を両立させる合理的な解決策となった。

L社の事例は、企業が市場の変化に合わせて方向性を定め、戦略を打ち立てる重要性を示しています。L社は市場占有率が90%にも達し、経営合理化や人間関係改善のためにコンサルティングを依頼しましたが、根本的な問題は市場成長の停滞にありました。売上が横ばいであることが従業員の不満を増幅させていたにもかかわらず、内部の組織管理や賃金制度のみの改善では解決が難しかったのです。

L社は、市場の需要を分析する中で、消費財分野の生産機械では今後の成長が難しい一方、航空産業や宇宙産業向けの大型特注品の需要が伸びる兆しを見出しました。これを受け、社長は従来の小型消費財生産機械から、大型生産財生産機械への戦略転換を決意。市場の変化に応じた製品分野のシフトが企業成長の鍵となることを再確認しました。

この方向転換を実現するために、営業の強化や技術開発の充実、製造ラインの再編、長期的な要員確保の計画を整えました。さらに、従来の小型機械製造のために新たな別会社を設立し、定年退職者を吸収する形で、生活の保障と企業の成長戦略を両立させる方策を決めたのです。

市場の分析から適切な方向性を決定し、経営資源を戦略的に再配分することで、企業は環境変化に対応し続けることができます。この事例は、経営計画が単なる内部管理ではなく、企業の存続と成長を支える重要な基盤であることを強調しています。

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