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この次は俺の番だ

L社は、約20のガソリンスタンドを運営する石油販売会社だ。同社は所属する石油元売業者の系列内で、売上高では最近トップ10に入るレベルだが、収益面ではおそらくトップを占めていると考えられる。

さらに、驚異的な成長力を持ち、あと2〜3年でトップ5入りを果たし、その後さらに2〜3年でトップ3に食い込む可能性が高いと見られている。

地方都市に位置しているため、1給油所あたりの自動車保有台数は東京に比べてはるかに少ない。それにもかかわらず、1給油所あたりの売上高は東京のそれを上回っている。

この業界は労働条件が厳しいため、一般的には従業員の定着率が低い。しかし、L社は非常に高い定着率を維持している。急成長中の会社でありながら、常に人員を増やしているものの、専任のスカウト担当がいるわけでもなく、特別な募集活動を行っているわけでもない。

総務課長によれば、「必要なときに新聞で募集広告を出すだけで、だいたい人員は揃いますよ」と、まるで当たり前のように語る。一方、社長は「充分とは言えないが、特別に人手が足りなくて困ることもない」と話している。この状況は驚くべきものであり、その秘訣が何なのか気になるところだ。

社長によれば、その理由は「高賃金」にあるという。「他社はなるべく賃金を抑えようとし、世間の相場を見ながら仕方なくベースアップをしているが、そんなやり方では社員が定着するわけがない。うちは常に世間より一歩先んじて昇給を行っている」と語る。

これが高い定着率の理由だと考えられる。ただし、実際のところ、他社に先んじた昇給を続けるのは簡単なことではない。常に現状維持では赤字に転落しかねないという危機感がある。現状に満足せず、新たな工夫や改善を積み重ねることが求められるのだろう。

しかし、社長の話では「厳しい要求をせざるを得ないのも事実です。これまで以上に高い目標を社員に課すようになり、年々その要求は厳しくなっています。それでも、社員たちはよく応えてくれている。むしろ、私の要求が厳しくなるほど定着率は上がっているのです」とのことだ。確かに、社長が掲げる売上目標は非常に高いものだが、その目標が社員たちのモチベーションを引き出し、結果として定着率の向上にもつながっているようだ。

社長の話は、定着率が高い理由の一つを示しているに過ぎない。それがすべてではない。実際、高賃金を掲げる会社をいくつも知っているが、それだけで必ずしも定着率が高いわけではないのだ。私が考える真の理由は、別のところにあるように思える。

その理由は、社長が常に未来を語り続けている点にあるのではないかと思う。私が社長と話をしていると、話題の大半は自社の未来についてだ。「労務管理の基本はトップのビジョンにある」というS精密の専務の考えと、まさに一致する。社員にとって、明確な未来像を示されることがモチベーションとなり、会社への信頼と定着率の向上につながっているのだろう。

未来を語るだけではなく、語ったことが着実に実行に移されていく。それが社員たちに信頼感を与え、懸命に働く原動力となっている。そして、もう一つの大きな要因が、「楽しみ」が手の届くところに用意されていることだ。それが給油所長というポストだ。明確な目標と実現可能な未来があることで、社員たちは自分の努力が報われると確信し、前向きに働き続けるのだろう。

今年は新たに3カ所の給油所が設立される予定で、その場所や責任者についても社員は詳しく把握している。「どことどこ、そしてどこに新設されるのか」、「その責任者には誰が就任するのか」といった具体的な情報が共有されているのだ。さらに、来年は4カ所の新設が予定され、その場所についても「どこそこである」と社員に明確に示されている。こうした具体的な計画と情報の透明性が、社員の信頼とモチベーションを高めている。

社員たちは心の中で、「自分はいつ頃給油所長になれるだろうか。努力次第ではもっと早くそのポジションに就けるかもしれない」と考えている。そして、所長になった際には恥ずかしくない成果を出さなければならないというプレッシャーと同時に、今からその準備をしておこうという強い意識を持っている。高い給与に加え、将来の明確な目標と楽しみが用意されていることで、勤労意欲が高まり、定着率が低下する理由が見当たらない。これこそがL社の強みだと言える。

L社が石油業界で成長を続け、従業員の定着性を維持している秘訣は、単に高賃金を提供するだけでなく、経営者が未来の展望を明確に示し、従業員にとっての将来像を描かせる仕組みを整えていることにあります。この社長は、昇給を通じて従業員の努力を促す一方、会社の成長に合わせた高い目標を掲げて、共に発展していく姿勢を示しています。

L社の社長は、単に未来を語るだけでなく、計画を着実に実行しており、新しい給油所の設置予定や所長ポストの空き情報を具体的に社員に伝えています。社員にとって、これらの新設計画は「近い将来、自分もステップアップできる」という現実的な目標となり、それが意欲を引き出し、結果として高い定着性につながっているのです。

将来の目標を明確に示し、その達成に向けた道筋を実現するL社の経営方針は、社員に「次は自分の番だ」と感じさせ、努力の意義を実感させることで、社員が長く定着する原動力となっています。

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