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パテント社長

卓越した発明の才能を持ちながらも、経営のセンスは皆無に近い。それどころか、常識を欠いていると言っても過言ではない。たとえば、出張や会食をしても領収書を残さないといった具合だ。

経理担当者が「領収書をもらってこないと経費で処理できない」と訴えても、社長は「自分の会社の金を使うのに領収書なんて必要ない」と言い放ち、一切耳を貸さない。

それほどのありさまでは、経営が順調に進むはずもない。生産財であろうと消費財であろうと、市場規模がどうであろうと、そんなものにはまるで関心を持たず、自社で製造し、自社で直接販売する以外の選択肢を一切考えようとしない。その姿勢は全くもって無謀としか言いようがない。

外注先には社長の無知につけ込まれ、高値で取引を持ちかけられる。売り方もわからず、在庫はたまる一方で、状況は瞬く間に悪化する。そして、どうしようもなくなると会社を畳む羽目になる。

私がS氏と知り合ったのは、彼の特許を利用させてもらうための交渉がきっかけだった。その後、職業柄ということもあって、経営に関する相談を持ちかけられるようになった。しかし、その相談内容といえば、まるで冗談のようなものばかりだった。

私はS氏に遠慮なく言い放った。「あなたの発明の才能は本当に素晴らしい。しかし、天は二物を与えずという言葉の通り、それ以外のことは人並み以下と言っていい。ましてや、会社の経営なんて、あなたにできるわけがない」と。

だから、あなたは発明や考案に専念するべきだ。それが、あなた自身にとっても、会社にとっても最良の選択だ。できもしない経営に手を出すから失敗する。そんなことは、ただの大きなムダにしかならない。あなたが利益を得たいという気持ちは理解できる。

しかし、いくら会社をいくつも立ち上げたところで、あなたに会社経営で利益を上げることは不可能だ。これまでにも経営の失敗を繰り返し、その尻ぬぐいとして、すでに数億円分の特許を手放しているではないか。

「もし会社経営なんてしなかったら、今頃あなたは数億円の物的資産を持ち、さらに数億円相当の特許という潜在的な資産も抱えた大資産家になっていたはずだ」と私は言った。

いくら口を酸っぱくして説いても、耳を貸す気配は全くない。「会社をやるんだ」の一点張りだ。一芸に秀でた人間というのは、往々にしてそれ以外の分野では常人以下である場合が多い。それにもかかわらず、自分は何もかも優れていると信じ込んでしまうようだ。

だからこそ、何をやっても自分は他人より優れた成果を出せると勘違いしてしまう。この自己過信は、生涯を通じても治らないのではないかと思われる。たとえ他人が親切心でその欠点を指摘したとしても、それを受け入れることは、ほぼ絶対にないと言っていい。

一芸に秀でた人ほど、自分の欠点を見極めるために常に自己を省みる姿勢が求められる。また、他人からの忠告に真摯に耳を傾けることも不可欠だと言える。

S氏は、発明の才能に恵まれ、数多くの特許を取得するほどの実力者です。しかし、経営においてはその才能が裏目に出ています。S氏は経営の基本である財務管理や市場分析、製品流通の重要性を軽視し、自己流の無秩序なやり方にこだわり続けています。このため、経営が行き詰まるたびに特許を売って借金を返済し、何度も同じ失敗を繰り返しています。

S氏には、発明に専念し、経営は専門家に任せる方が理想的です。しかし、S氏は他人の忠告を受け入れず、自らを万能だと思い込んでいるようです。このような過信と独断が、S氏の才能を十分に生かしきれていない原因です。もしS氏が自分の得意分野と不得意分野を客観的に見極め、他者の助けを借りる道を選ぶならば、発明による大きな成果と共に安定した経済基盤を築くことも可能でしょう。

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