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馬謖を切れるか(ばしょく)

経営計画の推進を阻む内部要因として最も大きなものは、多くの企業に共通する「重要な役職を占める無能な幹部」だ。このような例はどの企業にも見られるため、あえて具体例を挙げるまでもない。年功序列に基づく人事制度では、必然的にこうした状況が生じてしまう。

さらに、どの社長もこうした人事の実態を十分理解している。それが一概に悪いとは言い切れない。ある程度は仕方のないことだし、場合によっては会社の業績にそれほど大きな影響を与えないこともある。

さらに、たとえ相当に大きな影響が出る場合であっても、企業目標が明確でなく、経営計画も存在しない段階では、そのまま放置される。これは、社長自身が不適任であることを承知の上でその人物を任命しているためだ。

しかし、いざ経営計画を立ててみると事情は一変する。無能な幹部がどれほど大きな障害となっているかが痛感されるからだ。この状況により社長の悩みは一層深刻になる。無能幹部が決定的に重要なポストに居座り続ける限り、経営計画の達成は幻と化すことは避けられない。

それがわかっていながらも、簡単には交代させることができないのが現実だ。交代できない理由として、多くの社長が挙げるものは、大きく二つに分類される。

一つ目は、交代させるべき適任者がいないということ。もう一つは、交代させた場合に本人の新たな役職や行き場所がないということだ。しかし、これらはあくまで表向きの理由に過ぎない。真の理由は、社長自身がその人物を実質的に格下げせざるを得ないという苦しみにある。

問題はまさにここにある。社長が真剣に考えなければならないのは、自らの経営計画に明記した決意に基づいて行動することだ。経営計画を掲げた以上、どのような困難や障害があろうとも、それを突破しなければならない。経営計画とは単なる希望ではなく、覚悟と実行を伴うものでなければならないのだ。

無能であることを知りながら、経営計画達成の大きな障害と分かりながら、それを放置することは、社長自らが掲げた決意を自ら否定する行為にほかならない。それは、経営計画を空虚なものにし、会社全体に悪影響を及ぼす重大な誤りだ。

自ら掲げた決意を破ったままでは、部下に協力を求めることはできない。それでは指導者としての資格を失ったと見なされても、反論の余地はないだろう。企業の将来を考えるのであれば、躊躇することなく断固たる処置を講じるべきだ。迷い続ける時間は、会社の成長と信頼を損なうだけである。

私情の面では、実質的な格下げを行うことに対して心苦しい思いがあるかもしれない。しかし、私情に流されてしまえば、企業戦争で敗北するのは避けられない。企業を守るという重責を担う社長は、自身の私情を乗り越え、苦渋の決断を下す覚悟を持たなければならない。それこそが、真のリーダーに求められる資質である。

実際のところ、変えられない理由というのは、たいして重要なものではない。「適当な後継者がいない」とされる場合が多いが、これは主に同世代の人間を候補に挙げるからだ。その背景には、「若い人にはまだ十分な能力が備わっていない」という先入観が潜んでいる。

こういう場面では、思い切って若い人を抜擢するように勧めることにしている。なぜなら、多くの会社を見てきた経験から、若い人の能力は社長が想像している以上に高いことがほとんどだからだ。

たとえまだ重荷に感じるとしても、思い切って若い人を抜擢すべきだ。抜擢された本人は感激し、その期待に応えようと全力で取り組むものだ。これまで多くの会社でこの方法を社長に勧め、実際に実行した結果が必ず良い方向に向かったのを何度も目にしている。だからこそ、迷わず思い切って実行してみるべきだ。

第二の理由として挙げられる「持って行き場がない」という話だが、これは当然のことだ。無能な幹部にふさわしい行き場などあるはずがない。こういった人間には何もさせないのが最善の策だ。社長室付や調査室長など、適当な肩書きを与えて棚上げしてしまえばいい。ただし、この場合に部下をつけるのは厳禁だ。部下をつければ、その部下が腐ってやる気を失ってしまうからだ。

こうしておけば、会社にとっての損害は本人の給与分だけで済む。それを、「何か仕事をさせなければもったいない」と考えて無理に仕事を与えると、結果として本人の給与の何百倍もの損害を会社に与える羽目になる。「一文惜しみの百文失い」という事態を避けるためにも、安易に仕事を与えないよう注意するべきだ。

「泣いて馬謖を斬る」とされた孔明の決断にならうべきだ。孔明の命令を無視して独断行動に走り、敗戦を招いて中原作戦の大きな障害となった馬謖と、一生懸命努力しているものの能力不足で会社の障害になっている無能社員とでは事情は異なる。しかし、目標達成を妨げる存在である点では同じだ。重要なのは過程や事情ではなく、すべて結果である。

優れた結果を得るために、会社にとっての「馬謖」を切る覚悟があるかどうか。迷いや躊躇の末にそれができないかどうか。社長のその決断ひとつで、会社の将来の運命は大きく左右されるのだ。

この章では、企業の成長を阻む内部要因として「重要ポストについている無能幹部」の問題が取り上げられています。経営計画の実行には、幹部の能力が重要であり、無能な幹部を抱えたままでは計画が頓挫し、企業全体が危機に瀕する可能性があることを強調しています。

重要なポイントは次の通りです。

  1. 無能幹部が経営計画のブレーキになる
    経営計画を実行する過程で、無能幹部が大きな障害となる場合が多くあります。年功序列などで重要なポジションにある無能な人材は、計画の進行を妨げ、企業の成長を阻害します。この問題は、計画を立てるまでは見過ごされることが多いものの、計画に取り組むとその影響の大きさが明らかになります。
  2. 社長の苦しい決断の必要性
    無能幹部を重要ポストから外すことは、社長にとって精神的にも難しい決断です。しかし、社長が自らの決意を実現するためには、こうした障害を排除しなければなりません。社員の協力を求める以上、社長はまず自らの意思を貫かなければならず、そのためには私情を捨てる覚悟が必要です。
  3. 適切な人材の抜擢
    社長が考える以上に若い人材の能力は高く、思い切って抜擢することで、彼らは期待に応えようと奮闘する傾向にあります。社長が従来の価値観に縛られず、若手に重要な役割を与えることで、会社に新しい風を吹き込み、成長を促すことができるのです。
  4. 無能幹部の「棚上げ」
    無能な幹部に適当な肩書を与えて棚上げし、重要な業務から遠ざけることで、企業への損失を最低限に抑えます。この際、彼らに部下を与えることは避けるべきであり、業務を任せると会社にとってさらなる損害を生む恐れがあります。
  5. 「馬謖を切る」覚悟
    歴史の教訓に学び、「馬謖を切る」覚悟が経営者には求められます。孔明が戦略のために馬謖を処罰したように、社長も企業の未来のために冷徹な判断を下さなければならないことがあります。結果を重視し、組織の目標達成を妨げる要因を排除する決断が、会社の成長には必要なのです。

企業の経営には冷静で厳しい判断が必要であり、ときには私情に流されず、計画を実現するために社長自らが苦渋の選択をする覚悟が重要であると、この章は述べています。

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