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必死の合理化も空し

業績が低迷しているからといって、何もせずに放置してきたわけではない。数年前から、これまでとは異なる新たな施策を講じてきた。かつては勘や経験に頼って対応し、それで十分事足りていた。しかし、今後はそれだけでは通用しないと考え、科学的な経営を志向し、全力で取り組んできた。

まず、生産効率を向上させるために、生産技術の専門家を招き入れ、全工程をコンベアーシステムへと切り替えた。この取り組みは、一定の効果をもたらしたことは間違いない。効率が上がっただけでなく、管理がしやすくなり、現場への目配りも十分に行き届くようになった。さらに、工数の把握が確実となり、新人でも特定の作業を覚えれば即戦力として働けるようになった点は、大きな進歩といえる。

しかし残念なのは、これらの取り組みが会社にどれほど経済的な貢献をもたらしたのか、明確には把握できなかった点だ。その結果、利益の増加という形で目に見える成果を得るには至らなかったのである。

あるいは、売価引き下げによる利益減少の一部を、効率向上で補った可能性もある。しかし、この経験を通じて、コンベアーシステムの導入だけでは業績の回復を期待することはできないという現実が明らかになった。

では、どうすべきか。悩んだ末に出した結論は、外部の専門家に診断を依頼することだった。さらなる効率向上が必要だと考え、生産分野の専門家に現場を見てもらうことにした。調査の結果、最も優先すべき課題として挙げられたのは、外注管理の強化だった。また、コンベアーシステムにも改善の余地があることが指摘された。

しかし、それ以上に重要なのは稼働率の向上だ。その鍵となるのが、外注管理の強化による外注品の納期遅れの削減だという結論だった。欠品による手待ち時間や、別製品への切り替えに伴うロスが大きく、結果としてコンベアーの能力が十分に活かされていない。この状況こそが、生産効率を阻害している最大の原因と指摘されたのである。

その専門家は、近代的な外注管理制度を構築し、それを導入すれば問題は解決すると提案してきた。話を聞いてみると、確かに理にかなった立派な制度だったため、特に異論もなく、その提案をそのまま採用することにした。

しかし、いざ実施してみると、その制度はあまりにも理想的すぎて、大企業ならともかく、小規模な企業では到底運用できるものではなかった。現実とのギャップが大きく、実効性に乏しかったのだ。

何よりも問題なのは、最近の外注作業量の増加に対して、外注先がどこも深刻な人手不足に陥っていることだ。これが混乱の主要な原因であり、管理制度以前に解決すべき根本的な課題として浮かび上がった。

あれこれ試行錯誤を繰り返すうちに、外注管理がうまくいかない原因を巡って議論が激化した。一方では「制度自体に問題がある」との主張があり、他方では「制度を忠実に実行しない運用側が悪い」という反論が出る始末だった。その結果、コンサルタントとの意見対立が深まり、最終的には喧嘩別れのような形で関係が終わってしまった。

そして現在、その制度は形骸化し、実質的な機能を失ったままだ。外注の混乱は収まらず、欠品も一向に改善されていない。その間にも、会社の業績は下降線をたどり続け、状況は悪化する一方である。

とはいえ、このまま外注の混乱を放置するわけにもいかず、別のコンサルタントに依頼し、実情に合った形へと制度を修正してもらおうと考えた。ところが、そのコンサルタントは「部分的な修正では不十分で、組織全体と管理制度を根本から見直す必要がある」と主張してきたのだ。

いくら外注業務を合理化しようとしても、会社の業務全体は密接に関連し合っている。そのため、外注管理業務だけを切り離して改善しようとすること自体が問題の根源だ、とそのコンサルタントは指摘したのだった。

「組織を確立し、職責と権限を明確化し、手続き規定を整備することで、会社全体の運営効率を向上させる必要がある」というのが、そのコンサルタントの主張だった。

なるほど一理あると考え、コンサルタントに三カ月間常駐してもらい、会社の業務を徹底的に分析した。その結果をもとに、組織も管理制度も全面的に改訂することに踏み切った。

しかし、その結果は期待とは裏腹に、かえって状況を悪化させた。何か問題が起きると、規定を盾にして「規定にあるから」「規定にないから」と責任逃れが横行するようになり、社員全体の姿勢がむしろ消極的になったように感じられた。

効率化を目指したはずの一品一葉方式は、かえって業務を煩雑にする結果となった。特に経理部門ではその傾向が顕著で、結局、現在は以前のやり方に戻しつつある。どうも経営学というものは、中小企業にはそぐわないのではないか、という結論に至ったのだった。

こんな状況の中で時は無情に過ぎ、業績はさらに悪化の一途をたどり、ついに赤字に転落してしまった。社長はこれまでに外部専門家二人に依頼し、どちらも失敗に終わった苦い経験を持つ。そのため、今度は外部に頼らず、自力で問題を解決したいと考えているが、肝心の打つ手が見つからないでいるのだ。

思案に暮れた末、取引銀行に相談を持ちかけることにした。すると、銀行側から「変わったコンサルタントがいる」との話が持ち上がり、「騙されたと思ってもう一度頼んでみてはどうか」と提案された。そして、その結果として私が紹介されることになったのだ。

必死の合理化と外部依存の限界:F社の課題と改善への示唆

F社は、従来の勘と経験に頼った経営から「科学的経営」へと移行し、合理化を図ってきましたが、業績回復には至らず、状況が悪化の一途を辿っています。特に外注管理や組織改編において、複数の外部コンサルタントに依頼したものの、理想と現実のギャップから十分な効果が得られませんでした。以下、F社が抱える課題と今後の改善に向けた示唆を考察します。

F社の課題と失敗の要因

  1. 理想と現実の乖離
  • F社が導入した外注管理や組織・管理制度は、大企業向けの「理想的」な方法論であり、中小企業の実態に合致していませんでした。外注先が人手不足のため、提案された管理制度を忠実に実施できず、管理が形骸化したことが一因です。
  1. 規定主義による組織の硬直化
  • 外部コンサルタントの提案に従い、組織と管理制度を全面的に見直した結果、規定に固執しすぎて責任の所在が不明確になり、従業員の態度が消極的になりました。結果的に、柔軟な対応ができなくなり、従業員のやる気や創意工夫を阻害する状況に陥りました。
  1. 過度な外部依存による実情把握の不足
  • F社は外部専門家の指導に大きく依存し、社内での実情把握や自主的な問題解決の取り組みが疎かになっていました。その結果、外部の知識や理論に頼るだけでは解決しないという現実に直面しました。

今後の改善に向けた示唆

  1. 中小企業に適した柔軟な管理体制の構築
  • F社のような中小企業においては、理想的な管理制度ではなく、実態に即した「柔軟な管理体制」が求められます。特に外注管理では、過度に理想を追わず、実行可能な範囲での業務フローやチェック体制を構築し、問題点に対する迅速な改善策を講じるべきです。
  1. 組織内での自主性と現場対応力の強化
  • 組織が硬直化しないためには、従業員の創意工夫や現場での対応力が求められます。全員が積極的に業務改善を提案できる環境を整備し、責任の所在を明確にしつつも、必要に応じて規定にとらわれない柔軟な対応ができる体制が重要です。
  1. 業績指標の可視化と経営判断力の向上
  • 導入した合理化策がどれだけ利益に貢献しているかが曖昧なままでは、効果の評価が困難です。業績の変動を可視化し、改善策の成果がどのように反映されるかをリアルタイムで把握できる仕組みを構築し、経営判断の質を高めることが不可欠です。
  1. 自社の強みを活かした持続的な改善
  • 外部の理論や手法を鵜呑みにするのではなく、自社の強みや特性を活かして業務改善を進めることが重要です。例えば、現場の経験と実績を活かしつつ、独自の工夫を加えた実効的な生産管理や外注管理の方法を模索することが考えられます。

今回のF社のケースから、単なる外部依存ではなく、実情に即した柔軟な改善策と社内の自主的な取組みが必要であることがわかります。経営を回復させるためには、自社の現実と向き合い、長期的な視点で業務改善を図る姿勢が求められます。

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