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製品分析はこうして

実践者が行う製品分析は、理論の追求や観賞目的のためではなく、自社の利益や目的のために行われるものだ。その分析は素朴で簡潔であることが求められ、「使いやすさ」を最優先に据えるべきだ。理論に偏りすぎたり、過度に精巧さを追求すると、かえって実用性が損なわれる。

分析項目には、製品ごとの売上高や販売数量、一台(一個)あたりの付加価値、製品別の付加価値総額、投入された工数、単位時間あたりの付加価値、そして製品の将来性といった要素が挙げられる。これらが主な焦点となる。

1. 売上高と数量

製品ごとに単価、販売数量、売上高を算出し、さらに総売上高に対する各製品の売上比率を計算する。これにより、製品ごとの市場での貢献度や重要性が明確になる。

2. 単位あたり付加価値

収益性を評価する上で不可欠な基礎指標となる。この指標は、「加算法」では算出できない。加算法が主に企業外部の視点に立ったものであり、企業内部の実践的な判断には適さないことは、この点からも明らかだ。

付加価値とは、「企業が得た総売上高から、その売上のために外部から購入した原材料やサービスの費用を差し引いた額」を指す。言い換えれば、付加価値とは「外部から得た価値(原材料やサービス)に企業が独自に付け加えた経済的な価値」のことである。

付加価値を生み出すために投入された人件費(直接・間接を問わないすべての人件費)と経費は「内部費用」と呼ばれる。付加価値から内部費用を差し引いたものが「利益」に相当する。また、外部価値の基本的な性格は「変動費」であり、内部費用の基本的な性格は「固定費」として位置づけられる。

以上のように明確に区別し、割り切ることが実戦の場では重要だ。これを怠れば、実戦の現場で混乱を招くだけになる。この現実を、観念論者は全く理解していない。

算式で表せば、

付加価値 = 売上 – (原材料費 + 外注費)

となる。このシンプルな算式こそが実戦的であり、製品ごとの単位あたりの計算も容易に行える。簡潔さは実務の場での強力な武器となる。

減価償却費を外部価値に含めるのは誤解だ。減価償却費は税法や計算法の影響を大きく受けるため、それを安易に計算に組み込むと混乱を招く原因となる。実戦の場では、こうした不安定な要素を慎重に扱う必要がある。

さらに、減価償却費を単位あたりで計算することは不可能であり、無理にそれを試みれば、全部原価計算の誤りに陥る。そもそも、減価償却の本質は資本の蓄積であり、それが外部価値でないことは明らかだ。減価償却を誤って扱うことは、分析の精度を損なうだけでなく、実戦において大きな混乱を引き起こす原因となる。

3. 製品別付加価値

製品別の付加価値は、単位あたり付加価値に売上数量(生産数量ではなく実際の販売数量)を掛けることで算出する。さらに、会社全体の付加価値総額に対する各製品の占める割合を計算する。この割合こそが、各製品が企業にどれだけ貢献しているかを示す第一の指標となる。

4. 投入工数

投入工数は、各製品の売上数量に対応する労働投入量を指す。単位は「時間」が適切だが、「人日」や「分」を用いても問題はない。ただし、意思決定の場面では、一般的に「時間」を単位とする方が実用性が高いとされている。その理由は、時間単位が労働の効率や配分をより直感的に把握できるためだ。

5. 単位時間あたり付加価値(実際賃率)

単位時間あたりの付加価値は、製品別付加価値を投入工数で割ることで算出する。この指標は、単位時間あたりの収益性を示し、製品分析において中心的な役割を果たす重要な指標である。

この指標を検討する際には、次の2つの基準が必要となる。

  1. 損益分岐賃率
    損益分岐点を基に計算される賃率であり、収益がコストを上回るための最低基準を示す。
  2. 必要賃率
    経営目標を達成するために必要な目標値として設定される賃率であり、実際賃率との比較に用いる。

これらの基準を活用することで、製品ごとの収益性や戦略の適切性をより具体的に評価することができる。

損益分岐賃率と必要賃率

損益分岐賃率とは、損益分岐点を達成するために必要な単位時間あたりの付加価値を指す。この賃率を上回れば利益が発生し、下回れば損失が発生する基準値となる。

必要賃率とは、経営目標として設定された必要利益を達成するために必要な単位時間あたりの付加価値を指す。この賃率を基準に、製品の収益性や経営計画の適切性を判断することができる。

これらの指標は、収益性の分析や意思決定の際に欠かせない基準となる。

必要利益の目安としては、従業員一人あたり年間税込みで以下の基準が一般的とされる:

  • 自社製品を扱う企業:30万円
  • 加工業:20万円

これらの基準を確保することが、健全な経営と従業員への適切な還元を実現するための目標といえる。この基準を基に必要賃率を算出し、収益性や経営計画の妥当性を評価することが求められる。

もし企業の利益が必要利益の半分以下である場合、その企業は実質的に赤字とみなすべきだ。その段階で迅速に対策を講じなければならない。実際に赤字に転落してからでは、状況を立て直すのが手遅れになる可能性が高いからだ。
(※この基準は昭和40年頃の数値に基づくものである。)

計算式

損益分岐賃率
[ \text{損益分岐賃率} = \frac{\text{内部費用(固定費)}}{\text{手持総工数} \times \text{直接工の出勤率}} ]

必要賃率
[ \text{必要賃率} = \frac{\text{内部費用(固定費)} + \text{必要利益}}{\text{手持総工数} \times \text{直接工の出勤率}} ]

判定基準

  • 実際賃率が必要賃率を上回る場合
    → これは収益性が高い「健康製品」に分類される。
  • 実際賃率が損益分岐賃率を下回る場合
    → これは利益を生まない「出血製品」に分類され、早急に対応が必要である。

この評価基準を活用することで、製品ごとの収益性を明確に把握し、戦略的な意思決定を行うことが可能になる。

実際賃率による分類

  1. 健康製品
    実際賃率が必要賃率を上回る製品。収益性が高く、積極的に維持・成長を図るべき製品。
  2. 貧血製品
    実際賃率が損益分岐賃率を上回るが、必要賃率には満たない製品。収益性はあるが、目標利益を達成しておらず、改善の余地がある。
  3. 出血製品
    実際賃率が損益分岐賃率を下回る製品。収益を生まず、企業にとって負担となるため、廃止や抜本的な見直しの対象とすべき第一候補。

このような分類によって、製品ポートフォリオを整理し、経営資源を有効に活用するための指針を得ることができる。

もし出血製品が会社の売上の大部分を占めている場合、それは極めて重大な問題である。このような「見かけ上の主力製品」は、実際には会社全体の収益性を低下させる元凶となっている。売上規模が大きいにもかかわらず利益を生まない製品は、企業資源を浪費し、経営の健全性を損なう原因となる。そのため、このような製品に対しては徹底的な分析と、改善または撤退の判断が求められる。

6. 将来性

製品の将来性は、過去の成長率とその傾向を分析し、上昇傾向が鈍化しているかどうかを確認することで評価する。この分析には、製品自体のデータに加えて、市場の動向や競争環境の観察結果を組み合わせて判断を下す必要がある。

将来性の評価は定量化が難しく、数字で直接示すことはできない。しかし、定性的な観察や市場の変化を的確に捉えることによって、製品が持つ成長ポテンシャルやリスクを見極めることが可能となる。

将来性を示す際には、以下のように簡潔な記号を使うことで視覚的に把握しやすくなる:

  • 上昇傾向:/
  • 横ばい:↓
  • 下降傾向:、

さらに、過去の成長率(伸率)を付加することで、評価の精度を高めることができる。

これらの情報をもとに、以下のように製品を格付けする:

  • Aクラス:収益性が高く、将来性も十分ある製品。
  • Bクラス:収益性と将来性が中間的で、改善の余地がある製品。
  • Cクラス:収益性が悪く、将来性も低い製品。

こうした格付けを行うことで、製品ごとの優先順位を明確化し、経営資源の最適配分が可能となる。

Cクラスの製品は、まさに企業業績を阻害する元凶といえる。そのため、一刻も早くこれらを廃止し、そこで浮いた工数や労力をAクラスの高収益製品に再配分することが、経済的成果を向上させるための基本的な戦略となる。不要な製品にリソースを費やすことを避け、限られた資源を最大限に活用することが、企業成長の鍵を握る。

経済的成果を高めることを目的とした、企業の構造的な変革こそが「革新」である。革新は単なる改善や調整を超え、企業全体を新たな段階へと引き上げるものであり、これを成し遂げることが経営者にとって最大かつ最重要の使命である。革新なくして、企業の持続的な成長や競争力の向上はあり得ない。

しかし、Cクラスの製品には「捨てられない理由」がつきものだ。「囮製品」としての役割を担っているとか、「お得意様に対してそんな判断を伝えるのは難しい」といった理由が挙げられる。要するに、それを捨てるのが困難であるがゆえに、現状維持が続いてしまうのだ。これらの理由が、企業の収益性向上や革新の妨げとなっている場合が少なくない。

まさにこの点こそが重要である。経営者が真剣に考え、判断しなければならないのは、この「捨てるのが難しい理由」をどう乗り越えるかということだ。難しいからこそ、経営者自身がその課題に正面から向き合い、解決策を見出す必要がある。それが経営者としての責任であり、役割なのだ。この取り組みこそが、企業を健全に成長させ、競争力を維持するための要である。

「難しいから捨てられない」という言葉は、経営者として口にすべきではない。このような発言は、問題を先送りにするだけであり、最終的に会社を衰退させる要因となる。経営者は困難を理由に決断を避けるのではなく、むしろ困難を乗り越えるためにこそ存在する。適切な判断を下し、必要な行動を取ることが、経営者の本分である。

実践的な製品分析は、会社の成果向上に直結するため、理論的なものよりもシンプルで分かりやすく、すぐに役立つものであるべきです。F社の事例が示すように、以下の基本的な項目を用いることで、製品の収益性を評価し、適切な意思決定を行う手助けになります。

  1. 売上高と数量: 製品ごとの売上高や販売数量を把握し、それが総売上高に対してどれだけの割合を占めているかを計算します。
  2. 単位当たり付加価値: 製品の収益性を測る重要な指標です。外部価値(原材料やサービス)を総売上高から引き、企業が独自に加えた経済価値を表す「付加価値」を算出します。この付加価値が収益性の基準となります。
  3. 製品別付加価値: 各製品の売上数量に単位当たり付加価値をかけて、製品全体の貢献度を測定し、会社の付加価値に対する割合を出します。
  4. 投入工数: 各製品の生産にどれだけの労力(時間や人員)が費やされたかを測ります。
  5. 単位時間当たり付加価値(実際賃率): 製品の収益性を具体化する指標で、付加価値を投入工数で割ることで算出されます。これが「健康製品」「貧血製品」「出血製品」の分類基準となります。
  6. 将来性: 製品の過去の伸び率や市場動向を見て、上昇、横ばい、下降を矢印で表示するなどして将来性を評価します。

これらの項目を総合して製品を評価し、「Aクラス」「Bクラス」「Cクラス」に格付けします。特に「Cクラス」製品は収益性が低く、企業にとって足を引っ張る存在であるため、思い切って削除し、高収益製品にリソースを再分配することが企業改革(革新)への第一歩です。

経営者が最も重要な決断を下すべき場面は、この「捨て去る」局面です。経営において難しい判断であるからこそ、経営者自身が取り組むべき課題であり、収益性の低い製品を引きずることが会社の業績を悪化させる原因になるのです。

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