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捨て去ればいいのではない

A社は特定製品の専門メーカーとして国内市場で高い占有率を誇っている。国内シェアが90%以上に達しているため、輸出にも積極的に取り組んできた。しかし、輸出量の増加に伴い、輸出のメリットに対する疑問が浮上している。輸出価格が低く抑えられており、原価計算の結果では赤字になるという状況だ。それを示すのが第1表である。

これは輸出に限らず、二重価格を採用している企業全般に共通する課題である。また、二重価格を採用していない場合でも、収益性の低い製品を抱えている企業にとっては、問題の本質は全く同じだと言える。

「では、その製品を切り捨てるのですか」と社長に問うと、「いや、それが悩みどころだ。確かに赤字ではあるが、不況の時には輸出が会社を支えてくれている」との答えが返ってきた。この状況は極めて重大な課題を示している。意思決定を誤れば、会社の存続に直接関わるとまではいかなくとも、収益に深刻な影響を及ぼす可能性がある。

こうした状況では、単位当たりの原価だけを見て判断するのは不適切だ。重要なのは、輸出をやめた場合に会社全体の収益構造がどう変化するかを具体的に計算することだ。輸出を停止したとしても、国内需要を大幅に拡大することが難しい現実を無視してはならない。

つまり、輸出をやめると、まず輸出売上高の250万円と変動費の75万円が消えることになる。結果として、輸出によって得られていた175万円の限界利益が失われる計算だ。これにより、固定費を175万円以上削減できる場合にのみ、輸出をやめる選択が有利になる。しかし、実際には175万円どころか、固定費を20万円削減することすら難しい。最終的な結論として、輸出をやめれば赤字が拡大してしまうことが明らかになった。

このような手法は「増分計算」と呼ばれ、意思決定の場面でしばしば用いられる計算方法だ。伝統的な原価計算に基づいて判断を下すと、しばしば誤った結論に至るリスクがある。増分計算では、特定の意思決定が全体に与える影響を具体的に把握することで、より正確な判断が可能となる。

輸出品は一見赤字であっても、実際には会社全体の利益に貢献していたことになる。赤字とされるのは、輸出品が割り当てられた経費を完全にカバーできなかっただけであり、輸出品そのものが不採算というわけではない。増分利益の視点で見ると、輸出品は重要な収益源であることがわかる。

低収益で赤字とされる製品であっても、付加価値を生み出している限り、それを手放すことは慎重に考えなければならない。その製品を切り捨てれば、赤字を解消するどころか、それによって得られていた付加価値そのものを失う結果となるからだ。

一方で、固定費はほとんど削減されないため、低収益製品を捨てた場合、会社全体としては収益がマイナスに転じる。したがって、低収益製品を切り捨てる際には、それに代わる高収益な製品がない限り、得られていた付加価値がそのまま失われることを認識しておく必要がある。この視点を持てば、意思決定を誤るリスクを大幅に低減できるだろう。

この事例からわかるのは、「収益性が低いからといってすぐに製品を捨て去るべきではない」という教訓です。A社の輸出事業は赤字に見えても、実は会社全体の収益には寄与している部分がありました。これは、「増分計算」という手法で具体的な利益の寄与度を把握することで明らかになりました。

ポイントとしては以下の通りです

  1. 増分計算の重要性
    単位あたりの原価計算だけでは、本当の収益貢献を正確に把握できません。全体での利益にどう影響するかを見るためには、増分計算を使い、特定の事業や製品をやめた場合の影響を把握することが不可欠です。
  2. 固定費の負担との関係
    輸出品は赤字でも、付加価値を生み出すことで固定費の負担を補助していました。輸出をやめればこの補助が失われ、会社全体の収益が減少するリスクがあることが判明しました。
  3. 代替の好収益製品が必要
    低収益製品を捨てる場合、それに代わる収益性の高い製品がなければ、その製品が生み出していた付加価値も一緒に失うことになります。つまり、製品を捨てる判断には、確実な代替手段の存在が不可欠です。

結論として、単純に収益性が低いからといって製品を捨て去るのではなく、製品全体の収益への貢献度を増分計算を通じて正確に見極め、戦略的に意思決定することが求められます。このようにして、企業は収益性向上のための判断ミスを避け、経営の健全性を保つことができます。

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