業績が芳しくない、実質的には赤字状態の中堅企業――営業利益が赤字で、土地売却益によってかろうじて利益を確保している――の新設工場を見学した際の話だ。
従来、工場がいくつにも分散しており、多くのムダが生じていたため、それらをこの工場に集約することになったという。現在は敷地の半分程度しか使用しておらず、残りの部分は二〜三年後に活用する予定とのことだった。
見学を終えたころ、ちょうど昼時だったため、案内された食堂で昼食をご馳走になった。その食堂について興味深い話を聞いた。係の人の説明によれば、この工場の人員は将来的に現在の約二倍になる予定だという。その際を見越して、食堂はその人員を一度に収容できる規模で設計されているとのことだった。なるほど理にかなっている。人員が増えても、食堂を増築する必要がなくなるわけだ。
しかし実際のところ、このもっともらしい計画こそが厄介な問題を孕んでいる。私の目には、それがなんと無駄の多い行為に映ることか、と感じざるを得なかった。
こうした発想そのものが、この会社の業績不振の一因ではないかと思える。この広大な食堂の半分は、今後二〜三年間にわたって実質的に遊休施設となるわけだ。
その遊休施設に、多額の利息がつく資金を固定してしまっているだけでなく、維持費がかかり、固定資産税まで発生している。仮に「二〜三年後の建築費の高騰を見越しての投資だ」と主張したとしても、その合理性にはかなりの疑問が残る。
経済性を本当に追求するなら、もう一歩踏み込んだ考察が必要だ。それは、「なぜ従業員全員を一度に収容しようとするのか?」という根本的な問いだ。
食堂は、全員を一度に収容しなければ運用できないわけではない。利用者を複数のグループに分け、時間をずらして利用させることで十分に対応できる。この方法は、私の独自の発想というわけではない。実際に、こうした時差利用を取り入れて効率的に運用している企業をいくつか知っている。
収益を生まない食堂のような施設には、必要最低限の資金しか投入すべきではない。余剰資金は、新製品の開発研究や販売促進といった、直接的に利益を生み出す分野に振り向けるべきだ。
この会社は自社製品を持ちながら、研究費はごくわずかしか割かれていない。さらに、技術重視・営業軽視という伝統的な悪弊が根深く、この人手不足の時代にあっても操業度は80%を下回っているという有様だ。
まさに「時代錯誤」とも言うべき状況がここにある。経営者の意識は完全に逆行しており、「経済的成果をあげる」という企業の本来の使命を忘れ去り、「厚生施設の完備」といった労務管理の枝葉末節に執着している、と批判されても仕方がないだろう。
戦後の新しい労務管理や人間関係論は、経営者に対して厚生施設や娯楽施設に過剰な関心を払わせるという弊害を生み出している。その結果、それらが企業本来の任務に優先されるという本末転倒な事態を引き起こす危険性を常に孕んでいる。この会社の例は、まさにその典型と言えるだろう。
どれほど労務管理に力を入れ、どれほど人間関係に配慮しようとも、会社の業績が悪く、他社よりも賃金が低ければ、従業員は納得しないだろう。最終的に、彼らが評価するのは企業の成果と、それに見合った報酬である。
従業員にとって重要なのは、全員が一斉に食事をするような環境ではなく、たとえ食堂が時差利用であったとしても、賃金が高いほうが圧倒的に魅力的だ。
経営者が食堂の時差利用を方針として明確にし、その理由を十分に説明した上で、節約された資金が収益を生む活動に積極的に投資されること、そしてそれが最終的に高賃金へとつながることを伝えれば、従業員も納得するはずだ。合理的な説明と将来的な利益への期待が示されれば、従業員は理解を示しやすくなるだろう。
労務管理で最も重要なのは、会社の方針を積極的に従業員に伝え、理解を得ることだ。それを怠り、物的な手段だけで従業員を納得させようとするのは、非常に浅はかであり、本質を見誤っていると言わざるを得ない。
これは食堂の問題にとどまらない。経営者は労務管理の小手先のテクニックに気を取られるのではなく、企業本来の使命である利益を生み出し、持続可能な成長を実現することに全力を注ぐべきだ。
企業は本来の使命に焦点を合わせ、資金を効率的に活用する姿勢を、会社内のあらゆる領域に徹底させるべきだ。高収益を上げている企業は例外なくこのような態度を貫いている。一方で、業績の悪い企業はこの点が非常に下手であり、むしろ放漫経営と呼べるほどの無計画さが目立つ。
この中堅企業の新工場で見られるように、業績の悪い会社は、収益に直結しない施設や施策に過剰な投資を行い、経営資源を効果的に使えないことが多い。この工場の大食堂は、従業員全員を同時に収容するために必要以上に大きなスペースを確保し、結果として遊休資産と化しています。これは、食堂を必要最小限に設計し、時差利用によって対応することで、大幅なコスト削減ができる場面です。
経営者が収益を生まない施設に資金を割き、従業員の厚生施設や労務管理に注力する一方で、企業の本質的な目的である「経済的成果をあげる」ための資金や努力を怠るのは問題です。厚生施設の充実が従業員のモチベーションや満足度に寄与するのは事実ですが、それはあくまで基本の収益が確保され、従業員の給与が他社水準にあることが前提です。
経営者が従業員に対して食堂の利用方針やそれによる節約効果を説明し、その資金が研究開発や営業に活用され、業績向上と賃金向上に結びつくことを伝えれば、従業員の理解と納得も得られるでしょう。結局のところ、労務管理の基本は、会社の方針と資金配分の考えを従業員に明確に示すことであり、物的な施設の提供だけでなく、経済的成果を追求する姿勢を共有することが重要なのです。
高収益企業が資金配分を徹底的に収益活動に向け、効率的な資源の使い方を重視している一方で、業績不振の企業は放漫経営に陥りやすく、長期的な成長が阻まれることが示唆されています。
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