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一倉が極端な例ばかり持ち出していると思う読者もいるだろう。確かに、問題の性質や本質を浮き彫りにするためにあえて極端な例を取り上げたのは事実だ。しかし、それは決して特別なケースではなく、わずかな程度の違いにすぎない。

自分の限られた経験の中でさえ、これ以外にもさまざまな事例に遭遇している。たとえば、地方の会社が必要性もないのに東京に営業所を設け、ただ費用を垂れ流しているだけのケースに三度も出くわしたことがある。仕事がないのに東京営業所や本社を構えるのは、たいてい会社のイメージ向上を狙ってのことだろうが、どの会社もその必要性すら見い出せない状況だった。

さらに極端な例として、東京都内にわずか50人足らずの規模で、しかも大幅な赤字を抱えていた会社が、都内に営業所を構えていたケースに遭遇したことがある。直販を行うわけでもなく、商品を陳列したり展示したりすることもできないビルの奥まった一室だ。ただの電話取次所にすぎず、「屋上屋を架す」という表現は、まさにこの会社のためにあるようなものだ。無駄な費用を垂れ流しながら、営業活動や事務作業をますます複雑にするだけの存在だった。

工場を拡張する必要があったにもかかわらず、隣接地の地価が高いという理由だけで、数百メートルも離れた土地を購入した会社がある。確かに地価は安かったが、それでも隣接地の半分以上の価格であり、隣接地が採算に合わないほど高額というわけでもなかった。全く別の事業を展開するなら話は別だが、既存の仕事の工程の一部をそこで行おうというのだ。この決定は効率や合理性を無視しているとしか思えない。

この判断が将来にわたって大きなムダを生むのは明白だ。それどころか、この会社はすでに1キロほど離れた場所に分工場を持ち、そこで日々多大なムダを経験している。それにもかかわらず、なぜその教訓を生かそうとしないのか、不思議でならない。同じ過ちを繰り返す姿勢には、合理性を欠いた意思決定の深刻さを感じざるを得ない。

逆に、隣接地でしかも安いからといって、トンガリ帽子よりもさらに細長い三角形の土地を購入し、それが全く活用できず、ただのガラクタ置き場と化してしまった会社もある。「安物買いの銭失い」とはまさにこのことだ。目的や実用性を無視した投資の典型例と言えるだろう。

ある200人ほどの規模の工場(本社は別に存在する)で、優に50人は収容できる広々とした事務室を持つ会社がある。それだけでも、規模に見合わない贅沢だと思えるのに、さらに立派な応接ロビーまで備えている。現場を一日見て回ったが、その無駄さ加減にあきれ果てるばかりだった。

外に面した部分は全面ガラス張りで、洒落た応接セットがいくつもゆったりと配置されている。一歩間違えれば、ジュータンを敷くだけで観光ホテルのロビーとして通用しそうな空間だ。一流大企業の応接ロビーをいくつも見てきたが、この会社と比べればどれも質素に思えるほどだ。この規模の工場としては、明らかに不相応な装飾ぶりに驚かされる。

工場である以上、頻繁に来客があるわけではないし、重要な客であれば応接室に通すのが普通だろう。そう考えると、この広々とした応接ロビーは一体誰のため、何のために存在しているのか全く見当がつかない。私が訪問した際も、ほかに来客は一人もおらず、ロビーで少し待った後に応接室へ通された。帰り際に再びロビーを見たが、やはり来客は皆無だった。まるで無駄を象徴する空間のように思えた。

こんなものを作った経営者の感覚は、どうしても理解できない。最近入った情報によれば、その会社の社長は三期連続の赤字を受け、株主から詰め腹を切らされたという話だ。経済の基本すら理解していない経営者がトップにいたことを思えば、その退陣はむしろ遅すぎたと言えるだろう。

ある会社では、業績が思わしくないにもかかわらず、厚生会館を建設する計画が持ち上がった。その理由として表向きは労務管理の改善が挙げられていたが、実際には有利な融資を受けられるからというのが本音だった。このような短絡的な判断が、果たして経営の健全化につながるのかは極めて疑わしい。

金利が安いというだけで、他の条件をろくに考えず、その金利差だけで得をした気になる経営者は少なくない。これこそ、会社を潰す経営者に共通する習性だ。冗談ではない。金利がいくら安くても、業績が悪ければ返済の資金繰りが苦しくなり、経営を圧迫するだけだ。金を借りるときには、まず返済計画をどうするのかを最優先で考えるべきだ。なぜこんな当たり前のことを、何度も繰り返して言わなければならないのだろうか。

これらの事例は、企業が安易に経済的判断を誤り、経営資源を無駄にしてしまう典型例です。業績が悪化しているにもかかわらず、実態に見合わない施設を持ったり、会社の本質的な価値創造には関係のないことに資金を注ぎ込んだりする経営者が後を絶ちません。問題は、多くの場合、経営者が経済的合理性を無視し、見た目や短期的な安さ、他社への対抗心、さらには表面的な節約感にとらわれてしまうことにあります。

このような経営者の姿勢は、単に資金の浪費にとどまらず、企業の存続すら危うくする可能性があるのです。資源を本来の目的である「利益を生み出す活動」に集中させることが何よりも重要であり、そうした判断こそが企業の将来を左右します。

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