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経営者の自重を

多くの企業では、過剰な固定資産投資というよりも浪費とも言える行為が横行している。一体これは何が原因なのか。何かが根本的に狂っているとしか思えない状況だ。

企業の使命は経済的価値を創出することに他ならない。であるならば、経営者の下すすべての決断は、経済的成果を上げることを最優先に据えるべきだ。それにもかかわらず、その原則に反すると思われる判断や行動に、驚くほど頻繁に遭遇するのが現実だ。

ここに挙げた事例は、氷山の一角に過ぎないことは明らかだ。どう考えても、投資に対する姿勢が真剣さを欠いていると言わざるを得ない。

もちろん、意識の上で経済的成果を無視して投資を行う経営者など存在しないはずだ。しかし、意識だけでは不十分だ。経営とは意識の問題ではなく、実行の問題であり、その実行は効果的でなければならない。

有効な実行とは、「良い結果を生み出した実行」のことだ。経営者の評価基準はただ一つ、「どのような結果を得たのか」、つまり「どれだけの経済的成果を上げたのか」以外には存在しない。

どれほど人格が優れていようが、どれだけ経営に尽力しようが、あるいは社内の人間関係を円滑に保とうが、結果が悪ければ経営者として失格だ。

会社の命運、そこで働く従業員とその家族の暮らし、さらには多くの取引先の将来を左右するのは、経営者が生み出す経済的成果だ。経営者は、その肩に重大な社会的責任を担っている。

その責任を自覚し、行動に移してほしいものだ。しかし、残念ながら、社会的地位や権威に胡坐をかき、本来の任務や使命の重要性を忘れて安易な道を選ぶ経営者もいる。また、企業を私物化し、勝手な振る舞いに走る者も少なくない。この現実は嘆かわしい限りだ。

企業運営において、資金は血液のような存在だ。固定資産投資は、その大切な血液を固定してしまう行為である以上、慎重な判断と配慮が求められる。判断を誤れば、企業の命取りになる危険性さえある。

経費は企業の外部に流出するものであることが明白であり、損益計算にも具体的な数字として反映される。そのため、過剰にならないよう注意を払うことが可能だ。

しかし、固定資産は会計上では経費ではなく資産として扱われ、現実には物として会社に残る。そのため、単なる資金の変形として捉えられるだけでなく、何らかの役に立つものと見なされがちだ。その結果、浪費という認識が薄れやすくなる。

福利厚生施設となると、労務管理上望ましいと評価される傾向がある。逆に、これらの施設が貧弱である場合、経営者が労働者の立場を理解していないと見なされることもある。

その他の施設についても、立派なものであれば、それだけ会社に力があると評価される風潮がある。その結果、無駄な部分は見過ごされ、有用な側面だけが過剰に強調されてしまう。

「有用」という大義名分のもとで、企業本来の経済活動の本質から逸脱しても、大きな問題として取り上げられないことが多い。ここに本末転倒の構造が潜んでいる。雨漏りを放置したまま壁を塗り替えるような不合理な資金の使い方が、疑問視されなくなってしまうのだ。

固定資産が資産であるというのは、あくまで会社経理の世界における話に過ぎない。実質的には経費であるという見解を私は持っている。理論的な正否はともかく、経営者の心構えとしては、この認識を持つべきだと考えるからだ。

固定資産という経費は、それ自体が経費であるだけでなく、維持費や固定資産税といった追加の経費を生み出す経費でもある。このことを踏まえれば、投資にあたっては慎重のうえにも慎重を期す必要がある。

あるホテルの経営者が、私に次のような話をしてくれた。同業者で、給湯用ポンプのモーターについて、五馬力で十分なところを、請負業者がたまたま手持ちのあった七・五馬力のモーターを「五馬力と同じ価格で」と提案され、それを取り付けさせたという。そして、「得をした」と得意げに語っていた。しかし、私ならそうはしない。必要十分な五馬力を取り付けさせる。合理的な選択とは、それ以上でもそれ以下でもないものを求めることだと考えるからだ。

設置時には得をしたように見えても、実際には維持費が変わってくるという話だ。もっとも、その維持費の差は現実にはごくわずかかもしれない。しかし、注目すべきはそこではない。経営者としての心構えの問題であり、その姿勢こそが極めて立派だと感じる。

この経営者は、施設を改修する際、まず業者から見積もりを取り、その金額を基準にして、半分のコストで済ませる方法を真剣に模索する。これは単なる節約ではなく、効率的で無駄のない経営を追求する姿勢の表れだ。

業者の見積もりを少し値切る程度で仕事を依頼するようでは、「経営者としての価値がない」とその経営者は言う。そして、実際にその経営者が率いるホテルは業績が良く、給与水準は他社を上回り、従業員のサービスの質の高さにも定評がある。私が深く尊敬する経営者の一人だ。

機械設備に関しては、施設ほどの放漫さは少ないものの、依然として無駄が見受けられる。例えば、斜陽製品のために専用機を導入したり、投資のタイミングを誤ったり、生産性の変化率や格差を考慮せずに非効率な投資を行ったりするケースだ。固定資産投資において決定的に重要なのは、借り入れた資金の返済計画をいかに確実に立てるかである。

そのために不可欠なのが、「資金運用計画」だ。この計画は、借入金の返済を円滑に行うためだけでなく、会社全体の資金の流れを俯瞰し、健全な経営を実現するためのものだ。しかし、この重要な計画があまりにも軽視されてはいないだろうか。(資金運用計画については後述する。)

とにかく、固定資産投資は難易度が高い分野だ。それゆえに、経営者はさらに深く学び、知識と判断力を磨く必要がある。

経営における固定資産投資は慎重さが求められ、無駄な支出や浪費を避け、真に経済的な成果を意識して進めるべきです。しかし、多くの企業でこの点が軽視され、豪華な施設や不要な拡張に資金が費やされ、会社の経済的な利益を圧迫する事例が後を絶ちません。経営者が責任を持ち、資金の運用計画を精査し、無駄な固定資産に流れる資金を本来の企業活動に再投資することが必要です。

固定資産は見た目や評価のためのものではなく、企業の生存や発展に直接結びつくものでなければなりません。この点を誤ると、経済的成果に結びつかない固定費の負担が増え、会社の存続そのものが危機にさらされる可能性もあります。業績向上のためには、単なる節約や削減ではなく、固定資産に対する正しい価値判断と、戦略的に資金を運用する意識を徹底させることが不可欠です。

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