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読まれない報告書

ある会社では、二年前に会計機を導入した。それ以来、毎日試算表が作成されている。女子事務員が手慣れた様子で数字を打ち込み、出来上がった試算表をそのままファイルに収めているのを見て、どうやら誰もその内容を確認していないらしいと感じた。そこで、女子事務員に「この試算表は誰が見るの?」と尋ねてみたところ、「さあ……誰も見ていないみたいです」との答えが返ってきた。

誰も見ない試算表を毎日作り続ける。それを合理化や事務の機械化だと信じ込んでいるのだから、なんとも困った話だ。

そもそも、試算表を毎日見たところで、大した意味はない。時間の無駄であるだけでなく、試算表にばかり目がいって、肝心なことを見失う可能性さえある。何事にも適度というものがあり、試算表は月に一度確認すれば十分だ。それも、経営者にとってわかりやすい形に変えて、損益や資金運用の状況を報告すべきだが、実際にはそれすら行われていない。この状況では、本末転倒と言わざるを得ない。

E社の企画室長は私の友人だ。用事があって彼を訪ねたとき、机の上に工場月報が置かれているのが目に入った。本社と工場が離れているため、わざわざ作成された月報らしい。B5サイズで厚さは約2センチ、かなり分厚い報告書だ。「ちょっと見せて」と手に取ってページをめくってみると、中はびっしりと数字で埋まっている。見ただけで労作だとわかる代物だった。

しかし、その報告書にはどこにも社長の検印がない。不思議に思って聞いてみると、「社長は見ない」とのことだ。では君はどこを見ているのか、と尋ねると、「その中の一ページだけを、三カ月に一度、統計を取るために見る」との答えが返ってきた。ここまで来ると、私の仕事柄、つい色々と口を挟みたくなってしまう。

では、他に誰がこの報告書を見るのかと尋ねると、常務だけだという。気さくな雰囲気の会社なので、常務本人に直接聞いてみた。すると、「僕が見るのは、毎月この一ページだけです」と、手に取ったページを示した。その一言でわかった。分厚い労作も、実際に読まれるのはたった二ページ。しかも、そのうちの一ページは三カ月に一度しか見られないのだ。

この事例は、企業における情報管理と報告の効率性に関する問題を指摘しています。試算表や月報など、経営に関する重要な情報が作成されているにも関わらず、それらが実際には誰にも読まれず、無駄に時間と労力を費やしている状況が描かれています。

特に、毎日作成されている試算表が実際には誰にも見られていないという点は、業務の効率化とは真逆の結果を招いていることを示しています。試算表は、企業の経営状況を正確に把握するための重要なツールであるべきですが、その役割を果たしていない状況が生じています。

また、E社の例では、膨大な報告書が作成されているにも関わらず、実際に関心を持って閲覧する人が限られており、その結果、ほとんどが無駄に終わっていることが分かります。報告書は本来、経営にとって重要な情報を提供し、意思決定をサポートするものであるべきですが、誰も見ない報告書が作成されることで、重要な情報が活かされずに終わってしまうわけです。

このような事例は、企業における情報管理の「無駄」を示しており、報告書や試算表が実際に必要な人々にとって有益で、効率的に活用されることが不可欠です。重要なのは、ただ報告書を作ることではなく、その報告書をどのように活用し、意思決定に結びつけるかという点です。

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