MENU

近代化への夢想から覚めよ

戦後の企業近代化の流れは、基本的に望ましいものである。厳しい競争を勝ち抜く上で必要不可欠であることも間違いない。しかし、その方向性を誤っている企業があまりにも多いのが現状だ。特に、管理部門の業務において、その問題が顕著であると言えるだろう。

誤った近代化の第一歩は、書類作成から始まる。あらゆることを記録し、それを分析して合理化の糸口を探るという考え方のようだ。しかし、書類を作成することには過剰なまでに熱心な一方で、その内容を検討する段階ではほとんど関心を示さないことが多い。結果として、書類を作っただけで管理している気になってしまう、そんな錯覚に陥っているのだ。

極端に言えば、遅延報告書を提出させることで「遅延対策は万全だ」と思い込み、記録を書くのが不得手な現場の作業員に詳細な日報を書かせることで「作業管理ができている」と安心してしまう。XIR管理図を書くだけで品質管理をしていると勘違いし、出勤率を記録するだけで出勤率が向上するような錯覚に陥る。だが、原価記録をつけることが原価管理ではなく、営業日報を書かせることがセールスマンの管理でもないという基本的な事実を見失っているのだ。

「ガソリン節約のために運転日誌を書いて課長に提出せよ」という指示に出くわしたことがある。まさに笑い話としか言いようがない。

そして、これらの記録を効率的に処理するために計算機や会計機が導入され、それでも追いつかなくなると、最終的にはコンピューターに頼るようになる。

いったんコンピューターが導入されると、高額なレンタル料を支払っている以上、遊ばせておくのは無駄だと考え、24時間フル稼働させようとする。だが、フル稼働させることで増える経費には目を向けない。こうしてコンピューターから吐き出される膨大な数字の洪水を眺め、「わが社のMISは素晴らしい」と安心し、重大な誤りを犯してしまう。これを「経営の機械化」と呼ぶらしいが、実際は「計算の機械化」に過ぎない。しかも、無分別に行われる計算の……。

ここで考えるべき重要な点がある。それは、どれだけ精緻な記録を作成しようとも、過去の数字を変えることは決してできないという事実だ。本来、われわれが注目すべきは、過去の数字を集計することではなく、その数字を生み出す活動そのものに向けられるべきだ。数字は結果に過ぎず、その結果を形作る行動こそが、本当に注力すべき対象である。

しかし、数字を前向きに生み出す活動についての研究は、驚くほど貧弱である。この点に関しては、いわゆる権威者と呼ばれる人々にこそ、強い奮起を求めたい。過去の数字に縛られるのではなく、未来を切り開くための行動や仕組みの研究が必要不可欠なのだ。

もちろん、過去の数字を把握することで、そこから前向きな対策を考えることは可能だ。しかし、それはあくまで短期的な戦術的判断に過ぎない。したがって、これらの数字の扱いは常に必要最小限に留め、定期的な検討を行う体制を整えることが経営者の責任である。経営者自らがその作業に没頭してはいけないのだ。

経営者が自ら取り組むべきは、長期的な視点に立った戦略的な決定である。そして、そのために必要なのは、企業内の過去の数字ではない。コンピューターが吐き出す数字は、まさに企業内の過去を示すものであり、それ自体は未来を切り拓く指針にはなり得ないのだ。

経営者が注目すべきは、企業外のさまざまな情報である。それらは、数字として明確に表せないものが多く、信頼度が低く、断片的である場合も多い。むしろ、それは「兆候」と呼ぶべき性質のものであり、不完全であるがゆえに慎重に扱いながらも、未来を予測し行動する上で欠かせない要素となるのだ。

経営者の役割とは、不完全な兆候を注意深く観察し、その中から変化の本質や方向性を見極め、それを自社の経営と結びつけて考えることだ。そして、その変化に対応するための道筋を見出し、時には危険を伴う決断を下しながらも、果敢に前進していくことである。変化に挑む勇気と、先を見通す洞察力こそが、真の経営者に求められる資質である。

もし経営者が低次元な企業内の過去の数字にばかり目を奪われ続けるなら、会社を破綻に追い込むことになるだろう。「近代化への夢想」に囚われるのをやめ、経営者として本来なすべき仕事に全力を注いでほしい。それが、企業を未来に向けて力強く導く唯一の道である。

この文章では、戦後の企業近代化に対する誤ったアプローチについて批判しています。特に管理部門における無駄な書類作成や過去の数字に依存する「経営の機械化」の問題が指摘されています。書類や報告書を作成しているだけではなく、実際にそれをどう活用するか、そして数字の背後にある活動そのものを改善することが重要だと説いています。

さらに、過去の数字に頼るだけでなく、経営者は未来の変化に対応するために外部の情報や兆候に注目し、それを基に戦略的決定を行うべきだと強調しています。単に過去を分析するのではなく、経営者は変化に適応するための判断力とリーダーシップを持ち、企業の未来を切り開く必要があると述べています。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

コメント

コメントする

CAPTCHA


目次