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世の中になくてもいいものは面白い

D社はもともとブックケースの製作を生業としていた。しかし、それだけでは下請けの立場から抜け出せない状況だったため、掛軸の販売に事業を広げた。そんな中、D社長から「どのような方針を取るべきか」という相談を受けた。

「絶対に安物には手を出すべきではない」と断言した。安物は一時的に数が売れる可能性はあるが、収益性が低い。そのうえ、仮に成功したとしても、必ず同業者が真似をし始め、価格競争に巻き込まれるリスクが高い。一方で、高級品を扱えば収益性は格段に向上する。さらに、競合相手が現れる可能性も低く、仮に現れたとしても、過当競争に発展することはほとんどないと考えた。

D社長は私の助言に従い、一流作家の作品を取り扱うよう方向転換を図った。その結果、事業は大成功を収め、売上高経常利益率は20%を超える高い収益性を長年にわたり維持している。

一方、N社は製材業を営んでいたが、加工度の低い製品では十分な収益を確保するのが難しいと感じていた。そこで、N社長はより付加価値の高い製品を目指し、フローリングの製作を新たに開始した。

しかし、フローリング製作は複雑な工程を伴い、手間ばかりがかかる一方で収益は全く上がらなかった。計算してみると、結果は赤字。収益向上を狙った新商品が、むしろ会社全体の収益を圧迫する原因となってしまった。

とはいえ、従業員を抱えている以上、簡単に事業から撤退するわけにもいかない。他に収益を生み出せる事業が見つかれば状況は変わるだろうが……と、N社長はこうした事情を説明しながら相談を持ちかけてきた。

私の考えでは、フローリングは明らかに限界のある商品だった。したがって、事業から撤退する決断を下すべきだと強く勧めた。しかし、それだけでは問題は解決しない。N社にとって新たな事業を見つけ出すことが不可欠だった。

そこで、とにかく事務所で何か策を練ろうという話になった。その事務所は製材工場内にあり、私は何気なく工場内に目をやった。すると、欅材がいくつか無造作に転がっているのが目に入った。

その瞬間、頭にひらめいたのは、この欅材を活用してN社の新事業を立ち上げることだった。欅材は年々希少性が増しており、高級材としての価値が高まっている。これを使い、高級建築物の天井板や腰羽目板、床框などに加工すれば非常に魅力的な商品になると感じた。「世の中になくてもいいもの」をあえて提供することで、その付加価値を最大限に引き出せるのではないかと思ったのだ。

しかし、懸念材料は原木の安定供給が可能かどうかだった。この点について社長に確認したところ、彼は「蛇の道は蛇」とでも言わんばかりに自信を持って供給ルートが確保できると答えた。その言葉を聞いて、私は心の中で「これで勝負が決まった」と確信した。

私は、この欅材を活用した事業をN社の新たな柱として推進するよう提案した。私の説明を聞いたN社長も納得し、「やってみよう」と決断した。まず、顧客へのヒアリングをもとに選定されたのが、階段の踏み板だった。

この商品は期待以上の結果をもたらした。高級感と希少価値が評価され、収益性も抜群だった。売上は堅実に伸び続け、事業の先行きも非常に明るい。こうして、欅材を軸にしたN社の新事業は、確かな一歩を踏み出すこととなった。

N社長は欅材を自社商品の象徴的な特徴とすることを決意し、商品の幅を広げていく方向に舵を切った。次なる展開として開発されたのは、欅の突き板を用いた腰羽目だった。この製品は、欅材特有の美しい木目と高級感を活かしながら、建築物の内装にアクセントを加えるアイテムとして設計された。

腰羽目は強度をそれほど求められるものではないため、欅の突き板を使用するだけで十分な品質を実現できた。そして、この製品も顧客から高く評価され、順調な売れ行きを見せた。こうして、N社の事業の主軸は、この欅材を活用した商品群へと大きくシフトしていく可能性が高くなってきた。欅材は、N社の新たな成長エンジンとしての地位を確立しつつある。

K社は「お寺」という独自の市場をターゲットにした事業を展開している。全国に約6万ある寺院のうち、半数以上と取引があるという広範なネットワークを持つ。主力商品は仏像であり、これを寺院が檀家に販売する仕組みだ。

このビジネスモデルは高い収益性を誇り、K社も売上高経常利益率20%以上を維持している。特定の市場に特化し、安定した需要を背景に成長している企業だ。

トロフィーやカップといった商品も、K社の収益源として大きな役割を果たしている。具体的な利益率については、関係業者に配慮して明かせないが、通常の想像を超えるほどの高収益を上げていることは確かである。この分野もK社の事業を支える重要な柱となっている。

欧米から中古家具を輸入し、少し手を加えて販売するビジネスを展開している会社も、驚くほどの収益を上げている。同様の理由で、この分野も非常に利益率が高い。中古家具はその価値を見極めるのが難しく、価格設定に明確な基準がないため、販売側が市場や顧客の感覚に応じて自由に値付けできる。この柔軟性が高収益につながっているのだ。

自動車アクセサリーやレジャーウェアといった分野も、非常に高い収益性を誇る事業領域である。一方で、宝石や貴金属を扱う宝飾品業界は、こうした高収益性があるからこそ、競争が激化するどころか、むしろ穏やかな業界といえる。過当競争に巻き込まれることもなく、安定した高収益を享受している様子がうかがえる。これは、付加価値の高い商品を扱う業界特有の特徴といえるだろう。

世の中になくてもいいものは、顧客が値段にそれほど敏感ではない。自分の好みに合ったものであれば、価格は二の次になるからだ。さらに、こうした商品は市場規模が小さいため、多くの人々の関心を引きにくい。その結果、競争が少なく、高収益を得やすい構造になっている。

一方で、多くの人々は「たくさん売れるもの」に魅力を感じやすい。それらは実用品や生活必需品であり、市場規模の大きさが目に見えやすい。そうした理由から、「市場が大きければ売上も利益も大きい」と短絡的に考える傾向があるようだ。しかし、大きな市場ほど競争も激化し、結果的に収益性が低下するリスクがあることに気づかない場合も多い。

多くの人々が市場の大きさに惹かれて手を出す結果、過当競争が発生し、収益性の低さに苦しむことになる。これは、生活必需品などの大衆的な市場で特に顕著だ。しかし、同じ必需品であっても、高級品にシフトすれば収益性は大幅に向上する。さらに、高級品市場では競争も自然と和らいでいく傾向がある。

こうした理由から、中小企業が狙うべきは常に高級品市場であると考えている。これは私が長年にわたって提唱してきた主張であり、実際に多くの成功例がそれを裏付けている。高級品市場こそ、中小企業が競争を避け、安定した収益を確保できる道だと確信している。

大企業と競合することもなく、他の中小企業からもあまり注目されず、それでいて高収益を得られる。まさに、このような条件を満たす事業が、「世の中になくてもいいもの」を提供する分野なのだ。

こうした商品やサービスは、その独自性や付加価値によって特定の顧客層に深く刺さる。一方で市場規模が小さいため、大手企業が参入してくる可能性は低く、競争も少ない。その結果、収益性が高く、安定した事業運営が可能になる。このモデルこそ、中小企業が成功を収めるための理想的な戦略と言えるだろう。

「世の中になくてもいいものほど面白い」というテーマは、ビジネス戦略としての高級・非必需品の魅力を示しています。特に中小企業が、大企業と競合せず、高収益を目指すために「世の中になくてもいい」高級志向の商品や市場を選ぶことの利点が述べられています。この戦略の要点を以下にまとめます。

1. 高級品の狙い

安価な商品や大量生産品は一見多く売れそうに見えるものの、競争が激しく、収益性が低くなりがちです。反対に高級品は、少数の顧客に焦点を当て、収益率が高くなりやすいという特徴があります。たとえば、掛軸や欅材を使った建材、欧米の中古家具など、「なくても困らないが欲しい」と思わせる商品には、消費者が好みを優先し、価格にこだわりにくいという傾向があります。

2. 他社との差別化と競争の回避

高級でユニークな商品は市場での競合が少ないため、競争が激化しにくく、価格競争に巻き込まれるリスクが少ないのも利点です。たとえば、欅材の建材や仏像といった商品は、市場で目立ちにくく、大企業も参入しにくいため、収益を確保しやすくなります。

3. 必需品市場の落とし穴

生活必需品や実用品市場は「市場規模が大きい」と思われがちですが、実際には競争が激しく、価格競争により収益が圧縮されがちです。中小企業がこのような市場に参入するのはリスクが高く、むしろユニークな高級品や嗜好品の方が安定的な収益を見込めることが多いのです。

4. 高級品のマーケットは小さくても収益率が高い

小規模ながら高収益な市場は、トロフィーやアクセサリー、自動車のアクセサリー、宝石、貴金属といった、世の中に「なくても困らないが、あれば嬉しい」商品に見られます。これらは消費者の好みに支えられており、価格を上乗せしやすく、高収益を生む基盤となります。

5. 中小企業の戦略としての「世の中になくてもいいもの」

中小企業が選ぶべき市場は、必需品や実用品ではなく、「世の中になくてもいいが、顧客が価値を感じる」高級品です。これらの商品は、少数の顧客を満足させることで安定した収益を生み、大企業との競合を避ける道でもあります。

結論

「世の中になくてもいいもの」は、ユニークな付加価値や顧客の個人の嗜好を反映し、過当競争に巻き込まれず高収益を得られる魅力があります。特に中小企業が成功を目指すなら、高級品や嗜好品を狙うことで、収益性を高めながら、競争の激しい市場での消耗を避けることができます。

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