鬼頭製作所のチェンブロックは、卓越した性能と信頼性を持ち、さらに軽量である点が特徴だ。そのため、国内外で高い評価を得ている。
国内市場では、他社製品よりも価格が高いにもかかわらず、多くのユーザーが指名買いを選ぶ傾向が強い。その結果、圧倒的な市場占有率を維持し、高い収益性を誇る経営を実現している。
その秘訣は、社長の確固たる姿勢にある。たとえば、「チェンは引張試験で溶接部以外の箇所から切れなければならない」という徹底した基準を掲げている。この考え方は、素材の強度を高めることで、より強靭なチェンを作り出すことを可能にする。まさに要点を押さえた品質基準といえる。
S社が電卓業界で覇者として生き残っている理由の一つは、明確に品質へのこだわりにある。創業当初から「絶対に故障しない電卓」を目標に掲げ、その姿勢が群を抜いていた。「科学的な意味での『絶対』は存在しない」としても、企業としての姿勢には確固たるものがあった。そして、そのアプローチが正解だったと言える。まずコストを度外視して無故障を徹底的に追求し、目標を達成した後で初めてコスト削減に取り組むという戦略をとったのだ。
本田技研の創業者、本田宗一郎は、「120%の品質」を掲げていた。「数十万台に一台の不良でも、それを手にしたお客様にとっては100%の不良だ」との信念を持っていたのだ。その品質へのこだわりを象徴するエピソードがある。通常、テストライダーには熟練したベテランが選ばれるのが一般的だが、本田はそれだけにとどまらなかった。
ところが、本田技研ではあえてズブの素人をテストライダーに起用した。彼らにはバイクの操作方法だけを教え、本社と工場間の書類を運ぶ役割を与えた。素人だからこそ、バイクの調子が悪かろうが異音がしようが気にせず、動かなくなるまで乗り続ける。そして、いよいよ動かなくなると、現場から研究所に直接連絡を入れさせるという仕組みだった。
研究所から専用の収容車を出動させ、動かなくなったバイクを直ちに研究所に運び込んで分解し、徹底的に解析する仕組みだった。そこで発見される故障の多くは、設計段階では想定すらしていなかったようなものだったという。「世界の本田」と称される背景には、こうした徹底した品質追求の姿勢がある。このエピソードも、その理由の一端を物語っている。
ヨーロッパ視察団の一員として西ベルリンのジーメンス社を訪れた際、渉外部長から貴重な話をいくつも伺った後、私は「世界に誇るドイツ製品の品質」についての考え方を尋ねた。しかし、通訳を通じてのやりとりだったためか、質問の意図が正確に伝わらず、品質管理システムの説明が返ってきた。そこで再度質問を投げかけ、「システムの話ではなく、ビヘイビャー(態度)やフィロソフィー(哲学)といった考え方について聞きたい」と改めて伝えた。
今度は質問の意図が伝わったようだったが、相手は少し戸惑った様子を見せた。しばらく沈黙の後に返ってきた答えは、「品質がいいというのは当たり前のことではないか」という一言だった。その答えに、私はドイツ人の底知れぬ偉大さと、同時にその徹底した価値観の恐ろしさを感じ取った。
ドイツ人には、日本人が持つ「よい品質のものを作ろう」という意識そのものが、そもそも理解できないようだ。もちろん、「世界に冠たる我が社の品質」という自負はあるだろう。しかし、それは苦心の末に築き上げるものではなく、最初から「それが当たり前」という認識で成り立っている点にこそ、彼らの恐ろしさがある。
こじつけかもしれないが、ドイツの厳しい自然環境の中で、その環境に適応するためには、一切の手抜きやミスが許されない状況があったのではないか。それが結果として、現在のドイツ人の民族性を形成したのではないかと考える。世界各国を巡る中で強く感じるのは、自然環境とその土地の民族性が密接に結びついているという事実だ。
余談はさておき、新商品開発において絶対に欠かせない条件は「品質」である。この点を肝に銘じるべきだ。先に挙げた例に見られるような、品質に対する正しい態度を持つことが基本条件となる。しかし、この品質マインドを脅かしかねないのが「コスト意識」の存在だ。
ある会社の新商品の試作品検討会で、担当者が「このラチェットは材質的にやや問題がありますが、これ以上のものを使うとコストが高くなりますので…」と説明した。その瞬間、私は驚き、呆れ、そして怒りを覚えた。商品というものは、品質と性能を絶対条件として考えなければならない。
コストはその次に考えるべき問題だ。試作品の段階では、まずコストを度外視して可能な限り最高の品質を追求するのが正しい姿勢だ。期待通りの品質を達成して初めて、コスト低減に取り組むべきだ。そして、そのコスト低減においても、「品質を落とさない」ということを絶対的な前提としなければならない。それが可能であることは、私自身の過去の数多くの経験から実証されている。その場では、この心得違いをはっきりと指摘して諭した。
会議が終わると、私は社長を徹底的に叱責した。「先ほどの会議で開発担当者に品質についての正しい態度を教えたが、実はあれは社長に向けて言った言葉だ。品質に対して正しい姿勢を持たずに、どんな事業が成り立つというのか。新商品開発も同じことだ。お客様の要求に正しく応えられない会社は、永遠に成功することはない。もし本当に立派な会社にしたいのならば、まず社長自身がその姿勢を正さなければならない。」そう厳しく伝えた。
その正しい姿勢に基づき、正しい指導を徹底することが必要だ。その指導とは、「まずは一切のコストを無視して、完璧な商品を作れ」という明確なメッセージだ。具体的には、「これこれの要件を満たすことが必須である」という形で、厳しい要件を列挙するのが望ましい。その基準を妥協なく設定し、それを達成するために全力を注ぐことが、正しい商品開発の姿勢である。
そして、まずは「完璧」と思えるものを作り上げる。それを徹底的に検証するため、虐待試験と実使用テストを並行して行う。この際、必ずデータを詳細に収集し、分析する必要がある。問題点が見つかれば即座に改善し、再度虐待試験と実使用テストを繰り返す。このプロセスを徹底することで、品質を極限まで追求するのだ。厳しいテストに耐え抜いた製品だけが、商品として市場に出る資格を得られる。こうして初めて、コストを考える段階に進む。これが二段構えの正しい開発プロセスだ、と明言した。
京都のN社は瓶詰め製品を手がけるメーカーだ。社長のT氏は自ら新商品開発の指揮を執っている。そのT氏が私にこう語った。「初めからコストを考えて開発したもので成功した例は一度もありません。成功した商品は、コストを一切無視して作り上げたものばかりです。コストなんてものは、後からの工夫でいくらでも下げることができるものです。」この言葉には、品質第一の開発姿勢が凝縮されている。
世の中に次々と登場する商品の品質を目にすると、その中に驚くほど多くの欠陥商品が含まれていることに愕然とする。なぜ日本人は、これほどまでに平然と欠陥商品を市場に送り出すのか。その無頓着さには、唖然とせざるを得ない。
その根本的な原因は、品質マインドの欠如にある。そして、それをさらに悪化させるのが「コスト病」という厄介な問題だ。「安価でなければ売れない」という浅はかな感覚が広がり、コスト削減の名のもとに品質や機能が平気で犠牲にされている。たとえば、あるホースメーカーは、輸出用のインチサイズの製品をそのままインチ表記でなくミリ換算で発表した。しかし、当然ながらミリサイズの器具に適合しないため、製品は全く売れなかった。この会社の社長は、一体どのような判断でこのような行動を取ったのだろうか。品質と市場の信頼を軽視する典型例である。
商品とは、お客様の要求を満たすために存在するものだ。それ以外の目的はないと言っても過言ではない。何度でも繰り返すが、お客様のニーズを徹底的に研究し、それを満たすことこそが商品の本質であり、最も基本的で素朴な考え方こそが真理である。この原則を見失った時点で、商品開発も事業そのものも失敗へと向かう。
「安い」という要求も確かにお客様のニーズの一つではあるが、それは「同じ品質や機能なら、より安い方が良い」という条件付きの話だ。「安かろう悪かろう」では、一時的には売れるかもしれないが、長い目で見れば必ずお客様から見放される。信頼を裏切る商品は、市場に残ることはできない。品質と機能を犠牲にした安さは、持続可能な成功には繋がらないのだ。
もう一つ不可解な考え方として、「適当に壊れてもらわないと困る」という発想がある。これはまさに「天動説」的な考え方と言える。自分が買う側の立場になって考えれば、この思考の誤りは一目瞭然のはずだ。それにもかかわらず、そうした視点を一切持たず、自分中心の論理だけで商品を考える。この「天動説」の恐ろしさは、自分の都合で物事を判断し、顧客視点を完全に無視してしまうところにある。これは企業として致命的な欠陥だ。
世の中で優れた品質と性能を持つ商品を提供している会社を見ると、例外なく高収益を上げていることに気づく。この事実こそ、品質第一主義がもたらす成功の最も明確な証拠だ。その背景には、顧客からの信頼と満足が生み出すリピート需要やブランド力の強化がある。品質に投資することが、最終的に高い収益をもたらすという真理に思いを巡らせるべきだ。
「品質を徹底的に追究せよ」というテーマは、企業が成功するためには製品の品質を最優先にする姿勢が不可欠であるというメッセージを強調しています。以下は、このテーマにおける主なポイントです。
1. 品質第一主義
- 鬼頭製作所のチェンブロック: 高い品質基準を設定し、溶接部分以外でのみ切れるようにする強度試験など、他社にはない品質基準により、国内外で高い評価と安定した利益を得ています。
- S社の電卓: 「絶対に故障しない」という信念に基づき、まずコストを無視して無故障を目指し、その後でコストに挑戦する姿勢が成功をもたらしました。
- 本田技研の品質追究: 初心者がテストライダーとなり、故障箇所を徹底的に探り出す方法で設計の欠陥を見つけ、改善に努めました。このように顧客の立場で考え、万全な品質を追求することで信頼性の高い製品が生まれるのです。
2. 品質は当たり前と考える
ドイツのジーメンス社のように、「品質が良いのは当たり前」と捉える姿勢は品質への厳しい意識が民族性に根付いている例です。日本でも、品質を追求するための意識改革が必要とされます。
3. コストと品質の優先順位
コストは品質の後に考えるべきで、品質が確保されてからコスト低減を工夫するという二段階の姿勢が求められます。
- 京都のN社: 社長が「初めからコストを考えた新商品は成功した試しがない」と語り、品質を徹底的に追求する姿勢が成功につながっています。
- 欠陥商品とコスト病: 日本にはコスト削減のために品質を妥協する「コスト病」が根強く、品質を犠牲にすることで顧客の信頼を失うことが問題視されています。
4. 顧客満足の追求
顧客の要求を満たすことが、製品やサービスの存在意義であるという基本を忘れないことが重要です。価格が安いだけではなく、品質も兼ね備えて初めて顧客満足を得ることができます。
5. 高品質製品の経済的効果
品質の高い製品を持つ企業は、高収益会社である傾向があります。これは、品質追求が長期的な収益に繋がる実例です。
結論
製品の開発では品質を徹底的に追究し、妥協のない品質基準を満たしてからコスト削減を行うという順序が求められます。この姿勢が、顧客の信頼と高収益を生み出し、企業の長期的な成長に繋がるのです。
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