ある会社の社長から、「新商品の開発が全く進んでいないが、どうしたらいいだろうか」と相談を受けた。話を詳しく聞いてみると、技術部長がその開発を兼任しているらしい。兼任でうまくいかないのは、むしろ当たり前のことだと言える。
現事業と未来事業を同じ部門や同じ人に兼任させた場合、どのような事態が起きるだろうか。現事業というものは、常に新たな問題が次々と発生する性質を持っている。そして、その問題を無視するわけにはいかないため、必然的に現事業が優先されることになる。その上、現事業の問題を解決すれば、直接的な収益に繋がる可能性が高く、取り組む側としても達成感や手応えを感じやすい。
一方で、未来事業というものは、今日どうしても取り組まなければならない緊急性があるわけでもなく、たとえ進めたとしても、すぐに現実の収益が見込めるわけではない。そのため、「今日でなくてもいいか」という判断が下されがちだ。その結果、未来事業は後回しにされ、進展が滞ることになる。現事業と未来事業を同じ部門や同じ人に担当させると、未来事業がいつまでも手つかずの状態に陥るのは自然な流れだと言える。
未来事業は、新商品の開発であろうと、販売促進であろうと、あるいは新たなマーケットの開拓であろうと、現事業とは完全に切り離して進める必要がある。同じ枠組みの中で扱おうとすれば、現事業の優先度や緊急性に飲み込まれ、未来事業が停滞するのは避けられない。未来事業を進めるためには、専用の体制やリソースを確保し、現事業から独立した環境を整えることが不可欠だ。
現事業と未来事業を兼任させるくらいなら、いっそのこと未来事業などという理想論を掲げるのはやめたほうがいい。形だけ整えたところで、実質的には何も進展せず、ただの空虚な看板に過ぎないからだ。本気で未来事業に取り組む意思がないのなら、無駄なリソースを割くよりも現事業に専念するほうが、よほど現実的な選択と言えるだろう。
人手が足りないというのなら、社長自らが率先して未来事業に取り組むべきだ。それができないなら、専任の担当者を配置するしかない。私の考えでは、未来事業を推進する人材は、販売部門と並んで最優先で確保すべき存在だ。社長自身が動かず、専任者も置かないというのでは、未来事業の停滞を自ら招いているようなものだ。未来事業の重要性を理解し、本気で進める覚悟がなければ、解決には至らない。
未来事業部門は、必ず社長直轄であるべきだ。たとえ専任者を配置したとしても、その専任者を技術部長など現事業に関わる部門の下に置いてはならない。それでは、現事業との兼任と何ら変わらない結果を招いてしまう。未来事業を進めるためには、社長が直接関与し、組織全体の優先順位を明確に示すことが不可欠だ。現事業から切り離し、独立した指揮系統の下で進めることで初めて、未来事業は本来の役割を果たせるようになる。
事業部制を採用している企業(中小企業では本来避けるべきやり方だが)で、事業部に開発責任を持たせた途端、開発活動が停滞してしまうという話を多くの社長から聞いてきた。これは当然の結果だ。事業部制の下で事業部長に利益責任を負わせる以上、どうしても現在の収益が優先される。さらに、未来事業に人材や資金を投じれば、それが直接的に現事業の収益を圧迫することになる。こうした構造では、未来事業に注力する余地など生まれるはずがない。
だからこそ、事業部制を採用する場合でも、未来事業は事業部に任せず、必ず社長直轄で進めなければならない。これは単に効率的な体制を整えるというだけの話ではない。もっと根本的な理由がある。未来事業の推進は、会社全体の方向性や長期的なビジョンに直結するものであり、これを誰かに委ねるのではなく、社長自らが責任を持って指揮する必要があるからだ。未来事業の成否は、会社の命運を左右する課題であり、それを軽々しく他の部門に委託してはならない。
未来事業部門を社長直轄としないのであれば、会社の将来を左右する未来事業を社長自身が担わないということになる。それは重大な誤りだ。企業の未来を部下に委ねることは、社長としての怠慢であり、責任放棄にほかならない。未来事業とは、会社の長期的な成長を見据えた最重要課題であり、その成否が企業の命運を握る。したがって、未来事業を進める体制は、必然的に社長の直接的な責任の下に置くべきだ。それが、未来事業を成功させるための正しい道筋である。
次に考えるべきは、開発部門の責任者の人選だ。この役割には、社内で最も適任と思われる人材を充てる必要がある。たとえ、その人材が抜けることで他の部門が大きな影響を受けるとしても、それを厭わない覚悟が必要だ。それほどの決意と責任感がなければ、未来事業の成功など到底望めない。社長直轄の下で、責任者に最適な人材を選任し、社長自らどのようにこの部門を導いていくべきか。その具体的な指針について、次に述べることにしよう。
「未来事業」を進めるために、企業の開発部門は独立させ、社長直轄で管理することが重要です。未来事業は企業の成長と持続的な競争力に関わるものであり、現事業と同じ部門や人員で兼任させると、収益が即座に見えにくいため、どうしても優先度が下がり、進捗が滞るリスクが高まります。以下に、社長直轄とすることの主な利点と推奨される運営体制をまとめます。
1. 開発部門を社長直轄にする理由
- 現事業との明確な区別: 現事業は日常的に問題が発生しやすく、解決すると即座に収益に結びつくため、そちらに労力が集中しがちです。これに対し、未来事業は時間とリソースを要し、収益が見えにくいことから、後回しにされやすい。独立した専任体制を整えることで、未来事業に集中しやすくなります。
- 社長の強力なリーダーシップと責任意識: 未来事業を進める責任を社長が担うことで、企業の方向性や長期的な戦略と直結した判断が下されやすくなります。企業の未来を決定する開発を他の部門に任せると、社長自らが企業の運命に関わらなくなってしまいます。直轄とすることで、社長自身の意図やビジョンがダイレクトに反映されます。
2. 最適な人材の配置
- 最適任のリーダーを開発部門の長にする: 開発部門を率いる責任者には、会社全体で最も適任と思われる人物を配置することが必要です。たとえ他部門に影響が出るとしても、未来事業の成否にはそれだけの覚悟とリーダーシップが求められます。これにより、開発の進捗が効果的に促進され、企業の未来に対する責任を明確にします。
3. 未来事業推進のための体制
- 事業部制との併用時の注意: 事業部制を導入している企業では、各事業部が現事業の利益に注力しがちです。そのため、事業部に未来事業の責任を委ねると、現事業の収益に影響が出る未来事業に対するモチベーションが低くなり、開発が停滞します。未来事業は事業部に任せず、必ず社長直轄で進めることが成功の鍵です。
- 専任チームの形成: 未来事業に特化した専任のチームを構成し、開発、マーケットの開拓、販売促進といった分野において、現事業と区別して進めることが望ましいです。これは社長直轄で管理されるべきです。
4. 社長による継続的な支援と指導
- 社長自らの指導とサポート: 社長が直接関与し、未来事業部門に対して的確な指導と継続的なサポートを行うことが、企業全体としての一貫した方向性を保つために不可欠です。
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