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プロジェクトチームを編成する

M社を訪問した際、社長は開発が予定通り進まないことに頭を抱えていた。開発部には約10人のメンバーが在籍しており、それぞれが複数の開発テーマを抱えながら、営業部門から次々と持ち込まれる要求に対応しきれずに苦戦していた。この状況を受け、私は以下のような提案を行った。

まず取り組むべきは、開発テーマの整理だ。その手順として、まず社長が現在のテーマを精査し、重要と考えられるものを10ほどに絞り込む。その後、それらをさらに検討して優先順位を設定する。次のステップでは、最優先とされたテーマに必要な人員を適切に割り当てる。この割り当ては、全員で取り組む場合もあれば、一部の人員で十分な場合もある。

割り当てた人員でチームを編成し、これをプロジェクトチームと呼ぶ。チームには責任者を任命し、その役割にはプロジェクトマネジャーまたはリーダーが適している。責任者には明確な方針と目標を示し、与えられた任務を遂行するためのプロジェクト計画書を作成させる。その計画書を社長に提出し、承認を得たうえでプロジェクトを実行に移す流れを確立する。

社長はプロジェクトの進捗を定期的に確認すればよい。頻度としては月に1〜2回が適切だ。余剰の人員がある場合は、次のテーマに関連する調査や情報収集に充てるとよい。また、必要に応じて第二のテーマに対応するプロジェクトチームを編成する体制を整えるべきだ、という提案を行った。

人の能力には限界があるだけでなく、得意不得意の偏りも存在する。そのため、一人で開発や研究を進めても、能力を超える課題に直面すると手が止まり、進展しなくなる。これが、開発がなかなか進まない原因のひとつだ。

チームを編成することで、メンバー同士がそれぞれの長所を活かし、欠点を補い合うことが可能になる。「二人寄れば文殊の知恵」とはまさにこのことだ。私の提案に基づいて新たに体制を整えた結果、開発の進行は見違えるほど改善し、成果も上々だった。

新しい体制では、誰かが分からないことに直面しても、他のメンバーが解決のヒントを提供する場面が増えた。日々のディスカッションが活発に行われるようになり、問題解決のスピードが格段に上がった。このようなチームの力は、単純な人数の足し算ではなく、むしろ人数の二乗に比例して増大すると考えればよいだろう。

一人と二人の力を比較すれば、その差は単純な倍ではなく、一対九にも匹敵する。こうした協力体制のもと、数か月の間に十年来の課題が完全解決とまではいかないものの、立派に商品として市場に通用するレベルまで仕上がった。そして、三年後には画期的な新商品の開発にも成功し、それが会社にとって大きな収益の柱となる成果をもたらした。

新商品の開発や新技術の創出は、個人の力だけで成し遂げられる場合は稀だといえる。それが可能なのは、その個人が他と比べて圧倒的な能力を持っている場合に限られる。しかし、そんな人材は滅多に存在しないのが現実だ。したがって、個人の力に過度な期待を寄せるのではなく、チームを編成し、その集団の力を最大限に活用する方が、はるかに現実的で効果的な方法だ。

チームを編成する際、二人だけのチームはできるだけ避けるべきだ。二人の場合、意見が対立したときにお互いが譲らず、議論が膠着状態に陥るリスクが高い。このような状況では解決策を見いだすのが難しくなる。一方で、三人以上のチームであれば、対立した意見を調整しやすくなり、膠着状態を回避できる可能性が高い。人数の多さが、議論の幅を広げるとともに、解決策の創出を促進する要因となる。

M社のプロジェクトチームが成功した要因の一つは、最優秀な人材をプロジェクトマネジャーに据えたことだ。それまで、この人物は高い能力を持ちながらも、個人で完結する仕事に専念していたため、その能力は自分自身にしか活かされていなかった。しかし、チームを編成したことで、その能力が他のメンバーに向けられ、優れたアドバイスを提供できるようになった。この変化は、プロジェクトの進行にとって非常に大きな意味を持っていた。

もう一つの成功要因は、プロジェクトマネジャーの卓越したリーダーシップだ。そのリーダーシップが存分に発揮された背景には、「プロジェクト計画書」の存在がある。この計画書が、開発活動の方向性を示す指針となり、それに基づいて各メンバーの役割分担や相互の関連性が明確化された。計画書があったおかげで、チーム全体が同じ目標に向かって効率的に動くことができたのである。

開発活動がそんなにうまく計画化できるはずがない、と思う人もいるだろう。しかし、この考え方は誤解だ。こう考えるのは、「計画どおり病」とでも呼ぶべき思い込みの表れといえる。計画というものは、そのとおりに進むことを目的としているわけではない。むしろ、計画がその通りにいくのであれば、計画自体が必要ない。計画どおりに進まない場面が必ず出てくるからこそ、そのときに軌道修正を行うための指針として計画が不可欠になるのだ。

開発活動は、すべてが手探り状態というわけではない。そこには必ず目標や狙いが存在し、それを達成するための手段や進むべき筋道も、かなり明確に見えていることが多い。曖昧なのは、あくまでその過程の中で得られる最終的な結果だ。目標に向かう途中の試行錯誤や予測できない要因こそが未知であり、それが開発活動の本質的な特徴といえる。

だからこそ、設定した筋道を忠実に辿ることが重要になる。そのためにこそ計画書が必要なのだ。計画書をもとに進捗を確認し、その結果が当初の狙いからどれだけズレているかを発見することで、次に取るべき行動を考えることができる。計画はただの道しるべではなく、こうした検証と調整のプロセスを可能にする不可欠なツールであり、その必要性はここにある。計画の大切さはもちろん、それなしでは成り立たない理由がまさにここに凝縮されているといえる。

もし計画書がなければ、その場の思いつきや場当たり的な判断に頼らざるを得ず、一貫性を欠いた行動になるだろう。その結果、期待する成果を得るのは極めて困難になる。さて、話をプロジェクトチームに戻そう。ここで、私が深く感銘を受けたエピソードを紹介したい。

ソニーが開発したカラーテレビ「トリニトロン方式」のプロジェクトでは、井深大社長自らがプロジェクトマネジャーを務めたという。この事実には非常に大きな意味がある。それは、トリニトロン開発がソニーにとって社運をかけた一大プロジェクトであるという、社長の強い意志の表明だったからだ。もしソニーにカラーテレビが存在しない状況を想像すれば、この判断の重要性が一層明確になるだろう。トリニトロンは、ソニーの未来を左右する鍵だったのだ。

社運をかけたトリニトロンの開発は、その独自性と先進性ゆえに、並大抵の挑戦ではなかった。それが世界中どこにも存在しない、全く独特な原理に基づくものであっただけに、その困難さは想像をはるかに超えるものだったに違いない。未知の領域を切り拓くには、技術的な壁や数々の予測不能な問題に直面したはずだが、それを乗り越える情熱と決意があったからこそ、革新的な成果が実現したのである。

このような状況で、何が何でも成功させるという社長の揺るぎない決意を示す最も強い行動が、自らプロジェクトマネジャーの役を担うことだったと私は解釈する。それは単なる指示や監督に留まらず、プロジェクトの中心に立ち、全責任を負う覚悟の表れである。これこそが、リーダーとしてあるべき態度だといえる。その覚悟と行動がチーム全体に影響を与え、一体感を生み出し、最終的に見事な成功へとつながったのだ。

これに対して、凡庸な社長がどう振る舞うかを考えてみよう。F社は、T社の専属的な下請けとして仕事を請け負っていた。しかし、T社の事情でF社への発注が大幅に削減された。その結果、F社は深刻な経営危機に直面することになった。このようなピンチの場面で、真のリーダーシップを発揮できるか否かが企業の命運を分ける。だが、ボンクラ社長の態度はどうだったのか——それこそが問題だ。

その危機を乗り越えるためには、自社商品を開発すべきだという意見が社内で大勢を占めていた。長年下請けに依存し続けたことで、その不安定さと危険性を痛感していたからだ。新商品の候補案が持ち上がったものの、社長はこのアイデアに乗り気ではなかった。しかし、社内の意見に押される形で、渋々ながら承認した。

ところが、社長はその後、新商品の開発にも販売にも一切関与しなかった。それどころか、常に批判的な立場を取り、担当者に対してイヤミや皮肉を繰り返した。支援どころか妨害に近い態度を取る姿勢は、チームの士気を下げ、開発の進行を不必要に困難にする結果を招いた。

それにもかかわらず、その商品は会社にとって重要な収益源となり、以後2年間にわたって経営を支え続けた。しかし、その2年が限界だった。会社は結局、下請け依存から脱却できたわけではなく、社長の無関心と批判的な態度も相まって、根本的な経営改善には至らなかった。そして、2年後、会社はついに破綻を迎えることとなったのである。

この間、社長は新商品の開発も新事業の構想も一切打ち出すことはなかった。会社の運営は、社員が苦労して開発した商品の収益に完全に依存していた。しかし、それだけでは経営を維持するには不十分だったのだ。

社員たちは、数十回にもわたって新商品の開発を求める直談判を行った。これは単なる提案ではなく、まさに膝詰め談判と呼べるものだった。それでも社長の反応は、「成算があるのか?」という一言に終始した。具体的なビジョンも行動も示さないその姿勢に、社員たちは失望せざるを得なかった。

たとえ新商品の開発に踏み切らなくとも、思い切ったコスト削減策を講じるだけで、破綻を回避できた可能性もあった。しかし、そうした大胆な改革すら行われることなく、会社はそのまま衰退の道をたどったのである。

社長の態度で最も致命的なのは、躊躇し続け、何も決めないことだ。決断を避けるという行為は、一見リスクを回避しているように見えるが、実際には間違った決定をするよりもはるかに深刻な影響を及ぼす。間違った決定であれば、修正の余地があり、そこから学びを得て前進することもできる。しかし、何も決めない状態では行動そのものが止まり、状況を改善するチャンスすら失われてしまう。決断をしないという消極的な態度こそが、会社を停滞させ、最終的には崩壊へと導く最も恐ろしい要因なのだ。

プロジェクトチームの編成と管理には、社長やプロジェクトリーダーの明確な方針と決断力が欠かせません。M社やソニーの例から学べるように、プロジェクトを成功に導くための要素を以下にまとめます。

1. 優先順位の明確化とテーマの整理

  • テーマの厳選: 社長が開発テーマを選び出し、優先順位をつけて、最重要テーマに絞り込む。これにより、リソースが分散せず、効率的に成果を上げることができる。
  • 人的リソースの集中投入: 最も重要なテーマに必要な人員を配分し、プロジェクトチームを編成。残りの人員は他のテーマの調査や資料収集に専念させる。

2. プロジェクトチームの編成とリーダーの選定

  • 最適任のリーダーを選ぶ: リーダーには責任者(プロジェクトマネジャーまたはリーダー)を任命し、明確な目標と方針を与える。リーダーにはプロジェクト全体を牽引する力とメンバーの強みを引き出すリーダーシップが求められる。
  • 多人数のチーム編成: 少なくとも3人以上のメンバーで構成することで、意見の対立による膠着状態を防ぎ、建設的な議論ができる。

3. プロジェクト計画書の作成

  • 計画書の重要性: リーダーは、プロジェクト計画書を作成し、各メンバーの役割と連携を明確にする。計画書に基づく筋道の確認と狙いとのズレの把握により、進捗管理がしやすくなる。
  • 進捗チェック: 社長は定期的にプロジェクトの進行状況を確認し、必要に応じてサポートを提供する。この確認がプロジェクトの方向性を維持するための重要なステップとなる。

4. 社長の積極的な関与と決断

  • 重要プロジェクトへの積極関与: ソニーのトリニトロンプロジェクトのように、重要なプロジェクトでは社長自らがプロジェクトマネージャーとなることで、会社全体にプロジェクトの重要性を示し、強い決意を共有する。
  • 明確な意思表示と迅速な意思決定: ボンクラ社長のように迷いや躊躇があると、プロジェクトは停滞し、会社の将来に悪影響を及ぼす。決断の先送りは、間違った決定よりも危険であり、迅速な決断が必要である。

5. 成果を高めるチームの活用

  • チームの相乗効果: チームで進めることにより、メンバー間で知識や経験を共有し合い、個人の力では解決できない問題にも対処できる。

これらのポイントを実践することで、プロジェクトチームは効果的に活動でき、企業の競争力や新商品開発の成功率も向上します。

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