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新事業を始めるにはどんな調査が必要か

新商品や新事業を立ち上げるには、必要な外部情報を収集することが欠かせない。それは、事業を始めるかどうかの判断、新事業の方針策定、販売戦略の構築といった基本的な決定に直結する重要な要素だ。さらに、価格設定やターゲット地域の選定、流通業者の選択といった事業推進における具体的なステップも、外部情報がなければ適切な判断が難しくなる。

それにもかかわらず、指導にあたるほとんどのケースで、驚くほどの外部情報の欠如に直面することになる。無意味で役に立たない内部情報は山ほどあるのに、その一方で、ほとんど何も知らない外部の世界に何の準備もなく飛び込んでいく姿勢には驚かされるばかりだ。まさに「盲目蛇に怖じず」という状態だ。本書を手に取った読者には、そうした愚かな過ちを避けてほしいと切に願う。

では、どのような情報を集めるべきなのか。それを述べる前に、ひとつ念を押しておきたい。情報というものは、一度集めればそれで終わりというわけではない。状況は絶え間なく変化していくものだ。そのため、最低でも年に一度は再調査を行う必要がある。これを怠ると、古い情報に基づいて判断を誤ることになりかねない。では、具体的に集めるべき情報とは何かというと、

まず第一に確認すべきは、総需要(トータル・マーケット)の規模だ。これは、事業を展開する対象地域における市場全体の需要を指す。一般的な中小企業の場合、対象地域は事業内容によって異なる。

たとえば、生産財や業務用品を扱うメーカーであれば、日本全国が市場となることが多い。一方、食品や消費財のメーカーの場合、地方ブロックや地方経済圏といった単位での市場規模を考慮する必要がある。また、流通業者であれば、同様に地方ブロックや地方経済圏を基準に市場を捉えるのが一般的だ。このように、事業の性質や対象商品によって市場の範囲が変わるため、総需要を把握する際にはそれに応じた柔軟な視点が求められる。

ただし、この総需要に関する情報は、必要なデータがそのまま手に入るとは限らないことを認識しておくべきだ。市場規模を直接示す具体的な数値が存在するケースは稀であり、多くの場合は、断片的な情報を集め、それをもとに推定するしか方法がない。公的な統計、業界団体の資料、競合他社の動向、消費者調査のデータなど、さまざまな情報源を丹念に拾い集め、それらを組み合わせて全体像を描き出す必要がある。市場調査においては、この推定の精度が判断の正確さに直結するため、綿密な情報収集と分析が欠かせない。

総需要の推定が完了したら、その市場における占有率としてまず10%を目安に設定する。この数字を基準に、自社の規模や能力と照らし合わせて、実現可能性を冷静に判断するべきだ。仮にその10%が自社にとって過大であると感じるならば、その事業は断念するか、少なくとも開始を延期すべきだろう。

理由は明確である。その市場で「一流」と呼ばれる地位を確立するためには、通常30%以上の占有率が必要とされる。しかし、10%すら現実的でないと判断される状況では、30%の獲得はほぼ不可能だ。結果として、一流になれない事業を無理に進めることは、意味がないばかりか、大きな損失を招く危険性すらある。新事業に挑む際は、まずこの基準を厳守することが、成功とリスク回避の鍵となる。

それでも新事業にどうしても挑戦したいのであれば、市場細分化の原理に基づいて戦略を立てる必要がある。まずは、30%以上の占有率を達成できる可能性がある地域に市場を限定することが不可欠だ。広い市場に分散して挑むのではなく、特定の地域に集中することで、高い占有率を現実のものにする。

また、地域ではなく商品に焦点を当てるという選択肢もある。その場合は、特定の商品カテゴリーに絞り込み、その商品において30%以上の占有率を狙う。つまり、地域か商品か、いずれかに明確なターゲットを設定し、高いシェアを確保する戦略を徹底することが重要だ。曖昧な市場全体への参入ではなく、明確に絞り込んだ領域で勝負することで、成功の可能性を大幅に高めることができる。

次に調査すべきは、流通機構と主要な流通業者の状況だ。我社が参入を考えている業界には、どのような流通の仕組みが存在するのかを明らかにしなければならない。それぞれの流通段階で必要とされるマージン率はどの程度か、業界特有の習慣や特殊事情はどのようなものか、具体的に把握する必要がある。

例えば、小売価格はメーカーが提示する形式なのか、あるいは小売業者に委ねられているのか。また、販売形式として委託と買取りのどちらが主流なのか。さらに、流通業界内で問屋が力を持っているのか、小売店が主導権を握っているのかといったパワーバランスも重要な要素だ。決済条件やリベートのルール、市場売りの有無、談合の慣行の有無など、業界特有の取引形態も見逃せない。

加えて、ディスカウントの慣習があるかどうかや、不文律とされる暗黙のルールについても調べておく必要がある。これらの情報が欠けていると、流通戦略の構築は困難になるだけでなく、不必要なリスクを背負い込む可能性もある。流通機構を詳細に分析し、その中でどのように我社が位置づけられるべきかを明確にすることが、新事業の成功を左右する鍵となる。

次に、主要な流通業者に関する詳細な情報を収集する必要がある。具体的には、以下の項目を調査することが重要だ。

  1. 売上高と市場占有率:各業者の年間売上高と、その市場におけるシェアを把握する。これにより、業界内での各社のポジションが明確になる。
  2. 業績と資産内容:直近の決算データを分析し、収益性や財務健全性を評価する。特に、自己資本比率や負債比率などの指標を確認することで、経営の安定性を判断できる。
  3. 販売テリトリー:各業者がカバーしている地域やエリアを特定する。これにより、自社の商品がどの地域でどのように流通する可能性があるかを予測できる。
  4. 強みと弱みの商品:各業者が得意とする商品カテゴリーや、逆に弱い分野を把握する。これにより、どの業者と提携すれば自社商品の販売が効果的に行えるかを判断できる。
  5. 営業方針と価格政策:各業者の販売戦略や価格設定の方針を理解する。例えば、低価格戦略を取る業者と高級志向の業者では、提携の仕方や販売方法が異なる。
  6. 支払い状況:各業者の支払い能力や信用度を評価する。バランスシート上の買掛金や支払手形を売上高と比較することで、支払いの良否を判断できる。
  7. 経営者の年齢と性格:社長や経営陣の年齢層やリーダーシップのスタイルを知ることで、企業文化や意思決定の速さなどを推測できる。

これらの情報を総合的に分析することで、各流通業者との最適な取引関係を築くための戦略を策定することが可能となる。

主要な先発メーカーについても、流通業者と同様の詳細な調査が求められる。具体的には、以下の項目を確認する必要がある。

  1. 売上高と市場占有率:各メーカーの年間売上高と、その業界内での市場シェアを把握する。これにより、競合他社の規模や市場での影響力を評価できる。
  2. 業績と資産内容:直近の業績推移や財務状況を確認する。特に、貸借対照表や損益計算書を分析し、資産の健全性や収益性を評価する。
  3. 販売テリトリー:各メーカーがカバーしている地理的な販売エリアを特定する。これにより、自社の製品やサービスがどの地域で競合と対峙する可能性があるかを判断できる。
  4. 強みと弱みの商品:各メーカーの製品ラインナップにおいて、競争力の高い商品とそうでない商品を識別する。これにより、自社の製品戦略を策定する際の参考になる。
  5. 営業方針と価格政策:各メーカーの営業戦略や価格設定の方針を理解する。これにより、市場での競争環境や価格競争の程度を予測できる。
  6. 支払い能力の評価:各メーカーの支払い能力を評価するため、バランスシート上の買掛金と支払手形を売上高と比較する。これにより、財務の健全性を判断できる。
  7. 経営者の年齢と性格:各メーカーの社長や主要経営者の年齢や性格を把握する。これにより、経営スタイルや意思決定の傾向を予測できる。

これらの情報は、興信所の調査報告書に含まれる「主な販売先」などの項目を参照することで得られる場合が多い。これにより、各メーカーの販売方針や市場での姿勢を推測する

右記の情報をもとに、まず注目すべきは各流通業者の占有率だ。この指標が業界構造を理解する上での最初の手がかりとなる。

状況は大きく以下の二つに分類できる。

  1. 圧倒的な占有率を一社が持つ場合
    このケースでは、業界内で明らかに支配的な企業が存在し、他の業者は小規模な市場シェアで「ドングリの背比べ」をしている状態だ。このような市場では、その支配的な企業が設定するルールや価格政策が業界全体に大きな影響を及ぼす。そのため、新規参入者としては、その企業とどう関わるかを慎重に考える必要がある。場合によっては、その企業をパートナーとすることが成功の鍵となる可能性もある。
  2. 上位数社が競争している場合
    この場合は、上位の数社が比較的均等な占有率を保ちながら競争している状況だ。こうした市場では、競争の焦点が価格、サービス、製品の差別化に移りやすい。この場合、新規参入者が市場に食い込む余地がある。特定のニッチ市場を狙うか、差別化された商品やサービスで他社にない価値を提供することが成功の鍵となる。

占有率の分布を把握することで、業界のパワーバランスや新規参入の難易度が明確になる。まずは、これを基準に市場全体の構造を分析し、次の戦略を考えるべきだ。

前者の場合、つまり圧倒的な占有率を一社が独占している市場では、新規参入はむしろ有望といえる。この状況では、支配的な企業の営業姿勢が高圧的であることが多く、以下のような問題が頻繁に見られる:

  • 厳格な条件設定:現金払いを強制したり、売掛金を完済しない限り出荷をしない。
  • サービスの低品質:納期が不安定であったり、クレーム対応に誠意が欠けている。
  • 流通業者への圧力:これらの条件を押し付けられても、他に選択肢がないため流通業者は仕方なく従わざるを得ない。

これらの状況は、流通業者を数社訪問すればすぐに明らかになる。多くの流通業者は現状に対して不満を抱いているが、選択肢がないために妥協しているだけだ。この「不満」は、新規参入者にとって絶好のチャンスとなる。

支配的な企業の弱点を見極め、これに対抗するための以下の戦略を取る:

  1. 優れた商品:競合よりも高品質、またはニーズにより適した商品を提供する。
  2. 誠実なサービス:安定した納期、柔軟な支払い条件、迅速かつ誠意あるクレーム対応を実現する。

これらを武器にして市場に参入すれば、流通業者の信頼と支持を得ることができる。このようなアプローチで競争を挑むならば、成功の可能性は極めて高いといえる。支配的な企業が抱える不満を満たすことで、顧客を効率的に獲得できるだろう。

次に分析すべきは、それぞれのメーカーの商品内容と販売方針だ。これらの先発メーカーは、我社にとって明確な競争相手、つまり「敵」となる。そのため、競合メーカーの戦力を徹底的に把握し分析することが、効果的な市場戦略を展開するためのカギとなる。

戦力分析のポイント

  1. 商品ラインナップ
  • 各メーカーの商品構成を詳細に把握する。主力商品、補完的商品、季節商品などの特徴を明確にする。
  • 自社の商品と比較し、競合商品が持つ強みと弱みを特定する。例えば、品質、価格、機能性、デザイン、アフターサービスなどが比較ポイントになる。
  1. 価格戦略
  • 各メーカーの価格帯や値引き政策を調査する。
  • 特に、ディスカウントやプロモーションの頻度を確認することで、価格競争の激しさを把握する。
  1. 販売チャネル
  • 各メーカーがどのような販売経路を採用しているかを分析する(例:直販、代理店、小売店など)。
  • どのチャネルに力を入れているか、またそのチャネルでの強さを調べる。
  1. 販売方針と姿勢
  • 各メーカーが市場でどのようなポジションを目指しているかを理解する(例:高級路線、大衆路線、ニッチ市場への集中など)。
  • 顧客に対する姿勢(例:サービス、サポート、クレーム対応)を確認し、そこに弱点がないかを探る。
  1. マーケティング活動
  • 各メーカーが広告やプロモーション活動にどの程度注力しているかを把握する。
  • ブランド力や顧客ロイヤルティを構築するための施策を分析する。

重要性
敵の手の内を知れば、市場での戦略的な立ち位置を有利に展開できる。例えば、競合が弱い地域や商品カテゴリーを狙う、競合の高圧的な営業方針を逆手にとるなどのアプローチが可能になる。情報をもとに、競争を避けるべき分野と攻め込むべき分野を明確に区別し、自社の強みを最大限に活かした市場攻略を進めるべきだ。

競合メーカーの戦力分析において、最初に注目すべきは商品の詳細だ。以下の観点から徹底的に調査を行う必要がある。

商品分析

  1. 種類
  • どのようなカテゴリーの商品を展開しているかを把握する。主力商品、付加価値の高い商品、ニッチ商品などを分類する。
  1. 特色
  • 商品の特徴や競争力(例:品質、機能、デザイン、独自性)を明らかにする。
  • 自社の商品と比較して優位性または劣位性を評価する。
  1. 価格
  • 各商品の価格帯を確認し、市場でのポジションを特定する(例:高級品、普及品、低価格品)。
  • 価格設定の根拠(製造コスト、ブランド価値、競合状況)を分析する。

販売法分析

  1. 販売経路
  • 直販:自社で直接販売しているのか。
  • 間接販売:代理店や小売業者を通じて販売しているのか。
  • 各経路の利用割合を把握する。
  1. マージン率
  • 各流通段階(卸売、小売など)でのマージン率を調べる。これにより、価格競争力と収益構造を理解する。
  1. 決済条件
  • 支払い条件の柔軟性(例:現金払い、信用取引、手形取引)を確認する。

営業と流通体制の分析

  1. 営業部門の規模
  • 営業担当者の人数、地域ごとの配置、営業所や配送センターの所在地を調査する。
  1. 地域ごとの営業体制
  • 各地域での営業員の人数や活動範囲を把握する。
  1. 取引業者との密着度
  • 流通業者との関係性の強さを確認する。独占的契約があるのか、柔軟な取引を行っているのかを調べる。
  1. 訪問頻度
  • セールスマンが顧客を訪問する頻度を確認し、営業の積極性を評価する。
  1. 配送サービス
  • 配送のスピードや正確性、顧客満足度をチェックする。
  1. アフターサービス体制
  • 修理や交換、相談窓口の対応スピードや質を調べる。

なぜ重要か

これらの情報は、競合がどのように市場での地位を築き、維持しているかを理解するのに欠かせない。これにより、競合の強みと弱みを明確にし、自社がどこで勝負すべきかを戦略的に決定できる。競合の手薄な分野に資源を集中し、差別化されたアプローチで市場に切り込むことが成功への道となる。

完全な情報を手に入れることは永遠に不可能かもしれない。それでも、得られる限りの情報は我社にとって非常に貴重な資産となる。この情報をもとに、社長自身がしっかりと検討を重ね、戦略的な意思決定を行い、それを事業に最大限活かすべきである。

情報が不完全だからといって、闇雲に経営を進める「盲目経営」に陥ることは絶対に避けなければならない。市場や競合、顧客の動向を知り、予測し、対応する力を持つことが経営者の基本であり、成功への条件だ。たとえ情報が断片的であっても、それを組み合わせて全体像を描き出し、現実に即した戦略を立てることが求められる。

最善の結果を得るには、情報収集に怠らず、それを冷静かつ客観的に分析する姿勢が不可欠だ。そして、得られた洞察を迅速かつ的確に行動へ移すことが、競争の激しい市場で勝ち抜くための鍵となる。

新規事業や新商品の立ち上げに際しては、成功の可否を左右するために、次のような外部情報の収集が欠かせません。

1. 市場の総需要(トータル・マーケット)の把握

  • 対象地域や顧客層を絞り、推定であっても市場全体の需要規模を把握します。これは新事業が自社の規模や目標に合っているかを判断する基本的なデータです。
  • 目安として、対象市場で10%の占有率を見込み、事業が成立しそうかを検討します。市場で競争力を発揮できなければ、事業参入は延期すべきです。

2. 流通機構の理解と流通業者の選定

  • 流通チャネルの構造と流通業者ごとの役割やコスト(マージン率)、価格設定方法などの流通事情を調べます。
  • 業界慣習や取引のスタイル(委託販売か買取りか)、小売業者の力関係や決済条件、リベート、ディスカウントの有無などを知ることで、適切な販売計画を立てる基礎ができます。
  • 信頼性のある流通業者を選び、その業績、販売テリトリー、主力商品や支払い状況なども確認します。

3. 競合分析

  • 先行する競合メーカーの数、売上高や市場占有率、製品特徴、価格帯、販路、配送体制、顧客へのサービス体制を調べます。
  • 特に、競合が提供する製品の価格、特色、流通網と、それに対応する自社の強みを検討します。競争が激しく新規参入が難しい場合には、別の市場や商品のニッチを検討する必要があります。

4. 競合メーカーの販売方法と販売戦略の把握

  • 競合の販売方針(直販か間接販売か)や営業体制を知ることが重要です。営業部門の構成や取引業者との関係、アフターサービス体制などを確認することで、自社がどの部分で優位性を発揮できるかが見えてきます。

5. 情報の定期的な更新

  • 市場や競合の状況は変化するため、少なくとも年に一度はこれらの情報を再調査することが重要です。
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