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実績のないものは売りにくい

J社は、商品ラインナップの強化を目指し、独自に温水器を開発した。入念な製造プロセスと徹底したテストを経て、性能と安全性に確かな手応えを得た上で市場に投入した。

これを特約店に提案しているが、簡単には受け入れてもらえない。話を聞いてはくれるものの、最終的には「販売実績はどのくらいか」という問いが出てくる。新製品である以上、実績がないのは当然だが、その時点で「実績がないなら難しい」という反応をされてしまうのが現状だ。

K社が開発したのは、水道管用の画期的な特殊接手だ。水道管は地盤の不等沈下などの影響で接手部分が破損することがあり、そこからの漏水量は莫大になる。この問題は、水資源不足が深刻化する中で、どの水道局にとっても頭を悩ませる大きな課題だ。K社の接手は、特殊な機構によってこの不等沈下による破壊力を吸収する仕組みを持つ。全国の水道局に広がる潜在需要を思い描き、K社長の夢はさらに大きく膨らんでいる。

しかし、K社長の期待とは裏腹に、どの水道局に提案しても状況は厳しい。特殊な機構については高く評価されるものの、肝心の購入にはつながらないのだ。

T社が開発したパワー・ユニットも、その性能と品質にはユーザー自身が「その点は御社の信頼に違わない」と認める。しかし、「それでは」と見積書を提示しても話が進まない。

ユーザーの最後の問いかけは決まって「これまでの納入実績は?」となる。実績がないと正直に答えると、「実績がないのでは……」と返され、そこで話が途切れてしまうのが常だ。

販売実績のない製品は、どれほど優れていても簡単には受け入れてもらえない。お客様が懸念するのは、いつ、どこで、どのような故障や事故が起こるかわからないという不確実性だ。そのリスクを回避したいという心理が、購入をためらわせる大きな要因となっている。

万一事故が起これば、「実績のない製品をなぜ採用したのか」と厳しく責任を問われることになる。購入者の立場とはそういうものだ。特に、故障が事故に直結する可能性のある製品に関しては、慎重を通り越して極端に警戒される。こうした場合、実績がなければまず購入されないと考えるべきだ。

そうした慎重な顧客に対して、どう売り込むかが課題となる。もし、故障しても事故につながらない商品であれば、「代金は不要ですから、まずは試しに使ってみてください」と現物を提供する方法が有効だ。この手法によって、実績のない製品への信頼を少しずつ築いていくことが可能になる。

実際に使ってもらえれば、その良さを理解してもらえる場合も多い。しかし、事故につながる危険性がある製品に関しては、この方法は通用しない。ひとたび事故が起これば、それで信用は失われ、全てが終わりとなる。公的な認定制度が存在する場合には、その認定を取得するのが最善策だが、認定制度がない製品については、どうすれば顧客に購入を促せるのか、正直なところ自分でも答えを持ち合わせていない。結果的に、事故リスクの高い商品には手を出さない方が賢明だと考えるべきだろう。

販売実績のない新商品は、性能や品質に優れていても、その未知のリスクから顧客に受け入れられにくいものです。特に、故障が事故につながる恐れがある商品については、顧客側の不安はさらに大きくなります。そのため、以下のような対応策が考えられます。

1. 試用を提供

  • 事故のリスクが低い商品であれば、「実績はないが、まずは無料で試してほしい」と、試用品を提供することで、顧客の安心感を高めます。試用で得られた信頼が、のちの導入や口コミにつながることも期待できます。

2. 公認の取得

  • 公的な認定制度がある場合、その認証を取得することで信頼性を高めることが可能です。認定があることで顧客も安心して導入でき、実績の代わりになることが多いです。

3. 安全性の証明

  • 事故のリスクが高い商品については、特に実績がない段階での市場投入は避けるべきです。可能であれば、第三者機関による検証や安全性の証明書を取得し、安全性を確保する努力が不可欠です。

4. パイロット顧客の活用

  • もし特定の信頼関係を築ける顧客がいる場合、その顧客にリスクを理解してもらった上で導入してもらい、販売実績とフィードバックを得るのも一つの方法です。

5. 販売チャンネルの工夫

  • 信頼性を重視する販売チャンネル(例えば、規模の小さい地域の業者や特定のパートナー企業)を通じて、小規模な市場からスタートし、段階的に実績を積み上げていくのも効果的です。

新商品の販売は、「いきなり売る」というアプローチよりも、慎重に試用や安全性の証明を行いながら徐々に顧客の信頼を得ていくプロセスが成功への近道です。

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