M社から、新商品の事業化をサポートしてほしいという依頼が来た。M社は大企業の下請けを担っているものの、石油不況の影響で業績が大きく落ち込んでいる。そこで、長年の課題だった自社商品を活用し、収益の拡大を目指したいという狙いがあるようだ。
その新商品はステンレス製の浴槽だ。数年前に試作品を完成させており、品質や性能には自信を持っているという。これを本格的に市場に投入するため、浴槽の長期的な販売計画を立て、積極的に売り出していきたいという意向を示している。
長期計画を見せてもらったところ、確かに五年間を想定した計画にはなっている。しかし、その中身は売上予測に基づいた社内向けの活動計画にすぎない。一人当たりの人件費や生産量、必要人員、設備投資、本社費負担額、金利、労働装備率といった数値ばかりが並んでいる。市場戦略や販売方法についての具体的な内容はほとんど見当たらなかった。
「これは内部計画だ。事業というのは市場に対する活動が中心であり、それを踏まえた計画でなければならない」と指摘し、まずは焦点の当て方が誤っていることを正した。市場戦略や販売活動に重点を置くべきだという考えを伝えた。
M社長は、「販売の経験が全くないので、ルート販売(メーカー向け)と自社販売を組み合わせる方法を考えている。当初はルート販売で一定の数を確保し、その後、自社販売を毎年増やしていき、4〜5年後にはルート販売と自社販売の比率を逆転させたいと考えている。しかし、具体的な進め方はまだ決まっていない」と語った。その背景には、信頼できる問屋を通じて商品を流通させたいという意図があるようだった。
M社長の考え方を一通り理解したところで、私は市場原理の説明から始める必要があった。言うまでもなく、重要なのは占有率の原理だ。この原理を理解しなければ、どのような販売計画も土台から崩れかねないと考えた。そこで、市場における占有率が事業の成否にどれほど直結するか、その基本的な仕組みを丁寧に解説することにした。
市場原理の説明として、次のようなポイントを伝えた。
- 占有率の確保
事業を継続させるためには、商品が市場で生き残るために必要な最低限の占有率を確保しなければならない。これが市場での基盤となる。 - 後発業者のハンディキャップ
市場はすでに過飽和状態にあり、新規参入者がこの状況で競争に加わるためには、先発メーカーを凌駕する力を持たなければならない。言い換えれば、先発メーカーの何倍、何十倍もの努力が求められる。そのためには、まず販売地域を絞り込み、リソースを集中させる必要がある。 - 問屋への依存の危険性
M社は「問屋に流す」ことを前提にしているが、その問屋に商品を取り扱ってもらうこと自体が難しい。問屋が受け入れるとすれば、非常に低価格で提供する場合に限られる可能性が高い。 - 問屋の販売意欲の限界
仮に問屋に商品を流すことができたとしても、問屋がM社の浴槽のような限界商品に積極的に力を入れる可能性は低い。結果的に商品が市場で動かず、事業全体が失敗に終わるリスクが高い。
これらを踏まえ、現状の計画や販売戦略に重大な見直しが必要であることを強調した。
M社長のような甘い考え方が現実の市場で全く通用しないことを、まず理解させる必要があった。そこで、市場の厳しさと競争の本質についてさらに説明を加えた。
「市場というのは甘い場所ではありません。特に過飽和状態の中で新規参入しようとする後発業者にとっては、常に厳しい壁が立ちはだかります。問屋に商品を流して終わりではなく、実際に消費者の手に渡るまでのすべてのプロセスに責任を持たなければなりません。そして、その過程での努力や投資は、先発業者と同等では不十分で、圧倒的に上回る必要があります。
さらに、問屋任せの販売方法では、M社のような新規参入のメーカーは相手にされないか、されても非常に不利な条件を押し付けられる可能性が高い。たとえ一時的に商品を取り扱ってもらえたとしても、売上を伸ばすための積極的な支援は期待できません。その結果、商品は倉庫の隅に追いやられ、失敗に終わるだけです。
このような状況を回避するためには、まず市場を徹底的に分析し、競争相手が手薄なニッチな分野や地域をターゲットにする必要があります。そこに全力を注ぎ、占有率を高め、ブランド価値を築いていくことが不可欠です」と、現実の厳しさと必要な戦略を具体的に伝えた。
「もしM社長がどうしても挑戦したいのなら、不退転の決意を固め、どんな困難にも屈せず努力し続ける覚悟が必要だ。それでも、最初の数年は売上がほとんど伸びず、苦しい状況が続くだろう。二〜三年で採算に乗れば大成功だが、五年かかることもあり得る。場合によっては、何年経っても採算に届かない可能性もある。結局のところ、やってみないと結果はわからないものだが……」
「だからこそ、『問屋へ流す』というような安易な考えは捨て、M社自らが直接小売業者、つまり販売と施工を担う販工店に売り込む直販方式を採用すべきだ。それも、ただがむしゃらに頑張るのではなく、明確な事業方針とそれに基づく具体的な計画が不可欠だ」と伝えた。
一般論として、この事業は明らかに「手を出してはいけない事業」だと言える。理由は、M社にとってその市場規模があまりにも大きすぎ、現状の経営資源では到底対応できないからだ。それにもかかわらず、私がM社長の話に乗ったのには、次のような理由があった。
第一に、M社長自身がどうしてもこの事業をやりたいという強い意志を持っていたこと。
第二に、一見すると過当競争の激戦区に見える市場でも、実は後発がつけ込む余地が相当にあることを理解していたからだ。適切な作戦を立てれば、成功する可能性は十分にあると判断したためである。
M社長は、この新事業の推進に関して、全面的に私の手引きを求めてきた。作戦を開始するにあたり、まず最優先で取り組むべきは情報収集だった。内部の計画はすでにある程度整っていたが、市場や競合などの外部情報が極めて乏しい状態だったからだ。外部環境を正確に把握することなくして、有効な戦略を立てることはできない。
外部調査に先立ち、まず社員が持っているコネクションを把握することが重要だ。家族、親戚、友人、学校の先生や同窓生などのつながりを洗い出し、それぞれの勤務先や役職を確認する。これらは必要なタイミングでコネクションを活用するための準備である。集めた情報は、官公庁、団体、企業といった大分類に分け、さらに細かく分類して整理することで、いつでも迅速に使えるようなデータベースとして構築することにした。
次に、出入りの業者が持つ得意先を調べておくことが必要だ。これも、いざという時に紹介を依頼できるようにするためである。この作業を通じて、マーケットに関する第一次調査として基礎的な情報を収集した。これにより、市場の全体像を把握するための足がかりを得ることを目指した。
この調査では、以下の項目を重点的に分析した。
- 総需要
- 府県別の人口と民度。
- 浴槽の機種別(ステンレス、FRP、ホーローなど)の年間販売台数。
- 政府の住宅政策や通産省の新築住宅および住宅設備機器の需要予測。
- 機種別の主なメーカーとその販売台数
- 流通機構
- 流通経路とそのパターン。
- 流通マージン。
- 決済の慣行。
- 先発メーカーの占有率
- メーカー別製品規格と寸法。
- メーカーごとのタイプ別販売台数と占有率。
- メーカー別販売価格。
- 浴槽の機種別需要予測
- その他
- メーカー別の製品の特色。
- サイズ別の需要や先発業者の動向など。
調査の結果、以下が明らかになった:
- ステンレス製浴槽の需要増加率が、FRPやホーロー浴槽よりも高いこと。
- 先発メーカーがこの分野にかなり力を注いでいること。
- 新規参入を目指しているメーカーが複数存在すること。
これらの情報を基に、M社の参入計画を具体化するための重要な手がかりを得た。
外部環境の分析とM社長の意図を踏まえ、以下の新事業の基本構想を決定した。
基本方針
- 製品構成
ステンレス製浴槽を主力製品とし、灯油焼却兼用風呂釜を組み合わせて販売。すべて自社製造・自社販売とする。 - 製品ラインアップ
浴槽は一人半用と二人用の2種類を用意し、それぞれのサイズに対応したすべてのタイプを揃える。 - 販売戦略
販工店(販売と施工を行う店)への直販を基本とし、必要に応じて問屋への間接販売も行う。 - 商圏戦略
地域占有率の確保を最優先とし、無計画な市場拡大は避ける。
付帯事項
- 将来的には浴槽関連機器をラインアップに追加し、商品構成の充実を図る。
- さらに、住宅設備機器の総合業者を目指し、事業の拡大を視野に入れる。
この構想に基づき、具体的な販売計画と市場戦略を展開する準備に入ることとした。
この決定に関して、補足説明が必要な点を以下に述べる。
兼用釜は、薪やゴミなども焼却できる製品であり、もともとM社が下請け加工を担当していたものだった。今回、この製品を発注先から仕入れ、自社商品として販売することにした。これにより、M社は発注先に対して「下請け」であると同時に「ディーラー」としての立場を持つことになり、対等な関係に近づくことができた。
また、この合意が成立した背景には、発注先が遠隔地に所在しており、M社周辺地域への販売に手が回らなかった事情がある。M社がその地域での販売を担うことは、発注先にとっても都合が良く、結果的に双方の利益が一致する形で話がまとまった。これは、M社にとっても発注先にとっても戦略的に有利な選択となった。
浴槽のタイプについては、特定のものだけでは対応できない。浴室の構造が多様なため、据置式と埋込式の2種類が必要であり、それぞれにエプロン(化粧板)が付属する。このエプロンには半エプロンと長エプロンがあり、一方用と二方用が存在する。さらに二方用には右勝手と左勝手がある。これらすべてのタイプを揃えなければ、販工店の要望に応えることができない。
付帯事項の目的は、同一の販売チャンネルで取り扱う商品を充実させることで、販工店へのサービス向上と販売効率の向上を同時に実現する点にある。
例えば、風呂釜に関しては、兼用釜だけでなく、都市ガス用、プロパン用、灯油用を揃えて初めて「完全なラインナップ」と言える。また、温水器、洗面台、流し台、エアコンなど、同じ販売チャンネルで扱う商品を増やすことで、事業の充実が図れる。ただし、これらは顧客サービスが十分に行き届くことが前提であり、それができなければ新たな商品には手を出すべきではない。商品のラインナップを広げるだけでは、中身が伴わず、事業の質が低下する危険があるからだ。
基本構想に基づき、それを実現するための第二次調査を進めた。この調査では以下の項目を重点的に分析した。
- 地元の販工店、問屋、設計事務所のリスト作成
- 販工店の特性(取扱製品、規模、販売力など)
- 先発メーカーの販売網とマージン政策
- 各メーカーの販売方法とマージン率
- 長府製作所の販売方法(競合戦略の参考)
- メーカー別販売数(市場シェアの把握)
これらの情報を基に、具体的な販売戦略の検討を進めた。
調査の結果、販工店のマージン率は30〜32%が一般的で、一部で25%と低いところもあったが、唯一、長府製作所だけが40%を実現しており、これが同社の強みとなっていることが分かった。
長府製作所の販売方針は以下の通りである:
- 流通の簡素化
小売店への直販方式を採用し、中間業者を省いている。 - 「もうけ」を売る
小売店にとっての利益を最重視し、業界最高水準の40%という高マージン率を実現している。 - 迅速なアフターサービス
小売店が自ら対応できるよう、毎月一回、アフターサービスの講習会を開催している。
これらの施策が、長府製作所を競争優位に立たせていると判断し、M社もこれに倣い、販工店に対するマージン率を40%に設定することを決定した。
調査を進める一方で、社内では発売期日に向けた生産態勢の整備が進められた。この部分については、M社が得意とする領域であり、私が関与する必要は全くなかった。
販売準備では、以下の項目に細心の注意を払い、万全を期した。
- セールスマンの選定と教育。
- カタログ、チラシ、定価表の作成。
- 荷造り用段ボールの準備。
- 営業車両の手配。
これら一つ一つに手落ちがないよう、細部にわたって気を配った。
いよいよ販売戦略の構築に取り掛かった。新規参入で占有率ゼロからのスタートであるため、まず生産数量を確保する必要があった。そのため、某メーカーの下請加工を引き受けることにした。このメーカーは、M社独自のタイプでの製造を許可し、さらにM社が自主販売を自由に行える条件を提示していた。これと契約できたことは、M社にとって大きな幸運であり、戦略を進める上での重要な足がかりとなった。
私の販売戦略案は次の通りだった。
- 販売方法
販工店への直販方式を基本とする。ただし、遠隔地については問屋販売も選択肢に含める。 - 販売促進
販工店直販でも問屋販売でも、最終顧客に直接リーチする「蛇口作戦」を徹底する。 - 作戦地域と占有率目標
- 第一段階:M市とその周辺を初期の作戦地域とし、販工店直販を中心に展開。占有率目標は三年以内に20%以上、当面の目標は10%以上とする。
- 第二段階:次に県内全域を対象地域とし、三年以内に20%以上の占有率を目指す。この地域への展開は、M市とその周辺で10%以上の占有率を達成した後に開始する。
- 第三段階:県外への進出は、M市とその周辺で占有率20%、県内全域で10%を達成した時点で行う。
しかし、この計画は後に状況に応じて大幅に修正を加える必要が生じた。
社長の本音は、「こんな悠長なことはしていられない」というものだったのだろう。結果として、当初からM市とその周辺、県内、隣接する一県で同時に販売をスタートすることになった。その後、三カ月以内にさらに一県にディーラーを設置し、さらに隣接する地方ブロック全体をカバーするディーラーとも契約を結んだ。
私は、これ以上無計画に作戦地域を広げることのリスクを指摘し、慎重に進めるよう釘を刺しておいた。過剰な拡大は、サービスや管理の質を低下させる恐れがあるからだ。
社長の本音は、「こんな悠長なことはしていられない」だったのだろう。当初から、M市とその周辺、県内、隣接一県で同時に販売をスタートする方針となった。その後、三カ月以内にさらに一県にディーラーを設置し、隣接する地方ブロック全体をカバーするディーラーとも契約を結んだ。私は、これ以上無計画に作戦地域を広げることがリスクであることを指摘し、拡大を慎重に進めるよう注意を促した。
M社長は蛇口作戦だけでなく、新聞広告やアドバルーン、展示場の設置など、大規模な販促活動も行いたいと考えていた。しかし、これはまさに「天動説」の発想に過ぎない。こうした手法を取れば、顧客が自動的に関心を持ち、M社を支持してくれると単純に思い込んでいるだけだった。現実には、効果的なマーケティング戦略とは、顧客のニーズを的確に捉えた地道な活動が不可欠なのである。
私は、「そんなことをしても、誰も見向きもしないし、見たとしても何の反応もない。ムダ金を使うのはやめなさい」と強く止めた。その結果、広告やアドバルーンはあきらめさせることができたが、展示場については作ってしまった。ただし、もともと使われていなかったスペースを活用しただけだったので、これに関しては目をつぶることにした。
浴槽を展示したところで、家を建てる予定のない人々は当然無関心であり、何の反応も期待できない。また、家を建てる人もほとんどが業者任せで、自ら展示場に足を運ぶことはない。さらに、業者側もそうした展示場には興味を示さないのが実情だ。理由は明確で、業者には毎日のようにメーカーのセールスマンが訪問してくるため、わざわざ出向く必要がないからである。展示場の効果は極めて限定的と言わざるを得ない。
蛇口作戦は、M市とその周辺に3名、県内に1名、隣県に1名の専任セールスマンを配置してスタートした。時は昭和50年の1月。セールスマンたちは販工店を巡回し、地道なパトロールを続けた。しかし、その活動は忍耐を強いられるものであり、雰囲気は辛気臭く、得られる注文もわずかだった。それでも、一歩ずつ着実に基盤を築くための重要な取り組みだった。
建築業界が不況に陥る中、メーカー各社は販工店への売り込みに必死だった。そんな状況下で、新参会社の商品が簡単に売れるはずがない。営業担当常務も、「先発メーカーの壁の厚さを痛感します」と漏らしたほどだ。相手は20年以上のキャリアと実績、そして知名度を武器にしており、その強みは圧倒的だった。新規参入者がその壁を突破するのは、並大抵のことではなかった。
その強敵を相手に戦いを進めるには、根気強い訪問を続ける以外に道はない。だからこそ、私はセールスマンに求める資質として「根気強さ」を最優先に挙げている。確かに厳しい戦いではあったが、全く売れなかったわけではない。それどころか、私の目には蛇口作戦の持つ力がはっきりと証明されたように映った。地道な努力が少しずつ成果を生み出していたのだ。
販売数は開始から3か月目で月間100槽を突破し、7か月目には200槽を超え、12か月目には300槽に達した。初年度だけで累計2,000槽を販売するという成果を上げた。
翌年の昭和51年には、年間販売数が7,000槽を突破。この数は、ステンレス浴槽だけで見れば昭和48年の統計に基づき主要販売業者30社中12位に相当する規模だった。ただし、昭和51年時点では需要が昭和48年の約3倍と推定されるため、実際には20位程度の位置にあると考えられる。
この背景には、市場の成長が均一に進むわけではなく、上位企業ほどシェアを拡大するという寡占化の原理が作用している点がある。新規参入のM社にとっては、この中で順位を上げるのは依然として厳しい挑戦だった。
この実績を単純に人口比から占有率に換算すると、全国では約1%強、作戦地域で6%、県内では11%に相当する。完全な新規参入としては、非常に高い評価に値する結果と言える。さらに、先発メーカーが大幅なダンピングを続ける中で、M社は値下げを最小限に抑えながらこの成果を達成したことは特筆すべき点である。これは、価格競争だけでなく、販売戦略と商品価値が十分に機能したことを示している。
この成果を収めることができたのは、地域を限定した集中的な攻撃、いわゆる「タランチェスター戦略」と、他に類を見ない蛇口作戦の威力が相乗効果を発揮した結果である。この二つの戦略が見事に機能したことで、新参者でありながら市場で確固たる地位を築くことができた。あとは、この作戦をさらに進め、拡大していくのみである。
強大な先発メーカーが激しい競争を繰り広げる市場に、力も実績もない中小企業が飛び込んでも、適切な作戦を立てれば成功することが実証された。しかし、無方針や無戦略では、このような成果を上げることは決してできない。この成功例が示すのは、明確な目標と綿密な戦略の重要性であり、それを肝に銘じるべきである。
M社が成功した新事業の戦略を以下に整理します。この事例から、徹底した計画と市場理解、そして根気強い販売戦略が必要であることが示されています。
1. 販売戦略の構築と市場理解
- 市場原理の理解: M社が新商品であるステンレス製浴槽を事業化するため、まず占有率を重視する市場戦略を採用しました。競争が激しい市場で新参入するには、「限られた地域での販売集中」が不可欠です。また、問屋経由ではなく、直販(販工店への直接販売)を選択することで、独自の市場を開拓しました。
2. 詳細な情報収集と顧客理解
- 事前調査とデータ収集: 製品に関わる市場調査を徹底的に行い、浴槽の市場規模や競合の販売体制、消費者の好み、流通構造などを詳細に把握しました。また、長府製作所の成功事例を参考に、小売店に高いマージン(40%)を提供し、流通業者が販売に積極的になるような魅力的な条件を整えました。
3. 段階的な地域戦略と蛇口作戦
- 地域限定の集中的な営業活動: 初期は地元であるM市とその周辺地域に限定して、占有率10%の目標を設定しました。この地域での占有率を20%に達するまでは、他の地域への拡大を抑えるというタランチェスター戦略を採用しました。新しい市場で競争力をつけるには、売上を優先するよりも、地域内での占有率を着実に高めることが重要です。
- 蛇口作戦の徹底: セールスマンを専任し、販工店を定期的に巡回する「蛇口作戦」を行いました。地道な訪問を続け、販工店や顧客との信頼関係を築くことで、徐々に浸透していきました。
4. 効果的な販売促進と広告戦略
- 販工店に特化したマージン設定と教育: 小売店のモチベーションを高めるため、他社と同様の高マージンを設定し、アフターサービスの研修も提供しました。これにより、販工店が自発的に商品を販売する体制を整えました。
- 無駄な広告の排除: 大規模な広告やイベントは実際の売上に寄与しないため、販促活動は蛇口作戦に集中し、無駄な費用を省くことに努めました。
5. 成果と今後の展開
- 成長と市場浸透の成果: 初年度でM市とその周辺で月間販売数が100槽を超え、年間2000槽を達成しました。2年目には7000槽を突破し、市場における占有率は全国で1%、地域内で6%、県内で11%に達しました。
まとめ
M社のステンレス浴槽事業は、競争の激しい市場で新参者として成功を収めました。その成功の要因は、市場理解と情報収集に基づく計画、限られた地域での集中攻撃、販工店の協力を得るための高マージンとアフターサービス体制、そして一貫した蛇口作戦の実施にあります。
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