企業の成果は顧客の要求を満たすことで得られる以上、社内の思考や行動のすべては、顧客の要求を出発点とし、最終的にそこへ戻るべきである。これはごく当たり前のことである。
しかし現実は全く逆で、顧客の要求はどこかへ消え失せ、会社内部にあるのは「我が社」と「我が社」の都合だけだ。この姿勢が顧客の要求を無視し、顧客を苛立たせ、結果として売上を下げ、業績の悪化を招いている。
これは一体どういう理由によるものなのか。答えは簡単だ。人間という生き物は元来、自己中心的にできているからである。
もう一つの理由は、顧客が会社の中に存在しないという点にある。目の前にいないことで、ついその存在を忘れてしまうのだ。その結果、日々の仕事にばかり意識が向かう。だが、その仕事がスムーズに進むことは稀である。そこで、「仕事を効率よく進めるための理論」が生まれた。それが「組織論」を中心とした、さまざまな内部管理に関する雑多な議論である。
こうした雑多な議論には、顧客のためという視点がまったく欠けている。その結果、顧客の存在はすっかり忘れ去られ、あらゆる焦点が社内の仕事だけに向けられてしまう。
この顧客軽視が極めて深刻な問題なのだ。社内の都合が顧客の要求よりも優先される状況を生み出しているからである。それだけではない。組織論の関心は、日常のルーチン作業に向けられがちだ。しかし、こうした作業は事業活動の中で最も次元の低い部分に過ぎない。
低次元の対象にひたすら没頭し、日常の繰り返し作業の管理さえ整えば事業が繁栄するかのような錯覚に陥っているのが現状だ。世間で広く行われている「企業診断」と称するものの最重点勧告事項も、まさにこの組織論に集中している。この組織論が企業にもたらす害悪の大きさは、想像をはるかに超えるものがある。
まず、この恐ろしいまでに内部志向の組織論を捨て去ることから始めるべきだ。そして、正しい組織についての正しい基本認識を確立する必要がある。それが企業の本来の姿を取り戻す第一歩となる。
その正しい基本認識とは、「顧客に正しいサービスを提供するために、私たちはどのような体制を整え、どのような行動を取るべきか」という問いに対する明確な答えを持つことである。これが組織の本質的な目的を再確認する鍵となる。
社長という立場にある者は、この正しい認識を基盤として、自社の顧客サービス体制をいかに整備するか、またそれをどのように指導し、具体的な成果へと結びつけるかを真剣に考えるべきである。それこそが経営者の本分であり、責務である。
「顧客サービス」と一言で言っても、会社全体が顧客指向一辺倒になるのは簡単なことではない。実際、ある社長がこう語ったことがある。「一倉さん、うちの会社は仕事と技術第一主義から顧客第一主義に変えて一年が経ちましたが、正直なところ、具体的に何をすれば本当の意味で顧客第一になるのか、まだよく分からないのです」と。この言葉が示す通り、顧客第一を実現する道のりは決して平坦ではない。
では、これを実現する道はどこにあるのか。その答えは明快だ。社長自らが常に顧客のもとを訪れ、我が社のサービスの至らない点や行き届かない部分を率直に教えてもらい、それを改善していけばよい。この繰り返しが、真の顧客第一主義を形作る基盤となる。
顧客からの苦情がなくなったとき、初めて顧客サービスが及第点に達したと考えればよい。ただし、これは極めて難しいことである。なぜなら、サービスというものは受け手である顧客の視点から見れば、「これで十分」という境地に達することがほとんどないからだ。常に改善と向上が求められるのが、顧客サービスの本質なのである。
組織は「顧客の要求を満たすための体制」であるべき
企業が成果を上げるためには、顧客の要求を満たすことが不可欠だ。社内の行動や考え方も、すべて顧客に始まり、顧客に帰結するのが理想のはずだ。しかし、現実の企業はしばしば顧客視点を見失い、「我が社」という内向きの都合に囚われがちである。結果、顧客の期待に応えられず、不満や怒りを招き、売上を落とす悪循環に陥るのだ。
これはなぜか。第一に、企業は本質的に人間の集団であり、人は自己本位に傾きやすい。加えて、顧客は日常の業務の中に存在しないため、ついその存在が忘れ去られることが多い。そして、内部での仕事の効率化や組織論が重視され、顧客ではなく社内の都合が優先されてしまうのだ。
このような内部中心の組織論に固執することは、企業にとって大きな害を及ぼす。「組織論」が日常の繰り返し作業に焦点を当て、そこだけに没頭してしまうと、企業は成長の方向性を見失ってしまう。内部管理のみに注力して、顧客のニーズがどこにあるかを見落とせば、企業の未来は不透明になる。
顧客サービスを体現する組織へ変革するには
正しい組織の認識とは、「顧客に正しいサービスを提供するために、我々はどのような体制と行動が必要か」を問い続けることだ。経営者は、顧客のもとに足を運び、自社のサービスに改善が必要な点を率直に教えてもらう姿勢を持つべきである。具体的には、顧客からの不満やクレームを改善し続けることが、顧客サービス体制を整えるための重要な手段だ。
企業全体が顧客第一主義にシフトすることは容易ではないが、経営者が顧客の声を直接聞き、社内にフィードバックを続けることで、企業は顧客視点に立った成長ができるようになる。
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