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「社長の決定や指令は守らなくてよい」という教育をしていないか

B社を訪問し役員会に出席した際、B社長が日頃から「こうしたい」と話していた内容について、社長の決定事項として役員に指示を出すよう提案した。

しかし、B社長は指示を出そうとしない。そこで、「社長、方針を変えたのですか?」と尋ねると、「変更していない」という答えが返ってきた。続けて、「では、急がなくていいのですか?」と聞くと、「急ぎたい」という返事だった。

B社長の考えが理解できなくなってしまった。やりたいのであれば、指示を出して実行させればいいはずだからだ。それに、私自身もその意見には賛成していたのだからなおさらだ。

「どうしたのですか」と詰め寄ったところ、B社長から返ってきたのは「私が指示を出しても、実行してもらえなければ意味がない」という答えだった。これでは話が進まない。それまでも何度か訪問する中で、社長の優柔不断さに苛立ちを感じていたが、実際にはB社長の内心として、「指示を出しても行動に移されなければ意味がない」と考え、そのため決定を先延ばしにしていたのだった。

「そんな考えで、なぜ一倉を呼んだのだ」と言いたい気持ちになったが、だからこそ自分の気合が求められているのだと気づいた。「社長、一体何を言っているのですか。社長が意思を示さなければ、一体誰がやるのですか。あなたは会社の最高責任者であり、最高指導者ではないのですか。」

まず「こうする」という明確な意思表示をしなければならない。それがそのまま指令となるのだ。役員以下の者は、社長の意思を受け、それを実現するために存在している。もしこの指令をどうしても実行しない者がいるのなら、その人物は解任すべきだ。

しかし、首を切る前に、まず社長自身がやるべきことをきちんと果たしているかどうかを考えてほしい。これまで多くの指令が実行されなかったことにより、社長がそう感じているのかもしれないが、指令が実行されなかったときに、その指令を改めて再度発したことがあったかどうか。そして、それでも実行されなかった場合に、さらに「やれ」と強く言ったことがあったかどうか。それを何度繰り返したのか、一度振り返ってみてほしい。

社長の指令を意図的に無視したり、実行しようとしない役員や管理職はいない。ただ、実際のところは、日々の忙しさに追われているうちに、頭の片隅で気にしながらも手が回らずにいる、というのが現状なのだ。

だからこそ、やるまで何度でも繰り返し指示を出し続けるべきだ。それが社長の責任であり、至極当然のことだ。その当然のことを怠り、「指令してもやってくれなければ意味がない」と言うのは、明らかに怠慢だと断じざるを得なかった。

T社は建築会社だ。T社長の話によれば、「安全帽をかぶれ」という指令を出してから、現場を二年間巡回し続けて言い続けた結果、ようやく99%の従業員が安全帽をかぶるようになった、とのことだ。

私自身も実務の経験を通じて学んだのは、同じことを何十回でも、やるまで言い続けることの重要性だ。例えば、F社で資材課長をしていた頃、納品の現物と伝票がバラバラになっている問題があり、「現物と伝票は必ず同時に動かせ」という指令を徹底させるのに、毎日のように繰り返し指示を出し続けた。それに半年かかった。その間、「うるさい課長だ」と陰口をたたかれることも多々あったが、それでも諦めなかった。

指令を徹底させるためには、上に立つ者がこれほどの努力をしなければならない。やるまで言い続ける以外に方法はないという現実を理解し、それを実践する覚悟が求められるのだ。

「いくら言ってもやらない」と根負けして言うのをやめてしまったら、どうなるだろうか。それは結局、「社長の言うことは聞かなくても構わない」という態度を、結果的に周囲に教え込んでいることになるのだ。

これを「社長の言うことを聞いてくれない」と解釈するのは完全に間違っている。実際には聞いてくれないのではなく、「社長の言うことは聞かなくてもいい」という教育を社長自身がしてしまっているからこそ、社員はその教育通りに行動しているのだ。つまり、社員は社長の言うことを正確に聞き、社長の示した意図通りに行動しているのである。それも文字通り100%の精度で。

「中途半端なことしかしてくれない」と感じるのは、結局のところ、やり通すことを本気で求めていないからだ。そうである以上、「中途半端でいい」と言っているのと同じことであり、社員はその指示通りに行動しているに過ぎない。だからこそ、一度打ち出した方針や指令は、実現するまで言い続けるべきだ。それを怠れば、会社は永遠に良くならない。

いったん打ち出した方針や指令であっても、状況の変化や必要性の消失により変更や中止が必要になる場合は、必ず正式にその変更や打ち切りを宣言しなければならない。曖昧なまま放置すれば、混乱や信用の失墜を招くだけだ。

以上のことを実行しなければならないというのは、あくまで社長の基本的な態度や責任を指している。しかし、現実にこれを実現しようとすれば、さまざまな大きな問題が立ちはだかっているのが実情だ。それらを乗り越えるためには、単なる意識改革だけではなく、具体的な仕組みや方法論が必要になる。

社長は常に忙しく、さまざまな指令を次々に出さなければならない立場にある。同時に、目の前にある新しい仕事や課題もどんどん処理していかなければならない。これが社長という立場の宿命であり、その責任の重さでもある。

その結果、いったん出した指令を忘れてしまい、進捗のチェックをしないまま放置される指令が数多く生まれる。不実施のまま時間が経過すると、社員たちには「社長の指令は実施しなくても問題ない」というメッセージを間接的に伝えることになる。これは組織全体に悪影響を及ぼし、指令の重みや信頼性を失わせる要因となる。

このようにして社長の指令が実施されないまま放置されることで、会社に与えるデメリットは計り知れない。その影響は、想像をはるかに超える深刻なものとなり得る。もしこれらの指令が適切に実施されていたなら、会社の業績や効率は大きく改善し、現在とは全く異なる成果を上げていたことは間違いない。

この問題をどう解決すればいいのか。本書の中でも、この課題に対する解答は重要な狙いの一つとなっている。その具体的な解決策として、「社長は秘書を持て」「指令は必ず文書で」「計画書のチェック」などの項目で詳しく述べられている。また、それ以外にも、折に触れてさまざまなケースについて説明し、解決のヒントを示している。

これらの方法は、私自身が実務の現場で経験し、実際に試してきたものだ。そのため、複雑で煩雑なものではなく、実務に即したシンプルで取り組みやすい内容となっている。そして、それらの方法が意外なほど効果的であることを、私自身の経験を通じて確信していることを付け加えておきたい。

「社長の決定や指令は守らなくてよい」という教育をしないための指針

指令の徹底は社長の責任

社長が会社の最高責任者として指令を出したなら、それを実行させる責任も社長にある。しかし、社長自らの指令が実施されていない場合、社員が指示を守らないという問題だけでなく、社長がその徹底を怠っていることが根本の原因になっている場合が多い。社員に何度も指令を繰り返し、やるまで言い続ける姿勢を見せることで、初めて指令は社内で定着する。

指令を何度も伝える重要性

実行されないからといって指令を諦めてしまうと、「社長の指示は守らなくてよい」という無意識の教育をしていることになる。社員が社長の指示を「守らなくても良い」と解釈するようになれば、会社全体の統制が失われ、目標達成も困難になる。例えば、ある建築会社の社長は「安全帽をかぶれ」という指示を徹底させるために、2年にわたって指導を繰り返し、最終的に9割以上の現場で徹底された。こうした地道な繰り返しが、指令を浸透させるために不可欠である。

指令を放置することが及ぼす悪影響

指令を一度出して放置すると、社員は「社長の指令は無視してもよい」と捉えかねない。これが続くと、社長の言葉が軽く扱われる風潮が社内に蔓延し、指令の実行率が下がるばかりか、業績も低下していくことになる。また、あいまいな指令や中途半端な指示は「適当で良い」という誤ったメッセージを発信することにもつながるため、指令が出された際には、その終了や変更を明確に伝えることも重要である。

忙しい社長のための指令管理の方法

社長が忙しく、多くの指令を管理するのが難しい場合、次のような方法で改善が図れる:

  1. 秘書の活用:指令の進行状況や確認を秘書に任せる。
  2. 指令の文書化:指令は口頭だけでなく文書で明確に伝え、社員に常に目に触れる形で周知する。
  3. 計画書のチェック:指令の進捗状況を定期的に確認し、改善が必要な場合は早めに対策を講じる。

まとめ

会社の統率と目標達成のためには、社長の指令が適切に実行されることが欠かせない。社員が社長の指示を守らないのではなく、社長がその徹底を怠っている場合が多いことを認識し、指令が実施されるまで根気よく伝え続けることが求められる。また、秘書や文書化といった具体的な手段を通して指令を管理し、会社全体に徹底させることが、結果として業績向上に直結する。

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