- 社長の指示が処理内容を決める
コンピュータは事業経営を支えるための道具であり、事業そのものがコンピュータに従属するわけではない。
しかし、この基本を理解できていないコンピュータ技術者は少なくない。その典型的な発想が「コンピュータの稼働率を最大化する」というものである。
さらに、社内の人々がコンピュータに詳しくないことを逆手に取り、不必要なプログラムを次々に作成し、役にも立たない数字を延々と生成しては情報の洪水を引き起こす者もいる。この洪水が大きくなるほど、まるでコンピュータを効果的に活用しているかのように錯覚してしまうのだ。
そのため、社長は「コンピュータに入力する情報はすべて社長の承認を必要とする」と明言し、まずは無駄な利用を抑えるべきだ。そうしなければ、いざ本当にコンピュータを活用しなければならない場面で「容量がいっぱいなので使えません」といった事態に陥る可能性がある。
このような状況に陥れば、「もっと大型のコンピュータが必要だ」という話になりかねない。その結果、無駄な費用が膨れ上がるだけでなく、大量の紙屑が生まれるという愚かな事態を招くことになるのだ。
ところで、「忙しい社長がコンピュータに何を処理させるかまで決めるのか」と疑問に思うかもしれない。しかし、その心配は不要だ。実際にコンピュータにかける情報の種類は、それほど多くないからである。
主なものは以下の四つに分類される:
- 純粋経理的処理
これは完全に純粋な経理処理でなければならない。 - 技術計算
必要に応じて自然と決まってくる分野だ。 - 統計
情報の分析や傾向把握を目的としたデータ処理。 - 日常業務の管理
日々の業務を効率的に管理するための処理。
これらがコンピュータに任せるべき主要な情報処理の範囲となる。
上記以外の処理は、むしろ例外的なものに過ぎない。そして、特に重要なのが「統計」と「日常業務の管理」である。この点については具体的な内容を後述するが、社長がそれらの情報処理を決定する際には、それがどのような意味を持つのか、誰がその情報を見るのか、そしてどのように役立つのかをしっかりと確認する必要がある。
さらに、「本当に役立つ」と確認できない限り、その処理を許可してはならない。「何かに使うかもしれない」といった曖昧な理由では、許可すべきではないのだ。
これを徹底しないと、以前述べたカメラ問屋の例のように、毎月分厚い統計資料を作成するだけで終わり、それが全く役に立たないという事態が発生する。中には厚さ10センチにも達する資料を延々と作るケースもあり、これでは無駄そのものである。
もう一つ、社長が理解しておくべきなのは、プログラマーの特性だ。私は彼らを「植木職人」と呼んでいる。それは、同じ機械を使い、同じ情報を処理する場合でも、プログラマーごとにプログラムの組み方が全く異なるからだ。
これは、植木職人が同じ木を刈り込む場合でも、他人の手入れを気に入らず、自分の美意識に基づいて刈り込むのと同じだ。最先端の科学技術であるはずのコンピュータに、こんなにも原始的で職人的なプログラマーが関わるとは、まったく神様も面白いことをするものだ。
コンピュータ業界では、「プログラムの標準化は不可能だ」という奇妙で間違った通説が存在している。この考え方が、深刻なプログラマー不足を引き起こし、結果としてプログラマーたちを増長させている。そして、この状況がコンピュータメーカーの販売における頭痛の種となっているのだから、なんとも皮肉な話だ。
プログラムの標準化は可能だし、むしろ必須の取り組みである。ただ、それを断固として推進する経営者が存在しないだけの話だ。
植木職人的なプログラマーのもう一つの特徴は、何が何でも「完璧な管理」を追求しなければ気が済まないという性質だ。このこだわりが、不必要な資料や、管理する意味のないこと、さらには管理すべきでないことまでも次々とコンピュータにかける事態を招いている。
プログラム作成の手伝いをする際、プログラマーが自分の頭で考えたどうしようもない資料を持ち出してくる場面によく出くわす。彼らはそれが自分の役割であり、積極的に仕事をしている証拠だと信じ込んでいるのだ。そのたびに「指示した以外のものは作るな」と叱りつける羽目になる。経営者として、このようなプログラマーに振り回されてはならない。
2. 顧客最優先主義
コンピュータは事業経営を支えるための道具であり、経営のニーズに沿って活用するのが当然だ。そして、事業そのものが顧客のために存在する以上、コンピュータの役割も顧客へのサービスを最優先に考えるべきである。
こんな当たり前のことが、プログラマーや技術者にはまるで理解されていない。彼らの最大の関心事は、いかにしてコンピュータを「有効に稼働させている」と自分で思い込むか、という点に過ぎないのだ。
その結果、彼らの関心は、より多くの情報を処理する方法や稼働率を最大化する手段に集中する。コンピュータを中心とした使い方を工夫し、稼働率を低下させるようなことは一切排除する。まるでコンピュータそのものが目的であるかのように振る舞うのだ。
その結果、コンピュータの都合で出荷指図書が二日遅れとなり、顧客に迷惑をかけるような事態が発生しても、彼らは「我関せず」といった態度を取る。こんなことになるくらいなら、むしろコンピュータなど無いほうがマシだと言える。
こうした事態を防ぎ、コンピュータを真に有効活用するためには、使用の優先順位を明確に定める必要がある。その優先順位は以下の通りになるだろう。
- 顧客サービスに関する事項
出荷指図書、納品書、見積書など、顧客に提供する書類が最優先。 - 日常業務の推進や会議に必要な資料
業務運営や意思決定に必要な資料。 - 計画業務に必要な資料
将来的な計画や戦略立案のためのデータ。 - 過去のデータ処理
アーカイブや参考情報としてのデータ処理は最後に回す。
このように優先順位をはっきりさせることで、顧客の満足度を確保しながら、業務全体の効率を高めることが可能になる。
現在進行中の計算があったとしても、それより優先順位の高い資料の計算が求められた場合には、進行中の計算を一時中断し、高い優先順位の計算を行う。これを「割込み」と呼ぶ。
この「割込み」を実現するためには、割込み制御機能を備えた機械が必要だ。同時に、その機能を活用できるようなプログラムをあらかじめ作成しておかなければならない。したがって、機械を購入する際には、「割込み機能が備わっているかどうか」を確認することが重要となる。
次に重要なのは、稼働率を低めに抑えることだ。「有効に使う」と称して無計画にプログラムを詰め込むと、システムが満杯になり、割込み処理に支障をきたす可能性がある。したがって、割込みがスムーズに行えるようにするためには、稼働率を必要以上に高めてはいけない。余裕を持った運用こそが、柔軟で効率的なシステム運用の鍵となる。
稼働率が高くなりすぎる事態が発生した場合、通常は大型機への置き換えを検討することが多い。しかし、安易にこれを行ってはならない。大型機への移行はコストがかさむだけでなく、本来の問題であるシステムの運用や管理の見直しを先送りにするだけの対症療法に過ぎないからだ。
こうした場合、大型機に置き換えるのではなく、小容量のコンピュータを複数導入するのが正しい選択だ。それぞれのコンピュータを特定の業務に「専用化」することで、効率的かつ柔軟な運用が可能となる。これこそ、システムを有効活用するための正しいアプローチである。
台数を増やすことには、以下のようなメリットがある:
- 機械の取替えやプログラムの組替えが不要
現行のシステムを維持したまま拡張できるため、時間やコストの大幅な削減が可能。 - 専用化により利用効率が向上
特定の業務に特化することで、必要なときに使える確率が高まる。 - 割込みの影響が軽減
業務が分散されるため、割込み処理による遅延や混乱が最小限に抑えられる。 - 故障時の影響が限定的
問題が発生しても影響を受けるのはその機械だけで、他の業務には支障をきたさない。
これに対し、大型化は多くの場合、「馬鹿の一つ覚え」のような選択肢でしかない。正しい判断は、分散と専用化による効率的な運用を選ぶことだ。
3. 専任オペレーターを使わない工夫
I社のオフィスコンピュータ(オフコン)の運用方法は実に見事だ。この会社では、プログラムに関する指示がすべて社長命令であることは言うまでもない。専任のオペレーターを設けず、業務の中にコンピュータの操作や活用を自然に組み込む工夫をしている点が特徴的だ。
I社では、日常の販売、生産、購買業務の中枢的な機能をコンピュータが担っているにもかかわらず、稼働率は驚くほど低い。これは二台のコンピュータを使い分けていることと、専任オペレーターを置いていないことによる。それぞれの処理事項には時間帯が割り当てられ、その時間内で担当者自身が処理を行う。どの作業も余裕を持って進められるのは、ムダなプログラムが一切存在しないからだ。もちろん、割込みが可能な設計になっているのは言うまでもない。
コンピュータメーカーの技術者が「これほど見事にコンピュータを使いこなしている会社は他にない」と舌を巻き、そのプログラムをすべて写し取っていったほどだ。I社の例は、工夫次第で専任オペレーターを置かずに効率的な運用が可能であることを示している。我々にとって、これは非常に貴重な教訓となる。
4. 例外事項はコンピュータにかけない
プログラマーには完璧主義者が多い。そのため、現行のプログラムでは対応できない例外事項(これを「例外」と呼ぶ)が発生すると、それを何とかしてコンピュータに組み込もうと躍起になる。そして「こんなプログラムを組みたい」「あんなプログラムを追加したい」と社長に提案してくる。しかし、ここで「イエス」と答えてはいけない。「今のままでほとんどの処理が対応できている。新しいプログラムは必要ない」と断固として許可しないことが重要だ。これが、システムをシンプルで効率的に保つ秘訣である。
例外を許可してしまうと、いわゆる「コンピュータ公害」が発生する。プログラムが複雑化し、やがて現在の機械では処理しきれなくなり、さらに大型の機械が必要だという事態に陥る。これを避けるためには、例外事項は人間が処理するという原則を徹底するべきだ。例外をコンピュータに押し付けるのではなく、柔軟な判断が求められる場面こそ人間の役割なのだ。
5. 常に誤りと不正が発生するものと知れ
コンピュータを導入する際、しばしば手書き業務との並行処理を行うことがある。しかし、この短期間の並行運用でさえ、データが一致しないことがほとんどだ。これは、誤りや不正が人間の手作業やシステム内で必ず発生するものだからだ。完全な正確性を期待するのではなく、誤差や不正を前提としてシステムを構築し、運用する心構えが必要である。
コンピュータの誤りの多くは、データの打込みミスに起因する。このミスの頻度については、「全体の0.5%程度」という意見もあれば、「一万回に三~四回程度」とする意見もある。こうした誤りの確率をめぐる議論は暇な人に任せておけばよい。我々が本当に心得ておくべきなのは、コンピュータは人間が作り、そして人間が使う以上、誤りは必ず発生するという現実だ。そして、その誤りを完全に防ぐ方法は存在しないという認識を持つことである。
誤りを完全に防ぐ方法がない以上、その隙を利用したコンピュータ犯罪が発生する可能性は避けられない。したがって、「誤り」と「犯罪」は必ず起こるものだという前提で、コンピュータを運用する必要がある。「コンピュータが出した数字だから間違いない」という盲信は危険であり、こうした考え方は徹底的に捨て去らなければならない。データの妥当性を常に疑い、確認する姿勢こそが不可欠だ。
まず重要なのはチェックだ。特に重要なのは、対外的なデータの照合である。具体的には、以下の二点が挙げられる。
- 売掛残高の確認
自社の売掛残高と、得意先から受け取る「残高証明書」を照合する。 - 預金残高の確認
自社の預金残高と、銀行から提供される残高データとの一致を確認する。
これらのチェックは、定期的に、あるいは必要に応じて確実に行わなければならない。これによって、データの誤りや不正の早期発見が可能となる。
次に重要なのは、在庫のコンピュータ残高と現物棚卸の照合だ。このチェックを怠らずに行うことで、データの誤りや不正行為のかなりの部分を未然に防ぐことができる。最低限、この基本的な確認を確実に実施することが、誤りと犯罪のリスクを大幅に低減する鍵となる。
社内的な誤りについては、それが発生しても「コップの中の出来事」に過ぎない。誤りが見つかった時点で、担当者が適宜訂正すれば済む話だ。この点においては、コンピュータを使用していようと、手書きで作業をしていようと、本質的な違いはない。重要なのは、迅速に誤りを発見し修正する体制を整えておくことである。
以上、コンピュータ運用における留意点を概観してきたが、最も重要なのは次の点だ。コンピュータを使うのは人間であり、決してコンピュータが人間を使っているわけではないという基本的な事実を忘れないこと。この原則を見失わず、人間主体の運用を徹底することが、システムの効率的かつ健全な活用につながる。
事業経営においては、コンピュータには事業に真に役立つ計算だけをさせるべきだ。稼働率を上げることを目的に、不必要で無価値なデータを大量に作らせるような行為は、厳に慎まなければならない。コンピュータは手段であって目的ではないという基本を常に念頭に置くべきである。
コンピュータを効果的に活用するための留意点を以下にまとめます。
1. 何を処理するかは社長が決める
コンピュータを導入した場合も、目的はあくまで事業のためであり、コンピュータ自体の稼働率を上げるために導入するのではありません。コンピュータにかける情報は、すべて社長の判断を通し、何を処理するかを慎重に決めるべきです。処理内容の選定基準は、社内で真に必要で役立つ情報を提供することです。これを徹底することで、不要な統計や資料が作成されて無駄な稼働が増えることを防げます。
2. 顧客最優先のコンピュータ利用
コンピュータの主目的は事業の効率化であり、その一環として顧客に対するサービスを最優先に位置づけることが重要です。具体的には、優先順位を以下のように決めます:
- 第一優先:顧客サービスに関する出荷指示書や納品書などの書類
- 第二優先:日常業務に必要な資料
- 第三優先:計画業務に必要な資料
- 第四優先:過去のデータ処理 このような優先順位を決め、状況によって「割り込み処理」ができる体制を整えておき、顧客の要望に即座に対応できるようにします。
3. 専任オペレーターを不要にする工夫
オフィス内で業務の中枢的な機能を持ちながらも、稼働率を抑え、必要な時だけ各担当者が操作できるようにすることで専任のオペレーターを不要にする方法もあります。これには無駄なプログラムを排除し、実際の使用シーンに応じた設定が必要です。
4. 例外的なケースは人間が処理
完璧主義にこだわるプログラマーは、例外的なケースまでプログラムに組み込もうとする傾向があるため、社長は不必要なプログラムの作成を厳しく制限すべきです。例外処理は人間が対処することで、無駄なプログラムを排除し、システムの安定稼働を確保します。
5. エラーや不正は必ず発生する前提での運用
コンピュータの出力が必ず正しいと信じ込まず、エラーや不正は避けられないものとして定期的なチェックが重要です。特に、売掛金や預金残高などの対外的な数字は定期的に照合することで、不正や誤りの早期発見が可能になります。
結論
コンピュータはあくまで人間の補助道具であり、事業の目的に沿って使われるべきです。経営に必要な情報を提供し、不要なデータ処理を避けることで、コンピュータの利用価値を最大限に引き出すことができます。
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