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何を計算させるか

コンピュータの活用範囲は限りがない。法則性が存在し、数値化が可能なものであれば、どのような事柄でもコンピュータで扱うことができるからだ。

しかし、事業経営に応用するとなると、その活用例は驚くほど限られている。単純で次元の低い事柄には多くの使い道があるものの、より高度で複雑な事柄においては、必ずしも有効とはいえない。それは、コンピュータが数値化可能な情報しか扱えないという、その本質的な特性によるものである。

事業経営の現実では、次元が高くなるほど数値化が難しくなり、その結果、コンピュータの処理対象から外れてしまう。

この避けられない制約を十分に理解した上で、コンピュータを効果的に活用する必要がある。では、具体的にどのような計算をさせるべきかについて考えてみよう。ただし、数値制御(NC)やロボット、技術計算といった分野はここでは除外する。

  1. 必須の単純計算

給料計算や請求書作成に代表される、日常業務で不可避的に生じる経理的な数値処理を指す。これらは次元の低い作業と見なせるもので、人間よりも機械に任せたほうが効率的だ。このような業務をコンピュータに委ねることで、人間は単純作業から解放され、より価値の高い活動に専念できる。

ここで注意すべき点は、コンピュータの膨大な数値処理能力を過信し、必要以上に複雑な処理をさせることだ。本来、一次処理(経理的処理)で十分なものを、無理に二次処理(一次データの組み替えや統計的処理など)に踏み込むケースが多い。もしそれが明確な利用目的を持ち、手作業の段階でもその有用性が実証されていたものであれば問題ないが、そうでない場合、かえって効率を損ねることになりかねない。

しかし、コンピュータに新たな計算を任せる際、有用性の検討が十分に行われていないことがほとんどだ。その結果、生み出されたデータや結果の中には、実際には何の価値もない、いわば紙屑同然のものが少なからず含まれているのが現状だ。

  1. 繰り返し業務の管理に活用する

工程管理や生産管理、購買管理、在庫管理といった、主に品物の流れを把握する業務が該当する。これらは従来、手作業で行っていた内容をそのままコンピュータで処理するように置き換えただけのものである。コンピュータを導入したからといって、管理手法そのものを劇的に変えることはできないため、基本的には従来の枠組みの延長線上での活用にとどまる。

だからこそ重要なのは、手書きで行っていた方法が本当に有効であったかどうかを見極めることだ。もし手書きの段階で既に役立たないやり方であれば、それをいくらコンピュータに置き換えたところで、やはり同じように役立たない。よくある「手書きではうまくいかなかったが、コンピュータに替えれば解決するだろう」という期待は完全に誤りであると認識しなければならない。人間が解決できない問題を、コンピュータが解決できるわけではない。その会社でこれまで成し得なかったことは、コンピュータを導入してもやはり成し得ないのだ。

したがって、「手書きでは有効に管理できていたが、手間がかかりすぎた」という場合にこそ、コンピュータを活用する意義が生まれる。こうしたケースで初めて、コンピュータはその能力を発揮し、実際に役立つ機械となるのである。

日常業務の管理が思うようにいかず、頭を悩ませている経営者にとって、「どうすれば日常業務の管理をうまく進められるのか」という問いは、何よりも知りたいテーマだろう。日常業務が混乱している状況では、「社長は外に出よ」と助言を受けても、「内部の混乱を収めない限り外に出られない」と言い訳せざるを得なくなるのが実情だ。

社長が外に出なければ、会社が繁栄への道を歩むことは決してできない。これは、コンピュータの活用以前の問題として、日常業務の管理に必要な数値処理とその適切な活用が欠かせないことを意味する。この点については、「仕事の流れを整備する」(本書285頁)で詳しく解説する。社長は内部の管理に縛られることなく、安心して外に出ることが求められるのである。

  1. 高収益化の情報を得る

コンピュータで扱える情報は、基本的に会社内部の過去の数字に限られる。この決定的な制約のもとでは、高収益化につながる情報を得る手段はさほど多くない。その中で注目すべき一つの分野が、顧客サービスに関する情報である。

K社は自動車整備工場であり、コンピュータを活用して顧客の車両の定期点検時期を知らせる仕組みを構築している。同社のガソリンスタンド専用コンピュータには、定期点検の情報だけでなく、オイル交換時期まで記録されており、それらの情報を掛売伝票に印字して顧客に渡す仕組みになっている。

顧客の物的施設における定期的なメンテナンス管理には、コンピュータの活用が非常に広い可能性を持っていると言える。忘れがちでルーズになりやすい人間の役割を、コンピュータに置き換えるべきだろう。さらに注目すべきもう一つの分野は、売上情報の活用である。売上データを効果的に分析し、経営の改善や戦略的な意思決定に役立てることは、収益向上に直結する重要な取り組みとなる。

L社は雑貨問屋であり、主要な得意先はスーパーマーケットだ。同社では、商品別売上高のABC分析を実施し、全社規模のデータと主要得意先であるスーパーマーケットごとのデータに分けて分析を行った。

全社の売上高ABC分析を検討する中で、L社長は上位売上品に品切れが多いことに気づいた。この状況を引き起こした原因は、「在庫をこれこれ以下に減らせ」という曖昧かつ杜撰な指令だった。分析を通じて、在庫管理の問題点が浮き彫りになったのである。

このような指令が出されると、在庫全体の枠内でデッドストックが大部分を占める一方、必要なランニングストックが過度に圧縮されてしまう。その結果、品切れが頻発するという問題が発生する。この誤りはL社に限らず、多くの企業で現実に見られる重大な管理上のミスといえる。

正しい指令は、売上高の順位に基づいて商品をいくつかのグループに細分化し、売上高が上位のグループほど在庫基準を高める形で設定することだ。また、在庫基準は「常時在庫」ではなく、「締切日現在の在庫」に対して適用するという点を忘れてはならない。締切日を明確に管理できれば、途中で一時的に在庫が増加するような事態も特に問題にはならない。

この方法を採用すると、一見在庫が増えるように見えるが、実際には品切れが解消されることで売上が増加する。その結果、在庫回転率も大きく悪化することはない。むしろ、効率的な在庫管理が売上拡大と適切な在庫循環を両立させることにつながるのだ。

L社では、私の提案により上位50品目の在庫を増やした結果、品切れが大幅に減少し、売上が増加した。もう一つの重要な取り組みは、得意先別の売上高ABC分析表と全社の総売上高ABC分析表を比較検討することである。この手法により、各得意先の特性や全体の販売状況をより深く理解することが可能となった。

この比較検討によって明らかになったのは、総売上高の上位品目でありながら、得意先別の定番商品に含まれていないものがかなり存在していた点である。一方で、総売上高では下位に位置する商品が、得意先の定番商品として採用されているケースも少なくなかった。これにより、売上データの偏りや得意先ごとのニーズとの不一致が浮き彫りになった。

得意先のバイヤーにこの分析表を提示し、上記の内容を説明したところ、「こうした情報がまさに欲しかった」との反応を得た。その結果、定番商品の入れ替えはスムーズに進み、一発で実現した。そして、売上高は翌月から着実に上昇し始めた。このように、データに基づく具体的な提案が即効性のある成果を生み出す好例となった。

このスーパーマーケットでは、商品の売上記録をコンピュータで管理していることは言うまでもないが、データのまとめ方に問題があった。具体的には、データが定番順に並べられた膨大で分厚いリスト形式だったため、実用性が低かったのである。これでは重要な情報を効果的に活用することが難しく、売上分析や改善の妨げとなっていた。

バイヤーがプログラムに注文をつけるどころか、知らないうちに作られたプログラムによって出力されたデータを使わざるを得ない状況だった。そして、そのプログラムを作成したプログラマーは、販売や事業経営についての知識を持っていなかった。さらに、社長や販売部長もプログラムの内容や設計に関与していない。このような状態で作られたプログラムが、事業経営に役立つわけがない。それは単なる「高級玩具」に過ぎず、本来の目的を果たせないのだ。

M社は子供服を製造するメーカーだ。衣類は「季節」「サイズ」「ファッション」という三つの要素を持つ、扱いの難しい商品だ。売れたとしても原反(生地)がすでに手に入らない場合が多く、逆に売れ残った場合は翌年に持ち越すことができない。したがって、シーズン中に売上を最大化するための取り組みは、これらの厳しい制約条件の中で繰り広げられる短期決戦である。

まず重要なのは原反の手当である。子供服の場合、売れ筋が早期に見極められれば、追加で原反を手配できる可能性が高い。つまり、売上を伸ばす鍵は、一にも二にも売れ筋商品をいかに早く発見し、迅速に手を打つかにかかっている。しかし、ここで注意すべきは、メーカー出荷データだけでは状況を正確に把握できない点だ。出荷された商品が店頭で売れずに滞っている可能性もあるため、データの解釈には慎重さが求められる。

信用できるのは店頭販売のデータだけだ。そこで、主要な取引先であるSスーパーにデータを提供してもらえないか交渉したところ、コンピュータ室長から驚きの返答があった。「せっかく作成したデータを、社内では誰も見てくれない。あなたの会社だけが興味を持っている。だから資料を持って行ってくれ」とのことだった。つまり、社内で誰も活用しないデータが、毎日ただ作られ続けている状態だったのだ。

借りてきたデータを品目別に整理し、週単位で一覧表に記録してみた。(データ自体が週単位でしか収集されていなかったためだ。)この一覧表を確認したところ、直ちに気づいたことが二つあった。

一つ目に気づいたのは、よく売れる商品は必ず初週や二週目から好調な売れ行きを示しており、滑り出しが悪い商品はその後も売れないということだ。二つ目は、売れる商品は販売期間が長く、売れない商品は寿命が短いという点だった。この二つの法則を把握したことで、次の対策が明確になった。これらのデータを参考にしながら、原反の追加手配を行い、生産計画の組み替えを実施したのである。

効果は驚くほど早く現れた。Sスーパーのバイヤーは、急に納入がスムーズになり、必要な数量も確保できるようになったことに不思議を感じた。「一体どうしているのか」と尋ねられたため、その方法を説明すると、「ぜひ見せてほしい」という要望があり、実際にM社まで足を運んでデータの活用方法を確認しに来た。しかも、それはバイヤー自身の会社から提供されたデータだった。バイヤーはその状況を見て、「うちもこんな形でデータを活用したい」と感心していた。

このような「コンピュータ笑話」は、至るところで見られるものだ。問題は、コンピュータの使い方を知らないことではなく、「どのような情報を収集すべきか」という基本的な設問が存在しないことにある。この設問が欠けているために、データは作られても活用されず、せっかくのコンピュータが有効に機能しない状況が生まれているのだ。

この設問が欠けていれば、コンピュータは単なる紙屑を生産する機械に成り下がってしまう。そして、残念なことに、「どんな情報を収集すべきか」という設問を持ち、それに基づいて活用できている会社は極めて少ないのが現実である。

実際のところ、コンピュータから収益向上につながる情報を得ようとしても、大きな期待を寄せすぎるのは誤りだ。その理由は、コンピュータの本質的な制約そのものにある。この制約を正しく理解することが必要だ。その上で、限られた条件の中でコンピュータの機能を最大限に発揮させる方法を模索することが重要なのである。

問題の本質は、いつの時代でもコンピュータ側にあるのではなく、常に人間側にあることを改めて強調したい。人間側の課題は、今なお極めて原始的な段階に留まっている。この「原始の世界」から抜け出すことは、コンピュータ技術者の役割ではない。むしろ、これを実現できるのは、そして実現しなければならないのは経営者自身である。経営者が主体的に取り組むことで初めて、コンピュータを真に活用できる体制が整うのだ。

コンピュータを事業経営に効果的に活用するには、その特質と制約を理解した上で、適切な計算と情報処理を行うことが重要です。以下に、事業経営におけるコンピュータの有効な活用方法をまとめます。

1. 必要不可欠な単純計算

給料計算や請求書の作成といった基本的な経理的処理は、日常的に必要となるため、コンピュータに処理させると効果的です。人間にとって手間のかかる作業を機械が引き受けることで、人間はより重要な仕事に専念できる環境を整えます。ここで重要なのは、不要な二次処理(データの組み替えや無意味な統計)を避け、実際に役立つ情報だけを処理することです。

2. 繰り返し業務の管理

コンピュータは工程管理や生産管理、在庫管理といった繰り返し発生する業務の管理にも有効です。しかし、重要なのは、「手書きで実際に役立っていた管理手法」をコンピュータで自動化することです。もし手書き時代にうまく機能していなかった方法であれば、コンピュータに置き換えても効果は期待できません。成功するには、既に有効性が証明された方法をコンピュータに委ねるという視点が不可欠です。

3. 高収益化の情報提供

コンピュータで得られる情報は過去のデータが中心ですが、活用次第で収益向上にも貢献します。例えば、顧客サービスとしての定期点検時期のお知らせや、売上情報を使った在庫管理が挙げられます。具体的には、売上高の上位商品に十分な在庫を確保するなど、在庫管理を売上データに基づいて行うことで、品切れを防ぎ、売上を伸ばすことが可能になります。また、得意先別の売上情報を活用して、顧客のニーズに即した商品の供給を調整し、売上を最適化する方法も有効です。

4. 設問を明確にする

コンピュータから収益向上の情報を引き出すには、「どんな情報が必要か」という設問が不可欠です。この設問が明確でないと、どれほど膨大なデータがあっても、それは単なる紙屑に終わります。例えば、商品別売上高のABC分析など、事業経営に直結する具体的な設問を定めることで、コンピュータの役割が効果的に発揮されます。

結論

コンピュータの真の活用は、経営者が「何を計算させるか」を具体的に決め、事業経営に役立つ情報だけを処理することにかかっています。これにより、コンピュータは高い効率で事業に貢献する道具として真価を発揮し、事業の質的向上を支えることができます。

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