S社の検査課は製造部に所属していたが、その実情は悲惨だった。どれだけ真摯に検査を行っても、製造部長が現れて不良品を確認し、「この程度なら問題ない」として合格品にしてしまうことが常だった。それだけにとどまらず、「不良品を手直ししろ」という指示が検査課長に下される始末だ。検査課長はいつも、「ここは検査課じゃなくて手直し課だ」と嘆いていた。
これは単に検査課の士気を下げる程度の問題では終わらなかった。顧客からは「S社の商品は品質が悪い」「加工が雑だ」といった批判が相次ぎ、信用を失う事態に陥った。その結果、他社製品よりも常に低価格で売らなければならず、会社全体に深刻な影響を及ぼしていた。
製造部長の態度は明らかに誤りであり、製造部長としての資質に欠けていることは明白だ。しかし、こうした状況を許容し、問題のある組織を放置してきた社長こそが、真に責任を問われるべき存在だと言える。
製造部長も人間である。生産実績を求められたり、納期に追われたりすれば、このような対応をしてしまうのも無理はない。加えて、検査課の基準は製造部門から見ると常に厳しすぎると感じられるものだ。そのため、こうした行動に拍車がかかるのも避けられない状況だった。
人間には弱点があるからこそ、そしてそれが顧客に不良品を提供する結果を招かないようにするために、会社内にも「三権分立」のような仕組みが必要になる。製造、検査、そして管理がそれぞれ独立し、互いに監視と調整を行える体制を構築することで、品質問題を未然に防ぐことができるのだ。
検査部門は、あくまで既定の検査基準に基づいて検査を実施する役割を担うが、その基準を自ら作成する権限は持たない。そして、検査で不合格とされた製品について、製造部門は一切異議を唱えることができない仕組みが求められる。
購買部門も同様で、購買命令や購買依頼がなければ注文書を発行することは許されない。さらに、注文書がない物品は受入部門で受け入れることができず、受け入れた物品であっても検査係の検収印がなければ経理部門は支払いを行うことができない。倉庫もまた、出荷指図書や出庫依頼書がなければ物品を出庫することができない仕組みになっているべきだ。こうした明確な分業と責任の区分が、組織全体の秩序と品質の維持に不可欠である。
もしこれが実現されていない場合、それは実務上の都合で一部が省略されているにすぎず、原則そのものが変わるわけではない。立法・司法・行政という三権分立の概念は、会社組織の中にも確固として存在しなければならない。それが欠ければ、組織そのものが実質的に崩壊してしまう点は、他のすべての組織と全く同じだ。
この仕組みがあってこそ、組織内の秩序が保たれ、相互牽制による不正の防止が可能になる。三権分立を取り入れることで、各部門が独立性を保ちながら責任を果たし、全体の健全な運営を支える基盤が築かれるのだ。
これは、組織運営における最も基本的なルールであり、このルールが原因で運営に支障が出たり、事業目的が阻害されたりすることはないはずだ。仮に問題が生じるとすれば、それはルールそのものではなく、「手続き」や「処置」の問題である。
具体的には、煩雑すぎる手続き、誤った責任と権限の分配、さらには「顧客サービス」を軽視した規定重視の姿勢や、形式ばかりを優先する予算主義といった要因が問題の根源である。こうした要素が引き起こす弊害は、三権分立という基本的なルールそのものとは無関係であり、むしろ運用の誤りや考え方の偏りが招いた結果と言える。
重要なのは、「仕事を円滑に進めるため」という名目で、この三権分立を崩してしまうような行為を決して許してはならないという点だ。この基本ルールを軽視することが、最終的に組織全体の秩序を損ない、深刻な問題を引き起こす原因となる。ここでの「勘違い」が生じないよう、常に慎重に運用されるべきである。
企業における三権分立の重要性
S社の検査課が製造部の下にあることで、不良品が安易に「合格品」として出荷される状況が生まれました。これは、検査の独立性が欠如しているため、製造部長の判断が優先され、品質管理が徹底されていないためです。この状況を改善するためには、企業内においても「三権分立」にあたる体制を整えることが不可欠です。
1. 企業内三権分立の必要性
企業における三権分立とは、検査(品質管理)、製造、購買、経理といった部門の独立性を確保し、相互に牽制し合うことで、不正や誤った判断を防止するための仕組みです。製造部が生産実績や納期を優先し、不良品を合格させることを防ぐため、検査部門は製造部から独立していなければなりません。検査部門が製造部の指示に従う体制では、検査の意味が失われてしまいます。
2. 各部門の独立と相互牽制
企業の三権分立では、次のように各部門の独立性を保ちながら相互にチェックが行われることが理想です。
- 検査部門は検査基準に基づいて判断を下し、不合格品に対しては製造部門の意見を受けずに判断します。
- 購買部門は購買命令や依頼がなければ注文書を発行できません。さらに、受入部門では注文書がないものの受け入れを行わず、経理部門は検査部門の検収印がなければ支払いを行いません。
- 倉庫部門では、出荷指示書や出庫依頼書がなければ出庫しません。
このような相互牽制があることで、各部門が自律的に機能し、業務の秩序が維持されます。
3. ルール遵守の重要性
「業務を効率的に進める」という理由で三権分立を乱してはならず、これは組織秩序の維持に欠かせないルールです。三権分立の仕組みを無視した場合、手続きが簡略化されても品質が低下し、顧客からの信用が失われるリスクが高まります。問題が生じた場合には、手続きや運用方法の見直しが必要であり、三権分立の基本ルール自体を緩めることは避けなければなりません。
結論
企業内における三権分立は、各部門が独立して職務を全うし、相互に監視し合うことで、不正の防止や品質の維持が図られ、顧客からの信頼も守られます。この秩序が守られることで、企業全体が安定的に運営されるのです。
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