MENU

伝票処理の誤りを防止する

大型の家電量販店を訪問した際、話題が偶然にも伝票処理の話に移った。問題は、仕入先からの納品書と自社の記録の数字が一致しないケースが多いという点だった。「たった2カ月でこれだけ発生するんですよ」と言いながら、担当者はその納品書の束をわざわざ見せてくれた。その束は厚さが約5センチほどにもなっていた。

この問題は、他社との取引だけに起こるわけではなく、社内でのやり取りにおいても同様に発生する。また、コンピュータ会計に移行する際、従来の手作業と並行して処理を行うことがあるが、両者の数字が一致することは極めて稀だ。伝票処理というのは、これほどまでに数字が合わないものなのだ。その原因には、さまざまなミスが複雑に絡み合っている。

記入漏れ、記入ミス、転記ミス、紛失、重複、現物との数量の不一致、現品確認ができないなど、さまざまな要因による伝票の問題が後を絶たない。これらのミスや手違いが絶えず発生し、次々と新たな課題を生み出している状況だ。

「たかが伝票」と思われがちだが、実際にはこれら全てが金銭に直結している重要なものだ。この大切な伝票のほとんどは、現場の最末端で働く人々によって発行され、送達され、受け取られていることを改めて認識する必要がある。

そうした現場の人々に対して、伝票が何であるのか、どのように処理すべきなのかといった基本的な教育が、ほとんど行われていないのが現状だ。伝票の重要性や取り扱い方に関する知識が欠けたまま業務が進められていることが、多くの問題の根本的な原因となっている。

全くの素人に対し、ほとんど教育を施すことなく、会社の中で最も重要な書類の一つである伝票の取り扱いを任せているのが現状だ。冷静に考えると、このような状況が全国の企業で常態化しているのは、不思議であり、ある種の奇妙さすら感じる現実だ。

さらに驚くべきことに、この問題に触れた文献や論文を目にしたことが一度もない。それだけに、この状況が放置されていること自体、ますます不可解であり、不思議と言わざるを得ない。

手作業に加えてコンピュータの普及が進むにつれ、誤りはむしろ増加し、終わりの見えないトラブルが次々と発生している。この問題にどう対処すればよいのだろうか。他社から起因して自社に影響を及ぼすトラブルを完全に防ぐのは難しい。しかし、自社内で発生する問題については、完全な解決は難しくとも、その大部分を減らすことは十分可能だ。

かつて私がF社に勤めていた頃のことだ。資材課長に任命された際、帳簿上の在庫と現物棚卸の数字に大きな差異があることを発見した。その差額は、一年間で会社の月商に匹敵するほどの金額だった。いくらなんでも大きすぎる。その額は、社員20人分の年間人件費に相当する規模だったのだ。

私は経理課長と協力しながら、課員たちを励ましつつ、伝票を一枚一枚丹念にチェックしていった。それも、通常の業務をこなしながらの作業であり、課員たちの愚痴や不満は聞き流しつつ取り組んだ。一か月以上にわたる地道な調査だった。

調査を進める中で、さまざまなミスが次々と明らかになり、それらを一つずつ修正していった。その結果、差異は数分の一にまで縮小された。これほどまでに伝票処理には多くの誤りが潜んでいるのだ。

次に、伝票処理と現場での取り扱いに関する基準を定め、これを徹底させることにした。主なポイントは以下の通りだった。

以下に、伝票処理と現場での取り扱い基準の主なポイントをまとめる。

  1. 伝票の記入
  • 記入事項は定められた項目をすべて記入する。
  • 月日は必ず起票した日付を記入。
  • 品名は正確に記載(省略やニックネームは禁止)。
  • 数量は個数で記入(「ペア」などの曖昧な表現は禁止)。
  • 単価と金額を記載(ただし、メッキや塗装品の外注加工品は例外)。
  • 仕入先や外注先の納品書で必要事項が記載されていない場合は検収しない。
  1. 口頭注文の取り扱い
  • 口頭での注文は禁止。やむを得ず電話や口頭で注文した場合は、直ちに注文書を発行し、「口頭注文分」と備考欄に記入する。注文書のない分は検収しない。
  1. 現物と伝票の同時移動
  • 現物と伝票は常に同時に動かす(伝票は現物の影という教育を徹底)。
  • 数量は現物と伝票が必ず一致するよう厳守。例えば、一日に複数回納品する場合や複数台の車で納品する場合、それぞれに分けて納品書を発行し、備考欄に詳細を記入させる。この運用徹底には約6か月を要した。
  1. 転記済伝票の管理
  • 転記済の伝票には必ず「転記済」の印を押す。
  1. 外注品の不良対応
  • メッキや塗装などの外注品で不良品が発生した場合、不良品も同時に返却させる。例えば、100個支給した場合は「加工済納入97個、返品3個、計100個」と明確に記録し、備考欄に記載する。従来のように外注先に不良品を残すことを禁止。
  1. 現物支給の有償化
  • メッキや塗装を除く全ての現物支給は有償とする。
  1. 納品書の正しい処理
  • 納品書の記入方法や処理基準を明確化。対外的なトラブルを防止し、内部問題も最小化するため、正しい処理方法を次節で詳述。
  1. 伝票紛失防止策
  • 各担当者に状差しを配布し、未処理伝票は必ずこれに保管する。差し替え時にはポケットを確認し、管理を徹底する。

これらの基準を定め、徹底することで伝票処理の精度を大幅に向上させた。特に現物と伝票の一致に関しては、時間をかけて根気よく指導を続けたことで定着させた。

「うるさく言われたくなければ、言われた通りにやれ」と徹底的に伝える。このような取り組みを成功させる秘訣は、確実に実施されるまで言い続ける以外にない。「何度も指示したのだから、できないのは部下が悪い」と考えるようでは、管理職の資格はない。だからこそ、管理職自身に対しても、繰り返しその責任を自覚させる必要がある。

そして、もし管理職がこれを怠るようであれば、それは管理職だけの問題ではなく、社長の指導が不十分であると認識すべきだ。トップの姿勢と指導力が、最終的には組織全体の行動に反映されるのである。

以上のような管理は、買い手の立場だからこそ実現できた側面がある。しかし、売り手の立場になると事情は異なる。たとえば、価格が未決定のまま、仕事に支障が出ることを避けるため、価格未記入の納品書で現物を納めざるを得ない場合がある。また、三度数えて納入したにもかかわらず、「数量が違う」と指摘されることもある。

さらに、コンピュータシステムを採用している取引先では、指定された数量でないと検収してもらえない。そのため、予備品を用意して納品するが、持ち帰った現品の処理を誤るケースが発生する。返品伝票と現物の数量が一致しない問題も起きやすく、こうした管理の不備が売り手側でもさまざまなトラブルの原因となっている。

納品書の日付を取引先の都合で勝手に変更されることもある。他社の品物を誤って返されるといった問題も後を絶たない。こうした事態が次々と発生し、最終的にはこちらが泣きを見る羽目になるのが常だ。売り手としては、不公平感や理不尽さを感じながらも、取引関係を維持するためにそれを受け入れるしかないという現実がある。

以上のような厳格な基準を徹底して実施しても、なお数字が完全に合わないことは珍しくない。しかし、それを理由に基準を緩めたり怠ったりすれば、最終的には混乱が収拾不能に陥る。加えて、対外的な信用を失う危険性もある。この問題が単に社内のトラブルに留まらず、取引先や顧客との関係に悪影響を及ぼす可能性があることを理解しなければならない。

伝票処理の誤り防止は、社内外の信頼維持において非常に重要です。以下に、伝票処理における誤りを防止するための実践的な基準と方法をまとめます。これらを導入・徹底することで、処理ミスの削減が期待できます。

伝票処理の基本ルール

  1. 伝票の正確な記入
  • 日付、品名、数量、単価、金額を正確に記入し、略称やニックネームは使用しない。
  • 数量は必ず個数で記入し、抽象的な表現(例:「ペア」など)は避ける。
  • 記載事項が不足している納品書は受け付けず、検収も行わない。
  1. 口頭や電話注文の対策
  • 電話や口頭での注文は原則禁止し、どうしても必要な場合はすぐに正式な注文書を発行し、備考欄に「電話(口頭)注文」と明記する。注文書のないものは検収しない。
  1. 現物と伝票を必ず同時に動かす
  • 「伝票は現物の影」と教育し、必ず現物と伝票が一致するようにする。納品時に伝票を忘れがちな場合も、徹底的に指導し、伝票のない現物は受け取らない。
  1. 転記済の確認印
  • 転記済みの伝票には必ず「転記済」スタンプを押す。
  1. 外注品の不良返品の記録
  • 外注加工品については、不良品が発生した場合、その不良品も必ず返却させる。返品分を伝票に記載し、数量を一致させる。
  1. 未処理伝票の保管と管理
  • 各担当者に伝票の保管ポケットを割り当て、未処理伝票は必ずそこに保管。差し替え時には、ポケット内の伝票も見直す。

伝票処理ミス防止のための教育と指導

部下に繰り返し指導し、「守らないと、より面倒なことになる」ことを徹底させます。管理職がこのルールを実施しない場合、社長や上司からの指導が不十分であると考える必要があります。

外部との連携のための対応策

売り手側や仕入先との調整においてもトラブルが生じがちです。例えば、価格が確定していない納品書で商品を納めるなど、ミスの温床になりやすいです。こうした場合、「担当管理職が訂正伝票を発行する」といった規定を設け、後から調整できる体制を整えるのが望ましいです。

実施後のフォロー

厳格にこれらの対策を実施しても、100%誤りがなくなるわけではありませんが、対策を講じない場合、トラブルは拡大し、信用の低下にもつながります。伝票処理は会社の財務に直結するため、定期的なチェックと改善が欠かせません。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

コメント

コメントする

CAPTCHA


目次