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不慮の災害は助けてやれ

伊勢湾台風の際、近鉄社長・佐伯勇の決断については、社長学シリーズ第九巻「新・社長の姿勢」で取り上げたが、その当時、近鉄の社員とその家族合わせて700人が甚大な被害に見舞われた。

ヨーロッパでこの報告を受けた佐伯社長は、即座に「罹災した社員の救済は、前例にとらわれず徹底的に行え」という内容の電報を送り返した。

佐伯社長が特に「前例にかかわらず」と強調したのは、このような状況では、社長から特別な指示がなければ「前例に従う」という対応に終始してしまうことが多いからだ。それでは真の救済にはならないと判断した結果の発言である。

700人もの人々が家を失い、生活の基盤そのものを奪われ、途方に暮れている状況である。前例通りの見舞金を支給するだけでは、とても真の救済とは言えない。佐伯社長はその現実を深く理解していた。だからこそ、「前例にかかわらず徹底的に」という指示を下したのだ。

佐伯社長のこの指示によって、700人の社員とその家族は生活の危機を乗り越えることができた。佐伯社長の存在は、まさに「地獄に仏」と言えるものだった。この恩義を胸に刻んだ社員たちは、後のムロ風の復旧ではなく、ゲージ統一という大事業において、全力を尽くし、死にもの狂いで奮闘し、その温情に応えたのである。

この出来事は、被災を免れた社員たちにとっても、佐伯社長への大きな信頼感を抱く契機となった。「自分たちの社長は、社員が生活の危機に直面したときには必ず助けてくれる」という安心感と信頼が、社内全体に広がったのである。

「ストのない近鉄」という評判は、まさにこうした社員の社長に対する揺るぎない信頼感があってこそ成り立つものである。社員の生活を守ることは、社長として最も重要な責任の一つだ。それを社是として掲げる企業も少なくないが、この責任は単に給与の支給や業績の向上だけで果たされるものではない。不測の災害に直面した際にこそ、その真価が問われるのである。

慶弔規定などの制度自体は意義があるが、所詮それは「形式的なおつきあい」の域を出ないものだ。天災や人災で家を失ったり、大怪我を負ったりする事態はもちろん、本人の長期療養や家族の長期入院なども、生活を直撃する深刻な危機である。こうした非常事態にこそ、会社や社長の本当の役割が試されるのだ。

実際のところ、長期入院に対して健康保険はほとんど役に立たないのが現実だ。差額ベッド代や付添人の費用が重くのしかかり、数か月もすれば生活が立ち行かなくなる。完全看護という制度も、現時点ではまだ完全に実施されておらず、家族への負担が大きい状況が続いている。

社員がこのような窮地に追い込まれたときこそ、社長は社員の生活を守るために救いの手を差し伸べるべきだ。それが社長としての社会的責任であり、本来果たすべき役割である。このような対応をするからこそ、社員は社長を信頼し、全力で会社のために働こうとするのだ。信頼関係が築かれるのは、まさにこうした場面での対応次第なのである。

最も悲しい事態は、社員の死亡である。Y社では、「理由を問わず、社員が死亡した場合には、遺族に対して長期的な援助を行う」という方針を採用している。このような取り組みは、遺族に対する会社の責任を明確に示すものであり、社員やその家族に安心感を与える重要な施策といえる。

未亡人が再婚するか、子どもが成人するまで、社員が生存して会社で働き続けていた場合に近い金額を遺族に支給する仕組みである。これは、社員の家族にとってこれ以上ない安心感をもたらすものだ。さらに、Y社長はこう述べている。「会社創立以来、20年近く経ちますが、これまでに該当するケースは一度もありません。」この言葉は、制度の存在がもたらす安心感と同時に、社員の健在が続いている状況の表れともいえる。

社員とその家族のために、こうした制度を設けることは、人道的な観点だけでなく、社員が安心して働ける環境を提供するという大きなメリットを持つ。その結果、社員のモチベーションや忠誠心が高まり、会社全体の生産性や結束力の向上につながることは明らかだ。このような制度の導入は、経営にとって大きなプラスとなることは疑いようがなく、私はぜひともその採用を強く勧めたい。

不慮の災害など、社員が予期せぬ生活の危機に直面したときこそ、会社と社長がその支えとなることが重要です。以下に、社員の生活を守るための具体的な対応方針をまとめます。

1. 災害時の救済措置

  • 前例に捉われない決断: 災害時に、会社は「前例に従って」という対応に陥りがちですが、これは本当の救済にはつながりません。近鉄の佐伯社長の例に見られるように、「前例にかかわらず徹底的に支援を行う」という指令が大切です。
  • 柔軟な対応の準備: 社長が明確な指示を出すことで、現場が安心して救済措置を講じられます。災害時の対応には、住宅や生活費の支援、特別手当、生活再建へのサポートが含まれるべきです。

2. 社員と家族の生活防衛

  • 長期支援の制度化: 社員が災害や事故、大病などで長期の入院や療養を要する場合や、家族の長期的な医療負担が生じた場合に備えて、生活支援制度を設けることが有効です。健康保険や社会制度では不十分な部分を会社が補う体制をつくります。
  • 死亡時の遺族支援: 社員が亡くなった場合に備え、遺族への長期支援を制度化することは、社員が安心して働ける土壌をつくります。再婚や子供の成人まで支援を続けることで、遺族の生活が安定し、社員の安心感にもつながります。

3. 社内全体への信頼と安心の提供

  • 社長の姿勢と企業の信頼感: 災害や大きな困難があった際に、迅速に支援を行う姿勢は、社員やその家族からの信頼を生み出します。「会社は社員を見捨てない」という信頼が生まれることで、社員が仕事に安心して取り組めるようになります。
  • 支援制度の周知と評価: 社員が救済制度を利用することをためらわないよう、会社全体でその存在や利用意義を周知し、支援することを評価する企業文化を育てることが大切です。

4. 災害や緊急支援を可能にする制度の導入

不慮の事態に備えた支援体制を明確に整えることで、社員や家族の生活の危機に会社が対応できるようにすることは、人道的な義務であると同時に、社員の士気向上と長期的な企業の成長にも寄与します。

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