市場に対するリスクは、常に自社の事業構造における偏りに起因する。偏った構造は変化への耐性が低いためだ。
高度成長期には、どんな事業構造であれ、何をやっても十分に稼ぐことができた。しかし、石油ショックを経て高度成長が終わってからすでに五年が経過している。それにもかかわらず、高度成長期の甘えを引きずり、自社の危うい事業構造を見直さずに放置している経営者は依然として多い。
これは社長の怠慢と言われても仕方がない状況だ。そもそも、社長以外の誰がこの課題に取り組むべきなのかを考える必要がある。責任は他の誰でもなく、経営のトップにあることを自覚すべきだ。
「経営戦略篇」では、この偏りがもたらすリスクについて次の四つの視点から解説している。
一、単一業界への依存
二、単一商品の依存
三、特定の得意先への依存
四、内外作区分による偏り
これらの要素が事業構造の脆弱性を生む要因として詳しく取り上げられている。
本篇でも、いくつかの危険について断片的に触れている。(四)については後述するとして、ここでは(一)〜(三)の危険について、その危険度を判定する視点を示している。
一、売上全体のうち、特定の業界、商品、または得意先が60%以上を占めている場合、その偏重は非常に危険と判断される。
二、特定の業界、商品、または得意先が売上全体の30%以下であれば、安全性は高いと判断できる。
三、最も安全性が高いのは、事業が三つ以上の業界に分散され、それぞれの業界で高い市場占有率を確保しているか、またはランクの高い得意先を持っている状態である。
これらの基準はあくまで一般的なものに過ぎない。そのため、各企業は自らの業種や業態に応じた安全基準を設定し、その実現に向けて具体的な取り組みを進める必要がある。
一つの業界に依存するリスクがあるとしても、食品メーカーやアパレル産業のような業界では、簡単に他業界へ進出するのは現実的ではない。こうした場合、「強い商品を三つ以上持つこと」と「それぞれの商品の占有率が高い地域を一つ一つ確実に実現していく」という戦略が求められるだろう。
印刷業のように技術自体が商品となる業界では、戦略の焦点が異なる場合もある。その場合、「優良な得意先を多数確保すること」と「特定の得意先への依存を避け、売上全体に占める特定得意先の比率を10%以下に抑えること」が重要な目標となるかもしれない。
このように、自社の安全性を確保するためには、自らの事業における業界、商品、得意先に関して明確な安全目標を設定することが不可欠だ。その目標に向かって、一歩一歩着実に近づいていく努力こそが、長期的な安定と成長を実現する鍵となる。
明確な目標がないと、つい手を出しやすい業界や、売りやすい商品、接触しやすい得意先、競争の少ない地域に依存しがちになる。その結果、事業が偏り、リスクが高まる危険性が大きい。
私は、こうした偏りに陥り、苦境に立たされている企業を数多く目にしてきた。確かに、それは自然の成り行きと言えるかもしれないが、会社というものは自然の成り行きに任せていては、いずれ破綻する運命にある。だからこそ、社長自身の強い意思とたゆまぬ努力によって、この成り行きを逆転させ、会社の安全を確保しなければならないのだ。
企業が安定して成長を続けるためには、市場の危険分散が必要です。事業構造の偏りは変化に対して脆弱であり、特に単一業界、単一商品、単一得意先への依存が高い場合、リスクが大きくなります。
危険分散の指針
- 単一業界への依存
単一の業界にのみ依存する場合、業界全体の景気や変動に左右されやすくなります。最も理想的なのは、複数の業界にまたがって事業を展開し、各業界内で高い占有率を維持することです。 - 単一商品の依存
主力商品に売上の大半を依存する構造もリスクが高いです。特に競争が激しく、価格や需要が変わりやすい市場では、強力な商品を複数持つことが重要です。食品やアパレル産業のように業界をまたぐのが難しい場合でも、複数の主要商品を持ち、異なる地域での高い占有率を確保する戦略が求められます。 - 単一得意先への依存
売上の大部分が特定の得意先に依存している場合、もしその得意先との取引が終了したり減少したりすれば、会社全体に影響が及びます。印刷業などでは、特に優良得意先を多数抱え、どの得意先も売上全体の10%を超えないようにするなどの基準が有効です。
安全基準の一般的な指標
- 売上に占めるトップ業界・商品・得意先の割合が60%以上:極めて危険
- トップの割合が30%以内:比較的安全
- 3つ以上の業界や商品、優良得意先の確保:最も安全度が高い
目標と戦略
自社に合った安全基準を持ち、日々の戦略でこの基準に近づける努力が必要です。たとえば、単一の業界に依存せず複数の業界へ進出するか、商品群や地域を増やす方法が考えられます。事業が成り行きに任されていると、自然とやりやすい市場や得意先に依存する傾向がありますが、この偏りを避けるには社長自らが意思を持って市場戦略を展開し、危険を分散する必要があります。
最終的に、市場に対する危険分散を達成することで、企業の成長や存続の安定性を確保できるのです。
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