スキー宿の固定費は月額6万円で一定なので、収益を増やす方法を考える際には固定費を考慮する必要はない。むしろ固定費を気にしてはいけない。
固定費が一定である以上、利益を増やすには収益を増やす以外に選択肢はない。
理由は単純で、収益から固定費を引いたものが利益となるからだ。
では、収益を増やすためには何をすべきか。
スキー宿の収益、つまり粗利益に影響を与える要因は次の3つだ:宿泊料金、変動費、そして宿泊客数。この3つが変化する要素であり、注目すべきポイントだ。これらを具体的に検討すればよい。
〈第3表〉を見てほしい。ここでは、客数と宿泊料金の変化が粗利益にどのような影響を与えるかを一日単位で示している。たとえば、オフシーズンの宿泊料金が1,000円で客数が30人の場合、表の該当箇所を確認すると粗利益は21,000円となる。さらに、表の右上に記載された固定費6万円を差し引くと、その差額が損益を表す。つまり、この場合は39,000円の「赤字」になるわけだ。
つまり、粗利益を21,000円以上に引き上げる方法を見つければ、その分だけ赤字を減らせるわけだ。何ともシンプルな考え方だ。
客を増やすための最も効果的な手段は、やはり「オフシーズンのサービス料金」という形で宿泊料金を調整することだ。この宿の経営者も長年の経験を活かし、「宿泊料金をどの程度下げれば、どれだけの客が増えるか」を慎重に検討している。
「宿賃を900円にすると、値引率が低く、おそらく客はそれほど増えない。多く見積もっても50人程度だろう。これでは粗利益は3万円にとどまる。では、800円に下げた場合、粗利益が3万円を超える、つまり60人以上の客を集められるだろうか。― この人数は十分に見込める。だが、700円まで下げるのは割引しすぎだ。よし、800円に設定しよう」。こういった考え方で判断すればよい。
どのような手を打てば粗利益がどれだけ変化するかを、事前に計算することが可能だ。これが「前向きの計算」というものだ。こうした計算ができるからこそ、経営判断に役立てることができるのだ。つまり、原価が分からなくても、収益さえ把握していれば十分に意思決定が可能だということが理解できるはずだ。
この〈第3表〉は、他のさまざまな状況にも応用が可能だ。我が社の主力商品について同様の表を作成しておくと、非常に便利である。特に、市場戦略を展開する際に、「占有率を優先するか、収益を優先するか」という選択を迫られる場面で役立つ。こうした判断を行う際、この表は非常に有効なツールとなる。
スキー宿の収益増大策:固定費を無視した柔軟な価格戦略
スキー宿の経営において、固定費は変わらないものとして捉え、収益増加に向けた柔軟な価格戦略や客数の増加が鍵となる。固定費は考慮せず、変動費や宿泊料金、客数に着目することで、実務的で効果的な収益増加策が立てられる。以下にそのアプローチを解説する。
固定費を度外視し、収益増加の要素に集中する
このスキー宿では、月の固定費は60,000円で一定。収益を増加させるには、宿賃(宿泊料金)と客数に影響を与える変動要因を積極的に活用することが肝心である。オフシーズンでは特に客数を増やすことが課題だが、効果的なアプローチとして「オフシーズンのサービス料金の導入」がある。
価格設定と客数増加のシミュレーション
オフシーズンにおける宿賃の調整により、収益にどのような影響が出るかをシミュレーションしてみよう。宿泊料金を段階的に下げ、客数がどれだけ増えるかを試算する。
- 宿賃1,000円の場合:客数が20人であれば粗利益は21,000円(20人×1,000円 – 変動費)。
- 宿賃900円の場合:客数が50人に増えると、粗利益は30,000円(50人×900円 – 変動費)。
- 宿賃800円の場合:客数が60人程度まで増加すれば、粗利益は32,000円(60人×800円 – 変動費)。
このように、宿泊料金を調整して客数の増加を予測することで、収益増加の見込みが立つ。例えば、宿泊料金を800円に設定した場合、客数が60人以上を見込めれば、赤字を減らす効果が期待できる。料金設定と見込み客数のバランスを取り、前向きに収益予測を立てられる。
効果的な収益増大の意思決定
宿賃をシーズンごとに柔軟に調整し、客数を増加させることで、収益を確保する戦略が成り立つ。スキー宿のようなシーズン性の強いビジネスでは、原価よりも収益(粗利益)に着目したシンプルなシミュレーションが、実務で役立つ。宿泊料金や客数の変動による収益影響を表で示し、どの価格設定が有効かを一目で判断できるようにするのが有効である。
市場戦略にも応用可能な収益シミュレーション
このスキー宿の収益シミュレーションは、他の業態や商品の市場戦略にも活用できる。市場でのシェアを取るべきか、収益を優先すべきかといった意思決定にも有効であり、価格と客数の関係をシミュレーションしておけば、どの戦略が収益増加に貢献するかを簡単に判断できる。
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