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百害あって一利ない全部原価

これまで延々と全部原価の棚卸しについて述べてきたが、洞察力のある読者であれば、全部原価ではどのような計算を行ったとしても、実際に前向きに活用しようとすると必ず誤りが生じることに気づいただろう。

全部原価とは、結局のところ「過去計算」にすぎない。過去をどれだけ計算し直しても、それを取り戻すことはできない。結果として、時間と費用の無駄遣いになるだけだ。「百害あって一利なし」という表現は、まさに全部原価のために存在しているのではないかと思えるほどだ。全部原価を使うことで、「真実」の姿が完全に見えなくなってしまうという現実を理解しなければならない。

全部原価の本質的な誤りは、「固定費を単位当たりに割り振る」という、その基本原則にある。この発想自体が、すべてを「単位当たり」で捉えるという短絡的かつ単調な思考に基づいている。

とはいえ、どれほど「百害あって一利なし」と批判されようとも、全部原価の計算を完全に避けることはできない。なぜなら、それは法律で義務づけられた外部報告のために必要だからだ。しかし、その役割はそこに限定されるべきであり、事業経営の意思決定や運営においては絶対に使用してはならないものだ。

事業とは、「単位当たり」で計算するのではなく、「会社全体」を基準にして考えるべきものだ。特に重要なのは、過去を振り返る計算ではなく、未来に向けた意思決定に役立つ会計データである。どのような選択をし、どの方向に進むべきかを導くための資料こそ、真に求められるものである。

これから解説するのは、事業経営に真に役立つ会計データの具体的な内容と、それをどのように活用すべきかという点だ。経営の意思決定に直結し、前向きな行動を支えるためのデータとは何なのか。その本質を明らかにし、実践的な使い方について掘り下げていく。

「百害あって一利なし」の全部原価計算の課題

全部原価計算は、「固定費を単位当りに割り掛ける」という原則に基づいており、この手法では事業の「真実の姿」が見えにくくなります。特に、次の点が事業経営における問題として浮上します。

1. 前向きな経営判断に使えない「過去計算」

全部原価は、過去の実績を集計するだけの「過去計算」であり、将来の意思決定に役立つ情報を提供しません。例えば、今後の生産計画や商品価格の設定、あるいは事業の方向性を決定する際に、過去のデータを基準にしても現実に即した判断が難しいのです。

2. 事業の真実を見失う「単位当り」の計算

単位当りの固定費を商品価格や利益計算に組み込むと、個々の商品や製品の原価は見えるものの、全体的な事業のコスト構造や実態が分かりにくくなります。この「単位当り」に依存する手法は、売上や在庫状況にかかわらず固定費を分配するため、結果的に一部の部門や商品が本来の実態以上に負担を背負うことになるのです。

3. 法律に基づく外部報告に留めるべき手法

全部原価計算が完全に無用ではなく、法律で義務付けられている外部報告には不可欠です。しかし、この外部報告用としての全部原価計算を、事業の意思決定や内部経営に応用してしまうと、誤解を招きかねません。外部のステークホルダーに向けた財務報告では必要ですが、事業戦略や経営判断に活かすべきではないのです。

4. 事業は「会社全体」で考える

事業経営は、単なる「単位当り」の計算で見るものではなく、会社全体の収支や資源の効率化、総合的な資産管理に基づいて考えるべきものです。部分的な数値を細かく見るよりも、事業全体の収益性や資源配分、将来の展望を見据えた意思決定が求められます。


これからは、事業経営に真に役立つ「前向きな意思決定」のための会計データについて考え、その具体的な使い方や活用方法について詳しく解説していきます。

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