生産性の本質と付加価値の役割
「生産性向上」という言葉が頻繁に使われるが、生産性とは具体的に何を指すのだろうか。その定義は、成果とそれに要した費用との比率で表されるのが一般的だ。
では、企業における「成果」とは何を指すのか。そして「費用」とは何を意味するのか。「成果」とは、企業が生み出した純粋な経済的価値を指す。売上高がそのまま経済的価値を表すわけではない。なぜなら、その中には外部から調達した経済的価値が含まれているからだ。具体的には、原材料費や購入品、外注費(外部から受けたサービスの対価)がそれにあたる。
売上から外部からの購入価値を差し引いたものが、企業が独自に生み出した経済的価値だ。これがいわゆる「成果」を指す。言い換えれば、成果とは企業の「収益」を意味する。
具体的には、以下の算式で表される。
成果 = 売上 – 外部価値(外部仕入れでも可)
企業の使命は、この経済的価値を創造することにある。この経済的価値こそが「富」にほかならない。言い換えれば、「企業の使命は富を創造すること」である。企業が社会の中で存在し、法律によってその活動が認められている理由は、まさにこの「富」を生み出す役割を果たしているからだ。
この「富」は、企業が外部価値に付け加えた経済的価値であることから、「付加価値」と呼ばれる。この付加価値と本質的に同じ意味を持つ言葉として、製造業では「加工高」(通産省の用語)、流通業では「粗利益」(荒利益ともいう)がある。これらは、これまで自分が用いてきた表現でもある。
ここで整理しておきたいのは、外部価値とは変動費を指し、内部費用とは固定費を意味するという点だ。
原価計算の限界と実務への影響
原価計算の分野では、文字通り「原価」に焦点を当て、その解明に注力している。その結果、原価に関する詳細な研究が行われ、膨大な量の論文が次々と発表されてきた。そして、さまざまな種類の原価が次々と「発見」されている。しかし、これらは実際には原価に関する新たな解釈に過ぎないにすぎない。
売上から外部からの購入価値を差し引いたものが、その企業が独自に生み出した経済的価値にあたる。言い換えれば、成果とは企業の「収益」を指すものだ。
成果 = 売上 – 外部価値(外部仕入れ)
このような算式で表される。
企業の使命は、この経済的価値を創造することにある。この経済的価値こそが「富」に他ならない。言い換えれば、「企業の使命は富を創造すること」だ。企業が社会に存在し、その活動が法律で認められているのは、この「富」を生み出す役割を担っているからである。
この「富」は、「企業が外部価値に付け加えた経済的価値」であることから、「付加価値」と呼ばれる。この付加価値と本質的に同じ意味を持つ言葉として、製造業では「加工高」(通産省で使用される用語)、流通業では「粗利益」(荒利益とも表記される)がある。
これは、これまで自分が使用してきた用語である。すでに理解されていると思うが、外部価値とは変動費を指し、内部費用とは固定費を意味している。
原価計算の分野では、原価そのものに焦点を当て、その解明に全力が注がれている。その結果、原価に関する詳細な研究が積み重ねられ、膨大な論文が次々と発表されている。さらに、多様な「原価」が次々と発見されているように見えるが、実際のところ、それは原価に対する新たな解釈に過ぎない。
これらの研究の大半は、実務の現場ではほとんど役に立たないどころか、むしろ実務的な思考を混乱させる原因となっているのが現状だ。一部には実戦に役立つ考え方も含まれていることは確かだが、残念ながら、学者たちの関心はあくまで原価そのものの研究に向けられており、「収益」にはほとんど向けられていない。
とはいえ、「競争社会における企業経営」の実態を理解しきれていない学者にとっては、それが限界だろう。だからこそ、私たちは学者が提唱する原価理論の中から、実戦に役立つ部分を選び出し、それに現場の知恵を加える必要がある。それによって初めて、事業経営に本当に役立つものに昇華させることができるのだ。
この考え方を基盤に構築する実戦理論こそが「収益論」であり、その具体的な手法が「収益計算」である。そして、これこそが「生産性」の理論に他ならない。生産性の定義である「成果に対する費用の割合」を一般式で表すと、次のようになる。
生産性 = 成果 ÷ 費用
生産性は以下のように表せる。
生産性 = 成果 ÷ 費用 = 収益 ÷ 費用
この式を別の表現で示すと、次のようになる。
生産性 = 成果 ÷ 費用 = 付加価値 ÷ 内部費用 = 算出高(アウトプット) ÷ 投入高(インプット)
この式をもとに生産性向上を考えると、分数である以上、結果を大きくするためには以下の2つの方法がある。
- 分子を大きくする
成果や算出高を増加させることで、生産性を向上させる。 - 分母を小さくする
費用や投入高を削減することで、生産性を向上させる。
これら2つのアプローチを組み合わせることが、生産性向上の基本戦略となる。
しかし、従来のマネジメントや会計学の考え方は、「分母を小さくする」ことにばかり注目してきた。その結果、企業内での活動密度を高める「能率」や「合理化」、「原価低減」といった施策が中心となり、分母を削減することだけが目的化されている。一方で、分子を大きくすること、すなわち「売上を増やす」や「売価を上げる」といった目標については、単なるスローガンとして掲げられるにとどまり、具体的な取り組みがほとんどなされていないのが実情だ。
しかし、分母を小さくする取り組みには限界がある。どれだけ努力しても、その効果はたかが知れている。仮に大きな効果が得られたとしても、その次の効果を期待することは、前回の成果が大きければ大きいほど難しくなる。そして最終的には、どこかで限界に達し、それ以上の改善が不可能な状態に陥ってしまう。
つまり、分母を小さくする努力には必ず限界があり、いずれ行き詰まるということだ。この行き詰まりの典型例が「下請加工業」という業種に見られる。下請業の経営者たちの思考は、原価削減、能率向上、合理化にばかり集中しており、それ以外の視点が欠けているのが現状だ。
そのため、下請加工業は永遠に大きな成長を遂げることができず、ウダツが上がらない状況にとどまってしまう。もしも高収益企業へと脱皮したいのであれば、この限界をしっかりと認識し、分母の削減に固執するだけではなく、新たな視点で分子を大きくする戦略を追求する必要がある。
物事を一面だけで捉えたり、一つの側面しか見ようとしない視野の狭さでは、結局のところ何も変えることはできない。この限界をしっかりと理解し、一つの事象を二つの面、三つの面といった多角的な視点で捉える姿勢が不可欠だ。それこそが、真に成長や発展を実現するための鍵となる。
生産性向上の「決め手」は、何よりも「分子」を大きくすることにある。このアプローチには上限がない。次元の低い能率向上や合理化、原価削減といった課題は社員に任せ、社長は次元の高い収益向上に取り組むべきだ。企業の成長を牽引するのは、収益を増大させるための戦略的な意思決定に他ならない。
実戦的アプローチによる収益性向上の提案
能率、合理化、原価といった要素はすべて企業の内部に存在する。しかし、収益は企業の内部には決して存在しない。収益は常に企業の外部、すなわち市場や顧客との関係にのみ存在するのだ。この視点こそ、私が一貫して強調しているポイントである。内部に閉じこもった発想ではなく、外部に目を向けることが、真の収益向上への道となる。
外部で成果を上げるために必要なのは、事業の構造的変革を繰り返し行いながら、徹底的な市場戦略を展開することである。市場のニーズを的確に捉え、環境の変化に応じて柔軟に事業の形を変え、新たな価値を提供し続けることが重要だ。固定観念に縛られず、常に革新を追求する姿勢こそが、外部での成果を生み出す原動力となる。
生産性の考え方は、目標の設定、現状の分析、実績のチェックといった多岐にわたる実戦的な用途を持つ。これらの取り組みを通じて、経営の現場で具体的な改善を図ることが可能だ。詳細については、後述することとする。
「収益」を表す言葉の中で、特に「付加価値」に関しては多くの混乱が見られる。その定義は次の通りである。
付加価値 = 売上高 – 外部価値
ここで「外部価値」とは、外部から調達した原材料費、購入品、外注費などを指す。この計算式を理解することで、付加価値の本質を正確に把握できる。
付加価値については、学者たちがさまざまなことを主張するが、学問とは「知識の体系」に過ぎず、実戦とは直接関係がないものだと理解しておくべきだ。知識の体系が前面に出すぎると、実戦が押しやられてしまい、実務に支障をきたす恐れがある。このバランスには十分注意を払う必要がある。
外部価値に減価償却費を含めるという考え方がその一例だ。この見解には合理性が感じられず、特にこれを前向きに活用しようとする場合、大きな支障が生じる。なぜなら、減価償却費は内部活動に伴う費用であり、企業内部の経済活動に帰属するものだからだ。この点を理解せず、減価償却費を外部価値とみなすと、以下のような問題が発生する。
- 付加価値の誤認
減価償却費を外部価値として差し引くと、付加価値が実際より小さく見える。これにより、企業の生産性や収益性の評価が不正確になる。 - 経営判断への悪影響
減価償却費は内部費用であり、その削減は設備投資の抑制を意味する場合が多い。この抑制が企業の成長や競争力に悪影響を及ぼす可能性がある。 - 外部価値の概念の混乱
減価償却費を外部価値に含めると、外部価値という概念そのものが曖昧になり、計算式や分析結果が一貫性を失う。
以上の理由から、減価償却費は内部活動の費用として捉え、外部価値に含めるべきではない。こうした基本的な区別を誤ると、実戦に役立つはずの理論が混乱を招く結果となる。
「売上高の変動が、いくらの収益変動につながるか」を検討する際に、減価償却費を外部価値に含めると、収益の判定が不明確になり、大きな混乱を招く。
これは、減価償却費が固定費であり、売上高の変動に直接的な影響を受けない性質を持っているためだ。外部価値に減価償却費を含めると、売上高の変動に伴う純粋な収益の変動が正確に捉えられなくなる。その結果、次のような問題が発生する。
- 収益変動の誤認
売上高が増減しても、減価償却費は一定であるため、収益変動における固定費の影響を過大評価または過小評価してしまう可能性がある。 - 意思決定の混乱
減価償却費を外部価値として扱うと、収益率や収益構造の分析が曖昧になり、経営上の重要な意思決定が誤った方向に進むリスクが高まる。 - 変動費との混同
外部価値は通常、売上高に応じて変動する費用(変動費)を指すが、減価償却費を含めると変動費の概念が崩れ、売上高との相関関係が不明瞭になる。
このような理由から、減価償却費は外部価値ではなく内部費用として扱い、売上高の変動が収益に及ぼす影響を正確に捉えるための分析を行うべきである。これにより、経営判断の精度が向上し、収益改善のための効果的な施策が実現できる。
実戦では簡単さが重要だ。「売上高が3割上がれば、収益も3割上がる」という直感的な判断が理想的だが、減価償却費を外部価値に含めると、この関係が崩れてしまう。
それぞれの付加価値から減価償却費の100円を差し引けば、減価償却費を外部価値に含めた場合の付加価値と一致することになる。
減価償却費を外部価値に含めると、売上高の増減に比例して付加価値が変動しなくなり、付加価値率も不安定になる。これでは前向きに活用できない。なぜなら、減価償却費は固定費であり、売上高の増減にかかわらず一定であるからだ。
その結果、売上が減少すると減価償却率は高くなり、売上が増加すると逆に低くなる。この変動が付加価値と付加価値率を不安定にし、正確な分析や活用を妨げる原因となる。
これに対して、「減価償却費は固定費ではなく、変動費に比例させるべきだ」という反論があるだろう。しかし、これは「割掛け」の考え方に基づくものであり、明らかな誤りである。減価償却費は本来、固定費として扱うべき性質のものであり、変動費に比例させるのは不適切だ。
なぜなら、減価償却費の総額は売上高に関係なく一定であるにもかかわらず、売上高に比例して減価償却費を増減させると、その増減分が他の売上に割り振られることになる。これにより、割掛けされた減価償却費が不自然に増減し、固定費としての性質が損なわれる。この問題は、固定費の割掛けの誤りとしてすでに説明した通りである。
もう一つの計算法である加算法は、完全に誤りである。この方法では、内部費用の勘定科目の合計額に損益を加え、それを付加価値とするというものだ。これは実務とはかけ離れた、典型的な学者的発想に過ぎない。実戦においては全く使い物にならない考え方だ。
確かに、費用と損益の合計が付加価値と一致するのは事実だ。しかし、金額が一致してもその内容は全く異なる。この違いに気づいていない点が、この計算法の根本的な問題である。実務では内容の正確な理解が不可欠であり、表面的な一致だけでは意味がない。
例えば、「我が家の収入は生活費と貯金を合計すればよい」とする加算法の理論は、本質的に同じ誤りを含んでいる。このような理論を展開すれば、「あいつ、これだよ」とクルクルパーの仕草をされるのがオチだ。
付加価値の加算法は、単に企業の支出と利益の合計を示しているに過ぎない。たとえ金額が付加価値と一致したとしても、それが企業の収益を表しているわけではない。この混同こそが、加算法の根本的な誤りである。収入とは、あくまで外部から得られるものである。それゆえに「入」という字を使っている。一方で、生活費は支出であり、支出を収入として扱うのは根本的に間違いである。これを混同するのは、まさにクルクルパー的な発想と言わざるを得ない。
付加価値の加算法は、単に企業の支出と利益の合計を示しているに過ぎない。たとえ金額が付加価値と一致したとしても、それが企業の収益を表しているわけではない。この混同こそが、加算法の根本的な誤りである。
だから、付加価値を増大させる方策を考える際に、加算法の内訳をいくら検討しても有益な答えは出てこない。せいぜい「利益の割合を大きくすることが重要だ」といった、誰でも分かる当たり前の結論に至るだけだ。そんなことであれば、そもそも付加価値を計算する必要すらない。
中には驚くべき主張をする「権威者(?)」がいて、「付加価値増大の考え方は誤りである。なぜなら、付加価値を構成する費用を増やせば、会社の利益は減少する」という理論を展開しているのを目にしたことがある。一体どのような脳の構造をしていれば、こんな論理が導き出せるのだろうか。
さらに、加算法には大蔵省方式、日銀方式、興銀方式、経済同友会方式などさまざまなバリエーションがあり、それぞれ定義が異なる。これでは混乱を招くだけで、全く始末の悪い代物だと言わざるを得ない。
加算法は、上述の二つの理由から、至る所で混乱を引き起こしている。それにもかかわらず使われ続けているのは、加算法が完全に過去計算に基づいているからだ。過去計算は、正確であろうと誤りであろうと、企業経営には何の役にも立たない。にもかかわらず、無意味な計算に労力を費やしているのだから、ある意味で天下泰平と言える。
結局のところ、学者や観念論者の話を真に受けず、実戦に基づく判断を優先するのが最も賢明な選択である。
生産性と企業の収益力
「生産性向上」という言葉がよく使われますが、その本質は「成果(収益)に対する費用の割合」を高めることにあります。企業の生産性向上の鍵は、単なるコスト削減にとどまらず、どれだけの「経済的価値」を生み出せるか、つまり収益をどう拡大できるかにかかっています。
生産性の定義と分母・分子のアプローチ
生産性を向上させるためには、以下の2つの方法があります:
- 分子を大きくする(収益を増やす)
- 分母を小さくする(費用を削減する)
しかし、従来の企業経営や会計学は分母(コスト削減)にばかり焦点を当てがちです。コスト削減には限界があるため、それだけで企業を成長させるのは難しくなります。一方、分子である収益を大きくするアプローチには上限がありません。生産性向上には、収益を増やす視点が欠かせません。
付加価値の定義と混乱
付加価値とは、企業が生み出した「経済的価値」のことです。収益に注目する直接原価計算方式では、付加価値は売上から外部購入価値(変動費)を引いたものとして簡潔に捉えられますが、学者による解釈にはさまざまな混乱があります。例えば、減価償却費を外部価値に含めたり、内部支出と利益の合計を付加価値と見なす加算法など、実務に役立たない複雑な定義が多く見られます。
生産性向上の実務的な考え方
収益を高めるためには、内部の効率化だけでなく、企業外部での付加価値をどれだけ向上させられるかが重要です。以下が収益を増やすための要点です:
- 市場戦略と構造改革の徹底:事業を柔軟に適応させることで、顧客のニーズを満たすサービスや製品を提供します。
- 新しい価値の創造:単なる原価低減ではなく、企業が顧客に提供する価値を高め、競争力を強化します。
生産性を考える上で、企業にとって必要な会計データは「収益計算」であり、分かりやすく前向きな意思決定を支える情報であるべきです。
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